ドナルド・トランプ氏が米国大統領に再選されたことは、地政学的に大きな影響を及ぼすでしょう。日本のスタートアップ企業にも、多大な影響を与える可能性があります。特に日本はアジアにおける米国の最も重要な同盟国であり、地域安全保障や経済協力の面で、これまで以上に重要な役割を担うことが予想されます。こうした状況を踏まえると、今後スタートアップ企業にとっては「防衛」と「エネルギー」が重要なテーマになると考えられます。
今後を見通す上で非常に参考となるのが、三菱重工業(MHI)の泉澤清次社長が直近の決算発表後の会見で示した展望です。同社は2027年3月までに、原子力事業で30%、防衛事業で40%の設備投資の増加を計画しています。また、泉澤社長は、日本が化石燃料に依存しない複数のエネルギー源を多様に確保する重要性を強調し、原子力や水素、熱発電、炭素除去技術の導入が不可欠であると述べています。防衛についても、戦争を防ぐ抑止力としての防衛力が不可欠であると強調しています。
防衛におけるデュアルユースの促進
トランプ氏が再び政権を握れば、日本はアジア地域の安全保障においてより大きな責任を担い、防衛力の強化を求められる可能性が高まるでしょう。これは、日本政府が最近発表した「デュアルユース・スタートアップエコシステム」の構想とも方向性が一致しています。スタートアップの先端技術を防衛装備の開発に活用する「デュアルユース(両用)」を目指したこの新たな枠組みでは、防衛省と経済産業省が協力して「スタートアップと防衛産業の連携」を促進します。米国の国防イノベーションユニット(DIU)の取り組みを参考に、今後は防衛装備のニーズを集約し、それに適したスタートアップを特定することで、先端技術の開発や調達が促進されることとなっています。
また、日本は宇宙開発に力を入れているため、この分野でのビジネス機会がさらに拡大することが期待されます。1兆円規模の「宇宙戦略基金」が設立され、今後10年間にわたり日本の宇宙産業の成長を促進する計画が立てられていることからも、日本の宇宙分野への本気度がうかがえます。小惑星サンプル回収や衛星部品の技術革新など、日本には宇宙分野での豊かな実績があり、これは衛星サービスや宇宙用ロボット、宇宙探査ツールなどを開発するスタートアップにとって確かな基盤となるでしょう。また、政府は国内宇宙産業の市場規模を2030年代初頭までに倍増させる目標を掲げ、これらの取り組みを積極的に支援しています。
石破新首相が、航空機や艦船のプラモデル好きとして知られる「ミリオタ」であることも好影響をもたらすかもしれません。防衛や航空宇宙関連の取り組みを積極的に支持する可能性が高く、防衛費をGDPの2%に引き上げるという政府の公約もあるため、ロボティクスやAI、ドローン、先端宇宙技術に取り組むスタートアップにとって強力な追い風となることが期待されます。
エネルギー分野: 原子力の復活とその先へ
トランプ氏の再任は多くの気候テック系スタートアップにとって逆風となる可能性がありますが、日本の場合は原子力エネルギーに関する専門知識の高さがむしろ歓迎されるかもしれません。トランプ氏は原子力発電に対して概ね前向きな姿勢を示しており、さらにAI革命により世界的なエネルギー需要が増加しています。これらの状況は、日本のエネルギー業界のスタートアップに新たなチャンスを生み出すでしょう。実際、日本のエネルギー業界で重要な位置を占める三菱重工業(MHI)は、大規模な増員計画を発表しており、同社の泉澤社長は2027年3月までにガスタービン事業と原子力事業でそれぞれ10%、防衛事業で40%の増員を目指すとしています。
また、泉澤社長は、日本が化石燃料への依存から脱却し、原子力や水素、熱発電、そして炭素除去技術を取り入れる必要性についても指摘しています。エネルギー源の多様化が求められる中、水素生産やカーボンキャプチャー、エネルギー貯蔵などの最先端エネルギー技術に取り組むスタートアップにとっては追い風となるでしょう。
スタートアップが担う役割
トランプ大統領の誕生により、日米関係が不透明になる可能性がある一方で、日本のスタートアップには独自の新たなチャンスが生まれるかもしれません。アジア地域における米国の安全保障への関与が弱まるリスクがある中で、日本は自国の防衛力やエネルギー自立の強化を急ぐ必要性が高まっています。これに伴い、国内産業の強化を目指した新たな市場の創出が期待されます。
国としての戦略的目標を達成するため、日本政府はスタートアップと緊密な連携を図る意向を明確に示しており、投資や支援を強化する政策も打ち出しています。つまり、日本が自国強化に向けた取り組みをすでに進めているタイミングで、トランプ政権が始まることになるのです。日本が変化し続ける地政学的環境に対応する中で、スタートアップ企業は今後、重要な役割を果たすことになるかもしれません。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital