シリコンバレーのトップティアVCとして知られるAndreessen Horowitz(a16z)ゼネラルパートナーのAndrew Chen(アンドリュー・チェン)氏に、Coral Capital創業パートナー兼CEOのJames Rineyが「スタートアップのキャリア論」をテーマにしたインタビューを実施。その模様を今年2月に開催したスタートアップキャリアイベント「Startup Aquarium」の会場で配信しました。今回はインタビューを記事でお届けします。
Andrewはプロダクトを急成長させる「ネットワーク効果」を体系化した書籍『ネットワーク・エフェクト 事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク』の著者でもあります。2021年12月に出版した英語版はベストセラーとなり、2022年11月に出た日本語版もスタートアップ業界でも話題となりました。
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James:スタートアップに転職することを考えている、あるいは、スタートアップで働いているけれど転職先を検討している人もいるかと思います。そこでスタートアップを選ぶ際にどのような点に注目すべきか、アドバイスをいただけないでしょうか。
また、Andrewさんは以前Uberで働いていたということですが、転職する際にUberに魅力を感じた部分や、入社する決め手が何だったのかを教えてください。
Andrew:皆さんに最初にお伝えしたいことは、どこかの時点で一度はスタートアップで働くことをおすすめします。特に若い人たちにとって、とても素晴らしい経験になるでしょう。
特にキャリアの早い段階で経験することがおすすめなのは、やることがたくさんあり、裁量権を持つことができるからです。これが1つ目の理由です。
2つ目は、特に新しい最先端の分野のスタートアップ、例えばVRやゲーム、Web3などの分野では誰もがゼロスタートです。こうした業界で2年以上その業界の経験がある人は誰もいないのです。だから今25歳でも、その分野の専門家に短期間でなれます。これはかなり重要なことだと思います。
3つ目の理由は多くを学べるからです。背伸びせざるをえなかったり、長時間働いたりする必要があり、優秀な人にもたくさん出会えます。周りにいる人たちの多くはリスクを取って率先して物事を進めようとする人たちです。これも素晴らしい経験になります。
だから私は誰に対しても、キャリアのどこかでスタートアップに勤めたり会社を創業したりすることをすすめています。
Uberで学んだ、転職先スタートアップの選び方
Andrew:Uberでの経験に基づいたアドバイスとして友人に伝えていることは、まず自分がどのステージのスタートアップに一番興味があるのかを明確にする必要があるということです。ステージによってかなり異なるからです。
まず創業したばかりの会社がありますよね。製品がまだなかったり、プロダクトマーケットフィット(PMF)していなかったりする会社です。その会社が成功するかは誰にもわかりません。成功確率は50%もないでしょう。10%程度かもしれません。成功する確率は非常に低いということです。
しかし創造性を発揮できる素晴らしい環境があります。たくさんのエネルギーを注ぎ込み、多くを学び、多くのことに挑戦できます。良い部分もたくさんあるのです。リスクを恐れないクリエイティブな人にはとても良い環境だと思います。また創業者と非常に近い距離で働けます。社員数が10人以下であることが多いからです。こうした経験はとても貴重です。
このステージの会社に興味がある人へのアドバイスですが、良い会社かどうかを判断するポイントは主に2つあります。
ひとつは「創業者が優秀か」です。その人の下で働きたいと思いますか? その人たちから学べることがありますか? その人たちは、その分野で最も秀でている人たちですか? こうしたことが非常に重要だと思います
もうひとつの判断基準は「良い投資家がその会社に投資しているか」です。これは良い判断基準であることが多いです。Andreessen HorowitzやCoral Capitalのような投資家は、毎年何千社の投資機会を評価をしています。優れたVCが投資すべき会社だと判断したのなら、それは恐らく良い会社だというひとつのサインであり、実際おそらく良い会社なのでしょう。もちろん成功するかは誰にも分かりませんが、少なくともひとつの判断材料にはなります。
PMF後のスタートアップに転職する際に注意すべきことは?
Andrew:次のステージの企業は、製品をローンチし、成長していて、製品を市場に送り出した会社です。こうした企業を検討するときに考えたいのは「成長速度」です。その会社は1年で3倍以上成長しているでしょうか? これは私の本の中でも説明していますが、求められる期間内に会社を十分な規模にするには、そのような成長速度を達成しなければならないのです。だから成長速度を気に留める必要があります。
またこのステージの企業で気にしたいのは、「会社でどんな役割を担うのか」「直属の上司は誰になるのか」「その業界に長く関わっていたいか」といったことです。
最後にレイトステージの企業があります。私がUberに入社したとき、Uberがすごい企業になることは明らかだったのですが、そのような企業のことです。まだ社員数は何万人規模ではないけれど、サンフランシスコの本社にはすでに何千人もの社員がいて、それからユーザー数もすでに1000万人を超えていました。すでにかなり大きな規模の会社だったわけです。
このような会社を検討する場合は、その会社が本当に大企業になれるかをよく考える必要があります。入社してから、会社が次のレベルに到達できるほど市場規模がないと分かっても困りますからね。だから、この場合は市場規模を重視します。この会社は業界で本当に重要な会社なのかを考えるということです。
暗号資産業界を検討していてレイトステージの会社に入りたいなら、Coinbaseなどを検討するでしょう。Coinbaseはレイトステージの会社です。このような企業は転職先として堅いでしょう。ゲーム業界で働きたいならRobloxやDiscordを選ぶのと同じです。なぜならそうした会社が5年後も残って大きくなっているはずだからです。
なので、どのステージの会社に興味があるかで見るべきポイントは異なります。自分が何をしたいかを理解し、どのステージの会社に興味があるかを明確にすることが重要です。
スタートアップ転職における最大のミステイクは?
Andrew:最大の間違いはリスクを取って挑戦したいけれど、親や大切な人に反対されて違うキャリアを選んでしまうことです。自分が大切にしていることに従いましょう。挑戦しなければ毎日後悔することになります。
そして近年のスタートアップ業界で働くことの良い面は、テクノロジー業界での職歴はキャリアにとても有利になるということです。たくさんのスタートアップで働いて何度でも挑戦できます。失敗することもありますが、成功することもあるでしょう。その過程で多くのことを学べます。テクノロジー業界で働くには良い時期だと思います。
James:素晴らしいアドバイスです。まとめると、シードやアーリーステージでは人を見て決めること、レイトステージでは市場規模を見て決めるということですね。アーリーからレイトの間で注目すべきポイントを端的に言うと何になりますか?
Andrew:そうですね。本当に人を惹きつけるビジネスが作れているかを見た方がいいでしょう。私なら成長率やリテンションを見ます。またどのステージでも、どんな人が入社しているかは良い判断材料になります。評判の高い大物経営者がレイトステージの会社に参画しているならそれは良いサインです。一流のVCや投資家が継続して投資しているかどうかも良い判断材料となります。
こうした外部から見える情報を確認しましょう。多くの場合、自分で良い会社か判断できるほどたくさんの会社と面談できるわけではないですから。
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