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世界から電源コードがなくなる日:ワイヤレス電力伝送が実現する未来

少し前までわたしたちはインターネットに接続するため、パソコンに有線ケーブルを挿していました。パソコンの周りはキーボードやマウスのケーブルで溢れていました。しかしいつのまにか通信の世界でワイヤレスが主流となり、ヘッドホンやマウスからも有線ケーブルが消えました。

通信の世界でワイヤレスが主流となったように、電気の世界でも近い将来ワイヤレスが主流となるでしょう。カフェで電源コードを探したり、電子機器のバッテリー残量を気にする必要がなく、いつでもどこでも常に電気とつながっている。そのような未来を実現する技術の1つとして、現在ワイヤレス電力伝送が注目されており、ご紹介したいと思います。

部屋にいるだけで勝手にスマホが充電される時代に

ワイヤレス電力伝送(WPT:Wireless Power Transfrer)とは一言で言うと「電気を無線で飛ばす技術」です。

電源コードを挿さなくてもパソコンやスマートフォンなどの電子機器を使い続けることができます。ワイヤレス電力伝送の応用範囲は広く、駐車場に駐車するだけでクルマを充電できたり、走行中のクルマや飛行中のドローンに送電できたり、宇宙で太陽光発電した電気を地上へ送ったり、体内で動く医療用小型電子機器へ外部から電気を送ったり(参考動画)できるようになると期待されています。

Illustration by Luis Mendo

ワイヤレス電力伝送のこれまでとこれから

実はワイヤレス電力伝送の歴史は古く、その原理が提唱されたのは100年以上前にまでさかのぼります。1864年にイギリス人のジェームズ・マクスウェルが電気と磁石の力を波で記述(Maxwell方程式)したのがその始まりです。その後1890年代に発明家のニコラ・テスラが「電気エネルギーを無線で送受信できれば、送電線を使った送電コストを大幅に削減でき、世界中に電気が送れる」と考え、無線送電システムの研究をはじめました。しかしその研究は何度も失敗し、実現することはできませんでした。ちなみに、イーロン・マスクが創業したテスラの会社名の由来は、このテスラです。

20世紀に入り、ワイヤレス電力伝送技術をリードしたのは日本とアメリカでした。軍事利用への転用も検討され、ワイヤレス電力伝送のために研究されたマイクロ波は、後に電子レンジの発明につながっていたりします。ワイヤレス給電の実用化をリードしたのは日本で、世界で初めて「置くだけ充電器」として,電動歯ブラシ、シェーバー、コードレス電話などに応用され、パナソニックから1981年には商品化されました。

その後、2006年にマサチューセッツ工科大学が発表した磁界共鳴(共振)送電方式は高効率で安価なワイヤレス電力伝送を実現できることから、ワイヤレス電力伝送は再び注目を浴びるようになります。現在では主に携帯電話の置くだけ充電器や、EVのワイヤレス充電として利用されています。また医療用途では人工内耳や人工眼、カプセル内視鏡などにも応用されています。

ワイヤレス電力伝送の市場規模は2018年にグローバルで約5,000億円でしたが、2027年には約3兆円に達するとも言われています。その内訳の大部分は携帯電話などの電子機器やEVへの利用ですが、工場のIoT化に合わせた産業機械用途や医療や介護機器での利用も期待されています。

ワイヤレス電力伝送の技術

多くの人になじみのあるワイヤレス電力伝送といえば、iPhone 8で利用可能になった「置くだけ充電器」だと思います。これはQi規格という電磁誘導方式を用いたものです。

ワイヤレス電力伝送には大きく分けて、(1)電磁誘導方式、(2)磁界共振方式、(3)電界結合方式、(4)マイクロ波伝送方式、の4つの方式があります。それぞれの方式で送電電力や送電距離、伝送効率が異なり、長所・短所をまとめると以下の表のようになります。

(1)〜(3)の方式は既に実装が進んでおり、特にEVにおいて実証実験が進んでいます。(4)のマイクロ波空間伝送方式は日本においては法整備が進んでおり、2020年中に大まかな方針が固まりそうです。それぞれの方式で技術的課題がありますが、実用化に向けては法規制と安全性が課題になりそうです。

関連法規と安全性検証

近年商用化が加速しているワイヤレス電力伝送ですが、世界でもいまだにワイヤレス電力伝送は法規定がなく各国が標準化規定の作成や制度化に向けてしのぎを削っています。日本では前述の電磁誘導方式を用いたQi規格が電波法上では高周波利用機器という定義の中で実用化されており、この分野では一歩リードしていると言えますが、国際的な規格化にはまだ至っていません。また、現時点ではワイヤレス電力伝送は電力のみを伝送し、情報は別の電波を用いることが多いですが、技術的に電力と情報を同時に伝送することも可能です。一方、ワイヤレス電力伝送が既存通信システムと干渉しないことを示し、電波法上に明記されるまでにはまだまだ時間がかかりそうです。

安全性の面では、人体への安全性と他の電子機器への干渉有無の両面での確認が必要です。人体への安全性では、高周波と低周波の両面からの人体防護を考える必要があり、電界・磁界ばく露制限の観点から国際的な防護委員会から指針が出されたり(ICNIRPガイドライン)、各社が独自に規制を設けたりしています。

他の電子機器への影響については、不要輻射による電子機器機能(WiFi、電話、自動車内機器、その他機器)の妨害が懸念されており、その効果実験が各国各社で行われています。

マイルストーン

実用化に向けては、上述の法規制の整備や安全性の確認に加え、電力伝送効率の向上などの技術的課題やコストダウンに向けたロードマップの作成といったビジネス面での課題もあります。

今から10年後、20年後にどのような世界が実現しているでしょうか。以下に予想を書いてみます。

2030年頃の姿:2030年頃までに、ワイヤレス電力伝送対応の自動車が普及すると考えられています。バスなどの大型自動車への給電も進んでいきます。それに伴い、自宅や公共機関などに設置された自動給電施設を通じたドローンや電気自動車へのワイヤレス電力伝送が可能となります。また、工場内センサーや情報通信機器、家電などに対し、マイクロ波空間伝送型電力伝送による給電が可能になると想定されています。

2040年頃の姿:2040年頃までに、高速道路を含む一部の道路で走行中でも給電が可能なインフラが実現されていることが期待されます。マイクロ波空間伝送型電力伝送による長距離で大電力の電力伝送が実現され、太陽光発電所などからのワイヤレス送電も可能となり、送電網を必要としない新しい電力供給・送電インフラが実現されていることでしょう。医療分野でも超小型機器を体内に埋め込み、外部から送電して動作させる方法が一般的になっていると思います。新しい医療の形が実現していることでしょう。

ワイヤレス電力伝送のスタートアップ

国内外で有望なワイヤレス電力伝送のスタートアップをいくつかご紹介します。これらの会社の内のいくつかが大きく道を切り拓いていくのでしょうか。

まとめ

電話やインターネットなどの通信も少し前までは有線が主流でした。電話やインターネットなどの通信が有線から無線になったのと同じように、電気も有線から無線へと切り替わり、それが当たり前となる日はそう遠くないと思います。

ワイヤレス電力伝送が新しいエネルギー利用の未来を切り開いていくのかもしれません。

DeepTech
世古 圭

世古 圭

Senior Associate @ Coral Capital

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