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高齢化社会を支える世界のスタートアップ (2)見守り編

前回に引き続き、今回も高齢者向けの事業を展開する世界のスタートアップをご紹介します。今回は、療養施設や病院、また自宅で生活する高齢者の見守りサービスを展開している会社を紹介します。

見守り系サービスは高齢者本人向けのサービスというより、高齢者を取り巻く家族や業者の負担を軽減する、という目的での展開が主流だと言えます。業者向けの中でも、入居者がいる施設向けと在宅で生活する高齢者のための業者向けに分けられます。

施設向けソリューション

高齢者向け施設は米国でもヨーロッパでもまだまだフラグメントな市場と言えます。米国においては、高齢者向け療養施設(nursing home)の全ベッド数のうち、上位10事業者が占める割合は14%程度で、400施設を運営する最大手のGenesis Healthcareでもマーケットシェアは2.6%に過ぎません(2016年時点)。営業利益率の中央値は1.2%と、ホテルなどの業界と比較すると低いと言えるでしょう。5,500もの老人ホーム事業者がいるイギリスにおいては、そのうち4,000の業者は1施設のみを運営していて、100施設以上を運営するのは上位6社事業者だけで、高齢者向け療養施設(care home)の全ベッド数に対してこの6事業者占める割合は11%となっています。そのため高齢者施設は、施設や人材といった必須の資産以外の、ソフトウェア等への投資を積極的に行える規模の業者が十分にいるとも言い難い状況です。

高齢者施設は資金が限られている業界だからこそ、これらの事業者向けにソリューションを提供する場合は特にペインが大きく、費用対効果の高いサービスである必要があります。「見守り」という観点で施設に提供されているサービスは、(1)排泄モニタリング、(2)転倒・転落防止の大きく2つです。

(1) 排泄モニタリング

ご存知の方も多いかと思いますが、日本においてはTriple Wが排泄検知デバイスDfreeを個人向けと施設向け両方に展開しています。海外では、ドイツのスタートアップのAssistMeが、Dfreeとは異なる方法で高齢者の排泄を検知するデバイスを展開しています。AssistMeはオムツに装着する排便・排泄モニタリングデバイスを提供し、療養施設の介護者や病院の看護師が排泄を瞬時に検知して介入できるほか、パターンを予測し、適切に介入できるよう支援しています。合わせて、排泄に伴う消費物資の消耗も記録するほか、位置情報や夜間の徘徊などもモニタリング可能です。同社はベルリンのスタートアップスタジオであるNext Big Thing AGが2016年12月に立ち上げたスタートアップで、これまでに総額510万ユーロを調達しています。現在チームは12名規模とのことで、まだアーリーステージだと言えるでしょう。

(2) 転倒・転落防止

認知機能や運動機能が低下している高齢者は転倒・転落しやすく、万が一事故が起きた際にはその後のADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)を著しく低下させる恐れがあります。そのため、転倒・転落は徹底して予防する必要がある重要な課題です。

転倒・転落のリスクを高める要因は服薬の影響や老化現象(筋力低下や虚弱)、疾患(不整脈や緑内障、関節疾患など)など複数あり、夜間徘徊をモニタリングするAssitMe以外のアプローチも存在します。イギリスのオックスフォード大学工学部で生まれたOxeHealthは、デジタルビデオカメラで脈拍と呼吸数をリモートで検出し、スタッフが常にいない部屋の高齢者や脆弱な人々のケアを効率的に行える業務支援ソリューションを提供しています。同社を導入した施設では、転倒・転落を33%減少できたと結果を出しています。脈拍数と呼吸数を完全に非接触で測定し、危険な活動(たとえば、認知症患者がベッドから出る)に注意を喚起し、活動計画とバイタルサインに関する客観的データを確認して、ケア計画を通知することができます。高齢者施設や在宅療養者だけでなく、刑務所や警察病院などの施設にも提供されています。

在宅での見守りソリューション

施設に入居している高齢者だけでなく、自宅で療養する高齢者向けの見守りソリューションを提供する企業もあります。在宅療養者向けの見守りソリューションの導入決定者は介護事業者と家族の2つが中心です。

・設置型のセンサーによる見守り
家庭内の高齢者向けのモニタリングは、主に安全確認を行うためのものが多く、その多くがプライバシーに配慮しながらも安全を確保できることに注力しています。イギリスのスタートアップ、TenderCareは転倒・転落の検知して家族や介護者に通知するホームセンサーを提供しています。特徴はWifiが不要なことで、ネット環境がない高齢者の自宅においいてもスムーズに利用可能です。転倒・転落発生後の対応だけではなく、転倒・転落リスクの評価サービスを提供するほか、不健康を招く室温や湿度などの室内環境のモニタリングも行い、事前に転倒・転落を防ぐ取り組みも行なっています。

また、最先端の3Dイメージングセンサーを開発するVayyarも、高齢者の転倒・転落の検知ソリューションとしてWalabotを提供しています。家庭内で転倒・転落リスクが非常に高い風呂場にも設置できるセンサーとして販売しています。同社はこの他にも乳がんのスクリーニング技術なども提供しており、2011年の創業以来、7900万ドルを調達しています。

Y Combinatorの2017年の夏のプログラムに参加した、アメリカのスタートアップTotemicは、自宅で発生する転倒をはじめとした緊急事態の検知と通報ソリューションを提供しています。同社のデバイスは家に一台設置するだけで、家全体でのアクティビティを検知できることが強みです。Wifiに近い微弱な電子パルスを発信しその反射を検知することで高齢者の転倒などを検知する仕組みで、カメラを設置する必要がないため、高齢者のプライバシーを侵害しないとのことです。

・ウェアラブルデバイス、スマホによる見守り
在宅時だけでなく外出時の高齢者の緊急時に対応するソリューションを提供するスタートアップも、主にヨーロッパで出てきています。

スペインのスタートアップSafe365は、高齢者の見守りアプリを提供しています。事前に生活圏や個人情報、緊急連絡先を登録し、位置情報を共有することで、自宅だけでなく外出中の高齢者の緊急時に家族や保護者が迅速に対応できるのを支援しています。専用のデバイスは必要なく、スマートフォンアプリだけで利用でき、アプリの評価も高(123レビューで平均4.3)くなっています。一方で高齢者自体がスマートフォンを持っていることが前提のサービスであるため、高齢者におけるスマートフォンの普及がサービス拡大において重要だと考えられます(2017年の日本の70代のスマホ個人保有率は18.8%、80代は6.1%)。

スマートフォンではなく独自のデバイスを提供するドイツのLibifyは2010年の創業以来、複数の緊急通報システムを高齢者向けに提供しています。ユーザーの自立度によって、一部のユーザーは介護保険による費用の払い戻しも利用できるのが特徴です。2014年ノルウェーで創業したZembroも独自のウェアラブルデバイスを提供しており、家族や保護者に状況を共有するソリューションを提供しています。

また、この領域に取り組むのはスタートアップだけでなく、既存企業も新サービスとしてソリューションを開始しています。1978年に創業したフランスの靴メーカーのParade Protectionは、2007年よりスマートシューズParade Connectシリーズの販売を開始しました。同シューズは、使用者の転倒を検知し、緊急連絡先に通知するサービスを提供しています。

Appleは2018年にApple Watch Series 4に転倒検知機能を追加しました。新しいアクセルとジャイロスコープにより、転倒を検知することができるようになりました。Apple Watchが転倒を検出すると、緊急連絡先に電話をかけることができ、加えて、ユーザーが転倒後1分間不動であることを検出すると、Appleの緊急警報システムを使用して自動的に当局と救急連絡先に連絡してくれます。

世界最大の補聴器メーカーであるStarkey Hearing Technologiesは、補聴器から内耳の前庭をモニタリングすることにより転倒・転落を検知する、ハイエンド向け商品を提供しています。新たにウェアラブルデバイスを高齢者に装着してもらうのはハードルが高く、すでに利用している補聴器をアップデートすることが強みだとしています。

スウェーデンの、インテリジェント監視カメラメーカーのIristy AB(上場企業・FRA:69M)は、防犯以外に高齢者の夜間の遠隔モニタリングソリーションを提供します。夜間の見守りを要する高齢者に対し、24時間の訪問介護サービスは高額でケア提供者の負担も大きいことが課題になっています。同社の赤外線カメラは暗闇の中でも、高齢者の状態を把握でき、遠隔操作も可能です。このモニタリングサービスは、事前に高齢者やその家族と合意した時間にのみ接続することで、プライバシーを守っています。

見守りソリューションに求められること

療養施設入居とその業者向けと、在宅療養者と家族と訪問事業者向けに関わらず、見守りソリューションには下記の要素が求められます。

  • プライバシーの問題:高齢者自身がいかに監視されていると感じさせないか
  • ROIの高さ:導入コストを回収できるか
  • オペレーションへの組み込みやすさ:業務のオペレーションに入り込めるか

次回は、買い物やお金の管理といった、高齢者の生活全般を支援する会社をご紹介します。

 

Agetech

吉澤 美弥子

Senior Associate @ Coral Capital

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