アメリカでは大統領選の本選投開票を11月8日に控え、芸能人によるキャンペーンやスキャンダル報道と日本でもその盛り上がりを感じることができます。その一方で、具体的な論点や自分自身への影響はいまだ把握できていないという方も多いのではないでしょうか。
>>参考記事:How Might A Trump Presidency Impact Silicon Valley?
>>参考記事:How Might A Clinton Presidency Affect Silicon Valley?
>>公約:Hillary Clinton’s Tech & Innovation agenda
税制度、移民政策がエコシステムに影響を及ぼす
数ある公約の中から、今回は直接的にスタートアップ界隈に影響し得る項目について、ピックアップしました。
両者ともにキャリードインタレストへの課税増
キャリードインタレスト(Carried Interest: ファンドの収益のうち、運用結果から決まる成功報酬`)への課税率を、両候補者共に増加させると公約で宣言しています。そのため、ベンチャーキャピタルは収益減が予想されるでしょう。トランプ氏の計画では、現在23.8%のキャリードインタレスト税率が、33%にまで上げるとしています。
ちなみに、個人の所得に対する課税はトランプ氏とクリントン氏で方針が異なります。トランプ氏は累進課税をより簡略化し、三段階で所得に応じ12%、25%、33%の税率(現在の最高税率は39.6%)で課税する方針です。また、年収2万5000ドル未満(もしくは夫婦で5万ドル未満)の場合には非課税にすると発表しました。
クリントン氏はバフェットルール(100万ドル以上の年収の人に対しては、30%の税率が有効とする、ウォーレン・バフェットの提案)を適応するとしています。
海外からの起業家への影響は両者で大きく異る
トランプ氏は、テロ対策の一貫として主にイスラム圏からの移民の入国制限を行うと公言しています。これにより、たとえ優秀な起業家でも該当地域にあたる国民であることで、アメリカで起業することが困難になる可能性があります。
一方でクリントン氏は、アメリカに雇用と機会をもたらすような、外国人起業家に対するビザの交付を支援する方針を明らかにしています。移民起業家へグリーンカードを交付する条件として、米国の投資家から資金調達をすること、および一定数以上の雇用があること、一定の業績水準を達成していることが必要となります。現在提供されているEB5ビザはクリントン氏が掲げているものと近いコンセプト・条件のものであり、特に目新しいものではないという意見もあります。しかし、このプログラムはもともと期限付きで施行され、延長を繰り返して今まで存続しています。恒久化を訴える声や、その反対に不正の温床だと指摘する意見もあり、アメリカ進出を考える日本の起業家は注目すべき論点でしょう。
>>EB5とは USCIS
>>EB5の最新動向については2016年9月に延長した際の、Forbesの記事をご覧になると良いでしょう
起業家以外にも、STEM分野(科学・技術・工学・数学)において一定以上の大学で博士号・修士号を取得した学生に対してもグリーンカードを与えるとしています。これにより、今まで以上に起業目的での渡航がしやすくなったり、現地の修士や博士過程の留学生を採用しやすくなると考えられます。
両者ともに中国へのIP保護を強化
特許やIPといった権利に対する政策
トランプ氏、クリントン氏共に、中国に対する知的財産保護の強化を行うとしています。トランプ氏は「2011 report by the International Trade Commission」のデータを引用し、これにより210万もの新たな雇用の創出、1070億ドルの売上増加を見込んでいると語りました。
クリントン氏はさらにパテント・トロール(Patent Troll:許権を保有し、その権利行使によって、大企業などからライセンス料や損害賠償金を獲得しようとする企業、組織、個人)による訴訟を回避するため、特許出願・審査・承認のプロセスを再構築し、迅速化することを目指しています。 また、特許商標庁(United States Patent and Trademark Office, USPTO)が特許出願を有料化できるようにすることで、この運営を行うとしています。
サイバーセキュリティと個人のプライバシー
クリントン氏は消費者のプライバシーという観点で、セキュリティの強化を訴えています。彼女はUSA Freedom Act(米国自由法)提唱者であり、デジタルセキュリティと暗号化に対する国家委員会の必要性を訴え、すべてのアメリカ人がプライバシーとセキュリティを守られるべきだと主張しています。
一方、トランプ氏はテロ対策の一貫として、Appleが顧客情報の暗号化・そしてその開示命令の拒否した際にボイコットを要求しました。しかし、暗号化に対する明確な声明はだしておらず、確実な意見は不明です。(同氏はいまだ110万~225万ドル分のAppleの株式を保有しています。)
規制による雇用の創出か、インフラ整備による成長の推進か
トランプ氏はアメリカ国内のハイテクメーカーが、コスト削減の目的で米国外のオフショア開発を徹底していることを指摘。具体的な政策は出していませんが、度々言及していることから、なんらかの動きがあると考えられます。
クリントン氏は5G WiFiの開発と、公共ネットワークとしての無料提供により、自動運転車やその他スマート産業の成長を後押しすると語っています。
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日本のスタートアップエコシステムは米国西海岸の影響を大きく受けています。今一度、両候補者の打ち出す政策や計画がどのようにスタートアップに貢献するのか(もしくは悪影響を及ぼすのか)に目を向けてみると、より大統領選への興味関心が深まるでしょう。
>>Discloser, 8/12/16: Walter Thompson left a message with the Trump campaign’s San Francisco office, but they did not respond. [Update, 8/14/16: Malcolm McGough, the Trump campaign’s California political director, contacted us after this was posted and confirmed that we stated the candidate’s views on these issues accurately.]
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Senior Associate @ Coral Capital