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リモートワークで抜け落ちるもの

新型コロナウイルス感染症のクラスター感染による第2波の流行が懸念されるなか、日本でも多くの企業でリモートワークが広がっています。もともと週1、2回の頻度でリモートワークを取り入れていたような企業ばかりでなく、十分にリモートワークができる環境が整っていなかった企業でも、完全リモートへの切り替えを余儀なくされていたりします。

そうした中でリモートワークにおける課題が、次々と見えてきたという人や組織も少なくないのではないでしょうか?

想定外の課題として声が多く聞こえてくるのが家庭側です。例えば、ダイニングにある木製のイスが硬くて数時間連続して座って作業するのには向かなかったとか、Zoomのようなビデオ会議システムを使い倒してみたら、リビングで夫婦2人が同時にオンライン会議をするのは無理があったとか、複数拠点を繋いでやってみたら、1拠点に3人(複数端末)以上いた場合に音声がハウリングして使い物にならなかった、といったことです(これは無指向性のマイクを1つ中央に配置すると解決します)。

会社側に起因する課題として、ネットだけで何とかなると思われたホワイトカラーの仕事でも、大手企業ならVPNのアカウント数が足りなくて社内システムにアクセスできない社員が続出したとか、どうしても印鑑が必要な業務があったなど、制度・技術面でのチャレンジがあるかと思います。

ビデオ会議、チャットの次に来るものは?

椅子が硬いとかVPNがパンクしたといった問題は、何が問題かハッキリと認識されるのでまだ良いのですが、「何かがおかしい……、でも何が違うのかわからない」という言語化が難しいタイプの問題はやっかいです。徐々に問題が顕在化し、最初のうちはそれが何か分からないものの、長い時間を経てハッキリと問題が同定されるようなものです。

いろいろな問題があると思います。ここではリモートワークで発生するものの顕在化が遅い課題で、かつ今後テクノロジーによって解決されると私が考えているものを1つだけ挙げたいと思います。

それは、雑談、もしくは口頭による散発的なコミュニケーションの「ビデオを使ったオンライン化」です。

オフィスや社内、あるいは広く仕事のコミュニケーションには実務を進める上で最低限必要な会話量よりも、ずっと多くのムダがあるはずです。メールが取りこぼしていてSlackのようなチャットツールがすくい上げたのは、まさにこの部分だったのではないでしょうか。時事ネタや業界ニュースをチーム内で共有したり、何を食べたと話をしたり、スポーツチームの勝ち負けの話もするかもしれませんし、小池都知事の会見の感想もシェアするかもしれません。そうした会話は、もともとオフィス、あるいは水飲み場(コーヒー置き場や喫煙室、あるいはすれ違う階段の踊り場)では自然に行われていたはずです。通りすがりに見かけたチームメンバーの画面に反応して話かけることもあるかもしれませんし、2、3人が話しているそばにいて小耳に挟んだ会話に反応することもあるでしょう。こうした会話をメールで再現するのは難しいように思います。Slackはオフィスで発生している会話をオンラインで再現したのではないか、というのが私の仮説です。用事がなくても気軽に発言できるチャンネルがあったり、直接自分に関係のない会話が見えている、という漏れ聞こえてくる感じも、うまく再現されています。

メールとチャットの違いとして、実は顔アイコンが発言テキストのそばにあって、そのヒトが「いる感じ」がするのも重要だと思います。時系列に沿って無駄なくメッセージが順に並ぶ点から会話が自然に流れる感じもしますし、誰がオンライン状態かも緑色の小さなLED風の点灯で認識できたりします。クリック1つで絵文字を簡単に入力できることも重要な違いを生んでいると思います。これはリアルな会話なら相槌やニコッと笑うことに相当します。

つまり、メールとチャットの関係は、文書と口頭のコミュニケーションの違いを反映しているように思うのです。

口頭のコミュニケーションは文書に劣り、文書化が面倒な場合に代替的、補完的に使われると見るならば、全てメールで良いはずです。しかし、そうではありません。口頭のコミュニケーションで、私たちは何をしているのでしょうか? 業務の指示やすり合わせは、自明な目的ですが、実はもっと重要な役割があったと、失われてみて初めて気づき始めているのが、現在ではないかと思うのです。

私たちは単に情報を処理する機械ではないので、チームや組織内の人間同士の社会的な信頼関係や相互理解がなければ仕事はスムーズに遂行できません。というのも、コミュニケーションというのは不完全で、曖昧さや誤解の余地が常にあるからです。私たちは仕事上のやり取りでも発言者の意図やニュアンスを常に感じ取ろうと注意しているものですが、それがうまく伝わらないことが多々あります。対面コミュニケーションですらそうですが、相手の表情や相槌といったヒントが見えないメールやチャットといったコミュニケーションではなおさらです。

日々の業務上のコミュニケーションで発生する曖昧さが増幅して非効率が起こるばかりでなく、やり取りが殺伐としたり、チーム感が失われていくということもメールではあり得ます。Slackはメールだけだと失われてしまう、ノイズや混線の多い会話を再現する仮想的なオフィスなのではないか、と思えるのです。

Slackはリアルなオフィス(あるいはオフィスに並んだデスクの塊である島)に似ています。誰かに顔を向けて話す(メンションする)こともできますし、なんとなく情報共有や雑談のために声をだして、それを誰かが聞くといったこともできます。このとき、Slackならチャンネルによって、その話題が何であるかが誰にでも分かるようになっています。その会話に加わらない人であっても、かすかに聞こえているという物理的オフィスの重要な機能は、メールでは再現がむずかしく、Slackはうまくそこをオンラインに持ち込んだように思います。

さて、ZoomやHangout、wherebyといったサービスは面談や会議のオンライン化です。しかし、「メール→Slack」という補完関係に相当するビデオ・コミュニケーションのツールが、今はまだ存在していないように思うのです。Zoomはメールのような存在で、利用目的がハッキリしているときに使います。しかし、Slackがテキストで果たしたように、仕事中に場を共有している「仮想オフィス」というべきものを動画を活かして再現するようなツールは、まだほとんどありません。

そのツールの役割は以下のようなものになると思います。

  • 個別に仕事をしているときにでも互いに周囲の様子が漠然と分かり、一緒に働いている感覚を参加者に与える(テレプレゼンス)
  • その気になれば即座に話しかけられる(数十秒から5分程度のビデオチャットが1クリックでできる)
  • 仕事と関係があったり、なかったりする雑談によって相互理解が進む(散発的な雑談の発生)
  • 日常的に帰属感を得ることで社会的に孤立しないこと(共同体感覚)

仕切りのないオープンオフィスの良し悪しはよく議論されます。良い点は、すぐに隣や斜め前の人に「あの件ですけど……」と話かけられるところです。逆に悪い点は、やたら話しかけられて「ディープワーク」と呼ばれる一定時間にわたった集中力を必要とする知的生産のパフォーマンスが落ちてしまうことです。これは同期・非同期の仕事の進め方の話で、これはまた大きなテーマですが、もしオフィスの「場を共有する」という特性をオンライン化できたときには、この問題は緩和されそうです。1人で仕事に集中するために一時的に仮想の作業部屋に閉じこもることはデジタルなら簡単ですし、立ち話に熱が入った2人がいた場合、そこだけオフィスから切り離した「仮想会議室」に入ってもらうのも、とても簡単だからです。考えてみれば、会議室の空き問題やセキュリティーの問題など、仮想オフィスのほうが優れている点がありそうです。

さて、ここまでの話を図にまとめると以下のようになります。縦軸はコミュニケーション手法ごとの情報量の多い・少ないを示しています。上がビデオ、下はテキストです。左は目的がハッキリした「業務」で、右は「雑談・口頭」です。すると、右上の象限に入るツールが抜けているように思えるのです。

右上が抜けている理由は、かつてビデオ会議は通信コストが高かったので無目的な利用がペイしなかったことではないでしょうか。私の父は、かつて電話で世間話ができない人でした。少し無言になると、居たたまれなくなって電話を切るのです。電話とは目的があるときに使うものでしたし、結構通話料も高かったのでした。だから「長電話」というのは後から出てきた使い方でした。目的のない動画コミュニケーションを楽しむというのはC向けサービスとしては多数台頭していて、当初、長電話が若者の間で広まったことと似ているようにも思います。

動画メディア前提の仮想オフィスというのが、VRを使ったメタバースになるのか、オフィスの見取り図上にメンバーがコマとして表示されるような現在のオフィス・レイアウトのメタファーを使ったものになるのか(RemoMy Digital Office)、あるいはアプリ周辺に動画としての顔が表示されるような形になるのかは分かりません。それぞれ萌芽ともいうべきサービスがいくつかありますが、私自身はTandemAround(リリース前)が興味深いと思っています(下の画面はTandem)。

Y Combinatorが出資していることで知られるTandemでは、同僚たちがリスト状に表示され、彼らが何のアプリを使っているかがアイコンで表示されるというほどよい場の共有感を実現しています。表示対象のアプリは、Google DocsやGitHub、TrelloといったSaaSアプリです。面白いのは、Tandemではすぐに人の名前をクリックして作業中のアプリ画面をカーソルごと共有できる機能です。AirDropのようにシンプルなファイルの相互送信機能があったり、互いに顔をみて話しながら共同作業や相談ができるという意味で、一歩進んだバーチャルオフィスツールと言えそうです。

リモートワークが広がるに従って「無駄が多く、繋ぎっぱなしが基本となる気軽なビデオコミュニケーション」が増えるのではないでしょうか。スタートアップ業界では、すでに前兆として「Zoom飲み会」という仕事後のビデオコミュニケーションが出てきているように思えます。自宅で1人で仕事をするのが捗ることがある一方、何か物足りなさを感じていたりしませんか。皆さまは、どう思われますか?

コロナリモートワーク
西村 賢

西村 賢

Partner, Chief Editor @ Coral Capital

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