Coral Capitalは4月26日、投資先を含むスタートアップの起業家や従業員を対象とした招待制勉強会「Coral School」を開催しました。元AWSマーケティング本部長で、Still Day One代表の小島英揮様をゲストに迎え、「B2Bスタートアップのためのユーザーコミュニティの作り方」をテーマに、Coral Capital コミュニティーディレクターの岩本亜弓がインタビューを行いました。
ノーカット版はYouTubeで公開しましたので、ぜひご覧ください。この記事では、各チャプターのハイライトを抜粋してお伝えします。
なぜユーザーコミュニティが必要なのか
動画視聴はこちら→【0:31 ユーザーコミュニティが必要なワケ】
ーー小島さんは、Amazonをはじめ、B2Bのユーザーコミュニティに関する深い知見をお持ちです。B2Bのコミュニティで、一番大事なことはなんでしょうか?
AmazonのAWSではマーケティングのヘッドをやっていました。
イベントマーケ、プロダクトマーケ、フィールドマーケなど、マーケティング全般をやってきた僕の経験から思うのは、「コミュニティ」はマーケティングをスムーズに回すコア(核)だということです。
特にB2Bにおいては、コミュニティがあると「想起」を作りやすい。
想起というのは、「〇〇のときに、このプロダクト/サービスがあるといいよね」という認知のことです。例えば、服を売りたいときにメルカリが想起されたり、誰かと連絡したいときに、LINEやFacebookを想起したりしますよね。
この想起を取るのが、マーケティングでは最も大事ですが、残念ながらベンターが自分たちで作れるものではありません。
では、想起が誰から作られるかというと、実際のユーザーの声です。
コミュニティというのは、「いいね!」と賛同するユーザーの声を束ねて、遠くに力強く届ける仕組みです。これがあれば、皆さんがマーケティングをやるときに、「このプロダクト/サービスは良いらしいね」と言ってくれるお客様に遭遇する確率が高まります。
コミュニティは「種芋」。すぐに食べず、育てから収穫する
動画視聴はこちら→【2:59 コミュニティとセミナーの違い】
ーー「コミュニティ・イベント」と「マーケティング・セミナー」の違いとは?
マーケティング・セミナーで理想的な流れは、「このプロダクト/サービスは、どうもいいらしい」と思った人がセミナーに来て、「やっぱりこんなにいいんだ…もう少し詳しく聞きたい」とか、「もう決めたいな」という状態になることですよね。
コミュニティの役割は、最初の「このプロダクト/サービスは、どうもいいらしい」という状態を作り出すことです。
コミュニティを「種芋」に例えた人がいましたが、種芋は植えて、育てて、増えるから意味があるのであって、種芋自体を食べるものではありません。
セミナーのゴールが、「今来ている人から収穫すること」であるとすれば、コミュニティの目的は「今来ている人を起点に、想起を育て広げること」です。
どう広がっていくかという視点が鍵になります。
なぜ、あなたのコミュニティは迷走してしまうのか?
動画視聴はこちら→【4:43 まずは「いいお客様」の定義から始める 】
ーー最初に誰に参加してもらって、どんな作用を与えるかが重要そうですね。
だからこそ、コミュニティ作りはマーケティングの話なんです。
あなたのビジネスにとって、「いいお客さん」とはどういう人でしょうか?
来て欲しいお客様がはっきりしないうちにコミュニティを作り始めると、だいたい迷走して、「何やってるんだっけ」と社内で誰か言い出して終了、といった事態になりがちです。
実は、コミュニティの立ち上げ段階では、既存顧客について詳しいカスタマーサクセスチームが中心になることが多いようです。でも、どこかでマーケティングチームが引き継いで、「こういう人に来てほしい」という出口を設計をして、そういう人が来る場を作らなきゃいけない。
「とにかく人が来てくれればいいんじゃない?」とか、「ピザとかビールを出せばいいんじゃない?」というノリで進めると、人が集まって盛り上がって見えても、他の部門からは「何遊んでるの?」と言われてしまいます。
ーー他社のやり方(How)だけ見て始めてしまうと、失敗しやすいんですね。
例えば、セールスフォースには「Trailblazer(トレイルブレイザー)」、AWSには「JAWS」というコミュニティがあります。
それぞれSaaSとIaaSの成功モデルですが、この2つはHowが全く違います。
セールスフォースのコミュニティは、お客様のオンボーディングを目的に、カスタマーサクセスチームがメインで運営しています。さらに、ユーザーがより効果的な使い方を学んで、スティッキネスが高まる(チャーンが下がる、利用率が上がる)ことを目指しています。ですから、セールスフォースのコミュニティに参加できるのは、ユーザーに限られています。
AWSの場合は、ユーザー同士の情報交換はもちろん、先に使っている人の話を、これから使うことを検討している人に聞かせる場にもなっています。だから、ユーザーじゃなくても入れる場になっているんです。
他社の型から学べることはあったとしても、やり方をそのままコピーするのではなく、本当に自社の状況に合っているのか検討してからにすべきです。
コミュニティの「ゴール」はどう設計すべき?
動画視聴はこちら→【8:40 コミュニティの「ゴール」はどう設計すべき? 】
ーー目的やゴールの設定が重要そうですが、どのように決めていけばいいのでしょうか?
「コミュニティを作ったら、いくらの売上になるか」と聞かれるケースがありますが、コミュニティの価値を換算するのは、そう簡単ではありません。
売上への直接的な貢献でいえば、フィールドマーケティングだったり、セミナー、ウェブチームのキャンペーンなどの方が大事ですよね。であれば、コミュニティは、そうしたチャンネルに価値を提供できる設計にしておく必要があります。
例えば、コミュニティでお客様の成功事例を作ったり、ストーリーを上手に話していただけるスピーカーを見つけたり、面白いユースケースを発掘したりすれば、売上を作っているチームに情報や繋がりを提供することができます。こうして社内横断的に連携していれば、迷走するようなことにはなりません。
また日本のSaaS企業であれば、ほとんど自分たちでプロダクトを開発しているので、プロダクトチームのフィードバックループにも使えます。
コミュニティがないと、声が大きなお客さんのリクエストに引きずられがちです。コミュニティがあれば、「この機能は大体みんなが欲しがっている」「ここで大体みんなが苦労している」「この機能は全然使われていない」といったことを客観視しやすくなります。
誰を、どうやって、最初にコミュニティに巻き込むべきか?
動画視聴はこちら→【14:47 誰を最初にコミュニティに巻き込むべきか? 】
ーー誰を最初に巻き込んでいくべきでしょうか?
プロダクトやサービスに正しい期待値を持っていて、使ったらちゃんと成果が出て、その成果を社内に説明・展開できるようなお客さんっていますよね。
こうしたオンボーディングが順調に進んだお客さんを言語化し、母集団として想定してコミュニティの導線を設計していきます。
また、コミュニティに必要なのは、発信をしてくれるリーダーと、発信をした人の話を聞いて、「じゃあ私もやってみよう」と行動するフォロワーです。
このリーダーとフォロワーを「セットで」用意しておくのが重要です。
ーーリーダーとフォロワーをセットで?
コミュニティでは、行動が連鎖する必要があります。
行動したい人に対して、行動して成功した人を引き合わせて、リーダーとフォロワーの構造を作らないといけない。
最も難しいのは、フォロワーになりそうな人を見つけて、リーダーに引き合わせることです。リーダーだけでフォロワーがいないと、どこにも飛び火しません。
焚火でいうと、せっかく火が起こってきたのに、そこら辺の木をバンバン入れちゃうと火が消えちゃうみたいな。
燃えやすいものを入れないといけないけど、燃えやすいお客様、燃えやすいフォロワーをどう見つけるか。これに必要なレーダーを持っているのは、マーケティングチームだと思います。
コミュニティマネージャーの適性=近道を探せる人
動画視聴はこちら→【18:32 コミュニティマネージャーに向いている人は?】
ーーコミュニティマネージャーには、どんな人が向いているのでしょうか?
目的を常に意識して、「近道」を探せる人じゃないとダメです。この「近道」というのは、意外なキーワードかもしれません。
というのも、コミュニティ作りで「正しいやり方は?」と聞かれても分からないし、その会社のゴール、リソース、タイムフレームなどによって、最適な方法は全く違います。
代わりに僕はよく「これはあなたの会社にとって近道ですか?」と質問するんです。
「近道ですか?」と聞かれると、自然に「ゴール(目的地)はどこだっけ?」と意識します。社内でも、「近道を探したいんです」と話せば、他の部門とも共通のゴールを意識して話が通じやすくなります。
セールス、カスタマーサクセス、マーケティングなどのKPIは、会社の業績に紐付いたものです。コミュニティがあることで、その数字を取りやすくする話をしてるはずで、共通のゴールを設定できるスキルセットはすごく大事です。
アンケート結果よりも、SNSの投稿数を重視すべき理由
動画視聴はこちら→【21:39 満足度調査の結果よりも、SNSの投稿数を重視すべき】
ーー私自身もCoralのコミュニティを運営してますが、一番難しいのは「数字で語る」ということです。そして、どんな共通認識で味方になってもらうかは本当に大事ですね。
もう一つ大事な指標は、行動量です。
「人が集まった」だけじゃなくて、ツイートがあったとか、ブログで発信されたとか、アクションの計測は重要です。
アンケートでNPSスコアを取ったとしても、「ピザが美味しかった」というようなランダムな感想を受け取るより、「これがすごく良かったので、思わずアウトプットしちゃいました」という方がありがたいですよね。
とはいえ、取れる数字だけで進捗を測っていると、認知が歪んでしまうこともあります。
もう少し定性的に、このコミュニティがうまくいっている世界がどんなものかを表現することも大切です。「こういう分野で第一想起が取れるようになっている」とか、「〇〇といえばコレとみんなが言うようになる」などを決めておき、それを証明する数字を仮置きします。
コミュニティ初期に熱量をどうやって高めるか
動画視聴はこちら→【24:14 コミュニティ初期に熱量をどうやって高めるか】
ーーコミュニティマネージャーとして、どんな仕掛けを行うべきか、詳しく伺えますか?
コミュニティマネージャーは、やりたがっている人の背中を押すのが仕事です。そして、コミュニティの場で、あたかも即興で引き合わせているように見せても、肝になるのは事前の情報収集です。
初期のコミュニティでは、先ほど話したリーダーとフォロワーを合わせても、30人もいないですよね。例えば、リーダー5人に対して、20人のフォロワーをどう繋げると発火するのかは、この人たちを知らないと絶対にできません。
この30人弱の人たちのプロファイルをどうやって理解するかは、様々なやり方があります。1on1をたくさんやる人もいれば、小グループで食事や飲みに行くこともできますし、座談会を企画して特定のトピックで話すとか、とにかく皆を理解する場をたくさん作ることです。
大切なのは、上手くやっているリーダーの話を聞いたフォロワーが、次に会うまでに実際に真似をして行動をしていること。そして、それを周りで見ていた人も、その流れに乗ることです。最初の20〜30人を把握してると、その初速は意図的に生み出すことができます。
ーー最初は、属人的に。
焚火でいうと、最初は一定の大きさの火が起こらないと、次のステージに行けないので、火がちゃんと起こって安定するまでは、かなり手をかける必要があります。
キャンプ初心者は、ライターなどで火をつければ、すぐに燃えると思っている方が多いですが、実際はそんなことはありません。新聞紙とか着火剤などの燃えやすいものを仕掛けておいて、そこに火をつけて、という順番があるんです。
コミュニティも同じことです。最初の20〜30人にしっかりと手をかけて、一度火が安定したら、何を入れても燃えるようになります。
コミュニティマネージャーに求められるもの
動画視聴はこちら→【29:23 コミュニティマネージャーに求められるもの】
ーーコミュニティ・マネジャーに適しているのは、どんな人でしょう?
「製品への愛情」とか「人当たり」に加えて、「人への関心」を持っていることです。
あとは、普段からオススメ上手の人は向いてるかもしれません。「こういう店ないかな?」というアンテナが張っていて、「〇〇さんがいい店を知ってたよ」とか、「ちょっとつなげてあげる」みたいな、コネクタ的な要素がある人は向いている可能性があります。
すごく横断的な視野があるけど、あまり難しく考えなくて、周りが何を考えているかに興味がある。上手く繋げられたときに喜びを感じられることも大事かもしれないですね。
ーーとはいえ認められるまでに時間もかかり、楽な仕事ではありません。
「そんなに大変なことする意味があるのか?」と感じる人もいるかもしれないですが、マーケティングをずっと専門にやってきた僕の経験からすると、特にB2Bにおいては、こんなにスケールするリソースは他にありません。
例えば、AWSのコミュニティには、情報システム部の部長さんが集まっている分科会があります。これから使おうと思った人は、他の会社の情シスの部長さんと繋がることができます。「うちもAWSを使おうと思って」と話をしたら、「いいと思うけど、ここは注意した方がいいよ」とか、「人のコストはめっちゃ下がるよ」とか、適切な期待値を伝えてくれます。
そのあと営業に行くと、「こう言われたけど本当ですか?」と確認するだけになるんですよね。営業はヒアリングの手間が大幅に減ります。それって、すごく良くないですか? コミュニティなしで同じことをやるのは、難しいと思います。
ーーユーザー間の情報交換でどんな話題が上がっているか、自分の中にストックしておくことも大切ですね。
ストックしておいて、適切なときにそれを使いながら背中を押す、ということですね。
途中から自分が背中を押している量よりも、お客さん同士が背中を押している量が増えるときが来るんです。これは火が燃え出して、自走化に近づいた証拠です。
コミュニティマネージャーこそ、他のコミュニティに参加すべきワケ
動画視聴はこちら→【35:01 コミュニティマネージャーこそ、他のコミュニティに参加すべき】
ーーとはいえ、やはり大変な仕事ではあります。
だからこそ、コミュニティマネージャーにもコミュニティが必要です。
僕がやっているCMC_Meetupでも、他のコミュニティでもいいですが、社外にしか先輩がいませんから、コミュニティマネージャーこそ、外のコミュニティに出て学ぶことが大切です。
なんなら登壇して「僕はこんなことで困っています」とか、「私はこういうので失敗しています」みたいな話ができれば、最も効果的な自己紹介になります。困っていることや、得意なことが相手に伝われば、答えが向こうからやって来るようになります。
コミュニティのいいところを体験しておくと、自分がコミュニティを作るときも、自分が体験したことの再現方法を考えることができます。
コミュニティの原体験がない人がコミュニティを作るのは、そのあたりに難しさがあるかもしれないですね。
ーー最後に、コミュニティマネージャーがどのようなスタンスでコミュニティと向き合うべきかを含め、皆さんにメッセージをお願いします。
「虫の目、鳥の目」という言葉もありますが、自分のコミュニティに対して愛を持って没入することも大切ですが、同時に外から自分のコミュニティを俯瞰する視点も大事になります。
中にいると、どんどん外のことが分からなくなってしまいます。だから、時々俯瞰するために、他社のコミュニティマネージャーと話をするのもいいですし、社内の他のチームにレビューしてもらうのもありですね。愛はありつつも、客観的な目を忘れないようにするのは大事かなと思います。
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