Our Manifesto
サンゴ礁は、海洋面積の0.25%しか占めていませんが、全海洋生物の25%の生命を支えています。何百万種もの海洋生物に食と棲み家を提供するサンゴ礁は、まさに海洋生態系の基盤です。同じように、投資の世界でベンチャーキャピタルが占める割合はほんの僅かですが、過去40年の間に、ベンチャーキャピタルから支援を受けた企業は、米国GDPの21%に相当する3兆ドルの年間売上を達成するまでに、そして民間セクターにおける雇用の11%を創出するまでに成長しました。
日本におけるベンチャーキャピタルの影響力を分析した確かなデータはありませんが、米国における影響力よりは、恐らく小さいでしょう。米国や中国では年間何百億ドルもの投資が行われる一方、日本のスタートアップへの投資は年間約3000億円に過ぎません。世界有数のスタートアップ投資家であるソフトバンクの本拠地が日本であることは、何とも皮肉です。
とは言え、サンゴ礁と違って、日本のスタートアップ・エコシステムは確実に成長しています。スタートアップへの投資は2014年から2倍近く増加し、リスク回避型社会と言われる日本でも、スタートアップを創業したり、スタートアップで働く人は年々増えています。
起業家精神の捉え方が大きく変わりつつある日本では、やるべき事がまだまだたくさんあります。そして、日本のスタートアップ史において極めて重要な局面を迎えようとしている今、そのインパクトの最大化を図ろうとしない者はベンチャーキャピタリストとして失格ではないでしょうか。起業家が成功するには、資本やその他のリソースが整う環境が必要です。サンゴ礁は、海洋生態系の基盤となっていますが、私たちCoralも同じように起業のエコシステムの基盤を築きたいと思っています。未来は、未来を築く勇気のある少数の方々の頑張りにかかっており、私たちCoralは、道を切り開こうとする彼らを微力ながら支援していきたいと考えています。
私たちはここ3年の間に、日本の40社以上のスタートアップに投資する機会に恵まれました。こうした経験を通じて、自分たちが何を探し求めているのか、自分たちはいったい何者なのか、そして何者では無いのかを明確にすることができました。私たちの信念と覚悟を込め、ここにマニフェストを掲げます。
私たちは特定のタイプの方々に投資します
スタートアップは長期的なビジネスです。私たちは、起業して間もない起業家に投資する場合が多く、彼らとのパートナーシップは10年以上続く可能性があります。言うまでもなく、これは長い期間です。そのため、投資判断をするときには、長期にわたって(良いときも悪いときも)その方と一緒に働きたいかなども検討します。全ての投資がうまくいくとは思っていませんが、少なくとも一つ一つの投資が意味あるものであって欲しいとは思っています。私たちは様々なタイプの起業家に投資していますが、彼らには以下の共通点がある場合が多いです。
深く考えるタイプであること。私たちが投資する起業家はいつも正しい答えを持っているとは限りませんが、いつも自分たちのビジネスについて深く考えています。差し迫った問題に対して、重要なことをきちんと考え抜いた思慮深い答えを持っていて、自分たちの仮説を常に検証しています。
自信を持っていること。起業を乗り切るためには、自信を十分に持っていなければなりません。私たちが投資する起業家は、批判を受け止める自信を持っているのと同時に、正しい答えに辿り着くために様々な意見に耳を傾ける謙虚さも併せ持っています。私たちは自分たちの意見をはっきり言うタイプの投資家であり、それを共有することにも躊躇しません。異なる意見を言われて心が折れてしまうような方にとって、私たちは最適なパートナーではないでしょう。
高潔であること。私たちは透明性と強い倫理観を重視しています。これが必ずしも成功に不可欠ではないことは認識しています。残念ながら、中には不誠実な方法で大成功を収める起業家もいます。しかし、私たちにとって透明性と強い倫理観は、外せない条件だと思っています。
人の心をつかめること。帝国は1人で築けません。どんなに賢い起業家でも、ビジョンを実現するためには人の心と気持ちをつかむ必要があります。私たちが探しているのは、賢い人を採用できて手堅い人にも自分たちに賭けてもらえるよう説得できる、カリスマ性を持ちつつミッション実現にひた向きな起業家です。Bud Tribble氏は、Steve Jobs氏を形容するときにこれを「reality distortion field」(現実歪曲空間)と呼んでいました。
ヒットではなくホームランを狙ってスイングしていること。私たちは、業界または社会に大きな影響を及ぼしたいという根源的な欲求を持った人たちを探しています。私たちは、現状を段階的に改善することには興味がなく、難しい課題に取り組むことをいといません。大志を抱けない人に、世の中を変えるような企業はつくれません。私たちのゴールは、大胆不敵な勇者たちを見つけ出し、壮大なスケールの変革を起こせるよう彼らに必要なリソースを提供することです。
創業チームとマーケット、どちらも重視します
私たちは、投資テーマを持たないようにしています。つまり、特定のテーマに投資しようとしていません。ブロックチェーン、AI、フィンテックをはじめとするバズワードに投資したとしても、そこをめがけて積極的に投資している訳ではありません。そして、それには理由があります。特定の分野にフォーカスしたのにドリームチームが現れないと自分たちの予測が無駄になってしまうからです。
だからと言って、投資判断をするときにマーケット調査を行わないとか、起業家のことしか見ない、という訳でもありません。狙っているマーケットと創業チーム、そのいずれも大変重要です。
この状況をサーファーと波に例えて、うまく表現しているのがFloodgateのMike Maplesです。創業者はサーファー、そして波はマーケットあるいはより広く言うとアイディアです。一流のサーファーは、大小を問わずどんな波にも乗れます。しかし、ビッグウェーブが来なければ、ありがちで平凡なサーフィンになることは決まっています。だからこそ、サーファーの選ぶ波が重要になります。でも、実際に乗るべき良い波がなかなか来ないのと同じように、時間、ストレスとキャリアを犠牲にするほどのアイディアはそうそう巡って来ません。
波の大きさは重要ですが、その特徴も気になります。すでに沢山のサーファーがいるのか?良い波には、みんながチャレンジしたいと思っています。有力な既存プレイヤーたちは、同じ波に乗ることが出来るのか?もし出来ないのであれば、その理由は?私たちがとても多くの日本SaaS企業に投資してきたのは、その波に乗るサーファーがまだほとんどいなかったのが理由であって、積極的にSaaSにフォーカスしていたからではありません。
結局一番重要なのはサーファーです。サーファーであれば、誰だってボードに戻って別の波に乗る事が出来るし、とりあえず波を乗りきる事ができます。でも、素晴らしいサーファーが素晴らしい波に出会うと、奇跡が起こるのです。
私たちは「ハンズオン」でも「ハンズオフ」でもなく、
「ハンズイフ」投資家です
投資家から資金を受け取ったあと一体どうなるのか、起業家がそれを知りたいと思うのは当然です。スタートアップ業界で選べる投資家のタイプは千差万別ですが、よく言われる2つのタイプが「ハンズオン」(hands-on)または「ハンズオフ」(hands-off)です。
ハンズオンな投資家は、経営に深く関わることを好みます。経営陣の一員になることを誇りに思い、腕まくりをしてあなたの隣で一緒に働きたいと思っています。これは、特にアドバイスが欲しいタイプの起業家にとって、とてもプラスになることでしょう。しかし、マイナス面は、こういった投資家との対応に間接的なコストが生じがちな点です。頻繁にミーティングをし、毎週の状況報告を求めてくるかもしれません。あなたと密接に働いているからこそ、自分の意見を強く主張してくる可能性があります。自分で舵取りをしたいタイプの起業家にとって、このような投資家は、たとえ善意であっても、重たく感じるかもしれません。
ここまで読めばすでに予想していると思いますが、ハンズオフな投資家はその逆です。あなたの銀行口座に送金し、幸運を祈る!と言ったまま、起業家から連絡しない限り音沙汰ありません。彼らは、忙しすぎて細かくモニターできないか、あなたにただただ経営を任せたいと思っているのです。いずれの場合も、それがその人のスタイルなのです。投資家に資金を送ってもらい、あとは放っておいてもらいたい、と思っている起業家にはパーフェクトなアプローチです。
結局、私たちはどちらなのでしょうか?端的に言うと、2つの中間です。私たちは「ハンズイフ」な投資家です。つまり、「IF(もし)助けが必要になったら呼んで」というスタンスです。起業家が助けて!と言ってくれれば、助けを求められた分野に深く関わります。定期的なミーティングの代わりに、メッセンジャーで頻繁にやり取りをし、リアルタイムでその都度、課題解決を図ります。次の資金調達をサポートして欲しい、採用を助けてほしい、ストックオプションプールについて支援してほしい、ピッチを完璧にしたいので助けてほしい、あるいは顧客を紹介してほしい、など課題は様々です。
私たちは、起業家のベビーシッターはしません。私たちは、自分たちが信じることのできる起業家に投資するのであって、経営してみたいと思う会社に投資するのではありません。
VCの中には、新事業のアイディアを着想してから、それに見合った起業家を探す方々もいます。また、大学で技術者や科学者を探し当ててから、職業的なCEOを当てがうVCもいます。ビジネスを構築し収益を上げる一つの方法かもしれませんが、私たちはそういうアプローチをとりません。素晴らしい企業は起業家が作るものであって、投資家がつくりあげるものではないと信じています。米国であればAmazon、 Googleや Facebook、日本であればSoftbank、 ZOZOやMercariなどの歴史を変えるような企業の舵取りは、国を問わず、ほぼ間違いなく起業家自身が行なっています。
ベストプライスでないかもしれませんが、
ベストバリューは提供できると自負しています
私たちは、必ずしも一番高いバリュエーションを提示するわけではありません。
スタートアップの資金調達の選択肢が急増した日本で、お金はコモディティ化しています。マーケットには、未だかつてないほど事業会社、ベンチャーキャピタル、政府、銀行やエンジェルがいます。そんな中で、私たちが単に資金だけを提供するのであれば、私たちの投資する際のバリュエーションは上がり続けるはずです。しかし、私たちの場合、バリュエーションは逆にここ数年下がっています。
その理由はおそらく私たちのとっているアプローチです。私たちにとってベンチャーキャピタルとは、起業家を顧客とするサービス業です。資金は私たちが提供するサービスの一部です。他にも、下記のような機能を自分たちのプラットフォーム上で提供することで、起業家の成功をサポートしています。
資金調達: 起業家が次ラウンドの資金調達をできるよう、体系的なアプローチをとっています。起業家のために国内外の投資家情報を蓄積したデータベースを管理しているので、資金調達のタイミングが来たときに紹介すべき投資家やその投資家に合ったピッチ方法を熟知しています。その甲斐あって、私たちが投資した起業家のほとんどが、1年以内に次ラウンドの資金調達に成功しています。
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採用: 投資が決まって次に起業家を悩ませる問題は採用です。これを手助けするために構築したのがインハウスの採用支援機能です。起業家がアクセスできる採用候補者データベースを構築し、採用支援を行う当社のタレントマネージャーが一度に250名以上集まるキャリアフェアや、職種に特化した採用イベントなども定期的に開催しています。
広報活動: スタートアップにとってメディアに取り上げてもらうことは、採用、顧客の獲得や資金調達において重要な要素です。広報活動を支援するために、国内外のジャーナリストと緊密なネットワークを維持し、私たちの支援先スタートアップが十分な報道を受けられるよう、いつでも広報コンサルタントに相談できるようにしています。そのため、私たちの支援先スタートアップのほとんどが、主要なメディアに取り上げてもらっています。
コミュニティ: 私たちの投資先は、投資先起業家コミュニティの仲間に入ることができます。起業家の方々は業界は異なれど、似たような困難に直面しています。私たちは、オンラインとオフライン(年40回以上のイベント開催など)の双方の繋がりを築くことで、互いの成功を支援し合うコミュニティを築いています。
私たちからの投資を受け入れてくれれば、資金と共に上記の全てが付いてきます。バリュエーションの金額で差別化を図れなくても、私たちから投資を受け入れてそれを後悔した起業家を見つけることは非常に難しいでしょう。これはただの推測ではなく、投資先の起業家を対象に四半期毎に行っている匿名の顧客満足度調査で測定したものです。他の起業家に私たちのことをどの程度強く勧めるか、という質問に対して、起業家の方々は常に90%超と大変高く評価していただいています。
起業家は私たちの顧客であり、私たちは顧客サービスの向上のために弛まぬ努力を続けています。一番高い金額を提示しなかったとしても、あなたの持分の価値を最大化すべく懸命に努力します。ウォーレン・バフェット氏が言ったように “Price is what you pay. Value is what you get.” (価格はあなたが支払うもの、価値はあなたが得るもの)なのです。
私たちは自分たちで考え自分たちで判断します
ベンチャー界隈で集団心理を回避することは、資金調達と投資の両側面から見ても難しいことです。
VCが資金調達をする際、LP投資家は投資のスコープが、彼らに与えられた投資課題を反映していると安心します。ベンチャーキャピタルの投資マネーの多くが事業会社に由来する日本では、これがとりわけ顕著です。事業会社の投資家の投資傾向は、その時々のトレンドに左右されがちで、彼らは、上層部から託された投資対象リストに「投資済み」と書ける機会をうかがっています。「FinTech」や「AI」に特化したファンドを組成しているVCが多いのも、これが大きな理由です。大手ビジネス雑誌で取り上げられる最近のキーワードを見れば、資金が集まりやすい分野がわかります。しかし、こうしたファンドは、起業家ではなくLP投資家を念頭に組成されています。
投資判断をするときも、周囲に合わせるべきではないかというプレッシャーはあります。多くの投資家は(ときには私たちも)、投資テーマが他者によって認められると安心するものです。他の方(しかも信頼している方)の目から見ても、特定の投資カテゴリーまたは企業に投資する価値があると判断してもらえると、自分の中でも確信が生まれます。しかし、投資家が他の投資家に追随するこの現象は、投資家が基本的に同じ企業しか追いかけなくなる雪だるま式効果を生み出してしまうこともあります。
資金の流入は価格の上昇のみならず競争の激化も招くので、投資家としてこの2つは避ける方が賢明だと私たちは考えています。そして、アーリーステージのスタートアップに投資する投資家としては、他のみなさんが良い投資だと思う「前」に投資することがさらに必要不可欠だと思っています。だからこそ、投資をするときにはいつも自分たちで考えるように努めています。追加投資の決定をするときも同様です。私たちは、起業家が次ラウンドの資金調達活動を始める前に、起業家への追加投資について決断をします。こうすれば私たちはいや応なく、他の投資家のバイアスに惑わされることなく、独立して自分たちで考えられるようになります。
日本:究極の逆張り投資?
スタートアップ・エコシステムのことになると、日本はしばしばおまけのように扱われることが多くあります。中国、インドや東南アジアに投資できるのに、なぜわざわざ日本に投資するのか?中国、インドや東南アジアは成長経済である上に、アジアにおけるスタートアップの成長マーケットでもあります。国外の投資家と話すと、ほとんどの方がこう答えます。
それに対して、そう簡単に反論することはできません。世界第3位の経済大国でありながら、日本におけるスタートアップへの投資は本当に少ないのです。さらに厄介なことに、日本では逆の認識が浸透しています。国外のほとんどの人たちが、日本のスタートアップに対する投資額の少なさを笑う一方で、日本国内のほとんどの人たちは、投資額の多さを心配しているのです。
さらに、国外の人たちは、日本のスタートアップ市場がどれだけ成長したかを知らず、その一方で国内の人たちは、日本の経済規模に比べてスタートアップ市場への投資が極めて少ないことに気づいていません。
日本の課題は、自信と大志を持った人材が不足している点です。逆にアメリカと中国では、この2つの要素を併せ持つ人材が有り余る程います。根拠もなく浮かれていると大失敗してしまう可能性もありますが、そのような人たちによって多数のスタートアップが作られ、そしてその多くが消えていく中から、Uber、AirbnbやTencentのような革新的な会社が誕生しています。だからこそ、結果はプラスになるのです。どうすれば投資した数千億から数兆億分の価値を創出できるだろうか?幾つかの異常値さえあれば、損失分を取り戻す事ができます。日本で足りないのは、そのような考え方かもしれません。
幸い、明るい兆しはあります。起業のイメージは変わりつつあり、より優秀な起業家が増えています。最も優秀な人材は、起業したりスタートアップのメンバーになる傾向がどんどん強くなっているので、規模が大きく安定した歴史ある企業は、以前のように優秀な人材を引き寄せられなくなっています。そして、このような起業家らは、ヘルスケア、法務、保険や物流をはじめとする、テクノロジーがまだ十分に浸透していない分野で、かつ、のんびりした企業が主に支配する巨大なマーケットを狙っています。こうした既存企業は、手強い挑戦者が現れなかった時代を長期にわたり十分に享受してきました。しかし、革命はすぐそこまで迫っています。
優秀な人材と資本が増えてきた現在のスタートアップ業界は、まさに(複雑で多様な海洋生物が急増した)カンブリア紀のはじまりのようです。国を明るい未来に導く革新的な起業家に十分な資金と支援を提供するのか、それとも、漸進的な発展と短期的リターンを求めて未来に十分な投資をしないのか。日本は今その岐路に立っています。私たちは、迷いなく前者を選びます。
私たちCoral Capitalは、大志を抱くスマートな人々を育むサンゴ礁のような存在を目指します。こうした人々が、業界、社会の変革者として、真に世界を変えてくれると信じています。