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経歴詐称と「盛った実績」のボーダーライン

ビジネス系YouTuberの竹花貴騎氏が経歴詐称疑惑で炎上しています。チャンネル登録者数37万人のGoogle出身者を名乗り、経営オンラインサロンでも会員を集めているようです。華々しい経歴と100億円を超えるとする個人資産を喧伝することで客寄せをするさまに疑義を呈する声があがり、例えば「Google出身」に関しては業務委託を受けていただけ、かつ当該期間のGoogleジャパンは業務委託などほとんどいなかったはずでは、といった形で経歴詐称の疑いありということになっています。

今も続く詐称疑惑のきっかけを作ったのは「趣味は炎上」と公言する田端信太郎氏の動画です。動画の中では「嘘をついていそうな経歴、盛りすぎの経歴」の見分け方について話しています。

例えば、具体性のない経歴。「外資系コンサルティングファームに入社し」として固有名詞が書かれていないケース。あるいは「シリコンバレーで○社を起業し、イグジット経験あり」のように、やはり具体的な社名がなく、第三者が確認しようがない実績の書き方を、盛りすぎの経歴の例として挙げています。

商業メディアで数多くのプロフィールを扱ってきた私には、この指摘は妥当に思えます。伝統メディアの中の人が、あえて外向きに言うことはありませんが、むしろ、こうしたことは基本中の基本です。私自身、プロフィール中の具体性がない記述に対して「第三者が確認できる書き方に変えるか、そうでなければ当該箇所を削除しませんか」とお願いしたこともあります。そもそもの話として、具体性に欠けるプロフィールの人物については脳内で黄色信号がともって取材自体を警戒するというのが、疑うことを基本動作の1つとするメディア関係者です。

取材相手が大手企業中心だったときには盛ったプロフィールの人に出会うことはありませんでしたし、疑う必要性を感じることもありませんでした。せいぜい自社製品について「日本初」「世界最速」といった曖昧な宣伝文句があった場合に「何か客観的なデータがあれば教えていただけませんか」という程度でした。

経歴や実績の詐称はスタートアップ業界にもある

ところが、10年ほど前からスタートアップの取材を始めるようになった頃には、かなり幅広い層の人がいる上に、倫理的にアウトの嘘をつく人がいるなと気づいて、より気をつけるようになりました。

例えば取材時に「すでにXというファンドから出資のコミットメントはもらっている」という起業家がいて、ファンドに電話して真偽を確かめたところ「面会はしたが出資の話など全くしていない」と投資家が苦笑いしたケースがあります。取材中に話に不自然なところがあると感じていた私にとって、これは決定打となり、すぐに掲載見送りの連絡だけをしたのでした。なぜ簡単にバレる嘘をメディアに話すのか私には理解できませんでしたが、こうしたことは過去に何度か経験しています。

「すでに導入企業が○千社」。ある起業家が投資家たちに見せていた大手企業の社名が並んだスプレッドシートが、全くのでっち上げで実は顧客がゼロだったというようなこともあります。ベテラン投資家が危うく出資の送金をする直前に発覚したものの、一体なぜそんな嘘をつくのか誰も見当がつかないし、全く嘘をつく人物のように見えなかったという証言を、当事者から直接聞いたこともあります(ちなみに、こうした虚偽報告は投資契約の表明保証条項に抵触するため、露見した時点で出資契約の破棄、もしくは株式の買戻し請求権が発生します)。

メディアの取材は投資契約よりもデューデリジェンスが緩めですが、それでも名前が知られたメディアであれば、いかがわしいビジネスに多少ともお墨付きを与えるようなことをすると後に社会的被害が大きくなり得るという意識は、当然持っているものです。私は専門媒体が多かったので、一般媒体への踏み台として利用しようという人たちに対する警戒心を強く持っていました。例えば2017年頃は仮想通貨系の取材依頼には、かなり慎重になっていましたし、よく知らない人に「ロゴの前で一緒に写真を撮らせてもらえませんか」と言われても断るようになっていました。フリーランス時代には「どうもいくつか不自然だ」ということで取材・納品後に依頼主らの経歴を改めて詳しく調べたところ、社会正義の観点から許容し難い過去を示す痕跡が複数出てきたために、そこで関係性を断って報酬受取を拒否したこともあります。

投資家は、より高いレベルでの誠実さを見ている

Coral Capitalでお会いする起業家の方々で、上記のように信義則にもとる言動をする方や、経歴的に怪しい方は、ほとんどいません。多くの場合は信頼できる人物からの紹介であったり、説得力のある事業計画を見てから面談に臨んでいるからだと思います。市場分析・技術説明・プロダクトの狙いについて整合的で未来を感じるストーリーが語れるという時点で、優秀で、情熱を持って取り組んでいることは自明ですし、そうした人は何かを詐称する必要がありません。

投資の判断材料として大きなウェイトを占めているのは議論です。経歴や実績はごまかせても、詳細で多岐にわたる対面(もしくはZoom)での議論はごまかしようがありません。この意味ではVCの投資活動で経歴詐称や実績の虚偽報告が問題になることは、あまり多くありません。

ただ、投資検討に際して、もう一段階高いレベルで投資家が見ていることがあります。それは「インテグリティー」(integrity)です。高潔さとか誠実さと訳される概念で、態度や言動に一貫してぶれない強い芯があることを指しています。その拠り所は、その人物が持つ信念や行動原理、プロフェッショナリズム(職業倫理)に基づくものです。例えば、かつて私がスタートアップメディアの責任者だったとき、スタートアップへのエンジェル投資をしていますかと聞かれることがありました。中立を旨とするメディアの職業倫理からすればエンジェル投資をすることなどあり得ません(多くのメディア企業は社内規則で禁じています)。それは私にとってインテグリティーに関わる話で、そう聞かれるたびに私は軽いショックを受けていました。それは超えてはいけない一線です。

VCからの資金調達の場面の話でも、「実績の虚偽報告」とまでは言えないものの、不誠実だというグレーゾーンは、かなり広範囲に広がっています。常に事業やチームにモメンタムがあるように見せること自体は創業者の責務でもあるので、最大限に良い面を語ること自体は当然だと思います。個人の経歴・実績についても海外文化の流れ込むテック系では謙虚の美徳よりも、自分を売り込むマーケティング視点の重要さが語られることが多いように思います。

ただ、「ここを超えてしまってはインテグリティーを疑わざるを得ない」というボーダーラインが明確にあるのも事実です。例えば、当初の説明や数字のどこかに不明瞭な箇所があったとき、起業家の方に追加説明をお願いすることがあります。このときに真正面からの回答を避けたり、ぼかす人を見かけることがあります。これは「今後、一緒に仕事をしていくのが難しそうだ」という判断に繋がります。VCは本質的には性悪説に立つべき金融業なので、かなり明確な黄色信号と言えるかと思います。

資金調達という場面に限らず、インテグリティーを大切にするのは長期的なリターンが大きい割に軽視されがちな価値観、もしくは人格研鑽の1つだと思います。自分や会社を売り込むと決めたら徹底してやる。それは大事ですが、インテグリティーを疑われるほどとなると、結局は失うものが大きいのだと思います。

シードファイナンスベンチャーキャピタル投資基準
西村 賢

西村 賢

Partner, Chief Editor @ Coral Capital

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