本ブログはニューヨークのベンチャーキャピタルUnion Square Venturesでパートナーを務める、Fred Wilson(フレッド・ウィルソン)氏のブログ「AVC」のFinancing Optionsというシリーズの投稿を翻訳したものです。スタートアップの創業者向けの資金調達の選択肢について、各種の方法を紹介するものです。原文は全11回のシリーズとなっていますが、日米の違いから4本を割愛して、日本の創業者にも参考になりそうなものを7本ピックアップしました。本記事は「Financing Options: Customers」の翻訳です。
翻訳版シリーズのリストは以下のとおりです。
第1回 資金調達の選択肢:家族と友人に出資してもらう
第2回 資金調達の選択肢:政府の助成金を活用する
第3回 資金調達の選択肢:顧客から調達する
第4回 資金調達の選択肢:ベンダーから調達する
第5回 資金調達の選択肢:優先株を活用する
第6回 資金調達の選択肢:ブリッジ・ローンを活用する
私は以前、このシリーズの記事で、友人や家族から募るのが、最も一般的なスタートアップの資金調達の方法と紹介しました。株式を使った調達に限定するなら、それが事実だと思います。しかし、スタートアップが事業を進めるためにお金を得る最も普遍的な方法は、誰かに何かを売ることです。ここでの「誰か」とは、つまり顧客のことです。
顧客から資金調達するのが良いのにはいくつか理由があります。まず、顧客から調達する場合、基本的に会社の株式を希薄化することはありません。顧客は会社の株式以外のものを求めています。また、顧客はプロダクト・マーケット・フィットを促進し、デバッグやプロダクトの品質向上において助けになるでしょう。早期からの顧客がいることで、他の顧客の信頼を得やすくなります。また、早期からの顧客は将来に渡り、あなたの会社により多くのお金を使ってくれる存在になるでしょう。
顧客から調達する最も一般的な方法は、プロダクトを作る前、あるいは完成する前にプロダクトを販売する方法です。顧客はプロダクトを作るため、あるいは完成させるためにお金を出し、プロダクトができた際には最初の顧客になります。顧客の多くは、単にプロダクトがほしいだけで、それ以上のことは求めていません。ときどき、早期の顧客がプロダクトを独占的に使えるようにしてほしいとか、会社の株式をいくらかほしいと言うことがあるかもしれませんが、ほとんどの場合、彼らはプロダクトを使いたいだけで、それ以上は求めていないものです。
であれば、すべてのスタートアップが顧客から調達すればいいと思うかもしれません。ただ、プロダクトがすぐ使える状態になっていない段階で、お金を出してくれる顧客が必ず見つかるとは限りません。まだ作られていない、あるいは完成していないものを買ってもらうには、優れたセールスが必要になります。また、事前に支払うことを承知してもらえたとしても、この方法にはいくつかマイナス面もあります。
一番の問題は、特定の顧客だけのために作ったプロダクトは、市場で通用しないものになってしまう可能性があることです。プロダクト開発のために資金を提供してくれる顧客は、自分のニーズに則したプロダクトがほしいと思うものです。高度にカスタマイズされた製品は、より広い市場に向けて販売するのには向いていない場合があります。
次に、顧客から調達するアプローチをとることで、「サービスに対して対価を得るカルチャー」が損なわれてしまうリスクがあります。顧客から対価をもらってプロダクトを作るビジネスモデルと、開発したプロダクトを「そのままの形」で顧客に販売するビジネスモデルがあります。後者は企業価値を高めることができるスケーラブルなモデルです。顧客から調達すると、前者のモデルに引き寄せられてしまうリスクがあります。
また、不可能でないにしても、C向けのプロダクトの場合、顧客から調達するのはかなり難しいと言えます。この調達方法は、B向けのプロダクトの方がはるかに適しているでしょう。
これらが顧客から調達するメリットとデメリットです。プロダクトを作ったり、完成させたりするために十分な資金を支払ってくれるよう、顧客を説得することができるのなら、真剣に検討すべき調達方法です。偉大な企業の多くもこの方法で事業を始めています。
Editorial Team / 編集部