起業家との面談でよく聞かれることのひとつが、「資本政策をどうすればいいのか」という質問です。
シード調達で初めてVCまわりをする起業家にとって、資本政策は複雑に感じるかもしれませんが、実は難しく考える必要はありません。私が起業家にアドバイスしているのは、次の2点だけです。
・次のファイナンスまでに必要な資金を考える
・ダイリューション(希薄化)の優先順位を考える
5年後に必要な資金は誰にもわからない
まず起業家に伝えたいのは、5年後にどれだけのお金が必要になるのかは、誰にもわからないということです。
スタートアップは日々PDCAを回しながら、トライアルアンドエラーの実験を繰り返します。ましてや、数年後のマーケットは予測もできません。このように明確な答えがない中で5年後に必要な資金を考えたとしても、解像度はかなり低くなってしまうでしょう。
だからこそ意識したほうがいいのは、次のファイナンスまでにクリアしたいマイルストーンを設定すること。そして、それらのマイルストーンをクリアするために必要な資金を考えることだと思っています。
マイルストーンが「PMF達成」だとしたら、MRR(月間経常収益)の金額はどれくらいなのか。もしくは「優秀なCTOを採用したい」という定性的なマイルストーンかもしれません。このように、次のファイナンスまでに達成したいマイルストーンをクリアするために必要な資金を考えるのが現実的だと思います。
「大きな会社で小さい持分」と「小さな会社で大きな持分」のどちらを目指すのか?
もうひとつ、起業家に知ってもらいたいのは、会社が成長して資金調達を繰り返すごとに持分比率が減っていく、いわゆるダイリューション(希薄化)の考え方です。私の感覚ではシード、シリーズA、シリーズB……と資金調達するごとに持分が15〜30%ほど希薄化することが多いです。
希薄化について少し説明をすると、たとえばCoral Capitalがシードで投資し、持分比率が20%になったとしましょう。数年後のシリーズA調達で20%希薄化するとしたら、Coral Capitalの持分は16%になります。それと同時に、起業家を含むその他の既存株主の持ち分も、20%の割合で希薄化されていくわけです。
起業家のみなさんに意識してほしいのは、最終的に「大きい会社で小さい持分」もしくは「小さい会社で大きい持分」のどちらを目指すのか、ということです。この2つに正解はありません。もちろん、起業家にとって最もいいのは「大きい会社で大きい持分」ですが、攻めのファイナンスを検討する起業家は、希薄化を選択せざるを得ない傾向があります。競争環境が激しいと尚更です。
Coral Capitalの投資先を例に挙げると、SmartHRは希薄化よりはスピード重視で大型資金を調達し、一気にマーケットシェアを取りにいったことでユニコーン企業になりました。その結果、既存株主(起業家)の持分は希薄化しましたが、株の資産価値はとてつもなく大きくなったわけです。
資金調達は「スタートアップを急成長させるための時間を買うこと」とも言えます。急成長のために攻めのファイナンスが必要と考えるのであれば、希薄化も視野に入れるべきでしょう。事業を加速させるチャンスがあるにもかかわらず希薄化(資金調達)を避けることで、カテゴリーリーダーになるチャンスを逃してしまう可能性もあるのです。