高齢者ネット利用率増で、広がるAgeTechの適用領域

高齢者向けのスタートアップ投資といえばヘルスケア・ウェルネス系といった医療分野が本丸ですが、市場が拡大するにつれて周辺領域のスタートアップも出てきています。この記事では、「AgeTech」と呼ばれる領域の北米市場のトレンドについてまとめ、いくつか興味深いスタートアップをご紹介します。

国内では70歳以上のネット人口が急増

高齢化率が最も速く進行しているのは日本ですが、かといってこれは日本だけの問題ではありません。それに伴ってAgeTechスタートアップへの投資が増えています。

以下は日本の年齢人口推計(棒グラフ)と、65歳以上人口が占める割合である「高齢化率」(折れ線グラフ)を示したものです。

1990年代から加速度的に高齢化率は上がっています。

以下のグラフは、今後100年程度の世界の年齢別人口構成の推移を示すものです。150年ほどで青く細い三角形(1950年代)だった人口ピラミッドが、70歳以上人口の多い、黄色で示される、ずんどう型(2100年)へ変化していくことがわかります。

米国のAARP(米国退職者協会)による「長寿経済」の今後の推移は、以下のグラフのようになっています。

長寿経済の定義は50歳以上の人々が生み出す経済圏の規模ということで、ちょっと現代社会と語感や実用性の点でズレを感じますが、それにしても2020年実績で1,500兆円を超えていて、これは日本のGDPの3倍、中国とほぼ同等という大きさです。

以下はPitchBookによるAgeTechスタートアップへの投資額の推移です。絶対額は500万ドル弱(約540億円)と小さいですが、伸びている傾向にあることがわかります。

60代のネット利用率は10年で100%に近づく

1つ、重要かつ意外に思われる方が多いのではないかという日本国内のデータがあります。総務省が毎年発表している「通信利用動向調査」です。

2018年と2019年の差分(下のグラフのオレンジと水色)を見ると、60歳以上で利用率が大きく増えていることがわかります。スマホやタブレットの登場から約10年。いよいよ高齢者もモバイル端末を使うようになってきたことと、単純にかつて70歳だった人々が80歳になっているということもあるでしょう。10年後のネット利用率を考えるときには、少なくとも水色のグラフを右に1つ分ずらして見るのが良いのではないでしょうか。

ヘルスケア以外でも、自立生活・コミュニケーションなどが注目

以下は、The GenentechnologistがまとめたAgeTechカオスマップです。

左上のヘルス・ウェルネスがホットなのは自明ですが、ほかの項目を見ると、高齢者向けコミュニティーでエンゲージメントを高めるためにQ&Aに基づくストーリーを作成する「oneday」や、同様に高齢者向けにエンゲージメントを高める技術をハードウェア、ソフトウェアへ統合する「iN2L」など、あるいはシニア向けVRの「MyndVR」、50歳以上限定のSNSである「Stitch」などが生活を充実させるものが目に付きます。

高齢者の自立生活支援としてはY CombinatorやTiger Global Managementも出資する「Papa」が有名です。2018年創業で累計$91.2M(約100億円)を調達。高齢者を、大学生や看護学校の生徒をマッチするプラットフォームを提供しています。外出時の運転や家事、ITの使い方を教えるなど高齢者の自立を助けるのが目的ですが、「Family On-Demand」を掲げて情緒的繋がりも押し出しています。Papa Palと呼ばれる支援者の時給は最大15ドルですが、訪問回数達成度などによるインセンティブがあるなど、テック企業らしさがあります。2019年にはオンラインのバーチャル訪問サービスや、オンライン診療を行うPapa Docsも開始している注目株です。

高齢者の生活を「見守る」という文脈では、物理的に見守るデバイス+サービスを提供する「People Power Company」や、日本で言えば振り込め詐欺に近いような、詐欺的な営業電話による高齢者の金銭的被害を防ぐ「True Link Financial」も伸びています。True Linkはカード決済をリアルタイムにモニターし、不審な支払いがありそうなときに、現役世代の娘・息子に通知するというサービスです。調達額は$8M(約8.8億円)と比較的少ないもの、アプリのみで転倒防止のトレーニングを行う「Nymbl」も、日本でも同様のアプローチが可能かもしれないという意味で興味深いスタートアップです。

日本でも高齢者の交通難民化が危惧されていますが、高齢者コミュニティー向けに自動運転車を配車するプラットフォームの「Voyage」も注目されています。カリフォルニアとフロリダの2箇所で約4,000人の退職者コミュニティーに対してサービスを提供しています。2021年3月には自動運転のスタートアップでGMに買収されたCruiseが、Voyageを買収しています(買収額非公開)。

以上、海外のAgeTechスタートアップをピックアップしてご紹介しました。

Coral Capitalでも、この分野では、すでに高齢者家庭と現役家庭を結んで大画面テレビとリモコンで写真・動画が共有できる「まごチャンネル」を提供するチカクや、認知症患者の資産凍結を防ぐ家族信託を低価格で利用できる「ファミトラ」などに出資しています。今後この分野での起業を考えている方は、ぜひコンタクトフォームからご連絡ください。

Coral Capital

Editorial Team / 編集部

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