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パクられた! プロダクトの丸パクリ問題にどう立ち向かうべきか?

テック系ジャーナリストとして仕事をしていた頃も、VCに身を置く今も、起業家の皆さんから聞いたり受けたりする相談で多いものに、アプリやサービスなどプロダクトをパクられたが、どうすればいいかというものがあります。ここ1か月だけでも3件ほど連続で聞きました。C向け生産性アプリ、B向け人事ソリューション、産業向けIoTと分野はさまざまです。ほとんどはチクショウという心情の吐露ですが、対抗策の相談のこともあります。

同ジャンルのプロダクト同士なら、新機能を真似たり、似た取り組みを開始したりといったことは当然あると思います。同業の間で切磋琢磨して、次々と進化させて行くのは市場全体としては健全でもあるかもしれません。単に真似るだけでなく、そこに自分たちなりの工夫や思想を込めて改変すれば、これは英語でいう「steal with pride」(誇りを持って盗む)と言えなくもありません。

でも、いまここで言う「パクリ」というのは「丸パクリ」のことです。なんの独自性も改変もなく、全くの猿真似にどう対処すればいいかという話です。第三者が見てもゼロから100まで全部まるまるコピーしたようなプロダクトが、ある日突然でてきたりすることがあります。メガベンチャーが同ジャンルに参入したと思ったら、アプリの配色からボタンの配置、メッセージまでそっくり過ぎて当事者がむしろ驚くといったレベルのものです。プロダクトの名前が似ていることもあります。

この丸パクリ問題に対して、スタートアップの起業家は何ができるでしょうか?

倫理的にあり得ないというレベルの丸パクリであっても、残念ながら、できることはあまりないと思います。デザインやビジネスモデルで差し止め請求をするのは現実的ではないでしょうし、可能だとしてもビジネス的に意味があるリソースの使い方になるケースはまれでしょう。

次に考えがちなのは、パクった相手の悪評を流すことです。自分たちが苦労して作ったサービスを丸パクリするなんて「恥を知れ」と言って回ることですが、これも意味があるように思えないどころか、むしろマイナスになり得ると思います。そもそもの話として普通のスタートアップの取り組みについて、ほとんどの人は詳しく知りたいなんて思っていません。表面上は「大変ですね」「それはひどいですね!」と言うかもしれませんが、詳しく見るだけの時間を割けないので、パクられたと触れて回るだけ、あなたの器が小さく見えるという問題があります。パクったパクられたなんて良くある話じゃないかと思われて、それで終わるでしょう。

ひどい丸パクリの場合でも、世間は無関心なものです。フェアな見方などしてくれません。一般論として、世間が物事をフェアに見てくれるという期待は早めに捨てたほうが良いと思います。組織人事が人間関係で決まるアンフェアなものだという現実を若いときに受け入れた人ほど生涯所得が高いという研究データがありますが、それと似た話で、特にスタートアップのような規模が小さい段階のビジネスにおいて「汚いやり方」か「フェアなやり方」かどうかは、ユーザーもマーケットも気にもとめてくれないと考えておいたほうがいいのではないかと思います(といっても私はダークサイドに堕ちることを勧めたことは一切ありません)。

丸パクリに似た問題として、ユーザーの横取りといったこともあります。「西村さん、○○のやり方ってどう思いますか?」と、過去に幾度となく起業家たちから聞きました。何の話だろうと思って話を聞くと、競合のやり方が汚すぎるというのです。詳しく聞けば、確かに倫理的にはクロ、法的にグレーといったやり方で殴りかかって来ているなと言うことはあります。しかし、これにしても、対抗手段はあるかというと、残念ながら思いつきません。例えば競合からと思われるアクセスをIPアドレスで弾くなど地道な対応はあるかもしれませんが、そうしたテクニカルな対処以外にやれることはあまりなさそうです。

倫理にもとる丸パクリについてはメディアが指摘しても良いのではないか、と思うことがあります。ただそれにしても限界は目に見えています。例えばUberとLyftのマーケティング合戦について、米国のテック系メディアはUberの汚いやり口をたくさん報じました。でも、ユーザーや市場というのは、別にそんなことに関心はなかったかのように見えます。実際ほとんどの人は、もはや聞いたことがない話ではないでしょうか(Uberに関してはIPO後の収益構造に疑いの目が向けられている別の問題がありますが)。

一方で、日本社会では特に大手企業はレピュテーションリスクに敏感なので丸パクリ問題をメディアが書きたてれば一定の抑止力になり得るかもしれません。「丸パクリはしない。必ず自分なりの工夫を加える」という文化を醸成できるとしたら、メディアとしても社会的意義を感じて取り組めることではないでしょうか。難しいのは、スタートアップのビジネス規模が一般的に小さすぎて、メディアが取り扱うインセンティブがないことです。鳥貴族訴訟くらい規模があって、分かりやすい商標誤認の話なら多くの人が関心を示すでしょうし、人々の義憤に訴えるものがあるでしょうが、顧客数数万人程度では、ほぼ誰も聞いたことがないということになるだけです。

さて、ここまで丸パクリは泣き寝入りしかないような悲観的なことを書いてきましたが、実際問題としては丸パクリが死活問題になるケースはソフトウェア系の場合には少ないのではないかと思います。逆説的ですが、ハードウェアを始めとする製造業のように大手企業が有利な場合のほうが、掘り起こした市場向け製品コンセプトをパクられるリスクがあるように思えます。ソフトウェアは外見から見えるほど単純ではなく、見た目の丸コピーはできても、プロダクトの思想までは盗めないからです。

結晶化した思想や、その思想が生まれた何年にも渡る考察はコピーが難しいはずです。特定の洞察を得るために回したPDCAやユーザーインタビューの数、それらを組織的に運用してプロダクトを育て続ける文化となるとコピーしようがありません。一時的なスナップショットとしてプロダクトを表面的にコピーすることはできても、「このボタンを、なぜここに置いたのか」という何百、何千もの意思決定の積み重ねは、そう簡単に分かりません。

多くのビジネスは複数のオペレーションの組み合わせからなり、それに対応する組織構造というものがあるものです。何をやって、何をやらないか、どうやるかという組み合わせこそが現代的なサービスにおける戦略の差別化の根幹にあります。そうでなければ「コーヒー豆を買って来て街中でコーヒーを淹れて売る」というジャンルに、あれほど多様なアプローチやブランドが生まれるわけがありません。

例えば、SmartHRのUIは外部から見てコピーすることは難しくないかもしれません。しかし、スナップショットとしてUIを真似ることができても、例えばカスタマーサクセスチーム自体のあり方を模索し、どんどん組織や役割を進化させ続けていることは強みでしょう。その組織文化をコピーするのは難しいのではないかと思います。

いろいろと書いて来ましたが、パクリ問題に対抗する方法は現実的にはないように思います。しかし、一般論としては実はそれほど心配することではないのではないか、というのが私の意見です。「丸パクリ問題」はプロダクトの領域や業界によって、いろいろと違う事情があるかと思います。読者の皆さんは、どう思われますか?

企業文化の構築競合

西村 賢

Partner, Chief Editor @ Coral Capital

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