共同創業者の1人が辞めることは、スタートアップでよく起こる問題の1つです。Coral Capitalもこれまで100社以上のスタートアップに投資し、多くの別れを見てきました。すべてのものには終わりがあり、別れ方が円満であろうとなかろうと、いずれ誰かが会社を去ることは避けられないのです。そのため、共同創業者が目標とするべきことは、まずはできる限り強固で持続可能なチームを作ること。そして、いつか訪れる別れを想定し、誰かが辞めてもそれが円満に進み、会社に大きな打撃を与えないよう計画しておくことでしょう。
そのためには、共同創業者が会社を去る主な原因を理解しておくことが1つの重要なポイントになります。私たちは「ハンズイフ」な投資家として、スタートアップから助けを求められたらサポートし、そうでないときは一歩引いて見守るスタンスをとっていますが、この問題に関しては特によく相談を受けます。この経験の中で、様々なケースが蓄積してきました。
共同創業者が会社を辞める原因は多岐にわたりますが、特によく見られるのは次の3つでしょう。
共同創業者同士が似すぎている
共同創業者の強みや性格がよく似ている場合、スタートアップの経営において、ほぼ必ずと言っていいほど様々な面で摩擦が生まれやすくなります。まず、それぞれの役割や責任が不明確になりがちです。どちらの創業者も自分の得意分野に自信を持っているため、誰が何を担当するべきかで対立してしまうのです。また、性格的に2人ともCEOのポジションを望んでいる場合、意思決定がさらに複雑になります。もし創業チームが「共同CEO」と書かれた名刺を持ってきたら、危険信号です。創業者同士の役割が重なっている可能性が高いだけでなく、経営上の役割分担について互いが納得する答えが出せていないことを示しているからです。
逆に、価値観が似ているが強みや性格が異なる創業チームでは、自然と役割分担が生まれやすくなります。ほとんど議論することなく、CEOやCTO、COOなどの役割が自然と決まります。互いに尊重し合い、専門性を認め合うことで、それぞれが自分の役割において自由に力を発揮しやすくなるのです。それでも重要な課題で議論は起こるかもしれませんが、その場合でも、最も関連する専門知識を持つ人の意見がより尊重されます。
要するに、強固で持続可能な創業チームを作るためには、互いに補完し合う異なる強みや個性を持つ共同創業者を選ぶことが極めて重要だということです。
事業がうまくいかないとき
「売上は全てを癒やす」と、億万長者の投資家であり起業家でもあるマーク・キューバンが言ったとされています。売上の数字が良ければ、会社の多くの問題を軽減できるという考え方です。実際、スタートアップが急成長している間は士気も自然と高くなり、共同創業者間の関係悪化などの深刻な問題も見過ごされがちです。しかし、成長が鈍化すると、これらの問題が表面化します。会社が進むべき方向について議論を重ねるうちに、共同創業者間の意見の相違がますます悪化し、何が問題なのかを突き止めようと必死になるほど、不安や疑念が気がつかないうちに広がります。また、うまくいかない原因が相手の能力不足にあるのではないかと、共同創業者が互いを疑い始めることもあります。
これは実際、非常に難しい問題で、「それなら成長し続ければいい 」といった単純な話ではありません。ただし、会社の勢いを維持することが重要であることは確かです。「会社が前進している」という感覚を維持するだけでも、士気を大幅に高め、共同創業者間の問題の悪化をある程度食い止めることができるのです。
事業は順調だが、一方の共同創業者が十分に貢献できなくなったとき
スタートアップを「0から1」まで育てるフェーズで最も能力を発揮する人もいれば、「1から10」や「10から100」のフェーズで活躍する人もいます。すべてのフェーズで優れた成果を出せる人はほとんどいません。そのため、企業が成長し次のフェーズに進む際には、そのフェーズに適した新たな人材を迎えることが多いです。これは共同創業者の場合も同じです。
スタートアップのチーム作りでよくある落とし穴の1つが、会社のニーズの変化に合わせて役割が変わる可能性について事前に認識を合わせをせずに、初期メンバーにCxOの肩書きを与えてしまうことです。例えば、アーリーステージで優秀なCTOだった共同創業者でも、会社が成長して何百人もの社員を管理する立場になると、荷が重すぎるかもしれません。スタートアップが数十人から数百人の規模へと急成長する中、同じペースで経営のプロフェッショナルとして成長できることは稀です。
ある時点で、共同創業者が一歩退いて、他の人に経営の舵取りを任せたほうが良い場合もあるということです。これを喜んで受け入れ、社内で新たな役割を見つける人もいれば、降格と捉えて退職を決意する人もいるでしょう。
このような辛い状況を少しでも和らげるために、共同創業者はあらかじめ役割が変わる可能性について話し合っておくべきです。関係をオープンに保ち、期待値を事前に明確にしておけば、このような緊張した場面をずっとスムーズに乗り越えられるでしょう。
共同創業者がいずれ会社を去ることは、ほぼ避けられないことです。大事なのは、できる限り強固で持続可能な創業チームを作り、将来的に離脱が円満に進むよう備えておくことです。もちろん、イグジットまで創業チームが協力して会社を作っていければ理想的だと思いますが、個人的には共同創業者の関係が5年も続けば十分成功だと考えています。特に円満な離脱であれば、なおさら良いでしょう。現実的な期待を持ち、上記のような難しい話し合いをできるだけ早い段階で行うことが重要です。そして、他の長期的な関係と同様に、オープンなコミュニケーションを通じて積極的に関係に投資し続けることも欠かせません。気まずく感じることもあるかもしれませんが、スタートアップが最もよく直面する難しい問題の1つであることを考えれば、その価値は十分にあります。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital