VCの仕事で最もキツいと感じることの1つが、断る・断られることです。実際のところ、仕事で相手から断られたり、逆に断らなければならなかったりすることは毎日のように起こります。起業家やVCとして何百億円も調達してきた経歴からは、そうは見えないかもしれません。しかし、華々しいプレスリリースで、自信にあふれた様子でCoralチームが語る成功の裏には、実は何百回も投資家から断られてきた背景があるのです。
最近クローズしたCoralの3号ファンドでも、ある投資家からは「規模を大きくしすぎだ」と言われ、また別の投資家からは逆に「まだ小さすぎる」と言われました。30億円の出資枠を条件として要求した投資家もいました。他の投資家とのやりとりを中断してまで、彼らの条件に寄せて交渉を粘ってみましたが、結局、最後の最後で出資を断られてしまいました。こういったことが、しょっちゅうあるのです。
起業家から断られることもあります。例えば、個人的に特に悔しかったのが、Andpadというスタートアップとの件です。その頃はまだCoral Capitalを立ち上げたばかりで、今ほどVCとしての力もなかったため、有望な起業家に選んでもらうためにはとにかく誰よりもハッスルするしかないと考えていました。Andpadに対してもまさにそのやり方でアプローチしました。当時はシードステージだったAndpadの起業家に私は何度もしつこく電話し、投資させてほしいと説得を試みたのです。しかし最終的には、電話にも出てもらえなくなってしまいました。予想通り、彼らは現在ビジネスで大成功していて、あのとき断られたことが今も心にトゲのように刺さっています。こういったことも、VCの世界では日常茶飯事です。断られるのも仕事のうちなので仕方ありません。
生きていく上で、断られるというのは誰もが避けて通れない道です。しかし、断る側も断られる側も、そのときの対応の仕方によって人生の方向が変わる可能性があります。相手の自分に対する評価に大きく影響するだけではなく、将来的に新しい機会が開かれるか、もしくは閉ざされるかを左右し得るのです。最後に与えた印象が、相手の記憶に最も残りやすいと言いますが、断られた側にとっては特に忘れ難い記憶になるでしょう。どういう気持ちにさせられたかを、相手はよく覚えているものなのです。
だからこそ、断る・断られる場面では特に対応に気を配る必要があります。Coralでも、相手を断らなければならないときの対応について真剣に取り組んでいます。たとえば、起業家にアンケートを送り、Coralとの対話でどのように感じたかについてフィードバックをお願いしています。そしてフィードバックの評価が芳しくなかったチームメンバーに対しては、全社ミーティングで取り上げて説明を求めます。もしかしたら米国企業的で行き過ぎたやり方だと感じているチームメンバーもいるかもしれませんが、個人的には必要不可欠なプロセスだと考えています。たとえそのスタートアップに投資しない結果に終わったとしても、検討や対話の中で起業家がどう感じたかは非常に重要なのです。起業するというのは、極めて困難で険しい道のりです。そんな目標に挑戦することを選んだ勇気ある起業家には、私たちも相応の敬意や誠意を示すべきなのです。
また、長期的に見れば、起業家に与えた印象は私たち自身の評価に直接影響し、彼らが次回以降のラウンドで私たちと再び対話したいと感じるかどうかも左右します。この点について、軽く考えている投資家もいるようですが、個人的には全く理解できません。起業家をあからさまに軽視した対応や、相手の意見を遮って自分たちの主張ばかりしたり、真剣に交渉を重ねてきたはずがいきなり無視して突き放したりする投資家の話も聞きます。起業家に対して非常に失礼であるばかりか、もはやどちら側にとっても何も良いことがありません。
逆の立場でも同じことが言えます。相手からの誠意ある断り方に対して、相応の対応ができない起業家は自分で自分の首を絞めているようなものです。最後に与えた印象が、相手の記憶に最も強く残ります。つまり、結果的にそのときは資金を得ることができなくても、相手に対して良い印象を残すことができれば、将来的に別の新しい機会につながるかもしれないのです。
ポイントは、長期的に考えることです。多くの場合、「ノー」はただ単に「今はできない」という意味です。今は投資できないけど、次のラウンドでは投資できるかもしれない。もしくは、あなたが次に立ち上げる企業や、あなたが紹介する別の企業になら投資できるかもしれないという意味です。それに対して、あなたのほうも、断った側の人間を今後採用したり、彼らの下で働いたり、別の形で将来的に協力する可能性がないとは言い切れません。相手から断られて険悪になり、完全に関係を断つことにはなんのメリットもないのです。誠意ある対応で断られたならなおさらそうです。
Coralの3号ファンドでも、5年間断られ続けて、やっとファンドへの出資に「イエス」の返答をくれた投資家が何社かありました。私たちから起業家への出資に関しても、最初は断ったものの、結果的に出資することになったスタートアップもあります。断られるというのは、この業界では当たり前に起こることであり、単にその時点での一時的な評価にしか過ぎないのです。落ち込んで悔しくなる気持ちは、私自身もそうなのでよくわかりますが、長期的な視点で考えていきましょう。良い印象を残し、相手が後々断ったことを後悔するくらい努力し続けるのが最も前向きな態度です。結局のところ、成功こそが相手を見返す一番の方法ですしね!
Founding Partner & CEO @ Coral Capital