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スタートアップ面接時にストック・オプションについて聞いてはいけないのか?

スタートアップにジョインしようかと検討し、カジュアルに話を聞きに行ったり、あるいは正式に面談したりするとき、ストック・オプションに関して質問するのはやめておいたほうが良いでしょうか? この問いに対して、いきなりそんな質問をする候補者にロクなやつはいないという意見と、その逆に、当然聞くべきだし、むしろ聞かれなくても採用側は話すべきだという意見の両方があります。

これは、2月頭にCoral Capital創業パートナーCEOのJames Rineyが書いたブログ「スタートアップにジョインする前に考えるべきこと」に関連して出てきた意見でもあります。このブログ投稿をベースに、そこに含まれていた20近い質問文を1枚にまとめたのが以下のシートです。

このシートをTwitterやFacebookでシェアしたところ、多くの意見が出てきました。こんな質問リストを用意して上から順に全部聞いてくる候補者がいたら、ちょっと頭がどうかしているという感覚の人は多いようです。

ただ、これはシートをつくった私の間違いのせいでもありました。オリジナルのブログ投稿に質問文が並んでいたことから、当初これを「問うべき質問」としてスライドのタイトルにしてしまったのです。でもこれは自問も含めたチェックリストにすぎませんし、全部聞けということも言っていません。例えば20代半ばでキャリアやスキルの伸びしろ、得られる経験に価値を置くのであれば、報酬の話は最後の最後に確認するだけで良いかもしれません。

傭兵を採用したいわけではない

2020年初頭の日本のスタートアップ界において、面談の場でいきなりストック・オプションについて質問をする候補者に「地雷が混ざっている確率が高い」というのは正しい観察に思えます。これはスタートアップに限らず、外資系企業でも言われることです。報酬目当てに集まって来る人は、経済的リターンの見込みが薄くなると、あっという間に去って行くからです。こうした人たちは傭兵のようなところがあります。傭兵タイプの人材はレイターステージで上場準備をするスタートアップにおいて活躍するプロフェッショナルなどであればハマる可能性がありますが、アーリーステージのスタートアップ向きではないかもしれません。

採用側はビジョンやミッションにエキサイトしている人を仲間に入れたいと思うのが自然です。ジョインするほうとしても、何のためにやるのかということに共感していないと苦しい局面を乗り切れないことがあるかもしれません。だから必要以上に報酬を気にする候補者に黄色信号を読み取るのは、もっともなことです。「待遇面はおまかせします。結果で評価してください」と自信をみせる候補者のほうが頼もしいし、フェアであるようにも見えるかと思います。

もう1つ、交渉力について双方の認識に齟齬があるというのも良く聞く話です。候補者が年収を含む待遇や肩書きについて詳しく聞き出そうとしたり、交渉してくるものの、それに値する実績がないと採用側が考える場合には、一気に興ざめしてしまう、ということです。当然、質問の順番や聞き方も大事でしょう。

それでもストック・オプションについて語るべきでは

さて、上記の2点を考慮に入れても、それでもなお私はストック・オプションについて採用側、候補者側ともオープンに話したほうが良いのではないか、という意見を持っています。透明性が高ければ高いほど外部から人材が流入しやすくなるでしょうし、それがスタートアップ・エコシステムの発展に寄与すると思うからです。

日本ではストック・オプションは制度的にも慣習的にも比較的新しく、どういうステージのどのポジションに、どういう経歴の人材が来た場合に、何%程度のストック・オプションを出すべきかといった相場観が、まだ形成の途上であるように見えます。一般にストック・オプションは上場時の全株式の10〜15%程度を役員や従業員に勾配を付けて分割付与するものですが、スタートアップによってはゼロのこともあります。口約束はあったものの、入社後結局いつまでもストック・オプションの付与がなかったというのも、ときどき聞く話です。

口約束を反故にするのは信義則違反なので問題ですが、その他の制度設計に関しては創業者を始めとする株主の考え方次第。どうすべきだ、という話はありません。ただ、もしスタートアップごとに差異があるのなら外部から事前に分かることが大切だと思います。

上記のチェックリストのシートを見た知人のうち、米系のテック企業やスタートアップ界隈で活躍している人たちは、「こんなの全部聞いて当たり前では?」という意見を持っている人がほとんどでした。私も日本のスタートアップ業界でも、こうしたことを聞くのが当たり前になったほうが良いと思っています。当たり前になってしまえば「聞いてくる人は地雷」という認識がなくなるはずです。むしろ採用側から数字や制度について説明がない場合、それは不安要素として残るという共通認識ができてくるでしょう。もし採用側がアーリーステージで制度設計は先の話だというのであれば、ストック・オプションのプールを用意する気があるのかどうか、あるとすればどういう設計にするつもりなのかという話があって良いでしょうし、候補者が付与条件に合致しないなら、それを淡々と伝えたほうがいいのではないでしょうか。

「ロケットで一緒に月に行こうぜ」と誘われたとき、「私が座ることになるのは、どんな座席ですか?」などと間抜けなことを聞く人はいません。「乗ります!」と即答するはずです。ただ、月に行けると思ったら、行ったのは創業者だけで、ほかはほぼ全員が地上スタッフもしくは直前に知らされた打ち上げ日は自宅待機だった、というような上場シーンは珍しくありません。

こうしたことは応募者側が言える話ではありませんから、あえて「VCの中の人」として書いてみました。「ストック・オプションについて、それとなく話を振っても何も説明がないスタートアップは黄色信号だよね」というのが常識になる日が来ると良いなと思っています。

ストック・オプションの相場観が形成されて、事前に候補者たちが個社ごとの違いを知れるようになることで、より多くの優秀な人材が一時的な年収ダウンを受け入れるなどしてリスクのある挑戦をしようという土壌ができてくるはずです。チーム全体が優秀でなければ大きな成果は出ないでしょうから、これは個々人の経済的リターンの話を超えて、エコシステムの発展にとって重要な論点だと思うのです。皆さまは、どう思われますか?

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Partner @ Coral Capital

Ken Nishimura

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