スタートアップへの投資を検討する際に、最も難しいのはスタートアップチームを評価することかもしれません。というのも、一見予想外のポテンシャルが発揮されるケースも実際に多いからです。例えば、Coral Capitalの投資先であるHR系スタートアップのSmartHRの創業者たちも、人事系のバックグラウンドもなければ、学歴がすごいわけでも、有名企業に勤めた経験があるわけでもありませんでした。世界有数の決済サービス企業であるStripeの創業者たちも、金融サービスの経験ゼロからスタートしています。Elon Musk氏だって、NASAや自動車メーカーで働いたことはありません。
一方で、Marc Benioff氏はSalesforceを立ち上げる前にOracleで13年間働き、営業やマーケティング、プロダクト開発を経験しています。Eric Yuan氏も、Zoomを創業する以前は、WebExで初期の頃から社員として勤め、同社が買収されたあとは買収元のCiscoで経験を積んでいます。
成功する起業家は、関連分野の華々しい経験やキャリアを持っている場合もあれば、そうではない場合もあるということです。バックグラウンドだけではチームのポテンシャルを正しく評価できないのです。
そのため、スタートアップを評価する際には、そのスタートアップを成長させるのに何が最も必要か見極めた上で、ほかでもない、その創業チームがそれを実現するのに、どう有利なポジションにいるのかを見るようにしています。例えば、高い技術力やB向け営業力が求められるプロダクトを開発している場合、その2つの条件を満たす人材がチームにいるかどうか確認します。ただし、この場合の「営業力」とは、必ずしも経験の有無に直結しているわけではありません。経験はなくとも、天性のセールスパーソンとしての資質を備えたメンバーがチームにいる場合もあります。
C向けプロダクトの場合、GoogleやFacebookなどを見てみると、最初の頃はそれほど営業力が必要とされていませんでした。Googleで必要だったのはエンジニアとしての非常に高い技術力で、同社の創業者であるSergeyもLarryも自らそのスキルを有しているだけでなく、スタンフォード大学での人脈を活かして優秀なエンジニアを集められるという強みを持っていました。同様に、FacebookのZuckerberg氏も、ハーバードなどの大学から人材を集められる点で有利でした。両社とも、セールスパーソンは後から採用しています。まずは強力なプロダクトや、強固なエンジニアカルチャーを作り上げ、改善し続けるための基盤を整えることが重要だったのです。
一方で、直感に反するようですが、実はディープテック系は非常に高い営業マインドが必要とされる分野の1つです。プロダクトを開発し、ある程度のトラクションを獲得するまでにかなり時間がかかることから、軌道に乗せるためにより多くの人員や資金が必要になることが多いのです。そのため、ディープテック系のスタートアップを成功させるためには、採用や資金調達が何よりも重要です。いずれも高い営業力が欠かせません。
時には、スタートアップの成長に必要な要素が創業チームに完全にそろっていないケースもあるでしょう。成長ステージによっては、それでも大丈夫かもしれません。ただし、最低でもどのような強みが欠けているかを明確に把握し、意識した上で、その欠けている部分を埋める人材を見つけるためのプランを持っておいたほうが良いでしょう。とはいえ、プロダクト開発に関しては、フルタイムの担当者がいない場合、Coralでは投資をためらうことが多いです。プロダクト開発の一部を外注、もしくは非常勤の人員に任せていたとしても、技術的な専門知識を持っていて開発全体をリードできるコアメンバーがチームにいてほしいものです。そうでなければ、どうしても開発ペースが遅れてしまうことが多く、技術的負債が積み上がったり、コストが手に負えないほど増大してしまうこともあるからです。
チームの構成も重要です。一般的に理想的だと言われている創業チームの構成は、「デザイナー・ハッカー・ハスラー」の3者から成っています。Airbnbの創業チームが典型的な例です。Joe Gebbia氏が「デザイン」したプロダクトを、Nathan Blecharczyk氏が開発し、Brian Chesky氏がCEOとして「ハッスル」、つまり資金調達から採用、その他全ての必要な業務を率いたのです。ただし、成功する全てのチームがこの典型に当てはまるわけではありません。要するに、チームの強みがそのスタートアップに必要な要素を満たしていればいいのです。
また、創業メンバーの得意分野や強みが重複しすぎている場合も注意が必要です。能力的に似ている部分が多いと、誰が何を担当し、何に対して最終的な意思決定を行うのかなど、不明瞭になるため、チーム内に軋轢が生まれてしまう原因になりやすいからです。自分の能力や専門的知識に非常に自信を持っているメンバーが2人もいれば、意見のぶつかり合いも多くなることでしょう。一方で、メンバーの強みが重ならない場合、それぞれの役割分担が自然と明白になり、お互いのやるべきことをしっかりやってくれるだろうという信頼関係も生まれやすくなります。
創業メンバー一人ひとりを個人として評価するとなると、さらに多くの要素が関わってきますが、スタートアップチーム全体を評価する場合はCoralでは2つのポイントを見るようにしています。1つ目は、このスタートアップを発展させるには何が必要で、チームにその条件を的確に満たす強みを持ったメンバーがいるかどうか。2つ目は、チームの構成です。チームの能力の構成からして、高いチームワークや実行力を実現できるかどうか検討します。たとえチームが開発しようとしているのがロケットであろうと、美容系アプリであろうと、これら2つのポイントがきわめて重要であると私たちは考えています。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital