「投資家が1番投資したいスタートアップはお金がいらないスタートアップかもしれません」と先週ツイートしたところ、賛否分かれる反応がありました。「その通り!」とか「同意!」などと私の言いたかったことをすぐに理解してくれた人もいました。一方で、「収益性の高い企業にしか投資しない」という意味に誤解されやすい内容だったせいか、「それではVCの意味がない」、「VCとして最も言ってはいけないことでは」といった反応もありました。
別のツイートでも紹介したように、Coral Capitalではスペースロボットや次世代電池技術、Govtechなど、様々な「難しい」分野にむしろ幅広く積極的に投資しています。どれも野心的な取り組みですが、成功すれば参入障壁の高い、巨大なビジネスに発展する可能性があり、社会的にも非常に大きなインパクトが期待できるからです。実際にCoralのポートフォリオを見てみてもわかると思いますが、中短期的には収益性が見込めないようなチャレンジングなビジネスであっても敬遠することなく投資しています。すでに黒字化している企業にのみ投資する方針だったとしたら、私たちの仕事ぶりはお粗末としか言いようがありません!
それでは今回のツイートはどういう意味で言ったのかというと、具体的には2つの意味を含んでいます。
まず1つ目は、「他人が欲しがっているように見えるものが、欲しくなる」という人間の基本的な心理を、資金調達においても考慮せざるを得ないという点です。多くの心理学者や哲学者によって解説されている心理現象ですが、個人的に特にわかりやすいと思うのが哲学者ルネ・ジラールの「模倣の欲望」理論です。ジラールによると、「人間という生き物は、自らの欲望の対象が本能的にわからず、他者にその答えを求めようとする。他者の欲望を模倣し、他者が欲しがるものを自らも欲しいと思うようになる」そうです。
人間の弱点とも言える本質ですが、投資家からの人気が高そうなスタートアップに飛びつく投資家が多いのもそう考えると説明がつきます。この集団心理のせいで、もうこれ以上お金はいらないというスタートアップにばかり投資家から連絡が殺到するようなことが起こるのです。
非合理的で公正さにかけると思えるかもしれませんが、ツイッターなどで不満を訴えるよりも、資金調達に有利に働くよう利用するほうが賢い選択ではないでしょうか。投資家の関心がよりいっそう膨らむように、この心理現象をピッチのテクニックや資金調達のモメンタムを作り出す戦略に応用することもできるのです。それについては、Coral Reef Acceleratorに参加される起業家にも今後紹介していく予定です。
ツイートで伝えたかったもう1つの意味は、市場環境の全体的な変化に伴い、スタートアップの成長性よりも長期的に堅調なビジネスを維持できるかどうかが投資家に重視されるようになってきている点です。資本コストや費用対効果、回収期間、粗利益などをはじめとした数々の指標が、今後1、2年のスタートアップ界においてより注目されるようになるでしょう。外部資本なしに中長期的にビジネスを継続できないようであれば、今後は苦しい展開になる可能性が高いということです。好環境とは言い難い時期ですが、厳しい現実として受け入れ、乗り越えていかなければなりません。
ツイッターは意見交換の場として優れたプラットフォームですが、今回のような複雑で賛否を呼ぶトピックは、自分の意図を正しく伝えきれないこともあります。そのため、情報発信の手段としては基本的に本ブログを優先するようにしています。ツイッターでのフォローもとてもありがたいですが、この機会にぜひ本ブログにもメルマガ登録し、より深掘りした考察や解説を最後まで読んでいただきたいです。ツイーターは新しい考えやアイディアを実験的にシェアする場所、ブログはそれをさらに発展させて説明する場所として今後も使い分けていきます。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital