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専用機から汎用ハードへ、ロボティクスでも差別化はソフトウェア:投資判断の舞台裏(5)

こんにちは、Coral Capitalパートナー兼編集長の西村です。Coral Capitalの投資判断の裏側をお伝えする「投資判断の舞台裏シリーズ」の第5回です。今回はロボティクス領域のスタートアップ、GITAIConnected Roboticsの2社です。両社ともハードウェア系スタートアップですが、共通するのがソフトウェアこそが差別化の源泉、というアプローチです。

これは、1990年代にワープロ専用機がパソコン(上のワープロソフト)に、2000年代に各社のケータイ電話が汎用のAndroid機に、2010年代にカメラ専用機がスマホに取って代わられたことと似ています。このまま行けばカーナビ専用機もAndroidに取って代わられる予感が多くの人にあるのではないでしょうか?

多くのデバイスやツールは、専用機としてスタートして汎用機に取って代わられる流れがあります。ロボット領域でも、ハードウェアはなるべく既存の市販製品を汎用デバイスとして使い、ソフトウェアで実用を目指すというのが、GITAIとConnected Roboticsです。

ヒト型の半遠隔・半自律ロボットのGITAI

GITAIは、作業者がVRゴーグルとパワーグローブをつけて、遠く離れた場所にあるヒト型の遠隔操作ロボットに乗り移ったかのように操作することができるソリューションを開発するスタートアップです。GITAIは遠隔操作からスタートしていますが、現在のGITAIは自律化を進めており、半自律ロボットとなっています。以下の動画は宇宙ステーション内で人間(宇宙飛行士)に代わって作業をすることを想定したデモの様子です。

かなり複雑な操作ができるGITAIですが、創業まもない2017年のGITAIに出資したCoral Capital創業パートナーの澤山陽平は、創業者の中ノ瀬翔さんと出会った頃のことには、まだオモチャのようにも見えたと振り返ります。

「初代や2代目のGITAIのプロトタイプは、キャタピラにカメラを載せただけの一見オモチャみたいに見えるものだったかもしれません。ただ、MR(Mixed Reality)で何か面白いことをやっている人がいるな、と体験させてもらったんです」

以下が、その当時のGITAI初期のプロトタイプです。

2016年にGITAIを設立した中ノ瀬さんは、もともとIBMに勤務していたものの、エンジニアではありませんでした。それでも当時から、もくもくとプロトタイプをつくり、視点をつけてロボットが動き回るというコンセプトや、グローブを付けて遠隔操作でロボットの手を動かせるようにするという改善を繰り返していたといいます。遠隔操作をスムーズにするために通信プロトコルを独自に開発していたことが決め手となって、澤山は投資の意思決定をしています。

「もともと私自身が、VRミニ四駆というプロジェクトを友人と3人でやっていたんですね。ミニ四駆に搭載したカメラをVR越しに見ることで、足元の小さなレース場を、実際にミニカーに乗って疾走しているような感覚になるガジェットです。その経験から、視点、サイズ感、距離を超えて仮想空間に入るという点にもVRの可能性があることは、すぐにピンと来たんです」(澤山)

以下が澤山が展示していたVRミニ四駆の動画です。

https://www.youtube.com/watch?v=f2s729dTQAY

GITAIは2019年8月にシリーズAで約4億5000万円の資金調達を発表。現在のプロトタイプは6号機となっています。宇宙ステーションでの作業を、宇宙飛行士から地上からの遠隔操作によるロボットに置き換えるという応用を目指してJAXAと共同で実証実験に取り組んでいます。

「投資時にはビジネス応用が見えているわけではありませんでした。ただ、ハードウェアだけに集中するのではなく、独自プロトコルをつくるなど通信領域の強みにフォーカスするという戦略が明確だったんです」(澤山)

テレイグジスタンスのソリューションをハードウェアで実現しようと思っても、大手企業の競合には資金や開発力で勝つのは難しい。それより、巨大なゲーム市場を背景に急速に立ち上がるVRデバイスを流用し、コモディティー化するハードウェアを前提にビジネスを構想するほうが合理的な戦略。そうした考えから、投資の意思決定に至ったと澤山は話します。

「ロボットですら、専用機から汎用機、ハードウェアからソフトウェアという流れが来る」(澤山)というのが大きなトレンドの読みです。

「汎用ハード」でフードビジネスを変革

たこ焼きロボット「OctoChef」などを多様な調理ロボットを提供するConnected Roboticsは、汎用多関節ロボットで「ちょっと、たこ焼きを焼いてみるか」と創業者の沢登哲也さんらが2017年4月に行われたStartup Weekend Tokyo Roboticsで優勝したことがきっかけとして始まったスタートアップです。優勝で勢いに乗り、8月にはMaker Faire Tokyoに出展。同じ展示会に出展していた澤山が沢登さんと知り合ったことがきっかけとなり、翌年1月には私たち500 Startups Japan(現Coral Capital)を含む複数VC、投資家から6300万円を資金調達。2019年7月には8.5億円のシリーズA調達も終えています。

たこ焼きをひっくり返すロボット、というと展示のための展示のようなイロモノ的なノリも感じるかもしれません。実際、展示は大人にも子どもにも大人気だったと言います。ただ、2017年に出資を決めたCoral Capital創業パートナーの澤山は、Connected Roboticsには最初から「ロボットで調理を変革する」という明確なビジョンがあった、と振り返ります。

「沢登さんが飲食店を経営していた経験があったりロボコンで優勝するなど、チームや技術がしっかりしていたこと、それから課題も明確だったこと、そしてある意味で『ロボットに期待しすぎていない』ことを面白いと思い、出資を決めました」(澤山)

ビジネスを始めてみると、外食産業など飲食店の労働力不足の状況があるなかで、ホテルチェーンやコンビニチェーン大手など引き合いが多いことが、徐々に分かってきました。そして現在では、たこ焼きだけでなく、ソフトクリーム、コンビニのフライヤー(唐揚げ)、朝食(コーヒー、トースト、目玉焼きなど)、食器洗いと製品ラインアップを広げています。

チームの技術力と課題が明確だったことに加えて、汎用ロボットの性能向上と価格下落のトレンドも投資の意思決定の背後にありました。例えば、ユニバーサルロボットが提供するURシリーズは、機械加工、製薬、自動車などの製造業で幅広く使われていて、トレーニングコースや教材まで提供されています。

人間がいる場所で作業補助に使える「協働ロボット」は、すでに市販されています。そうした汎用ハードウェアの一部、例えば手の部分だけを変更すれば、ほぼそのまま使えます。同じ調理ロボットでも、寿司を巻く専用機械のように、特定業務用のハードウェアを開発するのではなく、汎用ハードウェアを使っているのがポイントです。このため、すでに1台あたりの原価をスタッフ1人の1年の人件費程度にまで抑えることが可能になっています。

もう1つ、ビジネスとして見たときのポイントは、全ての調理工程をロボットに置き換えようという話ではないことでした。

「近年ディープラーニングを始めとする技術革新により、調理現場でロボットができることが増えたとはいえ、依然として難しい動作もあります。例えば、タコを一定のサイズに切りそろえるといった作業はロボットには難しいんです。タコは柔らかく、その形は様々ですから」(澤山)

Connected RoboticsのOctChefは、全ての工程を自動化するのではなく、人間が得意な工程は人間がやり、ロボットが得意な工程はロボットが行うという発想で作られています。

「ロボコンで優勝するようなエンジニア社長なのに、『調理ロボットを作る』ということを目標にするのではなく、『ロボットで調理を変革する』という発想を持てていること。これが起業家として重要な要素だと思ったのです」(澤山)

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Partner @ Coral Capital

Ken Nishimura

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