急成長を目指すスタートアップでは、法人設立時に気を付けるべきことが、一般的な小規模事業者と異なります。スタートアップ向け法人設立ベストプラクティスの決定版として開始した本連載ですが、3回目の今回は株式譲渡承認機関についてです。
連載目次
第1回:資本金はいくらにするのか?
第2回:株式数、共同創業者の持分比率はどうする?
第3回:株式の譲渡承認機関は「当会社」とする
第4回:公告方法は官報にして、後に電子公告とする
第5回:長すぎる役員任期は要注意
第6回:事業年度をいつにするか?
オススメ:株式の譲渡承認機関は「当会社」とする
前回は法人設立時の株式数や、発行可能株式数について議論をまとめましたが、これに付随した論点として株式の譲渡制限に関する規定もあります。
株式譲渡に制限のない「公開会社」と異なり、スタートアップの法人設立時には基本的には、株式の譲渡に制限をもうける「非公開会社」となります。
会社法の原則としては、株式の譲渡は自由です。ただ、株主イコール経営者でもある初期スタートアップのような小規模な会社では、株主が誰であるかは非常に重要です。知らぬ間に創業メンバーの知らない株主が現れて経営を不安定にさせないために、株式譲渡に制限を設けます。そこで、以下のような条項を定款に規定するのが一般的です。
「当会社の株式を譲渡によって取得するには、当会社の承認を受けなければならない」
取締役会を設置せずに会社を設立する場合、「当会社」の箇所には、「代表取締役」「株主総会」といった記載(会社法でいう「機関」)を入れることも可能ですが、「当会社」という言葉を使っておくのがオススメです。それは、設立後のある時点で取締役会を設置しても譲渡制限の定めに関する定款の変更は不要になるからです。「当会社」と記載した場合、取締役会非設置なら「株主総会」、取締役会設置済みなら「取締役会」が承認機関になります。取締役会非設置の会社が取締役会を設置する際には、いずれにしても定款の変更と登記変更は必要になりますが、このとき併せて譲渡制限の条項を変更するという作業を1つ減らせます。
「代表取締役の承認」で譲渡をOKにするという選択肢もあります。ただ、その良し悪しは弁護士によって見解が分かれるようです。ケースによっては、デューデリジェンス時に指摘されることもあるため、スタートアップとしては、運用に注意したほうが良いでしょう。
また株式譲渡の手続きや議事録についても注意が必要だと、aviators司法書士事務所の真下幸宏さんは指摘します。
「スタートアップでは、創業時に創業メンバーや社外協力者に株式を譲渡することがあります。株式譲渡の際に株式譲渡契約のみ作成して、株主総会の手続きを失念しているケースが散見されますので、株式譲渡の際には注意してください」
「株式譲渡は会社にとって重要な手続きのため、承認機関の議事録がないと、先々大型の資金調達や資本業務提携などのデューデリジェンス時に支障が出ることがあります。また、ケースによっては『譲渡所得にかかる税金』や、『贈与税』が発生することがありますので、会社設立後に株式譲渡を行う場合は、慎重に実施したほうが良いでしょう」
次回は公告方法を官報にすべきか、電子公告にすべきか、そのメリットとデメリット、ベストプラクティスについてまとめます。
本連載企画には、以下の方々にご協力頂いています。
- 司法書士の真下幸宏さん(スタートアップの設立やエクイティファイナンスを支援しているaviators司法書士事務所)
- スタートアップ共同創業者でCEOを務める竹井悠人さん(暗号資産リスクスコアAPIを開発・提供する 株式会社Basset)
- 土屋輝章さん(ノイン株式会社、コーポレート部 部長)
- 税理士の榎並慶浩さん(Gemstone税理士法人、パートナー)
- ベンチャーキャピタリストの澤山陽平(Coral Capital、創業パートナー)
Editorial Team / 編集部