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スタートアップの売却における主要な問題 ⑷表明保証、補償、エスクロー

本ブログはニューヨークのベンチャーキャピタルUnion Square Venturesでパートナーを務める、Fred Wilson(フレッド・ウィルソン)氏のブログ「AVC」のMBA Mondaysというシリーズの投稿を翻訳したものです。今回は第5回目としてスタートアップのM&Aを取り巻く、主要な問題の一つ「表明保証、補償、エスクロー(原文:Reps, Warranties, Indemnities, and Escrows)」についてご紹介します。また、記事公開にあたり、プルータス・マネジメントアドバイザリーに日本での実務の観点からコメントいただいています。

これまでの記事は下記よりご覧いただけます。


これまでM&Aに関する議論を行って来ましたが、今回は、事業売却時に契約で決める事柄、その取り決めを守るために取り分けておくべき金銭についてお話ししたいと思います。

まず最初に大事なことを言っておきますが、私は弁護士ではありません。けれどこの投稿は法律に関する事柄を扱っています。私は補償条項(Indemnities) という単語のスペルさえよく分からず、自分のスペルが正しいのかどうか再確認しなければなりませんでした。いろいろなことについてあれこれ述べますが、本当に理解したいのなら弁護士のところに行って尋ねてください。弁護士はこういうことのためにいて、その価値があるのですから。ここまで分かっていただいたところで先に進みましょう。

事業を売却する際には買い手に対し多くの事柄を表明します (表明条項)。あなたは貸借対照表に記載されている全ての資産を所有していること、貸借対照表に記載されている以上の債務はないこと、所有していると述べている知的財産を全て所有していること、顧客であると述べている相手との契約は全て本当に存在することなどを表明します。そのほかにもたくさんの事柄を挙げることができます。買収契約の表明条項のリストはとても長いものになります。

これは契約であり、重要視すべきものです。ある事柄について表明を行う場合、あなたは非常に注意深くあるべきです。表明事項の全てを読み、それが現状を正確に捉えたものであるか確認しなければなりません。全てとは言えませんがほとんどの表明条項にはスケジュールが記載されていますのでそれも読みましょう。これは買い手に対する約束です。正確を期さねばなりません。

表明条項は現時点での事実についてのものですが、保証条項は将来に関するものです。売却契約では多くの事柄を保証することが求められます。これらも注意深く読みましょう。各項目について確信が持てなければなりません。弁護士は契約を作成しますが、契約の当事者はその内容通りであらねばなりません。だから契約書を、署名すべき単なる紙切れのように扱ってはなりません。合意されようとしている内容を理解するようにし、そのために時間をかけましょう。理解できない場合には必要なら一行一行弁護士に説明してもらいましょう。(訳注:日本では「Representations and Warranties」をRepresentations(=表明条項)とWarranties(=保証条項)に分けて考えることはあまりなく、「表明保証条項」として一つにすることが一般的です。)

補償金は表明保証条項の記載事項が虚偽だと判明した場合に売り手から買い手に支払われるべきものです。これについても契約で取り決めがなされます。表明保証条項に関連して自分がどれだけの責任を負っているのか理解しておきましょう。

買い手は、売り手が補償金に充当するため購入対価のある割合を、通常は1年間取りのけておくことを求めます。この割合はほとんどの場合10%ですが、取引のタイプによってはそれを上回ることも下回ることもあります。エスクローとは、補償条項に基づいて売り手を相手取り訴訟を起こすことなく買い手が後から請求できる代金を指します。

売り手側株主を代表するエスクローエージェントが仲介を行う場合もあります。大抵の場合エスクローエージェントを務めるのはリードインベスターです。当社も何度もエスクローエージェントを務めたことがあります。報われない役目ですが大切な役目でもあります。エスクローの金額について係争があったり、より大きな金額の支払いが請求されたりした場合、買い手側と交渉を行うのは株主代表です。

テクノロジー分野スタートアップの M&Aにおいて特に問題となることが多いのがIP (知的財産) 、特に特許に関する表明条項です。テクノロジー企業に関して発表される大規模買収案件は特許トロールにとって格好の餌食です。売り手のエスクロー目当てに特許権侵害裁判が起こされることがあります。弊社のパートナーのBrad Feld(ブラッド・フェルド)氏はこの種の案件の一つに何年も関わっていますが、醜い争いです。

しかし大抵の場合、買い手は、大した金額交渉もなく期限通り (通常売買の1年後) に、エスクローの支払いを行います。ただし時には買い手が正当な申し立てを行い、エスクローを利用して補償金が支払われることもあります。(少なくとも私の経験では) 買い手が、エスクロー以上の金額を要求することは滅多にありません。こうしたことが最も起こりやすいのは、明白な詐欺取引の場合においてです。

要するに事業売却時には事実と将来の行為について多くの事柄を表明することを求められます。それらを重大事項と考え、自分が何にサインしているのかきちんと理解するようにしましょう。表明した内容を確実なものとするため、売価の少なくとも10%は取りのけておけるよう準備しておきましょう。そしてもし何か問題が起こった場合はその10%のうちいくらか、あるいは全部を失う覚悟は決めておきましょう。

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Editorial Team / 編集部

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