そろそろこのコロナ禍も丸1年。スタートアップ企業ではリモートワークの導入が進んできました。
そんな中、保険の分野で事業展開するjustInCaseに興味深いリモートワークを実践している男性がいると聞きました。
同社のマーケティング部門で働く木庭有基さんです。
昨年、結婚と同時に妻が海外赴任に行くことに。木庭さんは躊躇なく追いかけていくことを決断し、いまは隔離期間を終えて新婚生活を楽しみながらリモートで業務にあたっています。
奥さんの海外駐在を追う男性、というあまり例のない話を聞いてみたら、これがなかなか予想以上にユニークな方だったのでした。
付き合ってる相手が海外赴任に、「それなら結婚しようよ」
―入社して1年半くらい経ったところでコロナがきて……。そしてリモートのきっかけは結婚だったんですね。
こばさん:そうです。妻と付き合い始めてしばらくしてから、(相手のほうに)海外赴任があるかもしれないという話があって、それなら結婚しようか、となりました。
彼女的には海外赴任の話が出てきた時点で、結婚するか別れるか、どうしようか考えたようです。海外に数年……、となるとお互いに別れようという話になってもしょうがないじゃないですか。
僕らは出会いの場が婚活のWebアプリだったので、そうすると当然ゴールとしては結婚というものがありました。「海外赴任になるかもしれないけれど今後どうする?」という話になって、「それだったら結婚しようよ」って、僕がそのとき言ったのかな。そう話した数か月後に改めてプロポーズしました。
その後で赴任先が東南アジアに確定し、一緒に行くね、という流れです。
―結婚するというのも人生の一大事ですし、海外について行くというのもとても大きな決断だと思うんですけど、どんなことを考えましたか。
こばさん:まずはやってみないとわからないじゃないですか。日本との時差はたった2時間。まあできるかな、という考えに至った経緯があります。
だから特に悩んだりはしなかったですね。めちゃくちゃ面白そうだな、という気持ちのほうが強かったです。こんなことってほとんどの人には起こらないじゃないですか。妻について行って海外に駐在するなんて。
そういうのってすごく面白いし、人生のなかで後できっと振り返るネタにもなるのでいいかなと思ってました。
幸いにも、僕がリモートでも何とかなりそうな職場環境だったので、それが良かったと思います。
ミュージシャンから孤独死特殊清掃を経て、ITスタートアップへ
―justInCaseに入社する前はどんな経歴だったんですか。
こばさん:僕はもともとミュージシャンをやっていました。トロンボーンの演奏です。スガシカオさんと一緒にやったりもしたんですけれど、あまり稼ぎにならないからもう無理かなと思って、やめました。
そのときに縁があって、孤独死特殊清掃という、お部屋で孤独死した人のお家を綺麗にする仕事を数年しました。その後もたまたま縁があって、テレビ番組のディレクターをやることになったんです。なかなか振り幅が大きいんですけれど、いろいろやっていました。
特殊清掃とか遺品整理は個人で継続してやったりしていましたが、そのあとに今度はTwitter経由でいまの会社の代表と知り合って、2018年からjustInCaseで働いています。
―それは、かなり濃い経歴ですね。
こばさん:そうなんですよ。今はjustInCaseという保険のスタートアップでマーケティングの仕事をしています。基本は企業向けの営業との折衝をしつつ、スタートアップなのでけっこう粗く進めてきたところがいろいろとあるので、LPとかも一部自分で改修したりしています。基本はマーケティングメインです。
―ミュージシャンをやって、特殊清掃をやって、テレビ業界に行って、いまはITスタートアップ企業でリモート環境。すごく難易度が高い転職をされていると思うんですけれど、戸惑いはなかったですか。
こばさん:あまりなかったです。僕はなんでも「とりあえずやってみよう」と考える人なんです。やってみる中で、「全力でがんばればなんとかなるかな」みたいに思えてくる。そこにハードルを感じることはあまりなかったです。
あとは何でもとりあえずやってみなきゃわからないというスタイルで生きてきてました。
「僕の人生だし」両親を説得し、海外へ
―会社組織とは別のところで、女性の転勤に男性がついて行くというのはこれまであまりなかったことだと思います。これからはもちろん違うと思うんですけれど。そういったことに対して、ご両親とか友人など周囲の反応はどうでしたか。
こばさん:友だちは特になくて、「へーそうなんだ」みたいな感じでした。僕がこれまでも無茶苦茶やってきた人間だとわかっているので、そうなんだね、で終わりです。
親はやっぱり、最初はかなりびっくりしていました。最初は拒否反応というか、「なんでなの?」という気持ちはあったんですけれど、僕の人生だし、という思いもあるので、「交通費も安いし、遊びに来ればいいじゃん」みたいな話をしましたね。
石垣島に行くくらいの感覚ですからね。結局コロナになって、今はそんなに簡単には来れないんですけれど。
―移り住んだのはいつからになるんでしたっけ。
こばさん:10月末ですね。去年の3月に結婚して半年くらいは日本で過ごして、そのあと移りました。
彼女は9月末から先に赴任してました。僕が1か月ほど遅れて行って、最初の15日間は隔離生活をくらったので、本格的に家に住んだのはそれが終わってからですね。
当時はビジネスなどの特殊な事情がないと入国できなかったです。僕は家族にジョインするという理由があったのでビザを出してもらえました。
Grabで引きこもれるし、ドン・キホーテの生鮮食品が美味しいから食事に困らない
―このコロナ禍において、実際に移り住んでみた暮らしぶりというのは都内と変わりますか。
こばさん:別に変わらないですね。東京に比べると不便なのかなと思ったんですけれど、何も不便じゃなかったです。
むしろ家は広くなりましたし、不便に感じたことはないです。
住んでいる家が、サービスアパートメントといって、ホテルの一室を長期滞在者用に貸し出しているところなんですけれど、自分でメッシュルーターを持ち込んだりして、ネットワーク環境も完全に整えています。
本当にリモートという意味では都内でやっているのと変わらないですね。時差がちょっとあるくらいで。
たとえば「Grab」のような日本で言うUberみたいなフードデリバリーもあるし、Grab内に出店してるスーパーで買い物もできるし、家電はちょっと高いけれど、ローカルなご飯は安くて美味しいとか、いろいろと良いところがあります。
ドン・キホーテに行けば食材もいい感じのものが手に入る。こちらのドンキは生鮮食品が美味しいんです。お肉はいいものが置いてます。下手に地元のスーパーに行くより、ドンキのほうが全然クオリティが高いです。
日本のチェーン店も結構あります。とんかつのまい泉もあるし、てんやも、大戸屋も、何でもありますね。
あとはGrabのおかげで本当に引きこもれるから、建物から出ないで生活が完結できるんですよ。なんだか合宿気分で仕事を楽しんでいるところもあったりします。
リモートのコツは「確認をこまめに」「あえて質問する」
―いまでこそリモートワークという働き方も一般的になりつつありますけど、1年前まではなかなかできない状況でした。
こばさん:そういう意味では、justInCaseでは以前からリモート勤務をしている人は多かったです。開業時点ですでにエンジニアがニュージーランドと和歌山にいました。役員さえも香港にいたり、そんな感じだったので、リモート環境は他の会社よりハードルが高くなかったはずです。
ただ、会社としてはリモートがウェルカムかといったら、なかなかイエスとは言えないですよね。そこは相談しながら、という感じです。
―リモートを認めるからにはちゃんとアウトプットをしてほしいとか、より成果を求められるところがあると思います。会社とはどういう話をされたんですか。
こばさん:結婚するんだけど一緒に海外に行っていいですか、と。自分のわがままだけれど、こういう理由で行きたいからリモートにしてほしいと申し出ました。
そのためには徹底的に「見える化」するしかないとは思っていました。会社への貢献というか、アウトプットを今まで以上により明確にするという、そういう話もしましたね。
細かいところだと、例えば「こういうものをこれだけやったんですけれど、レビューしてもらってもいいですか?」みたいな感じです。作業途中だけど報告しつつ、進めるみたいな。
オフィスだと顔を合わせているので仕事をしている感が出ますけれど、リモートだとそれがなくなっちゃうので、そこは細かくやるようにしています。
上司側からしても、あえていろんな質問とかをすることで、「仕事をしている感」というのを無理にでも出していったほうがいいんじゃないかと、僕は思っています。
わからないこともすぐに聞いたり、確認もこまめにするようにしています。いまのところ「細かすぎてうざい」というフィードバックもないので大丈夫かなと。
結局、いちばん大事なのは「マインド」の部分
―木庭さんとしては、トータルとしてjustInCaseという会社はリモートで働きやすいと感じていますか。
こばさん:働きやすいですね。理由としては結局、「マインド」が一番。たとえば、エンジニアのリーダーがそもそも創業時からニュージーランドで仕事しているんです。
マネジメント層もリモートをしている人が多かった。リモートメンバーがいることが当たり前の状態からコロナに入っているので、特に苦戦していません。
コロナだからこそこうしている、というわけではなくて、みんなリモート前提で意思疎通を図っているので、リアルでもオンラインでも変わらないコミュニケーションを最初から築いていこうというマインドがありますね。
文字ベースでのコミュニケーションは初期からずっとやっていて、かつ、それを前提にしているんです。ミーティングして口頭で説明をしたほうが楽なときもあるんですけれど、文字で伝えなきゃならないという意識はあります。
あとはしっかり伝えるために略語を使わないとか。主語述語もしっかりつけよう、みたいな。そういうところはすごく気にします。
エンジニアだけがいる部屋とかではもちろん専門用語を使うんですけれど、それをオープンの場で話したときには、「これは何ですか?」ってすごくつっこまれます。すぐに聞くという文化もあるんです。何でもわからないところは聞く。
マーケティングの専門用語も、エンジニアが見たときには、「これは何ですか?」ってなる。そうしたら逆に、「これはマーケ分野では普通の言葉なので逆に覚えてください」とか、そういうコミュニケーションもあったりしますね。
―そういう率直なやりとりというのはいいですね。
こばさん:そうですね。おかしいところとかわからないことがあれば、社長に対してもみんな普通にガンガンつっこみますね。「それは違くないですか?」みたいな感じで。
「天才の仕事以外なら、他の人でも絶対にできる」
―木庭さんはもともとミュージシャンをやられていたと思うんですけれど、ITスタートアップとはまったく違う世界だと思うんです。すんなり馴染めているのはなぜなんでしょう。
こばさん:最初はやっぱりつらかったというか、もっとちゃんと説明しろとか、そういう指摘はすごくされました。でも、やる以上はそれに慣れるしかない。郷に入っては郷に従うしかないんです。
でも逆にそれって、この会社だけの話じゃないじゃないですか。ここで得られたことって今後の人生でも生きてくるので、これを機に習得すればいいかな、という感じでやっています。
―割り切って、とにかく頑張るんですね。
こばさん:僕、天才の仕事以外なら、他の人でも絶対にできると思っているんですよ。だからHTMLとかCSSも最初はわからなかったんですけれど、「時間なくて誰もやれないなら僕がやるわ」って言ってやったりとか、その都度チャレンジしてきました。
当然テレビのディレクターとかもやったことがなかったですけど、やってみるチャンスがあるんだから挑戦してみるか、みたいな感じで飛び込んでみました。
そして奥さん、登場ーー
―すごくいい意味での万能感というか、自己肯定感の高さを感じるんですけれど、それはやっぱり実際に手を動かして結果を出してきたから、という裏打ちがあると思います。
こばさん:そうですね。もともと知識欲は高いというか、気になることはとことん調べちゃう人なので。正直ポリシーというほどではないけれど、最悪、結果的にできなかったとしても、そこまでは全力でやりたいと思っています。
ミュージシャンをやっているときも、黙っていたら仕事は当然来ないので、人のライブにガンガン飛び込みをして顔を売ったりしていました。
それで仕事をもらったりもしていたので、やれることはとりあえず全力でやるというか、その中で学びながらトライアンドエラーしていく。常にそういうことを考えています。
―やることを全力でやって、トライアンドエラーで改善して、というのはやっぱり成功へのいちばんの近道というか、結果を出すために必要だと思いますし、プロのマインドというものを感じます。奥さんから木庭さんに対してフィードバックはありますか?
こばさん:いま隣で「めっちゃ助かってます」と言ってます。
そうか、助かってるんだ。せっかくだから妻に直接話してもらいましょうか。
奥さん:私自身も海外赴任が初めてなので、よくわからないことがいっぱいあって……。でも夫は突然巻き込まれたのに文句の1つも言わないんです。
いろんなトラブルにも一つひとつコミットして一緒に解決できるようにやってくれるので、私としてはとてもありがたいし、助かっています。
※なんだか、最後はとてもかっこよく見える木庭さんでした。
Editorial Team / 編集部