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新型コロナウイルス後の世界を予想する(2):コロナウイルスによって世界は閉ざされるか、開かれるか

この記事は新型コロナウイルスに関するシリーズの一部です。

世界はいま複雑に繋がり、影響し合っています。新型コロナウイルスが唐突なかたちで教えてくれたように、武漢で起きたことはたった数か月で世界中の人々に影響を与える可能性があります。その原因は、第二次世界大戦後にはじまり、冷戦終結後の90年代に加速したグローバル化です。

多くの点で、グローバル化はポジティブな推進力として働いてきました。グローバル時代が到来して以来、何十億もの人々が極度の貧困から救われ、世界中がより裕福になりました。また、グローバル規模の貿易や政治的な同盟によって、以前と比べて国と国の間の依存関係が深まり、お互いに大きな紛争を回避するようになりました。経済も各国間で極めて密接に連動するようになり、コスト面において戦争はリスクが高すぎるものになりました。このような相互依存が、世界平和に最も貢献している要因であると言えるでしょう。

しかし、新型コロナウイルスによって、多くの国境は完全に閉ざされました。日本では、世界のおよそ3分の1に相当する73か国からの入国を拒否しています。このような極端な措置は一時的なものではありますが、今後起こり得ることの象徴として見ることもできます。新型コロナウイルス後の世界では、私たちはグローバル化についてどう考えるようになるでしょうか?輸入が世界的な出来事にどれほど影響を受けるのかを見た後、サプライチェーンについてどう考えるようになるでしょうか?中国の一都市からはじまったウイルスが、世界中に急速に広がるのを見て、国境の管理についてどう考えるようになるでしょうか?

ベルリンの壁の崩壊やリーマンショックがそうであったように、このパンデミックは社会システムに対する「ショック」であり、広範囲にわたり影響を及ぼす可能性があります。問題は、この新型コロナウイルスによって世界が閉鎖的で保護主義的な方向へ進むのか、それとも以前に増してオープンで協力的になるのかということです。

グローバル化のおかげで、企業は製造を世界各国へ委託できるようになり、商品を世界中から調達できるようになりました。そして、必要なときに必要なだけの製品を、より低価格で提供できるようになりました。このようなシステムは世界が安定しているときには上手く機能しますが、新型コロナウイルスの件でわかったように、余剰のないシステムは非常時においてリスクをもたらします。

現在の危機的状況から回復する段階になったとき、グローバル化に対する人々の見方が変わる可能性があります。企業は、支出が多くなるとしても、より強靭かつ国内のウェイトが大きいサプライチェーンを選ぶようになるかもしれません。もしかしたら政府さえも介入し、重要であると判断した産業に対して国内のバックアップ・プランや備蓄を作るように命令するかもしれません。利益は犠牲になるかもしれませんが、安定感が得られるでしょう。

このようなトレンドによって、国内の製造およびサプライチェーンのインフラに関連するテクノロジーが大きく発展する可能性があります。サプライチェーンを国内へシフトするために企業が奔走し、対費用効果の高い方法を探す中で、ロボット、オートメーション、3Dプリンティングなどが今よりはるかに多くの企業に採用されるようになるかもしれません。これまで変化を拒んできたようなレガシー業界も、デジタル・トランスフォーメーションの波に乗るほかなくなるかもしれません。リーマンショックの後、新しい規制により銀行は今までより多くの資本バッファーを備えておくことを求められるようになりましたが、今後は医薬品や医療機器、主食となる作物を供給する企業も似たような規制の対象になるかもしれません。そして、危機的状況に備えて重要な物資を備蓄するための、革新的な保管システムの需要が高まる可能性があります。

また、国境管理の強化を求める声も高まるかもしれません。9・11テロの後、世界の焦点はテロリズムとの戦いでした。新型コロナウイルスの後は、おそらく危険な病原体との戦いが焦点になるでしょう。空港で広く導入されている発熱検査はそのまま残るでしょうし、ここ最近の飛行機や空港での厳格な消毒作業も引き続き行われる可能性が高いです。乗客全員にヘッドホンが配られているように、今後は全員にマスクが配られるようになるかもしれません。コロナウイルスから社会が回復する中、より強固な検知システムや封じ込めシステムに対する需要がいまだかつてないほど高まるでしょう。

一方で、もう1つの考え方として、新型コロナウイルスを私たちの共通の敵として見ることもできます。民族や国籍に関係なく人々を襲うコロナウイルスを経験することで、私たちは自分たちが人類という1つの集団であることを認識しました。そして、病原体、テクノロジー、気候変動などのシステミック・リスクの多くは、全人類に影響を及ぼすということを学びました。もしかしたら、私たちが早い段階でもっと協力して動くことができていれば、コロナウイルスの脅威をずっと早く封じ込めることができたかもしれません。

もし世界中で規制、検知システム、情報やコンティンジェンシー・プランを共有することができていれば、失われた命や経済的ダメージも今より少なくて済んだはずです。ある意味、新型コロナウイルスは私たち人類に対して、ともに助け合い、より効率的に協力し合えるようなイノベーションを探すようにと、警鐘を鳴らしているのかもしれません。

21世紀における危機は、その広がりだけでなく、影響においてもグローバルです。詩人のジョン・ダンが言ったように、「人は孤島のようには生きられない」のです。例え地理的に海に囲まれていたとしても、国だって同じです。共通の敵を通して、私たちはコンティンジェンシー・プランの重要性を再認識できたかもしれませんが、それに留まらず、ともに協力してグローバル危機に立ち向かうことは、お互いの主義主張などよりも大事であるということを学べたのではないかと、私は期待しています。

続き:新型コロナウイルス後の世界を予想する(3):ついにオンライン化する教育

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Founding Partner & CEO @ Coral Capital

James Riney

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