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コロナを撲滅できないとしても、私たちは乗り越えられる

新型コロナウイルスのパンデミックが昨年始まって以降、新しい生活様式を表す言葉として「ニューノーマル」が一般的にもよく使われるようになりました。そしてソーシャルディスタンシングやマスク、念入りな手洗い、リモートワークなどをはじめとして、新しい時代を特徴づける様々な生活の変化が起こりました。

ワクチンの承認が進みはじめた当初は、この「新しい時代」もようやく終わるのだという予感が高まっていたと思います。人類の科学力や発想力が、自然の脅威をまたもや克服したかのよう思えたのです。このまま順調に何十億人分ものワクチンを世界中に供給し、全人類が接種すれば、日常を取り戻してまた前進できるようになると期待されていました。

しかし残念ながら、そう単純に物事は進みませんでした。実際にワクチンの生産や供給、接種を行うとなると、計画や実行面で多くの労力を要することが判明しました。また、人命を救うという目標を前にして、行政制度や誤情報、政治などが深刻なボトルネックになることがわかりました。さらに追い討ちをかけるように、より感染力や致死率が高い変異株が出現し、今後の「ノーマル」への回帰を妨げる要因として危惧されています。

多くの良いニュースや悪いニュースが混在する中、この状況を楽観的に捉えていいものかどうか判断しにくいと思います。確かに、まだ多くの課題が残されていて、対処しなければならないこともたくさんあります。しかし、個人的には、それでも「良いニュース」が「悪いニュース」をはるかに上回っていると考えます。

悪いニュースというのは、新型コロナウイルスがこの世から消える日はおそらく訪れないということです。ウイルスはワクチンの開発を上回るペースで変異し続け、状況はパンデミックからエンデミック(恒常的に社会で感染が発生し続ける状態)へと変わっていくでしょう。良いニュースは、そんな状況下でも、ほとんどの面ではパンデミック前と同じような生活が可能になることです。

実際、開発されたワクチンの多くはデルタ株を含む変異株に対しても有効性が高いことが実証されている上に、重症化のケースも大幅に減らせているのです。

最も良い例がイスラエルです。イスラエルでデルタ株の感染が拡大していることが報じられましたが、世界で最もワクチンの接種率が高い国であるにも関わらず拡大していることから、大きく懸念が広がりました。しかし、メディアの報道ではあまり出てきませんが、実はワクチン接種を完全に済ませたグループに限れば、新型コロナウイルスを原因とした1日あたりの入院率は全年齢層にわたって10万人中0.3人、死亡率は10万人中0.1人に留まっているというデータが出ています。参考までに、米国におけるインフルエンザの1日あたりの入院率と死亡率はそれぞれ10万人中0.4人および0.03人です。つまり、ワクチンを摂取すれば、新型コロナウイルスの脅威はインフルエンザと同程度に抑えられるということです。

インフルエンザもまた、私たち人類が順応し、共存してきたエンデミックの1つです。毎年、多く人たちがインフルエンザにかかります。全体からすれば少数ですが、特に高齢者や基礎疾患を持つ人たちが感染すると、重症化して亡くなってしまうことがあります。しかし、圧倒的大多数の人たちは入院する必要もなく、治療もほとんどあるいは全く受けることなく回復していくのです。

英国でも同様なデータが得られています。英国公衆衛生庁の分析によると、ファイザーとビオンテックが開発したワクチンは、2回の接種で入院リスクに対して96%の有効性を示す結果が出ています。オックスフォードとアストラゼネカが共同開発したワクチンも、2回の接種で入院リスクに対して92%の有効性が得られることがわかっています。実際、英国では感染力の高いデルタ株や、移動規制やソーシャルディスタンシングの緩和により再び感染が拡大していますが、国民へのワクチン接種が進んでいたおかげで、死者数はほとんど変化していません。重症化リスクの最も高い人たちへのワクチンの普及が、期待していた通りの効果を発揮しているようです。

このように、ワクチンは命を守り、私たちが望む「ノーマル」へ回帰するための非常に有効かつ重要な手段です。ウイルスを完全に消し去ることはできなくても、抑え込むことなら可能なのです。

なるべく早く、多くの人たちへワクチンが行き渡るように接種が進められる中、日常を取り戻してまた仲間や友達と集まれる日も着実に近づいてきていると感じます。これからの「ニューノーマル」では、コロナへの恐怖やロックダウン、移動規制などで多くの人たちの生活を脅かすことなく生きるための術を私たちは身につけていくでしょう。その未来を実現するためには、ワクチンに加え、検査体制の拡大や、治療法の確立、社会的な責任を意識した行動が今後も鍵となります。とても乗り越えられないと思われていた危機でしたが、私たちはそれを見事克服するだけではなく、次の感染危機に備えてより強靭な社会を作り上げていけるはずです。

P.S.もし英語が苦手でなければ、シンガポールの新型コロナウイルス・タスクフォースが書いたこの記事をぜひ一度読んでいただきたいです。新型コロナウイルスと共存するための前向きで実践的な今後の道筋が紹介されています。

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Founding Partner & CEO @ Coral Capital

James Riney

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