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ビデオ会議だけで採用面接はできるか? そもそも面接で何を見ているのか問題について

新型コロナウイルス感染拡大への抑止策として、東京を含む7都府県に緊急事態宣言が発令されて1週間が経ちました。そうでなくとも、すでに多くのスタートアップではリモートワークを部分的、あるいは全面的に取り入れているかと思います。

リモートワークでは、ハード面・ソフト面の両方で様々な課題や発見があるかと思います。中でもオンラインでの採用面接は比較的悩ましい問題ではないでしょうか。ビデオ会議の面接だけで採用・不採用を決めてしまって良いのか、という問題です。

この問いには「ケース・バイ・ケース」と回答する人が多いのではないでしょうか。例えば500人の急成長メガベンチャーが毎月30人を採用する話と、創業間もないスタートアップで幹部を採用する話は別だ、というような話です。すでにマニュアルが存在していて定型業務を任せるコールセンターの人材採用と、数十種の業務を走りながら学び、周囲を巻き込みながら組織化、型化をしていくスタートアップのCOOでは、確かに話が違うと思います。

採用面接がオンラインでも良いのか? これは非常に多くのパラメーターがあることですし、私は専門家ではありませんから断定的なことは何も言えません。ただ、ここでは前提自体を疑う話を書いてみたいと思います。

そもそも自分は人を見る目があると思っていませんか?

オンライン・オフラインを問わず、「自分には人を見る目がある」という思い込みはないでしょうか。米国の調査ですが、クルマを運転するドライバーの75%が「自分は平均以上に運転がうまい」と回答するのと似ています。それは「運転がうまい」の定義に多義性があって、人はそれぞれ自分に都合の良い定義によって自己評価をするのが理由の1つだとリンク先の研究者らは述べています。確かに「運転がうまい」というのは、同乗者が不安に感じない安全運転ができることや周囲へ配慮ができることかもしれませんし、特定コースを最短速度で走り抜けるF1レーサーのような能力のことかもしれません。

米国では毎年3万人が交通事故の犠牲になっていて、そのことから大半の人が「自分は平均以上」といういう現実的にあり得ない過大な自己評価がなぜ広く観察されるのかということについて、いろいろな角度からの研究が積み重なっています。健康についても同様で、多くの人は自分の健康について非現実的なほど楽観的であるという問題が研究されています。思い当たる人も多いのではないでしょうか。私は20代前半は、自分は何をやっても死なないという謎の「不死身」幻想を持っていて、浴びるほどお酒を飲んでいました。

ほとんどの人が「自分は平均以上」と思っているという幻想は、事故死を減らすとか成人病を減らすという健康問題の文脈だけではなく、より広い文脈で長く研究されています。最も広く知られているのが「ダニング=クルーガー効果」と呼ばれるものではないかと思います。

スキル不足は本人には分からない

運転スキルだけではなく、他の能力についても多くの人が客観的なテスト結果よりも高い自己評価をすることが知られています。いわゆる「地頭の良さ」(認知能力の高さ)だけなく、社会的スキルについても同様です。

「スキル不足、かつそれに気づかないこと:自分の無能さを認識する難しさが、いかに肥大した自己評価に結びつくか」(Unskilled and unaware of it: how difficulties in recognizing one’s own incompetence lead to inflated self-assessments)という身も蓋もないタイトルの1999年の論文(日本語訳は西村)で、コーネル大学のデービッド・ダニングととジャスティン・クルーガーは、「ユーモア」「言語能力」「推論能力」の3種のテストで、低スコアの人たちほど恐ろしく高い自己評価をすることを数字で示しています。

以下のグラフで左下からすっと真っ直ぐに右肩あがりの斜め線となっているのが実際のスコアです。そして黒い線が、自分が予想するスコアおよび自己評価です。左側のスコアが低い人ほど自己評価と乖離が大きいのが分かります。

背景にあるのは、「自分にスキルが欠けていることを認識する能力は、そのスキル自体に依存している」という構図だそうです。大局的にみて自分の立ち位置を理解する「メタ認知」は、もともと能力があるか、スキルとして獲得しないと持ち得ないということです。何かのベテランほど、「少しなら分かります」「チョットデキル」と謙虚に言う、という肌感覚にも合いませんか? これを別の形にした以下の図のほうがダニング=クルーガー効果のグラフとしては有名かもしれません(もっとこちらは学術研究に基づくデータではなく、印象を誇張して戯画化したもののようです。下図も最大公約数的なものを私がつくっただけですので客観データはありません)。

さて、人を面接して採用するというスキルに関して、どれだけの人が谷を超えて右側の曲線にいるでしょうか。よほどのベテラン経営者や人事コンサル出身者でもない限り、実は左側にいる可能性が高いのではないでしょうか。

多くの経営者や管理職経験者が、「採用では誰でも1度は手痛い失敗を経験するものだ」と証言しています。しかも、そのことを理屈や他人の体験談から知っていても、失敗経験のない人は必ず失敗するとも言われています。採用すべき候補者を落としてしまう「偽陰性」による機会損失よりも、採用すべきではない候補者を採用してしまう「偽陽性」のダメージのほうがはるかに大きいから、偽陽性にだけは気をつけろと言われます。多くの起業家は、先輩起業家からそうした話を聞いていると思います。それでも、たった1人の間違った採用でチームの空気が悪化したとか、崩壊したという話を、私はたくさん聞いてきました。事業フェーズや適性が「合わなかった」というケースで双方が不幸ということも当然あります。

採用が成功だったかどうかは、明白な失敗だったとしても早くても数か月は分かりません。学習のフィードバックループが長期にわたるものは、本来は意思決定(採用)時のデータと、その後のパフォーマンスを突き合わせて検証する必要があるため、データのない創業期のスタートアップには、なかなか学習が効きません(実は大手企業ですら、きちんとデータを残して年単位で追跡・分析しているところは少ない気もしていますが)。

正確性、妥当性が高い構造化面接のメリット

採用面接では「構造化面接」というアプローチを使うことで、採用後のパフォーマンス予測で正確性や妥当性が高くなるというデータがあります。私はこれをGoogleの面接で知りました。また、Googleが展開するアクセラレータープログラムの一部として、スタートアップ向けに構造化面接を設計するワークショップも展開していました。構造化面接には長い研究と実践の積み重ねがあるのに広く採用されていません。その理由は、まさに「自分(たち)は人を見る目がある」という思い込みによるものというのが研究者の指摘です。

構造化面接の具体的な設計については、Googleが日本語でも公開している組織や働き方に関するベストプラクティスやデータを集めた「re:Work」の「構造化面接を実施する」をご覧いただければと思いますが、簡単に言えば、あらかじめ候補者のどういう特質やスキルを見極めるのかを箇条書きで3〜6個ほど定義して、それを見極めるための質問と回答例、その評価を先に用意しておくというものです。それぞれの質問の順序や、各質問に割り当てる時間も決めておきます。構造化面接の逆は「非構造化」で、自然な会話でいろいろと思いつくままに質問することです。

私の個人的な解釈も含めて構造化面接の良いところを書き出すと、以下の通りです。

自分たちが求めるスキルや人柄は何かを議論の上で明確に言語化できること

これは構造化面接のワークショップをやっていて感じたことですが、創業メンバーの皆さんにホワイトボードの前に立って議論してもらうと、「自分たちが譲れない価値観」や「こんな人と働きたい」ということについて、徐々に人物像が結晶して浮かび上がってきます。それを端的な言葉で言語化して互いに確認するのは重要なことだと思います。「自ら仕事をつくりだす」「一緒にビールがおいしく飲める」「緻密で大胆」など、思い思いに書き出し、集約していくことで、自分たちのチームにとって「良い運転手」とは、どんな運転手なのか、その認識に齟齬がないようにするのです。

実務能力を具体的に見ることを忘れないこと

エンジニアなら大切なのは設計やコーディングの能力でしょう。それをできるだけダイレクトに見る実務テストをするか、それに相当する客観的データを定義します。これにより、レジュメや奇問(フェルミ推定のような質問には意味がないことが分かっています)によって、実務能力を推し量ってしまう失敗を防げると思います。「こういう経歴なら、これは当然できるだろう。実務能力を試す質問は失礼だ」と考えて失敗したことが、私には過去に何度かあります。できるだけリアルな実務を目の前でやってもらうことです。

採用面接をする担当者によるブレが少ないこと

4つの軸で評価すると決めて、どういう回答が良いのか、その基準についてあらかじめチームで合意しておく構造化面接だと、採用担当者によるブレが減らせます。チーム規模が大きくなって最終面接をCEOがやめる段階になれば、これはさらに重要になるでしょう。

特定の能力1点に引きづられて間違った採用をする確率が下がること

4つの軸で評価すると決めれば、レーダーチャートで評価しますので、「特定の能力が高いものの、ほかの2は平均、1つは疑問符」という場合に、きちんとその評価をフラットに可視化できるでしょう。良くある話ですが、専門領域で圧倒的な能力があってもチームプレイヤーでなければ、一緒に働くのが難しいかもしれません。

人柄のような曖昧で不確かな第一印象で決めてしまわずに済むこと

外向的で言語能力が高い人は第一印象が良く、面接の評価がそれに引きづられてしまうという研究があります。もちろんBizdevやセールス担当であれば外向的な人が良いかもしれません。しかし、内向的で優秀な人もいくらでもいますし、職種によっては実務能力とは無関係のはずです。

構造化面接は採用に至らない場合でも候補者側の満足度が高い

採用に至らないケースでも構造化面接のほうが候補者側の満足度が35%も高かったという社内調査データをGoogleは明かしています。公平性が感じられるからでしょうか。人間がやることなので割り切れないものであるのは言うまでもありませんが、求める人材の要件を定義して、真摯にそれを評価し、その結果なのですと伝えることのほうが、ランダムな会話をして拒絶されるより納得感が高い、ということだと思います。

面接方法を標準化することで面接担当者のストレスも減る

面接する側もストレスが減ります。特に面接慣れしていなくて責任感の強い人の場合、どういう理由で不採用の意思決定を正当化するのかという基準に悩むことがあります。人の人生がかかっているだけに、きちんと説明できる理由があるほうがイエス・ノーの答えを出すときのストレスは少ないでしょう。もちろん質問の準備にかかる時間も減ります。


繰り返しになりますが、採用面接にまつわるバイアスや一貫性のなさを排除するために構造化面接が有効という調査データは多くあります。有効というのは入社後のパフォーマンス予測が当たる確率が高いということです。

新型コロナの影響で、現在やむなくオンラインで採用面接をしているというケースで、特にこれといった面接方法を持っていないというチームの皆さん。これを機に構造化面接を検討してみてはいかがでしょうか? 採用側も、より確信をもって意思決定ができるようになるかもしれません。

コロナ採用プロセス
西村 賢

西村 賢

Partner, Chief Editor @ Coral Capital

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