本ブログはニューヨークのベンチャーキャピタルUnion Square Venturesでパートナーを務める、Fred Wilson(フレッド・ウィルソン)氏のブログ「AVC」のMBA Mondaysというシリーズの投稿を翻訳したものです。今回は第7回目としてスタートアップのM&Aを取り巻く、主要な問題の一つ「買収対価(原文:Consideration)」についてご紹介します。また、記事公開にあたり、プルータス・マネジメントアドバイザリーに日本での実務の観点からコメントいただいています。
これまでの記事は下記よりご覧いただけます。
- 第1回:スタートアップの売却における主要な問題
- 第2回:統合後の事業計画
- 第3回:ステイ・パッケージ
- 第4回:ブレイクアップフィー
- 第5回:表明保証、補償、エスクロー
- 第6回:タイミング
あなたとあなたの株主が受ける支払いが、M&Aにおける買収対価(Consideration)です。 支払いの最も一般的な方法が現金です。 もうひとつの一般的な支払い手段は、買い手の株式です(訳注:原文では買い手から手形=借用証書を受け取ることについても言及がありますが、日本では手形はほとんど使われていません)。もちろん、多くの取引では1つ以上の買収対価の形式が組み合わされています。現金と株式の組み合わせは非常に一般的なものです。
ほとんどの場合、最良の支払い方法は現金です。現金で支払いを受ける際には、受け取っているものを正確に把握しています。買収価格が売り手とその株主にとって大きな金額である場合、私はほぼ必ず現金を選ぶでしょう。あなたの会社が多額の財産を生み出したのであれば、なぜその財産を他の会社の運命に賭けるのでしょうか?
あなたの会社の売却価格が比較的安いけれど、買い手の株式に利点があると大いに信じているならば、株式は買収対価を得るための最も良い方法です。 良い例は、急成長している非公開企業への若い企業の売却です。 Ev Williams(エヴァン・ウィリアムズ)氏がBloggerをGoogleに売却したとき、Bloggerの株主は非公開のGoogle株を取得しましたが、Google株は最終的に上場された時に高い価格をつけました。 Summizeがツイッター検索サービスをTwitterに売ったとき、Summizeの株主はTwitterの株式(および現金)を手に入れましたが、それ以降のTwitter株は非常に高く評価されています。 こうした取引で、BloggerとSummizeの株主が現金を受け取っていれば、ほとんど利益を得ることはなかったでしょう。 株式を選択することで、会社の売却を素晴らしい取引にしてみせました。
買い手が売り手に株式を支払いとして受け取るように要求することがあります。 買い手が購入するのに十分な現金を持っていないことが原因かもしれません。 または、買い手が売り手と手を組みたいので、売り手となんらかの関係を保つ状況にしておきたいと思っているからかもしれません。
あなたが株式を買収対価として受け取っている場合は、買い手の株式の短期、中期および長期的な展望を注意深く評価する必要があります。 最初のインターネットバブルの間に、当社のポートフォリオ企業の1社を他社の株式を買収対価に売却しました。 私たちは買い手の企業を精査して、その企業が脆弱で問題を抱えていることを知っていました。 しかし、私たちのポートフォリオ企業も同様の状態にありました。 3ヵ月後、買い手は破綻し、私たちは投資をすべて失いました。 もし売却していなくても、おそらく同じ結果に終わっていたでしょう。 しかし、私がこの話を紹介するのは、非公開株を受け取ることは危険を伴うということを皆さんに理解していただきたいからです。買収対価となる株式が公開されていて流動性が高く、すぐに売却して現金化することができない限り、EXITとは言えません。
公開株の売却は、非公開株の売却とは大きく異なります。 公開株は、特に売り手の株に制限がない場合には、現金に非常に近いものです。 特に制限のない公開株を取得した場合は、すぐに売却して現金化することができます。または、 プットオプションやコールオプションを設定して株式をヘッジすることで、多くのリスクを取り除くことができます。 あるいは、通常の売却プログラムに則って売却することもできます。 公開株を買収対価としてあなたの会社を売却する場合は、あなたが受け取る株式に売り手が設けようとする制限に多くの注意を払ってください。 そして可能な限りそうした制限には抵抗してください。
売り手から手形を受け取ることにあまり魅力はありません。 手形は(株式と比較して)上昇する可能性は極めて少なく、すぐに現金化もできません。 手形には、買い手の経営が行き詰って、手形を支払えなくなるリスクが残っています。 手形は株式のように会社の業績によって変動しません。買い手が事業を続け、支払い能力があれば、額面金額に利子を加えたものが支払われます。 これまでに手形を対価として受け取ったことが何度かありますが、ベンチャーキャピタルとスタートアップ企業では非常に稀です。 実際問題として、私は手形は避けたいと思っています。
要約すると、M&Aの取引では複数の方法で支払いを受けることができます。通常、 現金が最も好ましく、また最も一般的な支払い方法でもあります。 買い手の株式に利点がかなりあると思われる場合、またはそれが公開株で、流動性が高い場合、株式は魅力的です。 手形は、対価として一番魅力が低く、ベンチャーキャピタルとスタートアップ業界では珍しい支払い方法です。
Editorial Team / 編集部