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「なぜ自分が起業するのか」気付かせてくれた投資家と1人創業を支えてくれた相棒との出会い

今回は、元500 Startups Japan(現Coral Capital。以下「500」、「Coral」)のコミュニティマネージャーの東野万美が、ユリシーズ株式会社の代表取締役の諸岡裕人さんに創業期と現在のお話をお伺いしました。

家業を継ぐか、起業をするか、人生の分岐点での投資家との出会い

ー諸岡さんと初めてお会いしたのは、2016年秋頃に500が主催したFounders Fridayという創業期の起業家・起業志望者のためのミートアップでしたね。まず最初に、イベントに参加された経緯をお伺いしたいです。

あの時、親父の会社を継ぐか、自分で起業をするか、選択を迫られていた時期だったんです。起業と言っても、当時スタートアップについての知識はありませんでしたが。32歳で起業した親父は、今では機内食の食器洗浄、空港のチェックインカウンター、ホテルの客室清掃等、いわゆるブルーカラーと呼ばれる仕事を請け負う会社を成田で経営しています。学生の頃から、「家業を継ぐ」という意味で「自分はいずれ経営者になる」という意識を持っていたんですが、いつからか「自分で起業して、親父を超えるような会社をつくりたい」と思うようになりました。

それで、「まず親父の会社で新規事業をやる」と意気込んで求人広告の事業を始めたんですが、結果的に全然上手くいかなくて。ただその時、サービスサイトをつくるのに800万円も掛けてしまったことをきっかけに、今後も新しいサービスをつくるとしたら、自分でサイトをつくれないと話にならん!と、「プログラミングの学校に1年通いたい」と思ったんですよね。

それを話すと、親父には「勘当するぞ」と言われましたが、最終的に「自分で起業しなかったら、俺の後を継げよ」という条件をのんで、G’sアカデミーに通い始めました。

ー当時、すでに事業のアイディアがあったわけでは無いんですか?

はい。ですが、偶然にもG’sアカデミーでの最初の授業の講師がSmartHRの宮田さんで、そこで初めてスタートアップ起業についてや、事業をつくる上で「なぜ自分がやるのか」、「なぜ今なのか」を考える大切さを知りました。

でも、いざ自分で考えてみると、良い事業アイディアが全く出ない。エクセルに100個くらいネタを書き出したこともあったんですけど、どれもこれもピンとこなくて。事業案を練ってアクセラレーターに応募するも落ちまくる、みたいな状況が続きました。

で、その1年間の終わりが近づくにつれ、「あ~俺、このまま成田に戻って親父の言いなりになるのか」と思っていた時に、Founders Fridayに参加したんです。確か、2回応募したけど満員の連絡が来て、半ば諦めていた頃でもありましたね。絶対に選別されていると思ってたので、かなりネガティブになってました・・(笑)

この後、3度目の正直でついに参加できることに・・!

ーそうでしたね。応募者も多かったので、人数調整をしていました。すみません(笑)参加されて、どう変わりましたか?

そんな心境だったので、「行くの辞めようかな・・」と迷いながらも、当日なんとなく参加してみたんですよね。そしたら、東南アジアでECをやってるとか、AIのサービスをつくっているとか、未踏エンジニアとか、錚々たる参加者がいる中、「俺何も言うことないや・・今なんて学生だし」と引け目を感じていた時に、偶然目の前に座っていて、僕の家業の話を聞いた澤山さんが「それこそインターネットだよ、諸岡さん!絶対にやる価値があるよ!」って言ってくれたんです。

しかも、たまたま隣に座っていたAI研究者が、「食品工場に行ってみたい」と言うから、その翌日には早速ヒアリングの日程を決めていました。その時から何かが変わり始めましたね。実際にヒアリングに行ってみると、紙が多いとか管理が大変っていう課題感を共有してもらえて、改めて「自分がいた業界って、こういう課題があったんだなぁ」と気付きました。特に食品管理や品質管理に関して詳しいわけではありませんでしたが、何人にもヒアリングさせてもらう中で、次第に「よく課題が分かってる」とか「君が変えようとしていることは素晴らしい」とまで言ってもらえるようになり、背中を押してもらいました。

結局、その1ヶ月後くらいに起業しましたね。そのAI研究者の彼も自分で起業をするということで共同創業には至りませんでしたが、あの時一緒にヒアリングに行ってくれたこと、そもそもこのイベントに参加しなかったら、起業には至らなかったと思うので、あのとき参加して良かったですね。

1人創業の自分を支えてくれた相棒との出会いと事業選定の苦悩

ー次の日から早速行動されてたというのは知らなかったです。1人で創業されていますが、10日後に2人目がジョインされたんですよね。

そうです。当時は、周りがどう起業しているのか全く知らなかったので、1人の怖さも分からずにとりあえず起業しましたね。そんな時に、Wantedlyの募集記事を見て応募してくれて、自分の誕生日なのに面談に来てくれたのが三宅でした。「自分がいなかったらこの会社は終わる、と思えるような、社長1人しかいないところにジョインしたい」という思いをぶつけてくれて、僕もそれくらい覚悟の強い人を求めていたので、今考えるとタイミングも相性もぴったりで本当にラッキーでしたね。プライベートだったら絶対に話さないような奴ですけど(笑)

僕にとって、三宅はほとんど共同創業者ですね。

ー頼もしい仲間が加わった後、事業選定や事業づくりについてどう進めていったのか教えていただけますか?

創業前から食品工場にヒアリングに行って良い反応を得ていたことと、三宅が入る前に応募したアクセラレーターから「是非出資をしたい」と言われたこともあったので、業界や事業選定は間違っていない、という自信だけはありました。ちなみにその時も、投資の条件などについて澤山さんに相談しましたね。幸い親父から創業資金を借りられたことと、澤山さんが「やることが決まっていて自己資金があるんだったら、別にまだそんなに焦らなくても良いんじゃない?」と助言してくれたことで、結局調達は受けなかったですが。

ただ、問題だったのはその後ですね。2016年の12月に起業して、その2ヶ月後には3Dプリンターでつくった温度計のプロトタイプもできあがったんですけど、この反応が全く良くなくて。純粋に、「食品=温度が大事だ!」と思い込んでいたら、どの食品会社や工場に持っていっても「いや、温度しか測れないなんて使い道が無いよ。要らない」と言われてしまい、そこでピボットすることになり・・。

ーそれから全く違うサービスもつくり始めたんですね。

そうです。コミュニケーションツールのサービスや、落し物の管理サービスなんかもつくりましたね。でも、とりあえず新しい事業をつくってみても、つくり直しても反応が散々で、全然上手くいかなかったです。三宅と2人きりで毎日お通夜みたいでしたよ。「いや、こんなの使わないっすよー」って昔の部下からも言われたこともありましたね・・。

この時、起業家にとって1番辛い瞬間って、予想や期待が外れたことじゃなくて、試す打ち手が何も無くなっちゃうことだと学びましたね。「もう何も無いんですか?この会社には」と思われるのが怖くて。でも創業から5ヶ月経った頃、GW前後には、そういう状況に陥っていました。

ー辛い時期ですね・・。そこから、どう持ち直したんですか?

転機になったのは、そんな状況になる前に申し込んでいた機内食業界のカンファレンスに参加したことでした。事業も上手くいってないし元気も無くて、正直行きたくなかったけど、義理があるという理由だけで参加したんですよね。数ヶ月前に、捨てたはずのプロトタイプの温度計を持って。そしたら、機内食工場の会社を経営する3人の社長が「諸岡、頑張れ!大変すぎて誰も現場の課題を解決しようとしていないけど、火中の栗をお前が拾ってくれ。応援しているから」と言ってくれたんです。その後のパーティーのスピーチでも、200人くらいの参加者に向かって「諸岡くんが、SmartQC(当時のサービス名)という非常に素晴らしいサービスをつくっているので、みんな応援してあげてください」とまで言ってくれた人もいました。

その時、「あぁ、もうスケールしなくても良いや。とりあえず、目の前にいるこの人たちだけに刺されば俺は満足だ。日本にある機内食工場の会社、7社の7人の社長だけに感謝されるだけでも良いから、やってみよう」って思い直せたんですよね。すぐ三宅に、「SmartQCをもう1回やろう」と伝えたら、「何があったんですか?諸岡さん」と言いながらも、「諸岡さんが腹くくったなら、俺もやりますよ」って返してくれて、頼もしかったですね。

ー本当に素敵な方々や仲間に囲まれていますね。

そこからまた、少しずつ車輪が回り始めて、今の事業まで続いてきてるっていう感じですね。だから、事業選定に関しては、起業してからの方がブレたり、辛い瞬間は多かったです。でも、やっぱり色々迷って家業に近い最初の事業アイディアに戻ってきた時に、「Why you?なぜ自分がやるのか」がより明確になりました。それから、どんなに自分でやろう!と思っても、やっぱりどこか恐怖感が拭いきれない時もあるんですよ。そんな時に、業界の人や仲間だけでなくて「それ面白いね、やる意義絶対ありそうだね」と投資家に言ってもらえたことも、初めて起業する僕にとってはすごく自信になりました。

ーそういえば、出会ってから投資が決まるまでの約1年の間、Jamesが諸岡さんと会う毎に「彼は会うたびに変化していているんだよね。進捗があるというか、起業家として成長しているというか。その成長スピードも早いし、なんかすごいんだよなぁ」と言っていた記憶があります。

最初は、起業するかどうかも分からなかったくらいですからね(笑)今も、2ヶ月に1回くらいは上手くいかないこともあるので、仮説が無くなりそうになったら新しい仮説を探して、試して、ダメになったらまた探して・・と、遠回りしながらも少しずつ前に進めているかもしれませんね。

起業のきっかけとなった投資家からの出資

ー創業して半年後に、TECH LAB PAAK(以下「PAAK」)を卒業されていますが、その頃から本格的に資金調達を始められたんですか?

そうですね。その頃、偶然PAAKのピッチをTwitterで知ってくださったBEENEXTの前田ヒロさん(以下「ヒロさん」)が連絡をくれて、投資に興味を持ってくださいました。

あと、これは特殊だと思うんですけど、僕の中で、ユリシーズは500に産んでもらったみたいな気持ちがすごく強かったので、起業した時から「500に出資して欲しい」とはずっと思っていましたね。PAAKに入居していた時にも、Jamesと澤山さんにそれぞれメンタリングで会う機会はありましたが、その後も時々Jamesから「出資したいと思ってるけど、まだ早いかな?」と連絡が来ることもありました。

方向性がブレていた時に一度、当時考えていた新しい事業、落し物の管理サービスについてのアイディアを澤山さんに送った時は「へー、面白そうですね!」の一言だけで返信がこなくなってしまったので、「あ、これは終わった・・」と思ったこともありましたが(笑)

ーそんなこともあったんですね(笑)

投資が決まる前に参加させてもらったBBQで、改めてこのコミュニティが好きだなぁと思っていたら、数日後にJamesと澤山さんがオフィスに来てくれて、その場で握手しましたね。

直近の調達でも、Jamesから「もうすぐ調達する?」と聞かれて打ち合わせした直後に「追加で◯◯万円出資することに決めたから。 ▲▲(投資家)にも僕からプッシュしておくね」って連絡が来ました。調達に関しては本当に起業家目線でサポートしてくれるので、マインドシェアを奪われることなく、事業に集中することができました。

人と違うことに挑戦し続けたい。そんな自分を信じてついてきてくれる仲間

ーちなみに、起業をするにあたり、お手本にしたり、尊敬している人はいたんですか?例えば、その後の組織づくりで参考にした会社など。

特定の誰か1人や1社をお手本にしていたということは無いですね。起業当初、SaaSについても無知だったので、ヒロさんのブログを読んだり、Salesforceの創業者ガイドを読んだり、セミナーに参加したりしながら学んでいました。

何となく頭で理解してやってみるんですけど、全然上手くいかないんですよ。何か課題にぶつかると、それをテーマとした本を読むというのをよくやっています。自分が感じる課題なんて、世の中の経営者が既に向き合ってきたものばかりです。

最近読んですごく良かったのが、サイボウズの社長の青野さんの『チームのことだけ、考えた』という本ですね。組織づくりで悩んでいた時に読んで、とても参考になりました。

ーそうやって、自然といろんな情報を得て自分のものにされてきているんですね。では、投資家以外の身近な経営者や起業家の方で、よくご相談されていた・いる方などはいますか?

ん~。方向性で何かに迷っている時、安心感が欲しい時は、ヒロさんに話してみて「良いと思います!」と言ってもらって、「よし、大丈夫だ!」と思うようにしているんですけど、よく考えると、特定の起業家にはあまり相談しないですね・・。

いつも、だいたい三宅に相談しちゃいますね。何でも相談するし、時にはオフィス以外の場所に一緒に籠って1つのトピックについてひたすら話し合ったり。迷ったら、まず彼に相談します。

あとは、Coralの起業家コミュニティで相談することもありますね。昨年、大きな展示会への出展時に相談してヒントを貰い、結果、1,200枚の名刺をゲットできて大成功ということがありました。月並みですが、同じフェーズか、少し先を行ってる起業家が近くにいるというのは、いざという時に心強いですね。

ー1番近くにいる相手に相談できるのは、とても重要ですね。時々、一度も一緒に働いたことが無い相手との共同創業は、上手くいかないことが多いと言う人もいますが、この2年ちょっと、三宅さんと一緒に過ごしてきて意識されてきたことや秘訣はありますか?

やっぱり、弱音を吐けることですかね。最初は少し強がってたんですよ。自分が創業した会社だし、自分の方が詳しい業界の事業だし。でも、彼と事業をつくっていく中で気づいたのは、バックグラウンドが全然違う者同士が集まってスタートアップをするのなら、相手を信頼して、自分の弱い部分や悩みはどんどんさらけ出した方が良いんじゃないか、ということでした。創業期なので、正直距離を縮めている時間は無いじゃないですか。弱みを見せることで、そのスピードが一気に上がると感じています。

もちろん、全部手探りだったので、意識してやっていたわけじゃないです。特にピボットしようとしていた時期に、「これダメじゃないかな」と素直に弱音を吐けていたことを振り返ると、これが今の関係性を築くために1番大事だったんじゃないかなと思います。

ー良い相棒ですね。では、今後挑戦していきたいことを教えてください。

これまでドメインを食品工場に絞ってやっていたんですけど、課題を聞いて紐解いてみると、どこの製造業も一緒だったりするので、他業種・他業界に向けて実験的に横展開し始めています。

プロダクトに関しては、帳票をデータ化する部分はある程度できるようになってきました。次のステップでは、現場のデータを使って改善活動をサポートするような機能を作っていきたいですね。日本でも僕らしか持っていないデータがこれからドンドン生まれてくるので、ここからが開発チームにとっても楽しいフェーズに入ってくると思います。

とにかく現場は課題だらけですからね。お客さんからは、「諸岡さん、これもカミナシでどうにかしてください」という相談が止みません。後、30年くらいは楽しめると思いますよ。

ーではそういった中で、今課題に感じられていることや、またその課題解決のために、どういうチームをつくっていきたいかを教えてください。

課題だらけです・・(笑)

ありがたいことに、徐々に引き合いも増えているんですが、今はビジネスチーム2人で回しているので、インバウンドのお客さんに対応するので一杯一杯になっている状況です。なので、セールスの採用を最優先にやっています。

ヒロさんも「SaaSはとにかく人が必要」と仰っていますが、採用計画を達成しないと売上も達成しないということを肌で感じています。これまではプロダクトづくりに集中していましたが、よりレバレッジの効く組織や文化づくりに時間を使っていかないとスピードが出ないことを実感しました。良いチームとは何か?どうすればつくれるのか?ということを一生懸命考えて実施しているところです。

先日、Coralでもやられている、チームリトリートを実施したところ、全員でこれまでの人生を振り返って自己開示し合い、とても素晴らしい時間を過ごすことができました。まだ始まったばかりですが、お互いの強さも弱さも理解し合って、思いやりを持てるチームをつくっていきたいですね。

ー最後に、ユリシーズに興味を持ってくれた人たちに一言お願いします。

4月にオフィスも移転しますし、今現在チャーンもゼロだし、有名企業も使ってくれてますし、これから楽しくなっていくと思っています!少しでも興味を持っていただいた方は是非新オフィスに遊びに来てください。一緒にブルーカラーの世界を、現場を、働き方を変革しましょう!

ーありがとうございました!


今回インタビューにご協力してくださった、食品製造SaaSの「KAMINASHI」を提供するユリシーズ株式会社に興味ある方は、ぜひこちらから採用情報をご確認ください!

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Editorial Team / 編集部

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