新型コロナウイルスの影響で、リアルな店舗で買い物や飲食をする機会はぐっと減りました。代わりに急成長しているのが、オンラインショッピングやフードデリバリーといったサービスです。矢野経済研究所が2021年9月にまとめた調査によると、食品宅配市場は前年度に比べ114.3%の2兆4,969億円に達しています。
中でもしばしば話題に上るのはUber Eatsに代表されるフードデリバリーサービスですが、その次のトレンドとして着目されているのが「ダークストア」です。スーパーやコンビニエンスストアのような実店舗を持たず、倉庫からオンデマンドで消費者のもとに必要な商品を届けるサービスで、10分から30分程度という短時間で自宅に食材や日用品を届けてくれることが特徴となります。
海外では時価総額30億ドルのユニコーン企業、ドイツのGorillasが急成長を遂げているほか、日本国内ではイオンをはじめとする既存の流通大手やコンビニ各社もこのビジネスの可能性を模索し始めています。そんな、まさにブレイク寸前の市場に参入しようとしているスタートアップが、2021年に設立されたMeshです。2022年3月には、シードラウンドでCoral Capitalをはじめ数社から約2億円を調達し、今夏のサービス開始に向けて準備を進めています。
ネットスーパーの弱点を補うユーザー体験
Meshが手がけるのは、ダークストア型の生鮮食品デリバリー事業です。アプリ上で注文した商品が小売の場合と同等の価格で、20分以内に届くオンデマンド型のデリバリーサービスを目指していると、代表取締役CEOの佐藤峻氏は述べています。
ダークストアと競合する業態としては、ネットスーパーや買い物代行サービスが挙げられるでしょう。オンラインで、あるいはアプリで注文したものが手元に届くという結果は同じですが、Meshはそこに至る「ユーザー体験」の違いで差別化を図る方針といいます。
一般に生鮮食品や日用品は、事前に計画を立ててその予定通りに購入するよりも、買い物に行き、その場で商品を見定めつつ、冷蔵庫の余り物の状況や当日の気分に応じて買うものを決めていきます。佐藤氏も、サービスの企画に当たって数十人にユーザーインタビューを重ねる中で、「ユーザーが意思決定するタイミングは売り場に行ってからで、その場で欲しいものを決めている」という傾向をはっきり感じたそうです。
ですが、一般的なネットスーパーは配送日時を事前に指定する予約式が大半で、あらかじめ購入するものを決めなければなりません。そもそも配送枠が埋まっていて使いたいときに使えないケースもあります。このようなニーズに対しては、「オンデマンド型の配送が非常に相性が良い」と確信しているそうです。
また、必要なものを自分の代わりに買ってもらう買い物代行サービスも、注文が入ってから店舗に向かい、売り場で品物をピッキングすることに加え、レジを通ることも多いため、配達までに意外と時間がかかってしまいます。そのため、「ダークストアによるより素早いオンデマンド配送が捉えられるニーズは大きい」と佐藤氏は指摘します。
「その一方で、ネットスーパーや買い物代行はSKU(商品の選択肢)がダークストアと比べて多いというメリットもあり、『今欲しい』ニーズがない人にとってはこちらのほうが良い選択肢になることもあります。コンビニがあるからといってスーパーが否定されないのと同じで、ユーザーの趣向やオケーションによって最適なソリューションは変わります」(佐藤氏)
Meshが予定しているサービスは海外ユニコーンのGorillasを参考に、ユーザーの半径2.0km圏内に多数の倉庫を用意(商圏の広さは適宜調整予定)。配達員がスムーズにピックアップして手元に届けることで、アプリでの注文から20分以内の配達を目指すといいます。
オンデマンドで、必要なときに必要なものをすぐに配送できる上に、「店舗を倉庫化することで内装費や人件費を抑えられ、それによりデリバリーコストをのせても手の届きやすい価格を実現できるため、倉庫型にこだわってサービスを提供します」(佐藤氏)
さらに佐藤氏は、かつて10年間在住していたフィンランドでの生活を振り返り、「フィンランドから日本に久しぶりに来た時に強く感じた違いの1つは、生活のゆとりでした。私は日本が好きですが、日本で時間に余裕がない生活を送る中で、フィンランドでのゆとりある生活の尊さに気づきました。やっぱりゆとりがある方がGood lifeな感じがするというか。仕事や子育てに追われ、時間がない中で買い物に行ったりで殺伐としてしまうこともあるかもしれませんが、そんなときにMeshのサービスを使うことで、1時間かかっていたものを5分に短縮したり、ちょっといいものを頼んでGood lifeを楽しんでもらう、そんな光景を想像しながら事業作りをしています」と話しています。
新卒入社したDeNAで起業の原体験
佐藤氏がMeshを立ち上げた背景には、「自分も含め、誰もが使える裾野の広いサービスを作りたい」という思いがあったそうです。
佐藤氏は新卒でDeNAに入社した後、タクシー配車アプリの「タクベル」(現GO)に関わる過程で「その10xなユーザー体験から、ITプロダクトに強い興味を持つようになった」と言います。そして、Chompyの代表をしている大見周平氏が立ち上げたC2Cカーシェアリングサービスの「Anyca」を使ったことで、ITプロダクトや事業家の尊さを感じ、ますますITにのめり込んでいったそうです。
「Anycaを使って友達と一緒にテスラに乗って、本当に楽しい思い出を作ったこともありました。ITプロダクトを通して、日々、こういういい体験が生まれている上に、それを作った人がすごく近くにいたことで、事業作りが身近に感じられ、自分もこういう事業を作ってみたいと思ったのが原体験です」(佐藤氏)
その後、大見氏が立ち上げたChompyに移り、スタートアップならではの経験を積んだ後、いよいよ起業に踏み切りました。創業前には事業案を50ほど書き出し、検討していきましたが、その中から選んだのがダークストアだったそうです。
「何か特定の事業をしたいというようなこだわりはありませんでした。自分がやりたいと思っていたのは、GOやAnycaのように、体験が10xで、誰もが使える裾野の拾いサービスを作りたい、その一点でした」(佐藤氏)
Meshはスーパーの買い物という「あらゆる人が、週2〜3回の高頻度で行っている営みにアクセスでき、さらにその体験を抜本的にアップデートするもの」と語る佐藤さん。これまでGOやChompyでモビリティ・デリバリー領域に携わってきたこともあり、「ファウンダーマーケットフィットもしているため、自分がやるならこの事業しかない」と思ったそうです。
激戦必至「ダークストア市場」の勝算は?
前述の通りMeshは調達した資金をもとに、今夏をめどに東京23区内で検証も兼ねたサービスを開始する予定です。
佐藤氏は「取りそろえる商品や配達スピード、価格などを調整しながら、プロダクトマーケットフィットを検証していきます。また、この業態ではオペレーションが誤配送や欠品率といった品質に直結しますので、いかにオペレーションをしっかり回せるかも課題だと思っています。もちろん、黒字化できるかどうかもポイントです」と、3つの観点から検証を進めた上で、本格的なビジネス展開につなげていく考えを示しました。
ただ、成長市場には競合がつきものです。ダークストア市場においても、海外で実績を持つGorillasや韓国発のCoupang、Uber Eats、さらにWoltを買収したDoorDashなど、黒船的な存在はもちろん、国内でも流通大手が同種のサービスを展開予定です。そんな中Meshは、どこに勝機を見いだそうとしているのでしょうか。
「ユーザーが欲しい商品がある率を愚直に高めていくことが、一番大切だと思っています。データドリブンに、どのエリアに住んでるどんなユーザーがどのようなものを購入しているか、それは時間帯や季節によってどのように異なるか、といった事柄を見て、ユーザーが欲しい商品がある率を極限まで高めていくことが、本質的なバリューだと思っています」(佐藤氏)
同時に、よりよいユーザー体験作りに向け、アプリ作りの初期の段階から考え抜いて開発を進めています。画面1つ作るにしても、ボタンの置き場所から何から細かく検討を重ね、ユーザーが余計なことを考えず、気持ちよく買い物ができる体験作りを目指しているそうです。
「DeNA時代もChompy時代も、同僚は皆ユーザーに対して常に誠実で、真摯にプロダクトに向き合っていました。自分が忙しさにかまけてその部分がおざなりになると、厳しく叱責されましたし、その観点では常に緊張感がある環境にい続けました。これって、あまり議論の余地がなくて、シンプルにそれが正しいことだと思うんです。そんな同僚たちを私は尊敬していますし、彼らや彼女らと働いた経験が今は自分の血となり肉となっています」(佐藤氏)
倉庫が必要なダークストアは資金力がものを言う部分が大きい市場でもあります。しかしMeshでは愚直に、過去経験してきたやり方を踏襲し、一貫してプロダクトとユーザーに向き合っていくと佐藤氏は言います。「品揃えのところでも、配達でも、どこよりもいい体験を作って、本当に困っている人たちの救世主のような存在になれるサービスを作りたいと思っています」(佐藤氏)
Contributing Writer @ Coral Capital