本ブログはニューヨークのベンチャーキャピタルUnion Square Venturesでパートナーを務める、Fred Wilson(フレッド・ウィルソン)氏のブログ「AVC」の投稿を翻訳したものです。先週ご紹介したブログ、「スタートアップにおける、アウトソーシングの活用」の続きとなっています。
先週のMBA Mondaysのアウトソーシングに関する記事について、その後寄せられた議論の多くが、アウトソーシングを国内で行う場合と国外で行う場合の違いについてでした。後者のアプローチを指す言葉としてオフショアがよく使われます。
現代の電子コミュニケーションの出現により、企業は世界中で効率的に労働力を調達し、管理できるようになりました。これは私たちが暮らす現在の経済時代を代表するメガトレンドと言えるでしょう。
しかし、地球の裏側の労働力を使えるからという理由だけで実際にそうすべきではありません。この記事では、私が考えるオフショアのメリットおよびデメリットについて述べています。
メリットとしては、オフショアは多くの場合においてかなりのコスト削減に繋がります。新興国の人件費は先進国の人件費のわずか数分の一であることが多く、教育水準やスキルの高い労働力を獲得することができます。当社のポートフォリオに名を連ねる企業の中には、ベラルーシやスロベニア、インドといった国で世界に通用するエンジニアリングチームを作り上げた企業があります。これらのチームはより少ないコストで、しばしば驚くべき成果をあげます。AVCコミュニティーのメンバーであるKen Berger(ケン・バーガー)氏は、ベトナムにおいて、有能なRubyエンジニアのチーム作りに携わってきました。私は、そのチームがサンフランシスコやニューヨークのRubyエンジニアのチームの数分の一のコストで優れた仕事ができるものと確信しています。
デメリットとしては、遠く離れた異国の地で人を使うとなれば、コミュニケーションやマネジメント面で相当の問題が発生することです。もちろん、スカイプやIRC、Twitter、IMを使ってこのリモートチームと一日中コミュニケーションをとることは可能でしょう。しかし、あなたが活動している時間は、彼らにとっては寝ているべき時間であることが多いのです。イスラエルのITチームは、真夜中過ぎにアメリカの取引先等との重要な製品・技術会議に参加することでよく知られていますが、彼らは会議に参加してくれていても、ベストの状態で参加できているのかどうかは疑いの余地があります。
コミュニケーションの問題も大きいですが、マネジメントの問題はさらに難しいものです。マネジメント問題の解決を他社にアウトソースすることは可能です。しかし、私はそのアプローチはあまり好きではありません。スタートアップの場合にはなおさらです。先週の記事でも書きましたが、私はスタートアップは自社にとって最も重要なタスクを担う人間は直接雇用しなければならないと信じています。そしてスタートアップにとっては、そのような重要なタスクにはよくオフショアされがちなソフトウェアエンジニアリングやカスタマーサポートが含まれます。もしマネジメントをオフショア企業にアウトソースした場合でも、その企業を管理しなければならなくなります。そして業者を管理することは、多くの場合において従業員を管理するよりも難しいのです。
多くの場合、リモートチームを管理する現地マネージャーの採用が最も労力を必要とすることを私は目の当たりにしてきました。そして成功したいならば、遠隔地に有能なマネージャーを据えなければいけません。リモートチームに能力の低いマネージャーを据えるとほぼ必ず会社にとって大惨事となります。遅延や管理上の問題が引き起こされ、最終的にあなたが片付けなければならなくなるのです。
今まで観察してきた中で最も信頼できるテクニックは、経験豊富で信頼のおけるチームメンバーに海外に行ってもらい、リモートチームを立ち上げて管理してもらうことです。大きな頼み事になるので、不可能な場合も多いです。しかしもしそれが可能ならば、それが最も成功率が高いやり方となるでしょう。
当社のポートフォリオに名を連ねる企業のなかで、海外にチームを置いて成功してきた企業は、創業者自身がそのような場所の出身であるか、そこで多くの時間を過ごしたことがあるケースです。彼らは質の高い人材を調達して管理することができ、また現地の人や場所、文化に精通していることから、時にはそのようなことを遠隔で行うことすら可能なのです。
文化と言えば、社内に様々な文化が共存するということがどんなに大変なことか、いくら強調しても足りないくらいです。夏はゆるく、冬はよく働く文化があります。また文化によって、職場でのジェンダーに関する考えが異なることもあります。お金よりも敬意を重んじる文化があれば、反対にお金を重視する文化もあるでしょう。異なる文化はオフィスやチームの間にしばしば軋轢を生みます。これらすべてを管理するのは大変なことで、私が見たところ、とびぬけて上手にこなす会社は多くありません。しかし、このような組織構造が普及するにしたがい、起業家やマネージャーの文化的複雑性の扱い方が上手くなってきているのを私は見てきました。
あなたができる最も重要なたった一つのことは、世界中のメンバー全員に、少なくとも会社のシニアチームのメンバー全員に、定期的に集まってもらうことです。私は毎回必ずリモートオフィスのメンバーに本社に来てもらうことが良いことだとは思いません。本社(のメンバー)もリモートオフィスに出向くべきです。
冒頭で書いた通り、世界中で人材を調達および管理できることは現在の経済時代を代表するメガトレンドかもしれません。それは全ての形態や規模の会社に計り知れない影響をもたらします。スタートアップにとっては低コスト、また時として優れたスキルや人材へのアクセスをもたらしてくれます。しかしそれは大きな課題を伴うものであり、オフショアは決して軽く考えるべきものではありません。
Editorial Team / 編集部