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良いVC、悪いVC

本ブログはベルリンのベンチャーキャピタルPoint Nine Capitalでパートナーを務める、クリストフ・ヤンス(Christoph Janz)氏のブログ「The Angel VC」の投稿、「Good VCs, bad VCs」を翻訳したものです。記事は2014年のもので、抄訳となっています。


Ben Horowitzの素晴らしい投稿「良いプロダクトマネージャー、悪いプロダクトマネージャー」と、Stefan Smallaの秀逸な記事「良いリーダー、悪いリーダー」に触発され、今回私は良いベンチャーキャピタルの特徴をまとめることにしました。貴重なフィードバックをくれたPoint Nine Capitalの同僚たちに感謝しています。特にMicheal、Mathias、Rodrigoはこの記事のドラフトを読んで、素晴らしいコメントをたくさんくれました。

この記事は、現時点における私たちの考えをまとめたものです。今後、考えが変わる可能性がありますし、まだ完成していない部分もあります。この記事について他のVCや起業家からのフィードバックや意見を歓迎します。

私たちは、この記事で説明しているような理想的なVC像を必ずしも体現できていないことを十分認識しています。これについてはStefan Smallaがリーダーシップの記事のコメントに対して述べている通りだと思います。「この投稿で説明した要素をすべてあわせ持つ人はいないでしょう。ですが、これを目標に一歩ずつ進むのは素晴らしいことだと思います」

良いVCは、投資先企業をできる限りサポートします

良いVCは、投資先企業の価値を高めます

良いVCは投資先企業のために、1日24時間365日、対応しようとします。彼らは投資先企業の創業メンバーのために自ら袖をまくって対応します。自分たちのソーシャルキャピタルを利用したり、飛行機に乗って行動を起こしたり、できる限りのことをしてくれるでしょう。良いVCは、ときにリクルーター、ときにベータテスター、ときに個人的なメンター役を引き受け、自ら手を動かすことを厭いません。スケールしない? スケールなんていいんです。創業メンバーがトラブル解決に奔走して助けを求めている状況では、良いVCなら、自分たちのビジネスモデルに照らし合わせて、この支援がスケールするかどうかなんて考えたりしないものです。

良いVCは、創業メンバーから要請があるときだけ動くわけではありません。彼女は投資先企業が直面している問題を把握していて、いつでも能動的に解決策を探しています。

良いVCは、投資先企業の創業メンバーが担当パートナーだけでなく、VCに所属するパートナー全員と話せる体制を作ります。

また、良いVCは、自分一人でできる支援には限界があることを理解しているので、周りの人が持っている知見や専門知識をうまく活用できる仕組みを作ろうとします。たとえば、オンラインやオフラインの様々なフォーラムを通じ、投資先企業の創業メンバー同士で知識を共有できるようにするといったことです。

悪いVCは、交渉の段階ではあれこれ約束をしますが、投資後は期待を下回るサービスしか提供できません。

「私たちは自分たちのことをサービス提供企業であると考え、自分たちの評判とブランドを高めようと日々努力しています。私たちは投資先企業に価値を与える存在と認められ、投資先企業の役員の中でも、実行力のあるメンバーとして創業メンバーの信頼を得るための努力を惜しみません。信頼と評判が得られるよう日々奮闘しているのです」

Bill Gurley
Benchmark Capitalのジェネラル・パートナー

良いVCは謙虚であり、でしゃばらない

良いVCは、創業メンバーとVCの間には、投資先企業のビジネスに関して知っている情報に大きな差があることを認識しています。創業メンバーには何千時間も自社の業界やユーザーと接して得た経験があり、一緒に働いているチームメンバーのこともよくわかっています。VCが投資先企業について知っている情報は表面的なものが多く、VCの思いつくアイデアは、創業メンバーがすでに検討したものがほとんどでしょう。良いVCはそれを理解し、創業メンバーに適切な情報やアドバイス、異なる視点からの意見を提供できたとしても、創業メンバーを細かく管理したり、代わりに意思決定したりすべきではないことを心得ています。

また、良いVCは、創業メンバーにとって投資家対応は負担であることを理解しています。良いVCは創業メンバーとの距離を縮めて価値を提供するのと、創業メンバーの邪魔にならないよう距離を取る、適切なバランスを意識して行動します。

悪いVCは、自分の洞察力を過大評価しているため、創業メンバーを細かく管理をしたり、コントロールしようとしたりします。こうした投資家への対応は創業メンバーにとって大きな負担になります。

良いVCは、1業界につき1社に大きく投資し、投資先企業同士の対立を避けます

良いVCは、直接競合する会社に複数投資することはありません。

悪いVCは、1社に大きく投資し、その会社に十分に目をかけサポートするのではなく、自社のリスクヘッジのため、同じ分野の企業に複数投資します。

良いVCは、自分の取り分だけ最大化するのではなく、全体のシェアを最大化しようとします

同じ調達ラウンドや後のラウンドで、投資先企業が他の投資家にも出資してもらうことを検討している場合、良いVCは、創業メンバーが素晴らしい投資家を誘致する手助けをします。良いVCはこうした活動を積極的に行うでしょう。良いVCは、投資先企業との相性が良く、企業にとってプラスになるVCを見つけたら、そのVCを共同投資家としてラウンドに加えることを創業メンバーに提案します。

悪いVCは、共同投資するVCが増えると、自分たちの投資先企業における株式のシェアが少なくなることを嫌がります。悪いVCは、投資先企業にとって最善のことをするのではなく、自分たちの取り分を最大化しようと、創業メンバーを他の投資家と関わらせないようにしようとします。

良いVCは投資先企業に対し、立場を悪用するようなことはありません

良いVCは、シンプルなタームシートを使います。良いVCは強く交渉しても、創業メンバーが損をするような分かりにくい条項をこっそり入れ、相手を陥れようとはしません。良いVCは、契約内容をできるだけシンプルにしようとします。この業界では、最高の成果が得られたときだけ大きなリターンを得られるのであって、あらゆる失敗を想定して自分たちを守ろうとすることにはあまり意味がないことを理解しているからです。

VCは長年の関係性の中で、投資先企業より強い立場になることがありますが、良いVCはそうした場合でも、自分たちの優位な立場を濫用することはありません。

悪いVCはタームシートの交渉をする際、起きる可能性の低い、ありとあらゆるシナリオを想定して、それらに対処する条項を契約内容に盛り込もうとします。そのため締結までに多くの時間(と法的費用)がかかります。さらには一般的ではない、わかりづらく不公平な条件を入れ、創業メンバーに不利な契約を押し付けようとすることもあります。

また、悪いVCは、資金が残り少なくなった投資先企業のつなぎ融資を引き受けるときなど、自分たちが投資先企業より強い立場になると、さらに自分たちにとって有利な状況にするために立場を悪用します。

良いVCは、どの起業家に対しても最大限の敬意を持って接します

良いVCは、創業メンバーの時間を尊重して接します

良いVCは、創業メンバーとのミーティングをリスケすることがほとんどなく、いつも時間を守って行動します。ミーティング中、スマホはポケットに入れたままです。

悪いVCは、創業メンバーとのミーティングを頻繁にリスケします。それも土壇場で変更を求めるのです。やっとのことでミーティングを開催することになっても、開始時刻に遅れてきます。ミーティング中は、飽きるとすぐにスマホでメール(またはFacebookのフィード)を見始めます。

「時間通りに来ない人には1分10ドルの罰金を科します。これは起業家としての経験が元になっています。起業家の肩には会社の生死がかかっています。一生懸命働いている彼らにとって、VCのオフィスのロビーに座っている時間ほど無駄なことはないのです」

Ben Horowitz
Andressen Horowitzのジェネラル・パートナー

良いVCは、投資を見送るときもプロらしく対応する

良いVCは、少なくとも99%の投資案件を見送らなければならないことを理解しているため、創業メンバーにすぐ返事ができるチーム体制と投資判断のプロセスを確立しています。また、投資を見送った企業には、その理由を説明しようとします。時間が足りない中、すべてのケースで、詳細なフィードバックをするのは不可能に近いですが、できる限りのことをします。

悪いVCは、スタートアップからの問い合わせに返信するのが非常に遅いです。返事がないこともしばしばあります。また、投資を見送る際、起業家にとって有益なフィードバックをしようとしません。悪いVCは、選択肢を残しておくために投資判断を先延ばしにすることがあります。

メモ:Point Nineにとって、理想と現実の差が最も大きいのはこの部分です。改善しようと努力していますが、月に200件もの投資案件を判断しなければならないので結構大変です。

良いVCは、投資すると決めたときだけタームシートにサインをする

良いVCは、投資すると決めたときだけタームシートにサインします。タームシートにサインをした後、デューデリジェンスで本当に悪いことが発覚しない限り、投資を行います。サイン後に投資を見送るほどの何かが発覚するのは非常に稀なことです。良いVCは、投資対象を評価する段階から透明性を保ち、自分たちの投資への関心度や契約までに必要な時間について創業メンバーに的確な情報を伝えようとします。

悪いVCは、投資すべきという確信がない段階でも、投資する選択肢を残しておくためにタームシートにサインすることがあります。また、契約の確度や契約までに必要な時間について、創業メンバーに誤解を与える対応をすることがしばしばあります。

良いVCは、LPの利益と自分たちの利益を同列に考えます

良いVCは管理報酬ではなくキャリーをインセンティブとします

良いVCは、管理報酬は低くし、キャリーを多くすることを目指しています。良いVCは、ファンドの管理報酬から自分たちに多額の給料を捻出するのではなく、その大部分を、良い投資を行うための活動や投資先企業を支援するための活動に使います(例えば、アソシエイトやアドバイザーをチームに加えたり、投資先企業にリソースを提供したりといったことです)。良いVCは、自分のファンドに自ら多額を出資し、GPコミットメント(1)を重荷とは思いません。

悪いVCは、LP(2)に多くの利益をもたらしていないのに、自分たちの利益は最大化しようとします。悪いVCは自分の給料を増やしつつも、GPコミットメントは最小限にしようとします。

(1) GPコミットメント:一般的にジェネラル・パートナーと呼ばれるファンドマネージャーが自社のファンドに出資すること。

(2) LPはリミテッド・パートナーの略で、VCのファンドに出資する人やファンドのこと。

良いVCは、特定の分野に注力し、勇気がありながらも謙虚です

良いVCは、特定のステージ、地域、業界における専門性があり、それに基づいて選んだいくつかの投資テーマに焦点を当てて活動します。

悪いVCは、すべてのステージ、地域、業界に幅広く投資しようとします。特定の分野で知識を深めるのではなく、すべてに手を広げようとするためそれぞれの分野に関しては浅い知識しかありません。そのため投資先企業に有効な支援ができず、良い投資先を見極めることもできません。

良いVCは勇気がある

良いVCは大胆な決断ができ、しっかり自分の意見を持っています。他の投資家の意見を尊重しますが、他の投資家が見送った企業に投資することも多くあります。良いVCは、自分たちの失敗や間違いを認めることを恐れません。

悪いVCは、FOMO(Fear Of Missing Out:取り残される不安)で動いています。悪いVCは専門知識や自分で考える勇気がありません。そのため他の投資家が同じ投資先企業への投資を検討してしていると知るとがぜん興味を示します。投資が失敗した場合、悪いVCは、その投資が成功であったかのように見せるPRストーリーを作ろうとします。

良いVCは謙虚です

良いVCは、投資は運とセレンディピティの要素を多く含んでいることを知っています。良いVCは、自分たちの価値を証明し続けなければならず、自分たちの評価は前回の投資の成否にかかっていることを知っています。良いVCは大きなエゴを持たず、聞き上手で、わからないことには「わからない」と言えます。

悪いVCは、幸運に恵まれて1、2度投資が成功すると、自分のことを天才と思い込みます。悪いVCはエゴが大きく、話している自分が大好きなので、取締役会を非効率的にする振る舞いをします。

良いVCは長期の関係を見据えて投資し、恩返しをする

良いVCは長期的な関係に投資します

良いVCは、何をするにも長期的な視点から考えて行動します。良いVCは、ドイツのことわざのように「人は人生で同じ人と2回会う」ことを知っているので、いつでもウィン・ウィンの関係を作ろうとします。

悪いVCは、長期的な関係や利益をないがしろにし、短期的な視点で他より有利な立場になることを考えます。

良いVCは、機密情報を守りながらも、知識を周りと共有します

良いVCは、テック業界はゼロサムではないことを知っているため、スタートアップや他の投資家と知識を積極的に共有します。

良いVCは、起業家が明示的に許可しない限り、自社以外の人にスタートアップのピッチ資料といった機密情報を見せることは絶対にありません。

悪いVCは、コミュニティーと知識を共有することには消極的で、スタートアップの機密情報を守ることに関しては意識が緩みがちです。

良いVCは、世界をより良い場所にしたいと考えています

良いVCは他者を気にかけ、経済的リターンが人生のすべてではないことを理解しています。クリーンテクノロジーへの投資、募金やコミュニティーのための活動など、形は違っても、良いVCは世界をより良い場所にしようという強い思いから行動します。良いVCは、投資で利益を得ても、その利益は自身が何十年も勤勉に仕事に取り組んだ成果であると同時に、良い環境で生まれ育ち、地球上にいる他の何十億もの人が恵まれなかった運が自分にあったからこそ得られたものである、ということを理解しています。

悪いVCは特権意識を強く持ち、貧しい人への思いやりが足りず、人生には投資の他にも大事なことがたくさんあるのを忘れています。

最後の項目ですが、他のと同じくらい重要なこと……。

良いVCは持続可能な晴らしいパフォーマンスを出します。

悪いVCにはそれはできません。

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Editorial Team / 編集部

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