東京からソウルまでのフライト時間は3時間弱で、東京から沖縄までとほぼ同じです。そして、この「近さ」は地理的なものだけにとどまりません。日本では総人口の約30%が首都圏に住んでいますが、韓国ではなんと約50%がソウル首都圏に集中しています。これらの大都市は、それぞれの国における「シリコンバレー」であるだけでなく、「ワシントンD.C.」や「ハリウッド」、さらには「ニューヨーク」の機能も併せ持っているのです。
また、どちらの大都市も「同質性」が高く、シンプルなマーケティング戦略が有効である点が共通しています。何百万人もの住民が同じようなコンテンツを消費し、似たようなライフスタイルを送り、価値観を共有しているからです。これは、米国や中国、インドのように多様な人口構成や複数の言語が存在する地域とは対照的です。
さらに、日本と韓国ではほとんどすべての大企業や有力な投資家が、それぞれ東京とソウルを主要な活動拠点としています。つまり、スタートアップ企業は東京やソウルを中心に活動することで、国内のほぼすべての産業にアクセスできるのです。このような日韓の地理的・文化的・構造的な近さは、両国のスタートアップにとって非常に大きなチャンスになり得ます。
このように驚くほどの類似点があるにもかかわらず、主に歴史的な緊張関係の影響で、日本と韓国のスタートアップ・エコシステムは依然として概ね切り離されたままです。しかし、世代交代に伴い、変化の兆しが見えはじめています。エコノミスト誌の最近の報道でも、韓国と日本の若者の意識に変化が現れてきていることが指摘されています。調査によれば、日本に好感を持っている韓国人の割合は50歳以上では20%強に留まる一方、18~29歳では45%以上に上昇しています。同様に、日本でも年配者は35%が韓国を肯定的に見ているのに対し、若者ではその割合が45%に改善しています。
この日韓の関係改善は、単なる統計上の数字にとどまりません。昨年、日本を訪れた外国人観光客の中で最も多かったのは韓国人であり、韓国でも日本人観光客がトップを占めています。日韓の文化交流が活発になっているのは明らかで、多くの日本人がK-POPや韓国ドラマ、韓国料理を楽しみ、韓国でもアニメや漫画、日本食の人気が高まっています。
グローバルな事業拡大を目指すスタートアップにとって、アメリカやインド、中国といった巨大市場の魅力は言うまでもありません。しかし、これらの国々は距離が遠いだけでなく、ビジネス文化や規制環境、消費者行動が大きく異なるため、高いハードルが存在します。一方で、日本や韓国のスタートアップが互いの国に進出する場合は、比較的ハードルが低いと言えるでしょう。まず、時差がほとんどないため、シームレスなコミュニケーションが可能です。日本語を話せる韓国人や、韓国語を話せる日本人が多いことも利点です。また、文化的な「常識」も互いが思っている以上に似ているため、文化が大きく異なる地域と比べて相互調整の負担も少なく、より迅速な成果が期待できます。
実際、日韓のより密接な協力には非常に大きな潜在的メリットがあります。近年、両国では政府の積極的な支援や既存企業とのコラボレーションの奨励により、活気あるスタートアップ・エコシステムが育まれています。スタートアップ企業が日本と韓国の両国に進出できれば、合わせて1億7500万人を超える市場を基盤とした成長戦略を描けるでしょう。両国のGDPも合計すると約6兆ドルとなり、「日本・韓国経済圏」として米国と中国に次ぐ世界第3位の経済規模となり得ます。
東京とソウルの起業家にとって、次の大きなチャンスは、すぐ近くにあるのかもしれません。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital