「エンタープライズ市場を主戦場とするBtoBのスタートアップであれば、セールスで営業レターを使わない手はありません」
そう言い切るのは、企業の調達活動のDXを支援する「Leaner Technologies」でマーケティングやインサイドセールスを担当する山下翔平さん。同社ではSEOやセミナーなどのインバウンド施策も実施していますが、それらに比べて営業レターを経由した商談の成約率は2倍以上、成約までのリードタイムも大幅に短いそうです。
そこで今回は、スタートアップのBtoBセールスで使える営業レターの活用術を山下さんにお聞きしました。
営業レターが大企業の役員クラスに“刺さる”ワケ
Leanerは企業のコストの70%を占める「調達コスト」の適正化を、クラウドサービスを通じて支援するスタートアップです。主要な導入先であるエンタープライズ企業の決裁者に対して、多いときで週200通もの営業レターを送っています。
特筆すべきなのは、手紙の内容をコピペするのではなく、企業ごとに書き分けていること。各社がウェブで公開している中期経営計画やIR情報を読み込んだ上で、Leanerの調達DXソリューションがどう役立つかを記載するそうです。
200社ぶんの資料を読み込むのは相当なリソースを費やしそうですが、「慣れてくればどのあたりに経営課題が書いてあるかがわかるので、大変な作業ではありません」と涼しい顔の山下さん。大量の郵便物に埋もれないようにするために、手書きの宛名で開封率を上げる工夫もしています。
「営業レターの良いところは、バイネームで大企業の役員をターゲティングできること。ただし、役員の方もお忙しいので、不特定多数に送るような内容では興味を持ってもらえません。大企業の役員は『会社をもっと良くしたい、事業目標を達成したい』と考えている方が多いので、手紙でその思いに沿った提案をすれば効果があると感じています」
人脈やリソースがないスタートアップこそ試す価値がある
営業レターの送付先は、日経新聞やネット上の人事異動情報を毎日チェックし、会社名と住所、氏名、役職をリストに追加。新任役員のお知らせを見つければ、すぐにコンタクトを取ります。
営業レターを送った後は、非対面での営業を行うインサイドセールスチームがフォローの電話をかけ、決裁者との商談へつなげます。役員レベルへの電話は1度でつながることはまれで、1人につき十数回コールすることも少なくないそうです。
LeanerではホームページやSEO、セミナー、ホワイトペーパーなどを通じたインバウンド施策も行っていますが、それらと比べて営業レター経由の成約率は2倍を上回ります。また、インバウンド施策の多くは現場レベルの担当者との商談に進みますが、営業レターは決裁者への提案となるため、成約までのリードタイムが短いことも利点だと言います。
「サービスが複雑で、高単価なプロダクトを扱うスタートアップにとって、インバウンド施策だけで見込み客を集めるのは限界がある」と山下さん。一方、プロダクトの口コミやトップ人脈の紹介のようなアウトバウンド施策が使えるのは、一部の大手ベンダーに限られるとも指摘。そのうえで「人脈や営業リソースが少ないスタートアップこそ、営業レターを試す価値がある」とアドバイスします。
オンライン商談後のフォロー電話が商談を前に進める
手紙のような前近代的なツールがスタートアップのBtoBセールスで生きる例は、ほかにもあります。オンライン商談の直後に1本の電話を入れることで、商談が驚くほどスムーズに進むというテクニックを紹介してくれたのは、国際物流手配を自動化する「Shippio」で新規顧客開拓を担当する真畑皓さんです。
Shippioは貿易業務を一括管理するSaaSと、輸出入の手配を行うフォワーディングを組み合わせた「デジタルフォワーディングサービス」を提供しています。
コロナ以降、取引先である荷主との商談はオンラインが主流になったことで、1日にこなせる商談の件数は飛躍的に増えました。その反面、「特に大企業のお客様となると、打ち合わせの同席者が増えることも多く、それぞれの役割・関係性が把握しにくかったり、提案に対する反応も見えにくかったりするので、先方の温度感をつかみきれないことがあった」と真畑さんは振り返ります。そこで始めたのが、オンライン商談直後のフォロー電話でした。
電話で聞くのは、オンライン商談では詳細を詰めきれなかったことです。例えば、社内承認を進めるための決裁者やハードルを探ることで、提案の切り口となる情報が得られると言います。そのほかにもオンライン商談で顧客が抱えていた疑問点・懸念点を確認し、すぐにフォローすることで、商談が進むスピードが飛躍的に上がったそうです。
「オンライン商談では情報のやり取りが制限されるので、モヤモヤが残ったまま商談が終わってしまい、なかなか次のステップに進まないことがあります。フォローの電話をするようになったことで、お客様の状況をクリアに把握し、お客様社内の動きがコントロールできるようになりました。前近代的と思われるかもしれませんが、こまめな電話はオンライン商談を進めるための大きな武器になると感じています」
Content Lead @ Coral Capital