核融合エネルギー業界のための技術的ソリューションを開発するスタートアップ、京都フュージョニアリングへ投資させていただいたことをご報告いたします。先週の金曜日に日経新聞の記事でも紹介されましたが、同社は核融合エネルギー研究の世界的第一人者である京都大学の小西教授が共同創業者として設立した企業です。
新型コロナウイルスによって多くの人々が影響を受ける中、このパンデミック以外のことに目を向けるのは難しいかもしれません。しかし、たとえ「不都合な真実」であっても、気候変動の脅威がかつてないほど差し迫っていることは紛れもない事実です。システミックな脅威が私たち人類に及ぼす影響について、今回のパンデミックは大きな教訓となりました。地球の反対側で起こったことが、世界全体に深刻な影響を及ぼす可能性があること。そして、サブプライム住宅ローン危機などの金融危機と違い、人間の感情だけの問題ではないことが明らかになりました。気候変動もパンデミックと同様に、世界全体を支える仕組みに対してリアルなインパクトを与えます。 市場センチメントを回復することで解決できるものではなく、実際に存在する根本的な問題に対処する以外に解決法はないのです。
幸いなことに、気候変動問題への取り組みは世界中で本格的に始まっていて、重要政策の1つとして掲げる国が年々増加しています。EUや日本、韓国を含む110か国以上の国が、2050年までにカーボンニュートラルを達成すると宣言しています。しかし、実際に達成できるかというと、極めて難しいと言わざるを得ません。世界のエネルギー需要は増える一方です。日本でも、2011年の東日本大震災をきっかけにカーボンフリーな原子力から石炭へと移行し、現在では石炭が電源構成のおよそ30%を占めています。2050年までの目標を達成するためには、新しいエネルギー源を見つけることが不可欠となるでしょう。
そのソリューションとなり得るのが、核融合です。核融合を実用化できれば、安全・安価・無制限にエネルギーを得られる未来が実現するかもしれません。核融合の燃料として必要な元素はどれもほぼ無尽蔵に得られる物質です。三重水素は、核融合の反応過程で自給自足的に生産されます。重水素は海水から抽出できるので、日本のような海に囲まれている国にとって特に利用しやすいでしょう。また、二酸化炭素を排出せず、核分裂を用いる現在の原子炉と違って、半減期の長い放射性廃棄物が発生することもありません。そして、最も大きなメリットは、核融合炉では福島のような原発事故が起こる危険性がないという点です。
まるでSFの世界にでも出てきそうなテクノロジーですが、近年、業界ではその技術の確立に向けて研究や投資などの動きが活発化しています。実際、核融合炉の開発のために世界中ですでに巨額の投資が実行されてきています。中でも、約2.5兆円と最も規模が大きく、長く続いているプロジェクトがITER(イーター)です。核融合炉を実現するために複数の国が共同で進めているプロジェクトで、2020年にフランスで組み立てを開始し、2025年の運用開始を目指しています。民間ベンチャーでも、主に5社の核融合炉開発プロジェクトに対して約2,000億円が投資されていて、そのうち2社はそれぞれJeff Bezos氏とBill Gates氏の支援を受けています。現時点で、世界全体で74機の試験的な核融合炉が存在し、加えて15機の開発が提案もしくは計画段階にあります。
1800年代のカリフォルニア・ゴールドラッシュでは、リーバイ・ストラウスが採掘者に対して、作業着用のジーンズを開発しました。航空業界が爆発的に成長した1900年代には、ロールス・ロイスが飛行機メーカーに向けて、ジェットエンジンを開発しました。そして核融合への投資が今後数十年にわたって活性化すると予想される今、京都フュージョニアリングは核融合を実現する企業や研究機関に向けて、必要とされるエンジニアリングやコンポーネントの開発を計画しています。最初のビジネスとして、まずは核融合炉の内壁に必要なブランケットという装置の開発・生産を同社は目指しています。ブランケットは、核融合炉の全体的な構造を劣化から保護し、さらにエネルギーを取り出す上でも欠かせない重要なコンポーネントです。
核融合分野で、日本は世界をリードする存在になれる可能性が高いと考えられます。これにはいくつもの根拠がありますが、まずは国内における必要性の高さがあげられます。日本はエネルギー自給率が他のOECD加盟国と比べて非常に低く、安全かつ自給自足的に無制限に得られるエネルギー源の確保は国として早急に取り組まなければならない課題の1つです。また、核融合に必要となる多くの技術において秀でている点でも日本は有利です。例えば、超伝導コイルは核融合炉を構成する重要なパーツですが、その製作には数ミリメートルのズレも許されない精密な技術力が必要とされます。この超電導コイルなどがまさに日本の職人技やものづくり力が発揮される分野の1つです。実際、ITERプロジェクトでも、日鉄エンジニアリングや三菱重工、三菱電機などが技術面で大きく貢献しています。日本には業界トップクラスの技術者が多く揃っているのです。
現在、脱炭素の実現に向けて世界中の国々が政策を掲げ、予算を投入する方向へ進んでいます。菅政権も、環境対策関連の開発資金として2兆円の基金を用意することを最近発表し、主要国として世界的な気候変動への取り組みに本格的に参入する姿勢を明らかにしました。核融合エネルギーの開発研究もこの基金の重要なターゲットの1つとして明確に盛り込まれています。
この流れに乗じて2020年代は核融合テクノロジー開発の勢いがさらに加速し、日本が世界を牽引するような中心的な活躍をし続けると私たちは考えています。そして京都フュージョニアリングは、核融合に欠かせない主要部品を提供することで、そんな未来の実現に貢献しようとしているのです。
p.s. 私のチームメンバーの Kiyoshi が核融合について素晴らしい記事を書いています。ご興味のある方は、ぜひこちらをご覧ください。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital