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メールタイトルに「取材希望」はあり?― 続・スタートアップ広報入門(1)

Coral Capitalでは2020年1月にスタートアップ向けの広報戦略の概論として、日本パブリックリレーションズ協会 広報委員会 副委員長の日比谷尚武さんに、各成長ステージごとの指針や施策、注意点をお聞きしました(「成長スタートアップの広報戦略、いつ何をすべきか?」)。その続編として、より詳しく具体的な「スタートアップの広報戦略」を日比谷さんにお聞きしました。

続編は2回に分けて掲載します。まず前編はプレスリリースをテーマとし(本記事)、後編は「広報戦略と体制の作り方」をテーマにします。スタートアップは、もともとリソースが限られていたり広報経験者不在など日々悩みながら取り組みを進めるものだと思います。このミニ連載が創業チームの皆さんのお役に立つことを願っています。
日比谷尚武(ひびや・なおたけ):「人と情報をつなぐことで、社会を変える主役を増やす」コネクタ。学生時代よりフリーランスとして活動し、その後NTTグループ、株式会社KBMJ取締役を経て、2009年にSansan株式会社に参画。現在はSansanコネクタ/Eightエバンジェリストとして社外への情報発信を行うほか、一般社団法人Public Meets Innovation理事、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会 広報委員、一般社団法人 at Will Work 理事、Project30エバンジェリスト、株式会社PR Tableエバンジェリスト、ロックバーの経営など幅広く活動中。

メールに「取材希望」と書くべきか?

広報の方から、「何を書けばよいのでしょうか?」「年間に何本くらいリリースを打つべきですか?」「そもそもプレスリリースは意味ありますか?」などの質問を良く受けます。プレスリリースの本来の役割を理解すれば、これらの疑問の解決の糸口が見つかるでしょう。

プレスリリースは記者に情報を届けるための手段です。これはメディアの形態が変化しても、一貫して変わらない機能です。ただ、メディアの形が変わりつつある今「プレスリリースの届け方」は以前と異なる工夫が必要です。

インターネットが浸透する前は、手紙やファクスでプレスリリースを各媒体に送っていました。徐々にその手段がメールに移行し、今ではMessengerやLINEなどで送る場合もあります。以前と変わらずファクスで送る会社もあれば、メッセンジャーなどで記者に直接送りつける人もいます。記者側から見ると、様々な手法で多方向からプレスリリースが送られてきているのが現状です。

こうした状況で取材してもらうためには何をすべきなのか?ここから答えが少しずつ見えてきますよね。

プレスリリースの送信については「受け取り手(記者)の気持ちを考えること」。これに尽きます。プレスリリースの肝は、メディアとの関係構築だからです。記者さん一人ひとりの個性もあるので、プレスリリースを送る記者さんの嗜好をよく知った上で、送り方や書き方を工夫しましょう。

  • どの連絡方法が良いのか
  • 情報量(詳しく書くか、概要を簡単にまとめて送るか)
  • 企画の提案も絡めて送るか
  • メールのタイトルはどうするか

これらの事項について記者の方ごとの嗜好を把握しておくと、届きやすくなります。

例えば、企画の提案を絡めたリリースを送るとしても、企画の提案を喜ぶ人と嫌がる人に分かれます。また、メールの送り方でも、メールのタイトルに【取材希望】と書いてほしい方もいる一方で、書いたら嫌がる方もいます。

記者の方のメールボックスには、毎日のように山のようなリリースが送られてきます。つまり、基本は気づかれないと思った方が良いです。その状況を考えれば、記者とあらかじめ関係構築をしておくことや、相手にとって良い伝え方を確認して工夫を凝らすことが必要なのです。

とは言いつつも、「リリースを送るのはひとつのメディアだけ」ということは基本的にありません。通常は複数のメディアの方とコミュニケーションを取ることになります。そのときの負担を減らすためにも、プレスリリースというパッケージをうまく活用するのです。

メディア選定の具体的なやり方

前回お伝えした「コミュニケーションの設計」に沿って考えましょう。初めにターゲットを決めます。ターゲット像が見えてくると、メディアの選定はスムーズにいきます。メディアが決まれば、記者の選定につながります。

コミュニケーションの設計において考える順番

まずは、ターゲットから逆算して考えましょう。手順は以下の通りです。

  1. ターゲットが見ているメディアを選定する
    1. ターゲットに直接聞く
    2. 競合・類似企業の露出メディアをチェックする
    3. 同業他社や記者に教わる
      などの方法でメディアを選定する。
  2. ターゲットが注目しているであろうコーナーを探す
    注目されている連載やコーナーなどをピックアップする
  3. リリースを送る記者を選定する
    記者にも、それぞれが追っている「トピック」がある。自社が取り扱う分野・業界に興味を持ってくれるような記者を探す

記者の選定が完了したら、記者とコミュニケーションをとる上で知っておくべき趣味嗜好や記者の所属媒体の編集部の事情などを調べます。それらの情報を集めた上で、情報の届け方を工夫しましょう。

初めてのリリースを出して、そこでせっかく一度記事を書いてもらったのに、そこで記者との関係が途絶えてしまうという広報担当者も少なくありません。記事が出て終わるのではなく、今後も繋がりを持てるように関係性をつくっておくことが重要です。

記者と関係があまり構築できていない会社からリリースが来ても「このメールの送り主は誰だ? 会社は面白そうだけど……、わざわざ連絡するまではしなくてよいか」となることもあります。関係を構築していないと、掴めるはずだったチャンスも逃してしまいかねないのです。

メディアを選定して、記者との関係を構築すること。これこそが広報として大事な仕事です。プレスリリースはあくまで流れの一部です。記者との関係構築の中で、適切なタイミングで、プレスリリースを介してコミュニケーションを取っていくというイメージですね。

プレスリリースを出すまでのスケジュールと流れ

一般的には、情報を社会に公開する1か月前から準備を始めます。リリースを配信するまでの基本的な流れは以下の通りです。

プレスリリース配信の基本的な流れ

1か月前から、

  • コミュニケーション設計の確認
  • 伝えたい情報を整理して、リリースの本文を考える
  • 必ず取り上げてほしい媒体の記者に個別に連絡する

などをやっておくとよいでしょう。

新サービスの公開や資金調達、上場するときなど会社のフェーズが切り替わるタイミングでは、インタビュー企画などと抱き合わせで情報公開することもあります。そのような場合のメディアへのアプローチには、時間がかかるため1か月前から準備しておくと余裕を持って情報公開の企画を出すことができます。

再現性があるかというと難しい話かもしれませんが、メルカリの広報戦略はわかりやすい事例です。企業が大きく変化するタイミングで必ず社長インタビューが出ていますよね。社長インタビューを仕込むタイミングなどは、参考にしてみても良いと思います。

プレスリリースメッセージ策定

プレスリリースの作成においては、いま発信したいことをヒトコトで言えるようにしましょう。「今」発信したいことのキーメッセージを毎度決めねばなりません。コアメッセージが完成してから、そのメッセージを「誰に」伝えたいのかが決まります。

プレスリリース作成のポイントは以下のようになります。キーメッセージを軸に、これらの事項を盛り込みながら本文を作成していくとスムーズにいきます。

ちなみに、キーメッセージはタイミングによって変えても構いません。企業の成長フェーズによって外部環境は変わりますし、社外メッセージも変えていかなければ市場に合わない発信になる危険性もありますからね。

プレスリリース作成のポイント

加えて、メッセージとコンテンツの繋ぎこみには徹底的に配慮が必要です。メディア露出する切り口は無数にあります。ただ、メディアに露出させている事実を通して何を伝えたいのかをはっきりさせておきましょう。

例えば、「古民家をリノベーションして郊外オフィスを作った」というリリースがあるとします。その珍しさだけを伝えるのではなく、この事実を通して、会社の思想を社会に伝えるわけです。「郊外の古民家で作業できる環境を整備することで、企業として新しい働き方に挑戦し、柔軟性のあるアイディアを生み出せるようにしたいと思っています」というメッセージまで届けることが大事なのです。

企業のコアとなるキーメッセージさえあれば、どんな切り口でメディアに出ても問題ないです。それらの公開情報の蓄積は会社のイメージとして資産になるので、キーメッセージの統一は徹底しましょう。

まとめ

今回は、プレスリリースを中心に話しました。プレスリリースは、あくまでメディアに情報を届ける手段のひとつです。企業から情報をターゲットに効率よく届けるために、メディア露出を狙う方法です。

準備した情報を取り上げてもらうためにも関係構築の積み重ねが最も重要です。プレスリリースを介して、定期的に記者などと連絡をとることで、関係値も徐々に積み上げられてきます。

広報活動をする方には、広報のハウツーをまとめた「PR手帳」という冊子をおすすめしています。PR協会が出版していて、リリース作成のポイントや広報活動における基本的な流れがまとまっています。広報についてもっと詳しく勉強してみたい方は、ぜひ読んでみてください。

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次回は、広報戦略の策定から組織づくりまで、お話します

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Editorial Team / 編集部

Coral Capital

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