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2010年代にテック業界に起きた9つの変化

本ブログはニューヨークのベンチャーキャピタルUnion Square Venturesでパートナーを務める、Fred Wilson(フレッド・ウィルソン)氏のブログ「AVC」の投稿、「What Happened In The 2010s」を翻訳したものです。


2010年〜2019年の10年間にハイテク、スタートアップ、ビジネスなどの分野で起こった大きな出来事について記していきます。重要度順というわけではありません。

(1) ウェブ・モバイルの4大独占企業の出現

ウェブ・モバイルの4大独占企業の出現。すなわち、Apple、Google、Amazon、Facebookです。10年前の時点で、Googleは検索分野で支配的な地位を占め、AppleはiPhoneが大ヒットし、AmazonはEコマース分野ではるか先頭を走り、フェイスブックは支配的なソーシャルメディアプラットフォームとして登場しつつありました。現在、この4社はそれぞれの中核市場で独占ないし複占的な地位を占め、市場におけるその強力な立場を利用して、隣接市場やその先の市場へと勢力を拡大しています。Googleは引き続き世界の多くの地域で検索分野の独占的地位を保ち、モバイルオペレーティングシステムでは複占的位置を占め、その他の市場をリードする資産(電子メール、動画等)も数多く支配しています。Appleはモバイルオペレーティングシステムにおけるもう一方の複占的地位を占めています。Amazonは世界の多くの地域でEコマース分野の支配的な地位を獲得し、その立場を利用してプライベートブランド製品、物流、クラウドインフラへと勢力を拡大しています。Facebookは戦略的に見て世界最高のソーシャルメディア資産のうち4つを、自ら構築あるいは買収して所有しています。すなわち、Facebook、Instagram、Messenger、WhatsAppです。最も重要なのは、中国以外の地域ではこれら4社が、人々がオンラインで何をしているかに関するデータを他のプレイヤーよりも多く所有しており、デジタル世界で人々にリーチするための重要なチャネルも数多く支配していることです。この状況に対して社会がどう行動するかが、2020年代初頭のハイテク業界の最重要課題になっています。

(2) 資本力で持続可能なスタートアップを育てる実験は、ほとんど失敗

資本を「堀」(moat:参入障壁の意味で使われる)として用いてスタートアップを持続可能な企業に育てる壮大な実験は今やすたれ、そのほとんどは失敗に終わったと評することができます。Uberがこの戦略を広め、自ら大いに実践しました。しかし、この2010年代末に至ってもなおUberはこの手法で収益性の高いビジネスを構築できることを証明できていません。株式会社として株価の点でも苦戦していますし、今後、事業持続のために資本以外の何かが必要となってくるでしょう。WeWorkはこの戦略を猛烈な勢いで追随していましたが、株式公開に失敗し、大規模なリストラの最中です。このリストラによって社運が定まります。このモデルによる他の多くの実験も失敗したか、あるいは現在失敗しつつあります。2010年代を振り返ると、大量の資本がスタートアップに流入し、そのほとんどが「堀としての資本」モデルを追求して無駄に浪費された10年だったと見てとれます。

(3) 機械学習が成熟の域に達し、あらゆるハイテク企業で必須に

機械学習が2010年代についに成熟の域に達し、今や大企業でも小規模企業でもあらゆるハイテク企業にとって必須の資源になっています。自社の製品やサービスに関するデータ資産を蓄積し、洗練された機械学習モデルを使用して製品を改善する、あるいは顧客向けにカスタマイズするのは、あると良いという類のものではありません。必須です。結果として、ハイテク業界がその作業を大規模に実施するためのインフラのほとんどを提供している3大クラウドプロバイダ(Amazon、Google、Microsoft)が結局のところは恩恵を受けます。ハイテク企業の側では、競争力を持ちたければ、そうせざるを得ないのです。

(4) 広告についでサブスクが第2位のビジネスモデルに

ウェブ・モバイル企業にとってサブスクリプションが規模として第2位のビジネスモデルとなりました。第1位はその前の10年間に巨大な波として出現した広告です。ユニットエコノミクスが健全なサブスクリプションビジネスモデルを成し遂げるためのスキルを生み出したスタートアップは、素晴らしいリターンを投資家にもたらし、その結果、資本がこのセクターに流入しました。サブスクリプションはモバイル・ウェブアプリケーションのユーザーにも、開発者にも利益が大きく、無料・広告型ビジネスモデルの負の側面の多くを回避できるため、これはたいへん意義深い進展だったといえます。しかし、2010年代末に至って、サブスクリプションのオーバーロードによる反動が見られ始めています。多くの消費者が必要以上の、また、一部のケースでは費用面で無理のある料金の、サブスクリプションにサインアップしているためです。

(5) シリコンバレー位置付けの変化

ハイテクやスタートアップのメッカとしてのシリコンバレーの位置付けは、2010年代に弱体化の兆しを呈し始めました。この10年間の大きな成功の結果によるところが大きいと言えます。ベイエリアに居住し、仕事に就くのは途方もなく費用がかかり、「生活の質÷生活費用」の数字は良い方に動いていません。物理的なインフラ(輸送、住宅等)はこの地域のニーズに追いついておらず、すぐに状況が変化する兆しもありません。これは「シリコンバレーは終わった」という意味ではありません。しかし、他のハイテクセクターがシリコンバレーから人材を奪って、採用しやすくなることは意味しています。今日、重要なのは有能な人材だけだ、ということもまた真実です。

(6) 制御権をユーザー側に取り戻す暗号手法の登場

2010年代には、ウェブやモバイルの最も厄介な問題のいくつかを解決できる強力なテクノロジーとして、暗号手法が登場しました。暗号手法と暗号化はコンピューターの出現よりはるか以前から、きわめて長期にわたって存在しています。現代のコンピューター暗号手法は、1970年代に成熟の域に達しました。しかし、インターネットやウェブ・モバイルコンピューティングが巨大な波として登場してきた際に、それらプラットフォームの基盤となるプロトコルに暗号手法の中核的なアイデアが本質的に統合されることはほとんどありませんでした。この10年におけるビットコインと分散型マネーの登場は、暗号手法をウェブ・モバイルアプリケーションに本質的に組み込み、制御権をユーザー側に取り戻すための道筋を示し、またそのお膳立てをしました。この問題をよく理解するための構図を与えてくれた Muneeb Ali(ムニーブ・アリ)に感謝の意を表します。

(7) テクノロジーが民主主義社会の真ん中に組み込まれた

この10年の間に、テクノロジーは社会のど真ん中に組み込まれました。我が国の大統領は朝、目を覚ますと、何十本ものツイートを放ちます。まだベッドの中からかもしれません。私たちは誰もが携帯電話やサービスに依存し、その人質となっています。我が国の選挙は、重要な投票グループをセグメント化してマイクロターゲティングの対象とする、機械学習テクノロジーを使用して行われています。悪意ある人々も同じテクノロジーを使って、我が国の選挙と公の議論に干渉できますし、実際にそうしています。この問題に関して昔の状況に戻るようなことはできませんが、事実としてハイテクセクターはそのような強力な役割を果たしているのであり、社会の側から厳しい規制を受けることになります。その点についても、昔に戻ることは不可能です。

(8) テクノロジービジネスでお金持ちが、さらに豊かに

この10年でお金持ちはさらに豊かになりました。最近のメールで、Axiosは次のように記しています。

「とっくに豊かになった国々のお金持ちと、ますます増える発展途上国のスーパーリッチが、……なんと世界の経済成長の27%を稼ぎ出しています」

しかし、極貧の人たちにとってもこの10年は素晴らしいものだった、とAxiosは次のようにも書いています。

「この10年で世界全体の極貧率は半減し(2010年に15.7%、現在は7.7%)、中国ではほぼ皆無になりました」

2010年代の敗者は先進諸国の下位中産階級と中産階級の人たちで、所得は伸び悩むか、あるいは減少しています。

このすべてにおいて、テクノロジーが役割を果たしています。スーパーリッチの多くは、テクノロジービジネスの利益から富を得ています。極貧根絶の一部もテクノロジーがもたらしたものです。下層階級と中流階級の所得の伸び悩みは間違いなくテクノロジーによる自動化がもたらしましたが、その傾向は今後数年において加速するばかりでしょう。

(9) ハイテク大国として中国が台頭

この項目は公開後に追加したものです。当初のブログ記事で書き落とした大事な点は、ハイテク大国として、また世界の超大国としての、中国の台頭です。テクノロジーにおいて中国が欧米諸国のはるか先をリードしている分野がたくさんあり(例えば、デジタルマネー)、この状況は今後数年で加速する可能性が高いでしょう。ハイテク大国であることは世界の超大国であるための必要条件ですが、中国はすでにハイテク大国であり、日ごとにいっそう強力になっています。

ここまでにしようと思います。以上は2010年代に思いを巡らしたときに私が思いつくメガトレンドです。重要な問題がたくさん漏れていることは間違いありません。読者の皆さんはそれらを、コメント、私宛てのメール、またTwitterなどで追加できますし、ぜひ追加してください。そうしていただけると嬉しいです。

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