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「コロナで10年進んだ」オンライン診療、収束後の日本はどう変わる? キーマンに聞いた

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、ビデオチャットを活用したオンライン診療の注目が高まっています。4月には政府が規制を緩和し、感染が収束するまでの時限的な特例として、初診でもオンライン診療が可能になりました。

環境が一気に整ってきたオンライン診療ですが、アフターコロナでどのように変わっていくのでしょうか。Coral Capitalが5月15日に開催した記者向け勉強会「Coral Seminars」で、オンライン診療を手がける2社のキーマンに語ってもらいました。

登壇してくれたのは、医療機関向けにオンライン診療システムを提供する「メドレー」執行役員の田中大介さんと、LINEで医師と相談できるサービスを手がける「LINEヘルスケア」代表取締役社長の室山真一郎さん。聞き手はCoral Capital創業パートナーのジェームズ・ライニーが務めました。

オンライン診療の規制緩和「10年ぐらい歴史が進んだ」

日本ではオンライン診療の解禁をめぐり、長年の議論が重ねられてきました。1997年には離島やへき地を前提に認められ、2015年には一般診療での利用が事実上の解禁。2018年4月の診療報酬改定では保険適用が認められましたが、初診は原則として対面診療とする制限や、保険適用の疾患が限られていたため、保険診療でオンライン診療を実施する医療機関は全体の1%程度にとどまっていました。

しかし今年4月10日、新型コロナウイルスが収束するまでの時限措置として、初診でのオンライン診療を解禁。一時的ではあるものの、オンライン診療の規制が大きく緩和されました。この動きについてLINEヘルスケアの室山さんは「タイムマシンに乗った感じ」、メドレーの田中さんは「10年ぐらい歴史が進んだ」と表現します。

初診でのオンライン診療を可能とする特例措置が始まってから、LINEヘルスケアでは患者から医師への相談件数が4月だけで10万件を超えるペースで増加、メドレーも同社が手がける医療SaaSプラットフォーム「CLINICS」への問い合わせが急増したそうです。

医療機関からのニーズが高まっている背景には、新型コロナの影響で「オンライン診療」が周知されたことで患者側からの要望が増えたことに加え、外出自粛を受けて外来が減っている医療機関の事情もあると、田中さんは指摘します。

「患者さんが対面で会うのを怖がったり、物理的に来られない事情もあるので、患者数が半分以下になっている病院もあります。そうした状況下でも、患者さんに適切に医療を提供するチャネルを用意しなければならないということで、診療所からの引き合いやお問い合わせが増えています」

オンライン診療は定着するのか?

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、オンライン診療をとりまく環境は大きく変わりましたが、アフターコロナの世界では「外来」「往診」「入院」という従来の医療行為に「オンライン診療」が加わるのが当たり前になってくると、田中さんは予測します。

その一方、オンライン診療は従来の医療形態を置き換えるものではないとも指摘。オンラインで対応できる診療が増えるのかという質問には「診療科によって大きく変わる」と答えました。「例えば精神科やカウンセリングといった内容であれば大部分をオンラインで置き換えられるかもしれませんが、対面での検査が必要な眼科や整形外科では難しいと思います」

田中さんによれば、メドレーを導入する都内のとある内科クリニックは、オンライン診療の比率が全体の診療の2割を超えているそうです。この数字はコロナ状況下であることから上振れしているものの、コロナ収束後も「初診は対面原則のほうがよいと思うが、診療の2割弱はオンライン診療に代替可能なのではないか」との見方を示しました。

LINEヘルスケアの室山さんは、対面とオンラインの診療は補完し合うことになると言います。「オンラインかオフラインの構造でとらえると敵対勢力みたいな議論になってしまいますが、我々としてはオンラインの限界もあると思っています。手術においてもロボットの活用で医師の技術を拡張できる事があるように、診療もオンラインで拡張できれば、より良い世界になるはず」

アフターコロナでオンライン診療はどう変わる?

それでは、オンライン医療を取り巻く環境は、アフターコロナでどのように変わっていくのでしょうか?

今後、どのような場面でオンライン診療が使われていくのかという質問に対して、LINEヘルスケアの室山さんは「テクノロジーが進歩することで、オフラインでしかできないと思っていたことが、オンラインでできることも増えてくる」と回答。その具体例として、デジタル聴診器や心拍数を計測できるApple Watchのような機器が出てきたことで、「ますますオンラインでの診断をテクノロジーがサポートする事が可能になる」と話しました。

「もっとわかりやすい例でいうと、病院と薬局の関係も変わるかもしれません。今は門前薬局といって、病院の近くにある薬局で薬を受け取っていますが、オンライン診療で病院に行かなくなると、薬の処方のあり方も変わってきます。処方箋や服薬指導をどうするかという点について関連法規やガイドラインの改正が必要ではありますが、コロナを受けて規制緩和の動きも出ています。こういった動きは今後進んでいくと思います」

Coral Capitalがこのイベントを開催した時点では明らかになっていませんでしたが、日本経済新聞は5月21日、LINEが今年の夏をめどにオンライン診療に参入すると報道。これまではLINE上で医師に健康相談をするサービスを提供していましたが、今後はビデオ通話で医師が患者を遠隔診断する専用アプリを立ち上げると報じています。

5月19日に開かれた国家戦略特別区域諮問会議では、安倍晋三首相がコロナ収束後もオンライン診療の活用を進めるよう指示。オンライン診療が医療の現場に定着すべき措置について、年内を目途に検討することとなりました。

新型コロナウイルス感染拡大で「10年進んだ」オンライン診療は、収束後に一時的な規制緩和の再調整はありつつも、定着していくことが予想されます。

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Editorial Team / 編集部

Coral Capital

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