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【弁理士に聞く】スタートアップの商標登録の失敗パターン

スタートアップが商標登録で失敗することは意外に多くあります。先日掲載した記事、「【経験者に聞く】スタートアップバックオフィスの始め方、外せない3つのポイントとは?:法務編」でも、シリーズAを終えたスタートアップがときどき社名やプロダクト名を変えることがあり、その理由が他社に商標登録されてしまっていて使えなかったからということがあると紹介しました。

オンライン商標登録サービス「コトボックス」を提供するcotobox創業者で弁理士の五味和泰さんに、スタートアップで良くある商標登録の失敗についてお話を聞きました(聞き手・Coral Capitalパートナー兼編集長 西村賢)。

※cotoboxはCoral Capitalの出資先ではありません。

五味和泰(ごみ・かずやす)cotobox株式会社 代表取締役。早稲田大学理工学部卒業。建設会社を経て、2005年にYKI国際特許事務所に入所。2014年、米南カリフォルニア大学ロースクールに留学。帰国後の2016年にcotobox株式会社を設立。

事前調査をせず名称が衝突するケース多数

――御社が扱っている商標登録申し込みでもトラブルは結構ありますか?

五味:あまり表には出ていませんが結構あるんです。弊社だと月間500〜600件ほどある商標登録依頼のうち、だいたい5%くらいは確実にアウトです。既存の商標と抵触しているというケースです。

コトボックス提携の弁理士によると、権利侵害や差し止めの警告書を送ったり、受け取ったりという案件が増加しているとのことです。最近多いのはECに出品されている方々ですね。

――ECは新商品がどんどん出るからでしょうか。偶然の一致で衝突することが多いのですか?

五味:はい、そうですね。多いのは、事前調査をしていないパターンです。同じ商品やサービスカテゴリでドンピシャの商標が登録されていると、当然、登録はできません。そうした場合、弁理士の立場としてはネーミングを変えたほうが良いとお伝えするのですが、「何とかならないの?」と言われることもあります。会社名は特に思い入れが強く、愛着があるので当然ですが、こればかりはどうにもなりません。

どのタイミングで商標登録するべきか?

――スタートアップの場合、法人もプロダクトも新しく作りますが、どのタイミングで商標登録をするのが良いのでしょうか?

五味:ネーミングを思いついたときや、会社を設立するときです。ただ、残念ながら後回しになることが多いですよね。結構あるのが、商標登録の前に商品やサービスの発表をし、一時的であっても期待値以上にメディアに取り上げられたり、トラクションが出てしまうケースです。慌てて弊社に申し込んで頂いたときには、すでに他社が商標出願済みということがあります。

商標登録を後回しにしてプロダクトをローンチしても、しばらくは何事もないかもしれません。でも、知名度が上がるほど、すでに商標を持つ事業者から警告書が送られてきたり、他社に登録されてしまったりして、名称変更を余儀なくされるリスクが高まります。20個とか30個、いろいろと候補を挙げた中から選んだ決意のネーミングだったりすると残念ですよね。

プロトタイプやコードネームのようなときは商標を取らなくて構いませんが、「よし、このネーミングでやるぞ」と決めたときには、少なくとも商標が取られていないかなど調査したほうがいいと思います。理想は弁理士に相談することですが、Google検索でも構いません。

商圏が異なるからというだけでは登録できない

――あれ? 御社のサービスではなく、ググれば十分ですか?

五味:聞いてくださって、ありがとうございます(笑)。Google検索だと、その名称の会社が既に存在するかどうかなど、だいたいのことは分かりますが、それが商標登録されているかどうかまでは分かりません。コトボックスでは商標登録されているかどうかはもちろん、出願中かどうかも分かりますし、登録されている区分も表示されます。

――ああ、区分も重要ですよね。飲食店とSaaS事業者のように業種が違えば同一名称でも登録可能ですよね。区分というのは、いくつくらいあるのですか?

五味:45区分あります。ただ、例えばSaaSサービスであれば、オンラインのソフトウェア(SaaS)という領域と飲食業の領域の掛け算での分類になります。実際には全部で1000弱くらいの小分類も特定する必要があるんですよ。難しいのは、時代の変遷によって、それまで異なっていた分類でも近くになってしまう場合もあるところです。

例えば、洋服は「商品」ですが、洋服を販売する店舗名やサイト名は「小売」(役務)として区分が違います。しかし、これらはユーザーから見れば似ているため、現在では同一名称は商標登録できない可能性が大きいです。

――似た領域で同一名がNGというのは、同じ商店街でラーメン屋の「来々軒」は1軒までみたいな感じですね。ありふれた名前だけど、街が違えば誰も間違えませんしね。

五味:半分正解で半分不正解です。間違って購入することを防ぐというのが商標の役割です。同一名称のほかに「似ている」商標を使用しても商標侵害となりますね。注意してもらいたいのは、「商圏が異なる」場合であってもアウトで、商標侵害になります。街が違えばOKというわけではないのです。

ビジネス用語では「商圏= 販売するエリア」なので、北海道と沖縄だったら場所が違うのでOKと思う人がいるかもしれませんが、日本国内なので登録できません。国が違えば基本的にOKです。

ロゴなら見た目が似ているだけで、社名なら発音が似ているだけで、侵害になる可能性があります。ですから、コトボックスでは類似マッチも提供しています。特許庁の審査基準上で「似ているもの」を表示する機能です。

似ているロゴの争いで有名な例だと、ドトールが運営するカフェ、エクセルシオールの初期のロゴがスターバックスのものと似ていた、というのがあります。スターバックス側が使用差し止めの仮処分を申し立て、後にエクセルシオールが外側の円を緑色から青に変更して和解しています。

――発音が似ていてアウトということは、字が違っても侵害になるのですか?

五味:実際にあった例だと、「Re就活」 vs 「リシュ活」訴訟があり、現在も係争中です。

――り……、しゅぅ、かつ?

五味:2つの若者向け就職・転職関連サービスで商標権を争った2018年の訴訟です。第二新卒向け転職サービスの「Re就活」(リシューカツ)と、大学生が履修履歴を登録することでオファーが届く逆求人アプリ「リシュ活」(リシュカツ)です。商標権侵害でドメイン使用禁止と1億円の損害賠償請求を訴えたものです。2021年1月に大阪地裁で一審判決が出て商標権の侵害が認定されました。

(参考:控訴したリシュ活側が経緯説明するプレスリリース

――サービスの種類は違いますが、響きは確かに似ていますね。

五味:ある時期に似たような造語でポンポンと出てくるようなとき、その流行の中で衝突することがあります。

――意図的に真似なくても発音で衝突しているケースはありそうです。

五味:商標登録のトラブルは、土地の区画のトラブルに似ています。事前に区画整理がされ、かつ登記ができていれば、こうしたトラブルは起きないはずなんです。原野を切り開き、秋に収穫を得たとしても、その土地の所有者が他人かもしれないし、他人に先に登記されるかもしれないですね。法の不知はなくしていきたいです。

――ちょっとインターネットのドメインにも似ていますね。

五味:ただ、商標は使用することが前提です。3年使わなかったら第三者が無効審判の請求ができます。

もう1つ指摘しておきたいのは、有名になると主張範囲が広がることもあるということです。例えば飲料メーカーのキリンと「キリンラーメン」を製造販売する会社との係争があります。キリンラーメンは愛知県で50年くらい愛されていた地元のインスタントラーメンでしたが、キリンのブランド価値を毀損するということでキリンラーメンは「キリマルラーメン」に名称が変更されました。

――後からサービスが大きくなったり、商圏が広がってぶつかることもあるんですね。

五味:インターホン専門の電気機器メーカー「アイホン」もそうですよね。インターホンで50年やってきた会社の商品ブランドですが、後から出てきたアップルのiPhoneと衝突してしまいました。結局2社はライセンス契約を結び、初年度にアップルが支払ったライセンス料が1億円だったのではないかと東洋経済が報じています。

――スタートアップの商標登録は海外も必要ですか?

五味:必須ではなく、まずは日本で商標登録していれば大丈夫です。例えば米国進出の意図が全くなければ必要ありません。

パクリで登録する悪意のある事業者もいる

――ローンチ前に既存の商標と衝突していないことを確認するのは大事なのですね。

五味:確認もそうですが、ローンチ前に商標登録もしたほうがいいです。世間に公開すると「あ、いいネーミングだな」と思った人が商標登録する可能性もあります。新しいネーミングを考えるとき、人は実際にあるネーミングからインスピレーションを受けるので、無意識にほぼ同じネーミングになる場合があります。

――特許と同じで先願主義、先に出した人の権利が確定するのですね。ちょっと釈然としないですが、パクられたしても先に出したもん勝ち。

五味:はい、実際にあった例で1つ、お話します。これはJR東日本のCVCが運営するスタートアップアクセラレーターであったことで、当事者の許可を取っていつもお話していることなのですが、すごくトラブった案件です。

山手線の新駅、高輪ゲートウェイにある無人コンビニを運営している株式会社TOUCH TO GOという会社です。最初に大宮駅と赤羽駅で実証実験をやったら、先進的な取り組みでメディアに取り上げられたんですね。その時はまだ法人設立前でした。その後、きちんと法人を立ててやっていこうというとき、代表の阿久津さんが知財の重要性を認識していたので、商標を取ろうとコトボックスをご利用いただきました。ところが2週間くらいの差で、誰かが「TOUCH TO GO」で商標登録を申請していたんです。

――なんと。しかし、それはちょっといくらなんでも……。

五味:すでに他人の先願なので困りました。名前を変えるのが無難とアドバイスしつつも、コトボックス提携の弁理士のほうで特許庁に働きかけることにしました。逆転の可能性はある、と。

実証実験はテレビで全国放送されて有名な商標になったので、これは明らかにフリーライドだという論理構成で書類を揃えて特許庁に提出しました。本サービスではなく実証実験なので、果たしてどこまで認められるか……、という微妙なラインでしたが、この件に関しては特許庁は考慮してくれて、他人の先願は拒絶となり、商標登録には至りませんでした。

ただ、これは例外的なケースで、通常は資本力がある大手ビール会社などがすでに全国で販売し、かつ大々的に広告宣伝しているようなケースでないと先願を退けることはできません。

「AIチャット」など、そもそも商標登録できない名称も

――ほかにスタートアップの商標登録で気をつけるところはありますか?

五味:登録できない商標というのがあります。良くあるのがジャンル名そのままの名称です。「オレンジジュース」とか「AIチャット」はNGです。

――AIチャットはだめなんですね。

五味:こういうのは時代によって変わるもので、今だとだめですね。判断基準としては、一般の人が聞いて、それで中身がそのまま分かるものだとNGです。「スタートアップラーメン」は登録できそうですが、「味噌ラーメン」は登録できません。今は「ドローン」も取れません。10年前なら取れたかもしれませんが。

あまりに良いネーミングで、みんなが日常的に使い始めたら商標の機能がなくなる、ということもあります。「エスカレーター」は、もともと米国のオーチスという会社の商標でしたが、今は一般名詞化しました。「セロテープ」「ホチキス」「デジカメ」なども、すべてそうです。それぞれもともとはセロハンテープ(ニチバン)、ホッチキス(イトーキ)、デジカメ(三菱電機)など登録商標でした。

過去の有名な人の名前も商標登録が厳しくなっています。昔は「福沢諭吉」などは日本酒のブランド名などで登録できましたが、今はだめですね。「エジソン」「アインシュタイン」などもNGです。ほかには「あ」「1」「2」など短すぎるもの、「アメリカ」など国名もだめです。

――数字はだめなんですね。文字種はいかがですか? アラビア文字とか。

五味:それは図形として登録する形ですね。

――最後になりましたが、商標登録にかかる費用は?

五味:1区分で2万8,400円です。弊社経由で登録すると5万円です。もちろん自分で登録することもできますが、自分でやるとなると勉強や申請の手間がかかりますから、スタートアップ創業者の方にはぜひコトボックスをご検討いただければと思います。コトボックスでは商標の期限(5年)が近づくとお知らせするなど一元管理できますし、チャットでの相談も受けています。

上場前のスタートアップのCFOの方などから「至急取りたい」というご連絡を受けることも少なくありませんが、トラブルを防ぐためにも、いずれにしても商標登録は早め早めにしておくことをお勧めします。

SBO
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Editorial Team / 編集部

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