資金調達を語るにあたって、スタートアップ界で最も軽視されがちな話題の1つがストーリーテリングの重要性です。投資家は数字にしか興味がないという思い込みがあることから、トラクションの方がよく話題に上ります。トラクションが重要であることに疑いの余地はありません。しかし、ストーリーテリングの方がもっと大切であると、あえて主張してみたいと思います。
投資家たちに向けてスタートアップをピッチするときの最終的な目標は、彼らにあなたの会社に出資してもらうことです。しかし、投資家たちが出資をするとき、それはあなたの会社の現在の価値に対するものではありません。数年後に実現するであろう価値に対して出資しているのです。あなたならとても大きなビジネスを作り上げることができると信じてもらわなければなりません。また、投資時点の評価額は、あなたの会社が目指しているところからすれば、とてもお買い得だと説得しなければいけません。言い換えれば、投資家はただ出資しているのではなく、夢に投資しているのです。
夢というのは未来についての物語です。まずは物語の舞台を整えて、登場人物やプロットを紹介しましょう。あなたは誰のために、どんなペインを解決しますか?この会社を立ち上げるのに、今がベストなタイミングだと言えるのはなぜですか?このプロダクトは、どのように業界を変えられますか?あるいは業界を席巻できますか?こうした問いにまず答えることで、会社の重要性を伝えることができます。その重要性を認識できなければ、そもそもトラクションなど投資家にはほとんど意味がありません。
物語を伝えることができたら、この段階で初めてデータを見せましょう。トラクションを示すのは、あなたの物語が先に伝えた通りに進行しているという証拠を見せるためです。投資家たちがすでに前提となる部分を受け入れていれば、伝えたことが本当だと確かめるような目でトラクションを見てくれるはずです。前向きな姿勢で、「夢」と「現実」を重ね合わせながらデータを見てくれるでしょう。
この夢と現実のバランスは、上場企業を含む全てのステージの会社に共通して繰り返し出てくるテーマです。唯一の違いは、投資家たちにとって夢と現実のそれぞれが占めるウェイトです。シードステージでは、夢にほとんどのウェイトが置かれます。まだ始めたばかりで、自らの存在価値を証明するための時間が必要な段階だからです。しかし、ステージが進むにつれて、投資家たちは現実の方により多くのウェイトを置くようになります。あなたはこれを達成すると言っていましたが、本当にできましたか? 業界がこのように変化すると言っていましたが、変化しましたか? シリーズB以降では、数字がどんどん重要になります。
それでもやはり、あなたの会社のアップサイドの大きさを伝えるにあたって、ストーリーテリングは最高の方法です。資金調達とは、本質的には夢を売るということです。投資家たちを信じさせるのがトラクションだとしたら、彼らに関心をもってもらうのがストーリーテリングなのです。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital