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メインストリームに車線を変えず、自分の車線にとどまれ

以前、Twitterで流れてきた言葉が数年ほど、脳内でこだましています。

Never change for the mainstream . Stay in your lane, and if you’re talented and resilient enough the mainstream will come to you.

決してメインストリームに車線変更するな。自分の車線にとどまれ、もし君に才能と、逆境に打ち勝つ十分な強さがあれば、いずれメインストリームが君のほうにやって来るさ。

これはアメリカ人起業家、ラッセル・シモンズの言葉です(オリジナルのツイートは、ここ。訳は西村)。ほかの皆がいる主流(メインストリーム)に合流することなく、自分が選んだレーンにとどまれということです。レーン(lane)というのは車線のことなので、アメリカ人らしく、これはハイウェイのことだろうと思います。メインストリームというのは日本の高速道路なら「本線」。ここでは主流派のこと、ビジネスでいえばいちばんお金が動く主戦場です。大手企業も含めて皆がバチバチやっているところです。

何か新しい市場に挑戦しようとき、まだその市場自体が取るに足らないほど小さいことがあると思います。私が出会ってきた多くの起業家は「今は皆が気付いていないだけ。未来はこうなる」という確信を持って事業を作ろうとしていることが多いです。

でも、日々メインストリームをびゅんびゅん流れる大量のクルマを見ていたら、自分が選んだレーンが行き止まりなんじゃないかとか、自分は置いて行かれるんじゃないかと不安に駆られたりすることはあるのでないかと思うのです。特に、あえてメインストリームから離脱して誰も走っていないレーンを選んだ起業家は、走っているだけで不安になることもあるでしょう。もしかしたら、選んだレーンがぜんぜん流れていなくて、前に進めないかもしれません。周囲を見ると、みんなスイスイ走っているように見えるかもしれません。

Stay in your laneというのは、そういう人に向けた言葉です。文脈によっては、「余計なお世話だよ」(お前はお前の道を走ればいいし、オレ・わたしに構わないで)という表現になりますが、ここでは「自分が選んだ持ち場に踏みとどまれ」「自分がやるべきことだけに集中しろ」という意味でしょう。どこか、ジョブズの「stay hungry」にも似て、かすかに韻を踏んでいて響きも良いなと思います。この言葉どおり自分が選んだ車線にとどまって、成功する起業家を私は数多く見てきました。

さて、ここまで読んでくださった方々は、ベンチャーキャピタルに身を置く人間から起業家の皆さんへの応援だという風に解釈するのではないかと思います。それはそのとおりなのですが、実際には、私がこれを書いたのは5年前のことで、自分自身に言い聞かせる意味も強かったのでした。TechCrunch Japanという新興ブログ・メディアに編集長という肩書きで「車線変更」をして1年目のことでした。

紙媒体も含めてテック系メディアを長くやってきた編集・記者として考えると、当時の私はメインストリームを離れたと感じていたのでした。IT系でメインストリームといえば、日本だけでも数兆円が動くデジタル機器の世界であり、十数兆円が動く「エンタープライズ業界」なのです。それはスマホであり、ガジェットです。あるいは、SI、クラウド、基幹システムといった業界です。これを読んでいる人には信じられないかもしれませんが、メインフレームと呼ばれる1台1億円のホストコンピューター関連の取材でラスベガスに行けば、世界中からグローバル企業のエグゼクティブが5000人も集まったりする世界なのです。それに比べると、日本国内の「スタートアップ業界」は支線というよりも、完全な傍流に思えたのでした。

ただ、当時の私には「情報技術」(Information Technology)が、従来扱ってきた基幹システムや情報システムにだけとどまるとは全く思えなくなっていました。最近であれば、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉がありますが、当時は「CIOはITでビジネスを作れ」という掛け声がメディアを賑わせていました。しかし、私はそういう本線を走っている大手企業の人たちとは全然違う未来の作り方をしている人たちがいることに気づいていたのでした。2009年にY Combinatorの起業家たちにインタビューをしにシリコンバレーに行った頃から、これこそ新しい未来の作り方だと思うようになっていたのです。

なぜシリコンバレーの人たちが、ある時期から「IT」と言わずに「テック」という言い方をするようになったかといえば、使っている技術は似ていても、その作り方や、価値の出し方が異なっているからです。主役はCIOではなく、CTO、もしくはテクノロジーの意味を良く分かったCEOたちの時代なのです。

2013年、憧れていたTechCrunchから日本で編集長をやらないかと声がかかったことで、私は「本線を降りるべきタイミングだ」と思ったのでした。エンタープライズ系のメディアに身をおいていた私は、即座に誘いに反応しました。例えは悪いですが、ウィンカーも出さずに車線変更をしたような勢いでした。いずれメインストリームはこちらに来る。そして、新しいやり方で未来を作る人たちが読むメディアが果たすべき役割があるはずだと直感したのです。

TechCrunch Japanで仕事を始めてから最初の2年は、ビジネス的にはつらい時期でした。主流メディアも大手企業も、スタートアップというトレンドを誰も真剣には追ってはいませんでした。マネタイズは難航し、日本でTechCrunchは成立しないかもしれないという不安の中、最初の2年間はコース・アウトせずに走るのがやっとでした。いえ、実際にはコース・アウトしていたくらいです。

その頃に出会った言葉が「stay in your lane」でした。

私が上記テキストの断片をどこにも公開しなかったのは、私が走っていたレーンは、そうは言っても会社員という舗装道路だったからです。一方で、当時、起業家たちを取材をしているとき、あえて快適な高速道路を降りて誰も走っていない荒野を斜めに突っ切って走っているように見えることが多々ありました。2019年の今と比べると2013年頃の「スタートアップ」は、はるかに細い傍流でしたし、資金調達環境も今とは比較になりません。

荒野で何度もクラッシュしながら荒れ地を開墾し、素晴らしい果樹園を生み出す起業家たちを数多く見てきました。気づけば一面に花を咲かせた起業家もいれば、泥沼に足を取られて身動きが取れなくなっている起業家、諦めてメインストリームに戻って行った起業家たちもたくさん見てきました。

今はスタートアップすること自体は、ずいぶん市民権を得た感があります。年間投資額は過去6年で約6倍になり、大手企業はこぞってアクセラレーターやCVCを立ち上げています。それでも個々のスタートアップは相変わらずハードモードでしょう。だから、いま改めて、この米国人実業家の言葉を起業家の皆さん、スタートアップに身を置く皆さんにご紹介したいと思ったのでした。

Stay in your lane. — Russell Simmons

企業文化の構築

西村 賢

Partner, Chief Editor @ Coral Capital

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