シリコンバレー屈指の名門VCであるAccelには、「Prepared Mind(準備された精神)」と呼ばれるコンセプトがあります。「幸運は準備された精神にのみ宿る」というパスツールの言葉に由来するものです。
Coralでも、未来についての最も価値ある示唆は、実際に会社を作っている創業者たちから得られると考えています。その一方で、卓越したものに出会ったときにそれと見抜けるよう、自分たちも学び続けることも大切にしています。
そこで、この「準備された精神」を育てる考えから、私たちは「Professorship Series」という取り組みを始めました。メンバーそれぞれが日本にとって重要な領域を一つ選んで深く掘り下げ、その学びを持ち帰ってチーム全体の理解を深め、どこに投資機会がありそうかという嗅覚を研ぎ澄ませます。
私が担当したテーマはエネルギーでした。費やした時間を考えると、その成果をスライドの中で眠らせてしまうのは「もったいない」。
そこで、特に印象に残ったチャートをいくつか紹介します。軸になるのは、私が何度も立ち返ることになった一つの数字、16.4%です。これは2024年の日本のエネルギー自給率で、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも最低水準に位置します。
すべては「自給率」というレンズで見えてくる
エネルギーの議論の多くは、脱炭素から始まります。しかし私は、まず「ギャップ」の話から始めるべきだと考えています。
日本は、国を動かすエネルギーのほぼすべてを輸入に頼っています。政府の野心的な2040年計画をもってしても、自給率は30〜40%程度まで戻るにすぎません。OECD平均の約70%には、なお遠く及ばない水準です。

今では、私はあらゆることをこのレンズを通して見ています。日本が国内で生み出す電力は、その1ワット、1ワットのすべてが、コストや炭素の問題である以前に国家安全保障の問題です。自給率という一つの指標が、この国のエネルギー政策、貿易収支、そして個々のプロジェクトの経済性を結びつけています。
だからこそ、あらゆる技術に対して私が投げかける問いがあります。「この技術は本当に日本の自給率を高めるのか。それとも、一つの輸入品を別の輸入品に置き換えているだけなのか」
事態はさらに悪化しうる
厄介なのは、このギャップが今後さらに広がりかねないことです。省エネの進展と人口減少によって20年にわたり減り続けてきた日本の電力需要が、再び増加に転じつつあります。その主因はAIです。データセンターの電力需要は2034年までにおよそ3倍になる見通しで、今後10年間に見込まれる需要増加分の約6割は、データセンターによるものです。

つまり日本は、先進国で最も脆弱な供給基盤から出発して、カーボンニュートラルという制約の中で、エネルギーシステム全体を作り直し、しかも拡大させなければなりません。一度に背負うにはあまりに大きな課題ですが、希望はあります。
太陽光、ただし「ひも付き」
再生可能エネルギーの内訳を見ると、主役は圧倒的に太陽光です。太陽光は、2010年には全発電量の0.3%でしたが、2040年には計画上26%まで拡大します。87倍というこの伸びは、エネルギー転換全体の中で最大の変化です。

ここで、先ほどのレンズを通して見てみましょう。世界の太陽光モジュールのおよそ8割は中国製です。もっとも、シリコンパネルは石油とは違います。一度買えば20年間発電し続けるのですから、燃やせば翌日また買い直さなければならない原油よりはましです。
しかし、依存が消えるわけではありません。依存は上流に移り、長い時間をかけて続くものに姿を変えるだけです。交換サイクルも、増設も、補修部品も、そのすべてが結局は一つの国を経由するからです。
エネルギー転換は、産油国からの自由を意味します。しかし太陽光のサプライチェーンは、ホルムズ海峡の石油とロシアのガスへの依存を、新疆ウイグル自治区のシリコンへの依存に置き換えてしまうリスクをはらんでいます。日本の原油のおよそ8割は、たった一本の海峡を通っています。その現実を突きつけられた2026年のホルムズ海峡危機の後では、サプライチェーンを一点に集中させることが、賢明な備えだとは思えません。
こうした理由から、私は次世代太陽電池の技術であるペロブスカイトに関心を持つようになりました。詳しくは別の記事「なぜ次の太陽光戦争を制するのは、中国ではなく日本なのか」に書きました。要点だけ言えば、ペロブスカイト太陽電池はヨウ素を主要な材料とし、日本は世界の既知のヨウ素埋蔵量の約8割を握っています。次の太陽光戦争を戦う上で、日本には圧倒的な優位性があるのです。
原子力への回帰
自給率が注目すべき指標だとすれば、原子力こそ、日本がその数字を大きく動かせる領域のはずです。
福島の事故以前、原子力は日本の電力のおよそ3割を供給し、石油危機以降では最も高いエネルギー自給率を下支えしていました。2011年の停止はそれをほぼ一夜にして覆しました。最も安定していたはずのエネルギー安全保障は、一転して先進国で最も脆弱な部類へと転落しました。いま進んでいる再稼働は、新しい賭けというより、かつて日本が占めていた立ち位置を取り戻す試みです。
その再稼働は、着実に進んでいます。15基の原子炉が福島後の厳しい規制審査をくぐり抜けて運転を再開し、日本は31ギガワット超の稼働可能なゼロカーボン電源を確保しました。さらに10基あまりが再稼働に向けた手続きを進めています。
2040年計画では、原子力は電源構成の20%に戻ります。原子炉用の鋼材も原子炉の知的財産も大部分が国内にあり、しかもウランはLNGと違って備蓄が利きます。
とはいえ、再稼働で解けるのは、安全保障という課題の半分でしかありません。残りの半分は燃料です。ここでも日本は、ごく限られた外国の供給者に頼っています。日本は原子炉の燃料となる濃縮ウランはほぼ全量を輸入していますが、ウクライナ侵攻後はロシアからの調達を完全に断ちました。
世界の構図は、厳しいものです。かつて世界のウラン濃縮能力の約86%を担っていた米国は、2013年に米企業が運営する国内最後のウラン濃縮工場を閉鎖しました。その結果、ロシアが世界供給の半分近くを握り、中国が急速に規模を拡大しています。エネルギー主権をもたらすはずの燃料が、日本には制御できないサプライチェーンに委ねられているのです。これは、1941年と1970年代の危機をもたらしたのと同じ弱点です。
このギャップを埋めるために作られたのがGeneral Matterであり、私たちが同社に投資した理由でもあります。創業者のスコット・ノーランはSpaceX出身で、Founders Fundに10年以上在籍した後、2023年に同社を立ち上げました。米国が最後にこの燃料を作っていたケンタッキー州のまさにその場所で、米国のウラン濃縮体制を再建しようとしています。
日本にとって重要なのは、東京で発表された、米国輸出入銀行(EXIM)による24億ドルのLOI(融資関心表明)です。今後10年にわたり、日本の電力会社が米国製の濃縮ウランを購入するための資金を支えるものです。核燃料は、融資のつく同盟国間のサプライチェーンへと姿を変え始めています。そして日米のエネルギー同盟は、それを軸に固まりつつあります。
ピーター・ティールも同社の取締役に就任しました。ティール氏が取締役会に加わることは、めったにありません。この話は、寿司をつまみながらスコット本人と語り合った当社のポッドキャスト「Omakase」でも掘り下げています。
太陽をつくる
長期戦の本命は核融合です。そして、この分野における日本のポジションは、政策の偶然が生んだものではありません。核分裂の時代を支えたのと同じ産業基盤の延長線上にあります。
核融合プラントは、その大部分が精密製造の問題です。そして日本は、その難しい部品の多くをすでに作っています。古河電気工業は高温超電導線材を、三菱重工業は真空容器と核融合炉用マグネットを、東芝は超電導コイルと重電システムを手がけています。日本がすぐに動けるのは、必要な部品が国内にそろっているからです。

その先頭を走るのが、私たちの投資先である京都フュージョニアリングです。同社は、自ら炉の建設を競って一つの物理方式に賭けるのではなく、どの設計が勝っても必要になるハードウェアを売る戦略をとっています。プラズマ加熱用のジャイロトロンは業界最高水準で、すでに英国の核融合スタートアップTokamak Energy、英国原子力公社(UKAEA)、米エネルギー省が資金を出す(General Atomics社の)核融合実験装置DIII-Dへの納入実績があります。
さらに同社は、商用核融合で最も難しい未解決問題である、トリチウム増殖ブランケット(燃料となるトリチウムを炉の中で作り出す装置)にも取り組んでいます。こうして京都フュージョニアリングは、どの方式の陣営にも売ることで今から収益を上げつつ、将来的にどの方式がモノになっても、そこに張っておける会社となっています。
自給率という数字を追いかける
日本の電力網に載せうるあらゆる選択肢を、コスト、スピード、安全性、自給率の4軸で採点するトレードオフ・マトリクスにかけてみます。すると、自給率のスコアが最も高い技術ほど、その裏側に最も有望なビジネスが潜んでいることがわかります。原子力の再稼働とその背後にある燃料チェーン、ペロブスカイト、地熱、蓄電池、そして核融合部品です。
ある技術を「自給できる技術」にしている要因は、ヨウ素のような希少な国内資源であれ、自前の知的財産であれ、サプライチェーン上の優位であれ、多くの場合、その企業に価格決定力を与え、政策の追い風を呼び込む要因と同じです。逆にこのテストに落ちる選択肢、つまり新設の石炭火力、石油、輸入バイオマス、そして輸入アンモニアの混焼は、日本を外国の燃料や外国の設備に縛りつけます。そして同じ理由で、ビジネスとしても弱いのです。

心強いのは、資金がすでにコミットされていることです。今後10年間で、官民あわせておよそ150兆円(約9,250億ドル)に上ります。
自給率こそがゴールです。エネルギーの大半を輸入に頼るこの国で、投資する価値のある企業とは、その輸入依存を縮める企業です。それ以外はすべて、依存先を移し替えているにすぎません。
