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東大医学部→プロ小説家→起業家、Graffer石井CEOが考え抜いたオフィス論の現在地

金曜の午後3時から仕事をせずに、みんなでボードゲームを始めちゃったり、コミュニケーションを遮断するかのようなパーティションをオフィス全体で導入したり、色々と普通でないオフィスを構えるGovtech(政府:Government × テクノロジー:Technology)のGraffer(グラファー)。前回記事ではそのオフィス風景を写真中心でお届けしましたが、今回はそんなオフィスを作ったGraffer創業者でありCEOの石井大地さんへのインタビューです。石井さんは東大医学部から文学部に転部。小説家としてプロデビュー(第48回文藝賞受賞)。複数のスタートアップの起業や経営、事業立ち上げを経たのちリクルートにて事業の戦略策定や事業投資を手掛け、そしてグラファーを創業したというとても異色な経歴の持ち主です。経歴だけでも異色感がありますが、そんな石井さんのオフィスや組織、働き方に対する考え方は、これまたちょっと突き抜けたものでした。

お話を伺ったのは前回同様にCoral Capitalの井口です。

こだわりはあるようでなく、常にベストチョイスを求めている

――オフィスを見たり従業員の方にお話を伺ってみて、改めて変わっているなと感じました。特徴的なのは、個々の机を仕切るパーティションや、金曜午後3時からは仕事しないで飲み会をしているなどの働き方の部分ですが、どのようなこだわりがあるのでしょうか。

実はこだわりはないんですよ。よくこだわりが強いと思われるんですけど。こだわりがあるようでない。考えているようで考えていないようにも見える。そんな組織です。

――でもあのパーティションは…..。

パーティションもこだわりではないんです。状況が変わったら全部取り外して、オープンなオフィスを目指すかもしれません。要は現時点で持っている情報と論理の中でベストチョイスを求めた結果ですね。

――(話がややこしくなってきました……)それでは、1つひとつお話を伺わせてください!パーティションの導入のきっかけはなんだったのですか!?

創業当初は自分が集中するために使っていました。パーティションで個々人を囲ったほうが生産性が高いといった研究もあります。従業員については、欲しい人には支給する形でしばらく運用していましたが、誰も使ってくれなかった(笑)。そこで、「試しにやってみなよ」と半ば無理やり試してもらったところ「これはいい」という感じで反応が良かったんです。そんなわけで今は入社時にほぼ全員にパーティションを支給しています。

――自分だけじゃなくてみんなもパーティションを使った方がいいと思ったのは経験によるものですか? それとも理論によるものですか?

両方ですね。理論的には、オープンなオフィス環境にしたら社員のストレス値が上がるだとか、コミュニケーション量が減るだとかいう研究結果が出ています。でも理論だけではなく、経験も大切にしています。生産性が上がったけど、モチベーションが落ちたとなったら会社として導入する意味がないですからね。全体として自分たちが心地よいと思える環境を作るのが大切です。ですから、「私はパーティション要らないです」という場合には当然、外して良いです。例えば「コーポレート部門やBizdevではコミュニケーションを取りながらの仕事が多いのだからパーティションがない方が仕事しやすいのでは?」という意見があったので外してみました。

コーポレート部門の机の上

 

二酸化炭素濃度測定は廃止、定性的な目標達成に向けて施策に判定を下していく

――そういえば、オフィス環境を科学的にマネジメントするために二酸化炭素濃度を測定していると、サイト上で見ましたが、まだそれらしき機械を見ていません。どこでやっているんですか?(以下の画像はGrafferのホームページより)

実は廃止しました。5〜6人の小さなオフィスのときは測れていたのですが、今はオフィスがとても広くなりうまく定点での濃度を測定できないのですよね。この広さだと二酸化炭素濃度よりも席の配置の方が仕事環境としては重要になってきます。、Grafferのデスクは横幅が1200mmと普通のスタートアップより、ゆとりを持ったものを採用していますから、オフィススペースにうまくレイアウトできるよう、コーポレート部門の方でかなり試行錯誤してもらっています

――こだわりがないというのはそういうことなのですね……! オフィス環境についてはどのように意思決定しているのですか?

一番大事なのは意思決定そのものではなく、実際に試した後にその結果を分析することです。しかし、オフィス環境の良し悪しを定量的には測るのはとても難しい。全員が同じ場所で同じ仕事をし続けていれば施策による変化を追えますが、状況が目まぐるしく変わるスタートアップでは席の配置も変われば仕事内容も変わりますから、その施策がどう影響したかを測定できないからです。だから抽象度の高い目標を置いて、定性的に判定していくことにしました。

行政に取り組むからこそ、ストリートの雰囲気を大切にしたい

――現在はスタートアップとしては珍しい北参道にオフィスを構えていますが、土地へのこだわりはありますか?

基本的には渋谷界隈がいいなと思っています。我々は行政というお堅い領域とスタートアップ的なアプローチをうまくミックスして事業を展開していきたいんですね。行政分野だと虎ノ門や永田町、あるいは紀尾井町あたりにオフィスを構えることが多いのですが、そうではなく、「渋谷にあるんだけど行政をやっている」というバランス感がいいなと思っています。

問題は、渋谷にはGraffer規模の会社にとってちょうど良い大きさのオフィスがあまりないことですね。北参道で坪単価2万円未満、そしてある程度の広さがあるこのオフィスは、内見した瞬間に即決しました(笑)。もちろん金額だけで判断したわけではありません。このオフィスの良さは、何というか、ストリートとの近さですね。周辺には服屋や美容院があったり、いろんな人がいて、文化的な感じがあります。こうしたことはクリエイティブな仕事をする上では大切だと思ってます。

そう考えると、次のオフィス移転は非常に難しいですよね。広さとしては大きいタワービルなんかが候補になりますが、見える景色はビルばかり。目線が悪い意味で高くなりすぎて、ストリートの視点から発想することが難しくなる。そんな環境だとなんだかインスピレーションが枯渇していくよね、という話は従業員とよくしています。エレベーターを待っている時間も非効率だと思います(笑)

集中するために、不要な論点を減らす

――制度に話を移したいと思います。金曜の午後3時から、社員が仕事をやめて飲み会をはじめるのはどうしてですか?

パーティションで区切るなど、個人が集中しやすい状態を作っているぶん、社員同士の対面の交流が薄くなってしまいます。だから金曜の3時からは仕事をやめて、みんなでオフィスで飲みながら話したり、ボードゲームをやったりします。普通の企業が集中タイムを設けたりするのと反対に、僕らは普段から集中しているので、あえて発散する時間、交流する時間を設けるようにしているというわけです。この時間は特にアジェンダはなく、ただただ和気藹々とお酒を飲んだりしながらしゃべって楽しんでいるだけです。だいたい、金曜の午後なんてもう仕事したくないでしょ?(笑)  ボードゲームのカタンをプレイしているときには、仕事の話を振られても、「今じゃない!」と言いますね(笑)

そういう時間までキツキツに仕事しなければ勝てないようなら、それはもう事業戦略を間違えているとまで思っているんですよ(笑)

――なるほど(笑) ちょっと話がオフィス環境から離れてしまいますが、Grafferでは社員向けの家事代行サービス利用が福利厚生に入っているそうですね。ちょっと珍しいと思いますが、これはなぜですか?

それは「生産性向上手当」と言って、家事代行のようなサービスを使うことで、生活のなかで「考える論点」を減らし、生産性を高めてくださいというものです。

例えば、プロダクト開発している人間ってどうしても頭のなかがプロダクトのことでいっぱいになっちゃうんですよね。あの機能を作れば顧客の継続率にどう影響があるか、こういうグロース施策を打ったらどうか、とか、延々と考えてしまいますよね。生活のことを考える余裕がなくなって、最悪の場合、生活スタイルがすごく荒れたりする。そういったことで生産性が下がってしまうくらいであれば、会社として家事代行のコストを負担した方が合理的。そういう考えで制度を作りました。用途は家事代行に限定せず、ジムの会員費に使う人もいれば、毎月貯金してロボット掃除機を買う人もいました。恒久的な制度ではなく、あくまで臨時に導入しているものですが、どのくらい効果があるのか、データを集めて分析してみたいですね。

――リモートワークについてはどうお考えですか?

結果が出せるのであれば、仕事はどこでしてもいいと思っています。私の感覚としてはむしろ、ミーティングの約束がないのにわざわざ同じ時間に同じ場所で仕事をしなくてはならない理由がわからないですね。出社時間が決まっていると「何時にオフィスに行かなきゃ、そのためには何時の電車に乗って……」などといったことをどうしても考えてしまう。このことに頭の容量を割かれてしまうのは無駄ではないか。やるべきことに集中するために、不要な論点をなくしたい。そんなわけで、当社は創業当初からリモートワークを一切の制限なく導入しています。

よく大企業などで「許可制のリモートワーク」というのをやっていたりしますが、これは理解に苦しみます。リモートワークをするために上長に連絡して許可を取ることには、精神的な負荷も手間もかかりますし、上長にしたって上がってきた許可について検討し、判断する工数がかかっています。本来効率を高めるための制度を実行するために効率が落ちるという、この根本的な矛盾をどう考えているのだろう。中途半端にリモートワークを導入するくらいなら、シンプルに「全員出社してください」と割り切る方が論点が少なくて楽だと思うんですよ(笑)

Grafferではリモートの制度を整えていますが、結局完全リモートの人はいません。パーティションや性能の良い椅子(*)を揃えるなど、オフィス環境には十分に投資しているので、よほどのオフィス家具マニアのような人以外にとっては、自宅よりオフィスの方が集中しやすい側面があるかもしれません。

(*)Grafferさんには、エンジニア・デザイナーは40万円、その他の人も20万円の予算内で自分好みの作業環境を整えることができる制度があります。

思考の総量が多い組織でありたい

――高い要求を実現するためには「中の人」の質が大切だと思いますが、Grafferで働くメンバーの特徴はどうでしょう?

最近は東大出身者がかなり増えてしまい、出身校としては一番多くなってしまったのですが、実は高卒の人も東大出身者に匹敵するくらい多いです。東大と高卒が多い会社である、という事実からも分かるように、当社の採用においては学歴、職歴などの過去の経歴に対するこだわりは一切ありません。ピカピカの経歴の人を集めているというわけではなく、逆に「経歴なんか要らない」と言っているわけでもなく、過去の経歴を気にすることなく、徹底して人物本位で採用しています。ただし、どんな人を採用するにせよ、採用基準はとても高いと思います。

自分が何をすべきか、自分で考え抜いて行動に移せる人をでないと、適応するのが難しいかもしれません。壁打ちや1on1はよくやりますが、そこで「何をやればいいですか?」と聞いてくる人は、活躍しづらいと思います。それは自分で考えてほしい。会社としての課題や優先順位については、何度も何度も共有していきますので、その上で自分なりに考えてアクションを起こし、必要なフィードバックは積極的に周囲に求めて欲しいと常に話しています。オフィスのいたるところで、「この資料の分かりにくいところを指摘してもらっていいですか?」「自分の仕事に足りていないところはないですか?」と話すメンバーの姿が見られます。

採用面談の段階で「今までどう仕事と向き合ってきたか?」「仕事で思うことがあったときに、自分から動いていたか?」「現時点でGrafferで何がやりたいということはあるか?」などを聞いているので、自分の頭で考えて動ける人が集まっていますね。

――高い要求を実現できる要因として、人以外に何がありますか?

カルチャーだと思います。Grafferでのルールは、個人の意思を尊重しつつも、人間関係や政治力学ではなく、「イシュー」に向き合って仕事をすることです。個人に責任を帰して安心しても仕方ない。そうではなく、みんなで課題に向き合い、考え抜いて解決に当たることが大切です。私自身は、個々のメンバーの人格や能力、その仕事の過程に対してはまったく口出ししません。そういうことにそもそも興味がありません。

過程や人格ではなく、成果にフォーカスして常に磨きをかけていくことが重要です。考える論点を減らしたいので、誰がどうだという話をせず、個別具体的な業務の話をぱっぱぱっぱとやっていく。何か問題が起きたときに社長が出てきて個人を怒るというのはそもそもマネジメントとして間違っているんですよ(笑)  そういう意味では、今後も一人ひとりの考える総量が多い組織であり続けたいですね。1つの結論や個人の責任論にこだわって欲しくない。そういう次元で留まっていないで、物事を前に進めるために、考え続け、アクションを起こし続ける組織でありたいです。

――そのカルチャーは理想型の1つだと思いますが、なぜ浸透したのでしょう。

もちろん人もベースにありますが、あえて他に挙げるとすれば、カルチャーを創業メンバーが行動で示してきたということですかね。これはCOOの井原さんがよく話すことなんですけど、フィードバックするときは「私対あなた」のコミュニケーションはしない。「私とあなた」で「問題」に向き合う。このようなスタンスを、創業以来徹底的にやってきました。

ビジネス書の結論だけをありがたがってはいけない

――独特の施策やロジックなど、いろいろと興味深いですが、これほどのアイデアや考え方の源泉って、何なんですか!?

私は、家ではゲームをするかYouTubeを見ているだけで特別なことはしていません。本もそれなりに読みますが、「この考え方はすごい!取り入れよう!」というような気持ちで読むことはありません。ハウツー本をたくさん出版してきた自分が言うのもアレですが、ハウツーを参考にすることはまったくないんですよね(笑)

ビジネス書の中には「30年やってみてこんな結論にたどり着いた!」という経験論がたくさん書かれていますが、その結論だけ読むと、「そんなの15分で分かる話じゃん」と思うんですよね。そもそも、ビジネスのノウハウというのは、「考えてみれば当たり前」みたいな水準の話がすごく多いです。大事なのは、そういう考えに至る過程や実践であるわけで、結論や理論ではない。だから、何か本を読んで物事を理解したとしても、そこで得られた手短な結論をありがたがって、自分や自分の会社に対しただちに適用することは避けなければなりません。ですから、とにかく自分なりに考え続けて、その時々で適当な結論を出すよう心掛けているだけですね。

――なるほど……。それだけ考えて到達したのが今のオフィスや制度なのですね

そうですね。ただ、繰り返しになりますが、一度たどり着いた結論であっても、永遠のものではなく、考えは常に変わる可能性があります。「〇〇は善である」という発想から創った制度は1つもありません。絶えず実験を繰り返し、現時点のベストチョイスを常に求めるという姿勢です。だから、一度作った制度でも、明日になってがらっと変える可能性もゼロではありません。しかしもちろん、それはサイコロをふってランダムに決めるわけではなく、自分たちなりに考えた上で変更していくわけです。

「これ、記事にするの難しいでしょ」と笑う石井さん。持ちうる情報からとことん考え、現状でベストな解を出し続けているため、今回うかがった施策にしても1週間後には変わっているかもしれません。

今回お邪魔させていただいた株式会社グラファーではプロダクトマネージャーなどプロダクト開発に関心のあるエンジニアを中心に採用活動をしているので、興味のある方はこちらを確認してみてください!
毎週金曜午後3時からのサロンは社外の人も参加できるそう。石井さんにボードゲームで勝負を挑んでみてはいかがでしょうか……!

また、今回お話を伺った石井さんは2月8日に行われる日本最大のスタートアップキャリアイベント、Startup Aquariumで「スタートアップでの働き方〜残業、リモート、副業、子育て」というテーマのパネルに登壇されます。より深いお話を直接聞ける機会ですので、ぜひお越しください! 詳細・お申し込みはこちらから!

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