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起業家が起業家に勧める必読書14冊、Coral Familyに聞いてみた

Coral Capitalが出資するスタートアップの創業者らからなる「Coral Family」は主にFacebook上で情報交換をしています。各種のお知らせ以外でやり取りが多いのは、実務的なことで、ベストプラクティスの共有です。「オフィス選びはどうしてる? 坪単価の考え方は?」とか「プライバシーマーク取得の注意点」、「名刺をどこで作っているか」、「業務用パソコン・スマホは私物か貸与か会社でリースか」など、すでに経験済みの起業家が知見を持っていることを積極的に共有してくれています。Coral Capitalも創設4年目で、ポートフォリオも50社と増えていることから、徐々にナレッジベースとして整備していくことを内部で議論をしています。

さて、そんな風にオンラインに集まっているCoral Familyの起業家の皆さんに、「起業家として、ほかの起業家に勧める必読書は何ですか?」と聞いてみました。いろんな書籍を挙げていただいたので、この記事では以下の3つのカテゴリーでご紹介します。

  • スタートアップ・起業家向けの基本図書
  • スタートアップやビジネス一般に必要な知識が得られる
  • インスピレーションが得られる起業ストーリー

ビジネス書や起業・スタートアップに関するというとジャンルの幅は広く、数も多いです。その意味では、今回起業家たちがオススメしてくれた書籍が、何かのランキングや、決定版のサマリーとして意味があるということはないかもしれません。ただ、実際に起業して役立ったと感じているという意味では多いに参考になるのではないでしょうか。

以下、Coral Family起業家たちの推薦の言葉に補足説明を交えて紹介します(書名タイトルはAmazonへのリンクになっています)。

スタートアップ・起業家向けの基本図書

まず、Basset取締役CFOの林広和氏が紹介してくれたのが、おそらく誰もが最初に推挙するであろう、あの本です。

起業のファイナンス」磯崎哲也著 (日本実業出版社、2015)

「もはやバイブル。起業のファイナンス。これを読まずしてスタートアップは語れません。ベンチャーとは何か、から始まり、事業計画や資本政策の作り方、企業価値の意味、ストックオプションの概要から資金調達の仕組み・優先株式の仕組みといったスタートアップの経営に必須となるお金回りの知識について、平易な語り口で、著者の豊富な実務経験に基づいて記述されています。スタートアップのファイナンス初心者に最初にお薦めしたい1冊です」(林氏)

起業のファイナンスは、起業家向けですが、逆にスタートアップに投資する側からの1冊も、以下のように推薦してくれました。

スタートアップ投資ガイドブック 」小川周哉/竹内信記/荒井悦久/彈塚寛之/松村英弥ほか著(日経BP、2019)

「スタートアップ入門の超良書!著者はTMI総合法律事務所の弁護士たち。ひと言で言えばスタートアップ投資の概説書です。この書籍がユニークなのは、CVCの記述が厚いこと、日本と米国とスタートアップ投資について章を分けて記述していることです(このおかげで読みやすい)。さすが普段から実務に接している弁護士陣の執筆とあって、的を射た実務アドバイスが非常に有益です。日本と米国のVCのマインドの違いなどは大いに参考になります。今年7月に出たばかりの書籍ですので、最新の情報が網羅されているのも大きなおススメポイントです」(林氏)

続くスタートアップ関連の基本図書。2010年代以降のスタートアップの基本語彙となった「リーン」に関する書籍を、アングラーズ代表取締役の若槻嘉亮氏が推進してくれました。

リーン・スタートアップ〜ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす」エリック・リース著、井口耕二ほか訳(日経BP、2012)

「スタートアップは、市場を使って行う仮説検証であるという考え方と、それを成功に導くための仮説検証のやり方を学ぶための本です。今のスタートアップ全体での共通語にもなるので、必ず読むべき本です!」(若槻氏)

ソフトウェア開発における「アジャイル開発」の1技法である「スクラム」が日本の経営学者、野中郁次郎氏の論文に端を発しているのと同様に、リーン・スタートアップも、もとはと言えばトヨタなど日本の製造業で生まれたリーン生産方式がシリコンバレーで現代的なソフトウェア・ビジネスに適用された側面があります。日本の起業家こそ、こうした思想や方法論を逆輸入できる素地を持っているかもしれません。

スタートアップやビジネス一般に必要な知識が得られる

ここからはビジネス書一般です。まず1冊目は、DIGGLE代表取締役の山本清貴氏が進めるジョブ理論の本です。

ジョブ理論〜イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム」クレイトン・M・クリステンセン著、依田光江ほか訳(ハーパーコリンズ・ジャパン、2017年)

「自社サービスの仮説検証、例えばターゲットとすべき対象顧客、開発の方向性、開発の優先度を検討する上で参考にした。B2Bサービスについても事例がのっており、たくさんページを折り線を引きながら読み込みました」(山本氏)

少し補足すると、著者クリステンセンは「イノベーションのジレンマ」のほうが有名かもしれません。合理的に経営をすると市場を寡占している大手企業であっても、新興勢力に敗れることがあるという現象の背景を歴史的な事例をもとに理論的に分析した本です。スタートアップの皆さんは、著書は読んでいなくても結論はご存じかもしれません。

一方、ジョブ理論のほうは「顧客が商品を買うこととは、片づいていない「ジョブ(用事・仕事)」を解決するために何かを「雇用」することである」(書籍案内の説明より引用)というものです。例えば、ファーストフードのミルクシェイク。普通に考えれば、のどが渇いたとか甘いものがほしいという理由で買っていると考えるところです。けれども、ユーザーインタビューをして観察したところ全然ちがう理由が存在しました。1つは、ウィークデーに忙しくてかまってあげられなかった我が子に対して、親として罪滅ぼしのために、甘やかせてやるのにちょうどよいという理由で土曜の午前にミルクシェイクを購入する層がかなりいたということが分かったというのです。このときのジョブは「子に対する罪滅ぼし」であり、購入者の喉の乾きを癒やすということではないのだ、というのです。クリステンセンがすごいのは、そうした発見をもとに仮説を立てて売上を伸ばしたところまで語れるところではないか、と個人的には思います。

さて、同じくDIGGLEの山本氏が勧めるもう1冊は会計の本です。

餃子屋と高級フレンチではどちらが儲かるか?」 林總著(ダイヤモンド、2006)

「会計の基本知識をわかりやすく学べる本。出版当時(2006年)に何度も読んで基礎知識を学んだ思い出。非財務/経理部門の方で会計にアレルギーをお持ちの方(笑)には、ぜひおすすめしたいです」(山本氏)

予実管理を容易にするクラウドサービスを開発・提供するDIGGLE創業者が勧める会計の本ですから、これは気になりますよね。

さて、Coral Capitalの出資先で、米国を拠点にゲノム情報のプラットフォームを個人向けに提供しているGenomelink共同創業者でCEOの高野誠大氏は、明日から実戦投入できそうな1冊を推薦してくれました。

The Mom Test: How to Talk to Customers and Learn if Your Business is a Good Idea When Everyone is Lying to You」ロブ・フィッツパトリック著(未邦訳)

「Genomelinkでは、毎月10〜20人近くでユーザーテストをしていますが、正しいユーザーテストのやり方のバイブルとしてチームの中で必読書として共有しています」(高野氏)

これは私も読みましたが、すごい本です。大手企業などでは、すでに社内にユーザーインタビューの方法論やテンプレート、ベストプラクティスの蓄積があるかもしれません。でも、そうでない場合、ユーザーテストやインタビューで何をどう聞くべきか、実は誰も教えてくれません。「スタートアップあるある」の1つに、「こういうプロダクトがあったら、いくらまでならお金を出しますか?」と周囲や潜在顧客に聞いて回って手応えが良かったのに、いざプロトタイプを出したら、誰も使ってくれさえしないという話があります。無償でも使ってくれないのに、お金が取れるわけがありません。

この失敗が起こるのは質問の仕方が間違っているからだ、というのが本書の前提です。

「ママ、いまこんなアプリを作ってるんだけど、どう思う?」

我が子にそう聞かれたら傷つけるようなことを言わないに決まってるではないか、というのが本書の最初の指摘です。これは友人でも同じでしょう。知人であっても、正直に「別に、そんなアプリほしくないよ」などということを言って嫌な人になる理由がありません。では、どうやって有効なユーザーの声を引き出していくのか……。ということを考察して、具体的な質問の仕方、注意点などをコンパクトにまとめたのが、この「ママ・テスト」という本です。例えば、ユーザーの意見は無意味である、それよりも彼らの日常やiPadを何に使っているのかについて質問し、事実を集めよ、ということを言っていたりします。あるいは、潜在ユーザーが抱える問題を、当事者に代わってあなた(起業家)が指摘することなど許されないし、その逆もまた真なのだといった、なかなか深遠なことを言っていたりします。

高野氏はほかにも、ちょっと高尚な香りのする本を2冊、以下のように紹介してくれました。

リーダーシップとニューサイエンス」マーガレット・J・ウィートリー著、東出顕子訳(英治出版、2009)

「マイナーな本ですが、学生の頃に読んで感銘を受けました。経営理論の大きなトレンドを理解/予測できるようになるために、社会科学が自然科学の還元主義的な考えから量子論的な考えにシフトしているというのを理解しておくのが役立ちました。ただ、読んでて面白い本ですが、スタートアップ的に役立つかは不明です……」(高野氏)

反脆弱性 不確実な世界を生き延びる唯一の考え方」ナシーム・ニコラス・タレブ 著、望月衛、千葉敏生訳 (ダイヤモンド、2017)

「スタートアップを含む不確実な世界で生きるための哲学的かつ経済学的な洞察に富んだ本。最近、セコイア・キャピタルのニュースレターでも、創業者・投資家のお勧め本の1位になっていました。戦略と戦術の意思決定や日々の業務の優先順位付けでバーベル戦略を意識しています」(高野氏)

2冊とも抽象度の高そうな本ですが、「反脆弱性」のほうは日々の業務の意思決定に影響を与えているそうですし、米著名VC界隈の創業者・投資家の多くが推薦していること、著者がベストセラーとなった「ブラック・スワン」を著した稀代の金融トレーダーにして研究者のタレブであること、あたりからも気になる1冊(上下2冊ですが)です。

高野氏は他に、「キングダム」を教養としての漫画として挙げてくれました。これは、ほかの起業家の多くにも支持されていて、中には基本図書だといって会社の本棚に既刊全55冊を揃えたといっている人もいます。起業家が選ぶ漫画については、また別の記事にしたいと思います。

そうそう、ビジネス書の漫画版を読むことについて、souco代表取締役の中原久根人氏は、次のように往年のベストセラー、「ザ・ゴール」の漫画版を推薦してくれました。

ザ・ゴール コミック版」エリヤフ・ゴールドラット/ジェフ・コックス著、蒼田山イラスト(ダイヤモンド社、2014)

「この手のビジネス書は漫画で良い。いや、漫画が良いと気づきを与えてくれた。ストーリーや図解が秀逸ですんなり頭に入ってきた。サクッと理解したい場合に漫画版を探すくせができる」

私も騙されたと思って漫画版を読んでみました。実は出版当時、話題になっているものの、あまりにページ数が多くて読む気がしなかったのですが、18年の歳月を経て、2時間足らずで読めました。中原氏のいうとおり、果たして500ページも読む必要があるのかという気も少ししてきました。少なくとも普通にドラマを見るように読めました。内容は工場における生産・出荷管理の最適化の話です。

さて、その中原氏がスタートアップの視点から実践的価値ありと勧めてくれたのは、ストーリーテリングの価値についての本でした。

ストーリーとしての競争戦略〜優れた戦略の条件 」楠木建著、(東洋経済新報社、2012)

「事業戦略におけるストーリー性がなぜ競争戦略になりうるのか?ビジネスにおけるストーリーとは何かを語った本です。おすすめの理由は、スタートアップほどストーリー性に価値が付くものもなく、自分たちのストーリーとは何か?を問い直せるから」(中原氏)

ストーリーテリングが魔術的にうますぎてバリュエーションが高騰したと指摘されるWeWorkやTheranosは悪い例かもしれませんが、見方によっては人を惹き付けるストーリーのパワーを見せつけたといえるのかもしれませんし、「エクイティ・ストーリー」といえば、もともと投資の世界では会社の成長シナリオを投資家に分かりやすく説明するという文脈で使われる言葉です。まだ創業者でも視界が100%クリアでないこともあるスタートアップにとって、資金やタレントを惹き付けるための必読書といえるのかもしれませんね。

続いては、ストーリーと同様に抽象度は高いものの、スタートアップが特定の方向に向かって走っていくのに欠かせない「ビジョン」についての1冊。前出アングラーズの若槻氏が推薦してくれました。

ビジョナリー・カンパニー〜時代を超える生存の原則」ジム・コリンズ著、山岡洋一 訳(日経BP、1995)

「成功企業を科学的な分析で共通点を見つけようという趣旨で作られた本。100年続く企業を作るために必要なものは何か。昨今良く言われるビジョンがなぜ企業に必要なのかを事例を交えて記載している教科書」

1995年に最初の翻訳書が出版されて一大ベストセラーとなったビジネス書です。3M、ボーイング、ディズニー、フォード、IBM、P&G、ソニーなど18社を取り上げています。この本は米国でも米国外でも大変なベストセラーとなり、著者のコリンズは、その収益の一部を使って研究チームを結成。その結果として続編ともいえる書籍「Good to Great」(邦訳は「ビジョナリーカンパニー 2 飛躍の法則」)を出版しました。続編は長期にわたってパフォーマンスの高かった11の企業にあって、ほかの「普通に良い」(good)会社にない要素は何かを洗い出し、6つの要素で特定した本です。コリンズのシリーズには、さらに第3の続編として、なぜそうした偉大な企業でも衰退してしまうのかを5つのポイントにまとめた「ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階」もあるほか、第4の続編特別編、全4巻のエッセンスをまとめて読むという漫画版などがあり、長く読み継がれるビジネス書シリーズとなっています。中原氏のアドバイスに従うなら、忙しい起業家は、まず漫画から読むのもありかもしれません。

インスピレーションが得られる起業ストーリー

実践的なビジネス書や経営学の本と異なり、起業家個人としてのリアルなストーリーと哲学を交えた読み物として、中原氏が勧めてくれたのはクラフトビール「BrewDog」(ブリュードッグ)を2007年に立ち上げたジェームズ・ワットのストーリーです。

ビジネス・フォー・パンクス」ジェームズ・ワット著、高取芳彦訳(日経BP、2016)

「BrewDog創業者のストーリーで、プロダクトへの情熱とこだわりが作り出す過程が書かれてる。プロダクトへのパッションに刺激を受ける。真の差別化とは何かを考えさせられる。IPAが好きになる 」(中原氏)

7年で70億円を超える売上を叩き出したBrewDogにある「パンクの哲学」の要諦を列挙すると、「始めるのはビジネスじゃない。革命戦争だ」「人の話は聞くな。アドバイスは無視しろ」「事業計画なんか時間の無駄だ」「嫌われ者になれ」「顧客ではなく、ファンをつくれ」などとなっています。確かにパンクロックが特に好きでなくともインスパイアされそうな熱っぽさです。

特定の起業家ではないですが、多くの起業家の個人的な側面に焦点をあてて、起業家が経験する心理的なアップ・ダウンについて書いた1冊を、若槻氏が紹介してくれました。

起業家の本質」ウィルソン・ハーレル著(英治出版、2006)

「起業家になった時点で自動的に入ることになる恐怖のクラブ。恐怖のクラブへようこそ。起業家のあなたは今後、安寧を感じることはないであろう、という面白い出だしから始まり、起業家は海賊であり、自由であることが何よりも重要な気質を持っており、起業家としか生きれない、最高に苦しくて最高楽しい起業家像が記載されています。ハウツー本ではなく、精神面での刺激が欲しい時に読み返したい本 」

起業ストリーとは少し違いますが、個人的体験に基づく組織設計のビジネス書として、前出DIGGLEの山本氏が推薦してくれたのは、こんな本です。

最高の働きがいの創り方」三村真宗著(技術評論社、2018)

「著者三村さんは、私どもの世代(40代後半〜50代前半)のERP業界で大変有名なビジネスパーソン。Coral Capitalのメンターで弊社の出資者でもあるアレン・マイナー氏が出資しているコンカージャパンのカントリーマネージャー。私自身が外資系に勤務する中で感じていた個人主義の弊害をどのように排除し素晴らしい組織と文化を作り上げたかを具体的に書いてある。著書の中の「高め合う文化」はそのまま弊社でも取り入れている」(山本氏)

書籍説明によれば、「情報が隠される」「社員同士が協力しない」「疑心暗鬼の空気が広がる」という状態から働きがいのある会社ランキングで1位になるまでに実施した施策が次のように、かなり具体的に紹介されています。1) すべての社員から会社の課題や改善策を吸い上げる「コンストラクティブフィードバック」、2) 業務を離れて問題や未来を議論する「オフサイトミーティング」、3) 社員の立候補で課題の解決にあたる「タスクフォース」、4) 四半期に一度、会社の戦略・方向性を分かち合う「オールハンズミーティング」、5) 処遇の不平等感をなくす「ジョブグレード」、6) タテ・ヨコ・ナナメで双方向のコミュニケーションを活性化させる「コミュニケーションランチ」「タコランチ」「マメランチ」「タメランチ」「ミムランチ」、7) 採用率を3%に抑え、採用候補の分母を増やしていい人材を獲得する「採用エージェントへの方針説明会」、8) 全社員の心身の健康状態を把握する「パルスチェック」。

大きな組織で会社の空気が悪くなる経験をしたことがある起業家で、自分が作る組織はそうならないようにしようと思うなら、こうした書籍を事前に読むのは良いかしれません。

さて、関連書籍も入れると14冊以上になりましたが、以上、Coral Capital出資先の創業者たちがオススメする書籍をご紹介しました。この記事をリツイートする形で、コメントや、推薦書籍を教えていただければ、また別途、こうした企画記事を作りたいと思います。

ビジネスモデル経営起業家精神

西村 賢

Partner, Chief Editor @ Coral Capital

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