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リアルタイムデータで生まれるコスト削減の新スタートアップ領域

プラットフォームの入れ替わりの時期には、それに付随する関連市場でプレイヤーの入れ替わりが起こるものです。例えば、過去10年で普及したスマホによって、画像や動画を使ったコミュニケーションが新領域として台頭しましたし、中古売買市場におけるメルカリの台頭は既存プレイヤーとの入れ替わりの例です。

同様に、法人向けITシステム、いわゆるエンタープライズの世界で、SaaS化とIoTの普及という2つのトレンドによって新しいプレイヤーが台頭しつつある領域があります。例えば、BSM(Business Spend Management)と呼ばれる領域も、その1つです。

BSM市場とは、企業の事業活動にともなって発生する原価や経費、あるいはITシステムの開発、維持費などを可視化し、これを削減するためのソフトウェア市場のことです。

BSM市場は長く存在する成長市場です。調査会社のCredence Researchによれば、2018年に約7,400億円市場だったものが年率10.5%で成長を続けて2027年には約1.8兆円に成長すると見込まれています。

このBSM市場では、もともとエンタープライズ領域の巨人であるオラクルやSAPといったプレイヤーが製品を提供していて、さかんに買収もしています。一方ソフトウェア市場全体のクラウドシフトは速く、ここにBSM市場における新プレイヤー台頭の余白ができています。

Bessemer Ventures Patnersがまとめたデータによれば、今から5年後にはソフトウェア市場の約半分がSaaSを含むクラウドによって置き換えられると予想されています。ソフトウェア産業は年率10%の伸びが予想されていますが、クラウド市場の伸びは年率20%と、それを上回るスピードです。

かつて(あるいは今も)オンプレミスで稼働していたERP、CRM、HCMといったビジネスアプリケーションがクラウド(SaaS)へ移行しつつある中で、クラウド上のデータにアクセスして可視化するサードパーティー製のSaaSが作りやすくなっています。企業活動のデータが、すでにクラウドにあるからです。以下の図の右上に示したとおり、こうした変化を捉えて新しいスタートアップが立ち上がってきています。

図の右側にはIoTも入っています。これは、SaaSが広がるのと合わせて、物理的な世界に深く入り込んでいるIoTデバイスによっても、やはりクラウドにデータがリアルタイムで蓄積するようになっていて、ここにも新しいビジネス機会があるからです。IoTの普及により、精度の高い事業活動の把握やコスト削減という新しいサービス領域が出てきています。

コスト削減に取り組む海外のスタートアップ

SaaSの台頭、IoTの普及によって出てきたコスト削減系のスタートアップとして、どんなところがあるでしょうか。以下はCoral Capitalで集めた海外で注目の9社のリストです。ユニコーンマーク(?)が付いているのは言うまでもなくユニコーン企業です。

上記リストから4社、紹介します。

従業員の支出を一元管理するCoupa Software

2006年創業のCoupa Softwareは、従業員の支出管理プラットフォームです。出張や経費、調達、請求書発行などの支出を一元的に管理できるのが売りですが、Coupaの凄いところは調達時のサプライヤー側もプラットフォーム上に集約できていることです。すでに世界200万社のサプライヤーがCoupaを導入していると言います。企業の調達では相見積を取るなどするものの、基本的に相対取引です。このため透明性があってリアルタイムで価格形成ができる競争市場がなかったことを考えると、調達する側の企業からみてインパクトは小さくないでしょう。単一プラットフォームでフラットに調達アイテムを比較できることから、企業から見れば標準化やコスト削減をやりやすくなるというメリットがあります。

Coupaは2016年にIPO済みで2020年10月2日現在、時価総額は約2兆円となっています。

経費精算の適合性をAIで自動チェックするAppZen

AppZenは2012年創業で、AIによる経費精算の自動チェックシステムを提供しています。SAPのConcurなど経費精算システムを使う場合、レシートの写真をクラウドにアップロードしたりしますが、このとき、経費内容が社内の規則に適合しているかどうか、何か不自然な数字がないかといったことを自動でチェックしてくれます。例えば出張先の相場からすると異様に高いホテル代とか、レストランの支払金額と同額のチップ代など、そうした不自然な精算についてアラートを上げます。

AppZenは経費精算に関わる一点突破のニッチなサービスに思えますが、それでもユニコーン企業となっています。

把握が難しいSaaS利用状況やコストを管理するZylo

業務アプリケーションがオンプレミスからSaaSへ移行する中で、大手企業で問題となるのが管理です。SaaSのメリットでもある導入の手軽さとコインの表裏ですが、部門ごと、あるいはチーム単位など小さな単位で導入が進むことがあり得ます。大手企業でITシステムのセキュリティやアカウント、ライセンス、支払いの管理を一元的に行おうとした場合、ここで「漏れ」が起こります。SaaS時代に合わせた導入サービスの把握と管理をするためのSaaSがZyloです。費用がかさんでいる項目の特定や、契約期間の一覧や更新カレンダーなどサブスクリプション時代に合わせた管理画面を提供しています。

Zyloは2016年創業で現在までにSalesforce VenturesやSlack Fundなどから累計約37億円を調達しています。

工場・現場向けデータ分析プラットフォームのTulip Interfaces

Tulip InterfacesはMITからスピンアウトしたスタートアップです。工場の稼働状況のデータ収集や分析、作業指示のためのプラットフォームを提供しています。導入企業側が独自にカスタマイズできるように、いわゆるノーコード的なビジュアル開発環境も用意していて、イベントトリガー、制御構造(if文)、正規表現といったソフトウェア開発者に馴染みのあるパーツを使ったアプリ作成にも対応しています。これまでにTulipの顧客が開発した様々なアプリが公開されており、例えば室温・湿度をモニターしたり、特定の生産サインが15秒間停止しているときにLED蛍光灯を点灯するといったことが簡単にできると言います。現場の作業マニュアルを動画で提供したり、動画を使って作業員ごとの効率を計測するといったことにも対応しているようです。

コスト削減スタートアップ、国内の2社

上記に紹介したスタートアップと同様の領域で、新しいタイプのコスト削減プロダクトを国内で提供しているのがCoral Capital出資先のLeaner TechnologiesGenKan(Koska)です。

間接費をスマートに削減するLeaner

Leanerは企業のコスト削減に必要な機能を備えた支出管理ツールです。「どの間接費」 が「どのくらい」コスト削減可能かを分析し、どのように実施すべきか、どのサプライヤーを利用すべきかを提案するクラウドサービスです。Leanerが対象とする間接費というのは、規模や業種を問わず、どこの企業でも利用する携帯電話や名刺、クレジットカード、コピー機のトナー、清掃などの費用で、総コストの10%以上を占めています。こうした間接費の特徴は、個々の支払いが少額かつ費目数も100以上に複雑なこと。また総務部やIT部門などで費目別に担当が分かれていたり、専任担当者が不在だったりすること。以下が、Leaner Technologies代表の大平裕介氏によるプレゼンテーションです。

製造現場の実態を金額で見える化するGenKan

Koskaは製造業の現場における原価計算と分析を自動で行うサービス「GenKan」を提供しています。データは、既存の生産・製造設備に重量センサーやカメラを装着したり、既存のIoT機器で取得されているものを利用するため、初期導入コストを抑えられます。例えば部品検査でヒトが検査するような場合には重量センサーで検査台の重さの変化をトラックすることで作業効率を測定するなど導入前の作業プロセスを変更せずにデータを取得できるのもポイントです。従来こうした作業の原価管理ではストップウォッチで作業時間を測定するようなことが行われていたものの、作業の中断ややり直しといったばらつきにより実態から乖離した数値を使っているケースもありました。実際の作業からデータを取り続けることで本当の見積もりを可能にできるのがGenKanです。以下が、Kosaka代表曽根健一朗氏によるプレゼンテーションです。

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Ken Nishimura

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