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ドローンは10年でタクシー代わりに―、産業を創る投資家・千葉功太郎に聞いた

2030年には東京の空を6人乗りのドローンが飛び交うようになる。それは「空飛ぶタクシー」ような存在だ――。スタートアップ界隈ではエンジェル投資家として知られる千葉功太郎さんは、こう予言します。

「未来を予測する最善の方法は、それを創造してしまうことだ」というのはパーソナルコンピュータの父とも言われるアラン・ケイの有名な言葉ですが、ここ数年の千葉さんの活動は、この言葉を地で行くようなところがあります。

起業家コミュニティーを進化させる形で「千葉道場ファンド」を立ち上げたり、ドローン・エアモビリティー特化型ファンド「DRONE FUND」を立ち上げるなど精力的に活動範囲を広げる千葉さんですが、この2020年6月1日にはDRONE FUND創設3周年と合わせて自家用操縦士のパイロット免許を取得したことを発表。飛行機大国のアメリカなどと異なり、日本では自家用機のライセンス取得もきわめて困難で、「試験への勉強と訓練は壮絶でした。今までの経営経験より全然きつい(笑)」と思わず冗談か本気が分からない感想が飛び出すほど。

そんな千葉功太郎さんにお時間を頂いて、Coral Capitalでは学生時代にまでさかのぼってインタビュー。起業家・投資家としての千葉さんアイデンティティーや考え方を前編記事でお伝えしました。後編となる本記事では「ドローン・エアモビリティー前提社会をつくる」ということについて、より詳しくお話を聞きました(聞き手はCoral Capitalパートナー兼編集長の西村賢)。

個人投資家・千葉功太郎(ちば・こうたろう) 慶應義塾大学卒業後、リクルート入社。インターネット黎明期よりWebサービスやモバイルサービスの立ち上げに従事し、2000年よりモバイル系ベンチャーのサイバードでエヴァンジェリスト。2001年にケイ・ラボラトリー(現KLab)取締役に就任。2009年にコロプラに参画、同年12月に取締役副社長に就任。採用や人材育成などの人事領域を管掌し、2012年東証マザーズIPO、2014年東証一部上場後、2016年7月退任。同年、慶應義塾大学SFC研究所 ドローン社会共創コンソーシアム 上席所員に就任、2017年にはドローン・スタートアップに特化した「DRONE FUND」を立ち上げて代表パートナーに就任。2019年5月にはDRONE FUND2号ファンドを組成し、総額52億円を運用している。また、エンジェル投資家として、国内外のスタートアップやVCへ60社以上投資している。2019年4月より、慶應義塾大学SFC特別招聘教授に就任している。Honda Jet ELITE国内1号機オーナーで、航空機パイロット(自家用操縦士)。

※情報開示:千葉功太郎氏はCoral Capitalに出資している個人LPです。

2030年に東京ではドローンが空飛ぶタクシーになる

西村:インタビュー前編の最後で、個人の欲求の段階として社会承認があって、千葉さんの最近10年の欲求は、未来の教科書に「日本でドローン産業をつくったのは千葉功太郎という人です」と載れたらいいなという話をされていました。

千葉:そう、「あのとき千葉さんが立ち上がらなければ、日本でこんなにドローン産業は生まれてなかったです」と、未来に語り継がれたら嬉しいなと思います。「千葉さんは当時からドローン、ドローンって言っていたよね。人が空を飛ぶんだって言っていたけど、そうなったね」と。

西村:未来ですね。誰かが今やらないと中国に全部市場を取られたとか、あるいは20年ほど立ち上がりが遅れたとか、そういうのは、あり得ますよね。

千葉:はい、そうでない未来をつくりたいなと思っています。空の未来。

西村:空の未来への進捗はいかがですか?

千葉:悪くないと思います。DRONE FUNDの1号と2号で、すでに68億円の資金を調達しています。ドローン特化でこの額なので、きちんと日本社会の中で、私たちの取り組みに賛同してもらえていると考えています。法律もどんどん変わってきています。

昨年(2019年)日本政府は、2022年度のレベル4(有人地帯におけるドローンの目視外飛行)の解禁、2023年度の「空飛ぶクルマ」の事業化開始を政策目標として閣議決定しました。先日も5Gや国産ドローンに関する新法が可決したばかりです。ドローンやエアモビリティーが飛び交う社会はもうすぐそこまできています。声を上げていって良かったなと思います。

西村:最近はパイロットの試験を受けたりされていましたね。この記事のタイミングで、ちょうど国家試験に合格されました。おめでとうございます。

千葉:ありがとうございます。ビジネスマンで経営者で投資家の民間人が、国内の訓練と試験で航空機パイロットライセンスを持つ、というのは、たぶんレアなんじゃないかと思います。実際、試験への勉強と訓練はきつくて壮絶でした……。

 

 

西村:すごい勢いで飛行訓練されてましたよね。その前にジェット機を共同購入されてますよね。

千葉:ええ、ホンダジェットを6人で共同購入しています。まず、空を飛んでみたいという子どもの頃からの願望がありました。生まれたころから僕は宇宙に行きたかったんです。子どものころからずっと、そう思っているんです。宇宙飛行士になりたいという欲求があって、その前段階に空を飛んでみたいというのが子どものころからの夢としてありました。

そこにドローンが出てきたんです。まず、バーチャルで空を飛ぶという体験をだいぶやってきたんですね。次に、自分が飛びたいということにステップアップして、バーチャルからリアルにステップアップするのが飛行機と思っています。

その飛行機で飛んでみる中で出てきたのがホンダジェットだったんです。自分の心を突き動かすプロダクトとの出合いってすごく重要だと思っています。プロダクトとして感動があり、日本人として生まれたからには、あれを買わなくちゃいけないんじゃないか、と思ったんですね。テレビでホンダジェットを見て、「僕が買わなくちゃいけないんじゃないか」という謎の燃えたぎった思いが湧いてきて(笑) それでアメリカに行って、ホンダエアクラフトの藤野道格社長に、「僕が1番機を買いたいです」と提案しました。当時、僕は欄外だったんですけど、いろいろ交渉した結果、1番の権利をいただくことができました。

本当は1人で買おうと思っていました。全部1人で申し込んで頭金も払ったんですけど、1人だと、これだけの大イベントはもったいないなと思って、それで共同所有にしました。6分割にして、僕以外の5人にお声掛けをした形です。

西村:なるほど。ちなみに空というと、スカイダイビングなんかは興味ないんですか、パラセーリングとか?

千葉:全然、興味ありません。怖い……。僕は機械ものがすごく好きなんです。制御できる機械。かつ、ドライバーの意のままに動かせるというのが好きなんですね。パラセーリングとかは制御できるんですけど、やっぱり風の影響がすごく強いのですよね。というか、風ですよね。

100年分の空の事故の歴史を学ぶ

西村:筆記だけでも大変ですよね。僕の父はパイロットだったので隣で機体や気象、航路のことを勉強するのを良く見ていましたが、空のことって普通は知らないですよね、誰もが雲を見上げていますが。

千葉:普通に地上で生活していると、空のことは分かりませんよね。パイロットとしてライセンスを取ることとか、訓練することって、100年分の事故の歴史を学ぶことなんです。

西村:なるほど。

千葉:学ぶこと全てに事故が反映された内容が入っているんですよ。例えば、機体のチェックリストもそうですし。すべて過去の何らかの事故に紐付いています。こういう事故があったから、こういう教育をしようという。

西村:一方で飛行機の操縦は自動化が進んでいますよね、オートパイロット。

千葉:はい、今の最新機種はそうですね。やることがないんですよ。日本は地震があるので着陸時は100フィートを切ったらマニュアルにしないといけなかったりするんですけどね。日本の場合、接地する瞬間に揺れるかもしれないですから。

西村:知りませんでした。宮崎空港以外は自動着陸のためのビーコンが出ている、という話を聞いたことがあって、もう着陸も全自動かと思っていました。空のパーソナルモビリティーはいかがですか? イメージとしては無人の飛行機が迎えにくる感じになるのですか?

千葉:そうです。ナイトライダーの飛行機版ですよね。どちらかというと、Uberです。空飛ぶ無人のUberです。ここの建物を指定すると、5分後に「屋上に到着しました」とスマホの地図に出てくる。それでエレベーターで屋上にあがって合流し、あらかじめ住所を入れてあるビルの屋上に飛んでいく。そんなイメージです。

東京で空飛ぶタクシーの発着はどうする?

西村:だいぶ夢のような感じがしますけど、そのときインフラは、どうなるんですか? 例えば、今は東京でヘリが着陸できるヘリポートって少ないですよね。

千葉:限られていますね。僕がやりたいのは、ビルの屋上の緊急着陸ポートを全部、電動のEV飛行機、つまり未来のドローンに開放したいんですね。関連法規の条文を読んでいくと、ガソリンエンジンがダメらしいんです。要は、火を燃やすものをビルの屋上で発着させてはいけない。

西村:爆発したときのリスクですね。

千葉:はい。でも電動ならOKらしいんですね。

西村:じゃあ、現行法でもOK?

千葉:そう、ちょっとの修正でいける可能性がある。

西村:誰もやっていないだけ?

千葉:そう、やっていないだけ。なので、EVはいけるんじゃないかと。100%電動の人間が乗るドローンであれば、ガソリンを燃やさないのでいけるかもしれない。そうすると、例えば大手町にあるこのビルもそうですけど、東京の主要なビルには全て発着ポートがあるわけですよ。

東京・大手町のビル群をGoogle Earthで見ると、ヘリポート(緑色の正方形でHorRと書いてあるもの)が用意されていることが分かる

人間が操縦するヘリとの衝突はどう防ぐか?

西村:なるほど、すでにインフラはあると言えばある。それに地上の自動運転に比べれば、空は障害物も少ないし、空のほうが自動運転の時代が早く来るんじゃないか、という話がありますよね。

千葉:僕はそう思っていますよ。

西村:とはいえ、ほかの人間が操縦しているヘリは、どうするんですか?

千葉:高度で棲み分けるのが1つ。それから、ヘリ側にADS-Bという自己位置の発信情報を必須にすることだと思っています。今の日本ではヘリにADS-Bは必須ではないんですね。これを変えないとダメだなと思っていています。アナログ操縦が混じると、そこで自動運転とコンフリクトを起こしてしまいますから。

西村:今の東京の空は、目視で飛んでる人たちがいるんですね。

千葉:目視がいるんです。ヘリは基本的に目視飛行です。かつ自分の機体の詳細情報を発信(ADS-B)していないことが多いんですね。なので、完全目視なんですよ。ちなみに、パイパーという僕が使ってる小型練習機もそうです。あれも完全目視で、自己詳細情報を発信していません。

西村:一方でクルマよりも早く世代交代するのかもしれないですね。クルマだと人間が見る交通信号があります。でも、あれって機械で認識するのが大変じゃないですか。だから機械用にビーコンでちゃんと青だよっていうのを自動運転車に渡したほうがいいんだけど、そのインフラを変えるのはめっちゃ大変。一方、飛行機に発信機を追加するのであれば、もしかしたら耐用年数を考えたら10年ぐらいで……。

千葉:入れ替わっちゃう可能性はありますね。しかも、もともとそんなにたくさん数が飛んでいないんですよね。実は、日本の自家用機って数百機レベルしかないんです。社用機を含めても、それほど数がないんです。国交省から見れば、個別に顔が見える範囲です。アメリカと違って日本は機体の台数が圧倒的に少ない。

西村:むしろ日本の空はアメリカより過去のしがらみが少ない?

千葉:実際に空を見上げていても少ないと思いませんか? 例えばここで1日、ヘリコプターが通るのを見てても、2~3機あれば多いぐらいですよね? 東京の空というのは、ほとんど使われていないのです。

西村:確かに東京は気持ち良いほど空があいてますね。やっぱり社会的なインパクトがあるのは都心ですか?

千葉:都心がいいです。

西村:名古屋とか……、都市間移動は?

千葉:それは新幹線のほうがいいですよ。

西村:あ、そうか、安全だし、そのほうが速いですね。

実機で失速の訓練、肌で学ぶ空の安全

西村:東京の空で自動運転ドローンができるとして、安全性はどうなんでしょう? クルッとひっくり返りませんか?

千葉:エアモビリティーの安全性はこれからです。もちろん机上の計算では様々な安全対策を検討してますが、それが実際の多様な気象条件で本当に安全かどうかという実検証はこれからです。だから今、飛行機のパイロットの訓練をしてライセンスを取ったんです。飛行機は、どういうときに落ちるのか。そういうことを、ひたすらパイロットとして学んでいるんです。例えばエンジンを空中でアイドルにして失速落下させたりする訓練をたくさんやりました。

西村:訓練と分かっていても、それはしびれそうですね(笑)

千葉:この間、名古屋空港の横でやった訓練は、こんな感じです。高度1,000フィートを飛んでいるところで、まず教官がエンジンをアイドルにします。そのエンジンがほぼ止まった状態で、横に見えている空港の滑走路に向って90度でそのまま滑空して降りて行きます。そして滑走路の真上で真ん中に入ったら、そのままだと芝生に突っ込んでしまうので、さらに90度姿勢を変えて着陸する。不時着の訓練ですね。それを2回やりました。

西村:すごい、おもしろい!

千葉:ほぼエンジンを止めて。滑空のみで。

西村:ひゃー、ドキドキですね。

千葉:そう。しかも、通常は滑走路に対して飛行機は真っ直ぐに入って行くじゃないですか。そうじゃなくて、滑走路に対して90度で入っていくという、結構アクロバティックな練習です。もちろん管制官から特別な訓練許可をもらってやってますが。

西村:ものすごく操縦してる感がありそうですね(笑)

千葉:それをやらせてもらって、「あ、こんなに滑空しないんだ」ということに気づきました。

西村:どういうことですか?

千葉:もっとフワッと飛ぶのかと思ったんです。でもエンジンがない状態の固定翼の飛行機というのは、基本的に落ちていくんです。すごいスピードで落ちます。

西村:そうしたこと自分で体感することが大事だと。

千葉:そう、空中で何かあったとき、地面衝突までの時間というのは本当に短いんだというのを体感するために訓練するんですね。いわゆるグライダー専用機だったら、フワーッと飛ぶんですけど、しょせん鉄の塊の飛行機でエンジンが止まったら、やっぱり落ちていくのです。

西村:何度ぐらいのアングルで落ちるんですか。

千葉:10度ぐらいですね。でも、着陸のときって通常3度なんですね。だから10度といっても3倍の角度で落ちていることになります。超怖いです。

西村:映画で見るあれですね、計器がカタカタカタみたいな(笑)

千葉:もう、ガッコンガッコン落ちている感じです(笑)。通常の3倍の角度で降りている中で角度をキープして揚力を何とか失わないようにするんです。下にすると速度が上がって揚力が上がり……。

西村:落ちていく角度は一定で安定させるんですか、それとも上下に漕ぐ感じ?

千葉:角度を一定にして安定させます。機種ごとに最適な落ちるスピードと揚力が決まっていて、全部マニュアルに書いてあります。例えば自分の機体の最適バランスは70ノットです。それ以上に角度を下げると速くなるし、上げると遅くなる。

西村:なるほどー、じゃあ、スピードをコントロールすればいいんですか?

千葉:そう、機首だけをコントロールして、70ノットにする。

西村:70ノットにすると、進入角が10度になる。

千葉:そうです。でも、言うは易しですよ。エンジンが止まって落ちている飛行機の中で、そんな落ち着いた行動はできません。言うは易しなんですよ(笑)

西村:だからこその訓練ですね。

千葉:そうそう。いま僕は2回やって2回とも着地ができたので、ちょっとだけ分かってきたんですが、慣れはしません。話が変わりますが、ヘリコプターがまたすごいです。僕はヘリコプターの免許を持ってないんですけど、この間、ヘリコプターのライセンスを持っている友人に乗せてもらいました。ヘリコプターというのはエンジンを止めるとストンと落ちるんですけど、ストンと落ちたら逆にローターが風を受けて回転することで揚力が生まれ、一瞬ふわっと止まるんですよね。オートローテーションというのですけどね。つまり、ヘリコプターというのは、飛んでいるときに、いきなりエンジンが止まるとストンと自由落下して、いったん止まるんです。その後フワッと着地できるんですね。

西村:へぇ、きりもみとかじゃないんですね。

千葉:落ちるときにプロペラが風を受けて揚力をつくる仕組みがあるんです。だから、いったんブレーキがかかって、そこからシューッと降りて行って、最後は機首を上げると少しブレーキがかかって静かに止まれる。そういう構造的な機能が備わっているんです。

西村:直感的には時速100キロ以上で落ちちゃいそうな気がしますけど。

千葉:いえ、最後は数十キロまで速度が落ちてきます。それをヘリコプターのパイロットは延々と訓練するんです。それに乗せてもらったんですね。自分で体験してみたくて試しました。

西村:怖すぎます(笑)

千葉:訓練の必須項目ですから、彼らは何十回も訓練しているんです。飛行機でも失速の訓練をやります。空中でエンジンを止めて機首を上げていると、そのうち突然失速して機首が下に落ちます。そこからどうリカバリーするか、というのをやるんです。それも毎回やっていると、飛行機が真下に落ちるのが、あまり気にならなくなってくるんですよ。

西村:それって、徐々に速度が落ちて、頭が下を向いてシューッと落ちるんですか。紙飛行機で見るような。

千葉:そう、頭からカコンと抜けたように、こう落ちるんです。そうするとユラユラしながら落ちていくので、そこでエンジンを全開にして、機体を水平に安定させてから機首を上げていくんです。でも、落ちると揚力が生まれる。そこでエンジンをかけると、さらに引っ張られる。

西村:10秒くらいですか?

千葉:10秒ぐらいの話ですね。1,000フィートくらい落ちるから、300~400メートルです。その瞬間だけで、東京タワー1本分ぐらいは落下します。一瞬です。

西村:ちょっとドキドキしますか。

千葉:地面は近づいて来ますね。

西村:僕、スカイダイビングでGoogleマップのように地面がグーッと広がるのを見たんですけど、グーッと目前に広がりますよね。

千葉:来ますね。グーッと近づいてくる。そこそこのインパクトはありますよね。でも、慣れます。それを最終的には1人でやらなくちゃいけないんです。訓練の項目の中に、1人で失速するというのがあるんですね。それまで教官が横にいて、いざとなれば教官が入ってくれるといういう安心感がありましたけど、最後は全部1人でやらなくちゃいけない。これは怖かったですよ(笑)2度とやりたくない……。

西村:技術的に大丈夫だったとしても、精神的にはきついですね……。

千葉:そう、プレッシャーが無理。自分に大丈夫だと言い聞かせる以外の方法がないんですけどね。

肌で感じていた空気の流れを可視化する技術に投資

西村:しかも、空気の流れって読めないんですよね? 地上付近は特に怖そうです。

千葉:怖いですね。先日もトレーニングしていたとき、着陸を1日に20回やったんですけど、その日は乱流でした。横風が15ノットで、これは着陸できる限界ぐらいの横風で、しかも滑走路のところにとぐろを巻いている小さい渦がいっぱいありました。近づいて行くと飛行機が乱流に巻き込まれて、翻弄されるんですよ。

西村:機体のサイズも関係あるんですか?

千葉:ええ、小さいから。ジャンボジェットだったらいいんですけど、小さい機体だと風速15ノットというと、もう限界なんです。機体が斜めになり過ぎてしまって、(地面に)翼が先に地面にぶつかるぐらいなので。

西村:怖い……。

千葉:一定の風だったらまだ対応できるんですが、乱流があると一定の角度にしていても、行き過ぎたり、機首もあちこちに引っ張られてしまうんです。その状況の中で、ひたすら20回着陸したりして。

 

西村:そう考えると、地表近くを飛ぶ小型のドローンで安全性を確保するというのは、すごく大変じゃないですか?

千葉:難しいです。ほんとに難しい。

西村:でも、人間による操縦より、よほど自動運転のほうが安全かも?

千葉:そう。最初からそれで設計してしまえばね。僕が今投資している京大発のベンチャーで、乱流を観測するメトロウェザーというところがあります。風の観測装置のスタートアップにも投資しているんです。

西村:それは地上から観測するんですか?

千葉:地上からです。

西村:地上から観測して、飛行機に信号で知らせるとか?

千葉:そうです。

西村:そうすると、大気のどこがどうなっているかが見えると。

千葉:はい。ドップラー・ライダーというシステムです。今の空港の運用がどうなってるかというと、空港の端と端に風見鶏があって、風見鶏のデータをただ流しているだけなんです。実際に自分で飛行機を操縦すると分かるんですが、滑走路の手前と真ん中と奥とで、全然風が違うんですね。なのに、タワーから風の情報は1つしか来ないんです。

西村:空港全体として、風の強さと方向の情報が1つだけ来ると。

千葉:そう。330度の16ノットですという情報しか来ないんです。そんなはずないんですけどね。ただ、人間はあまり細かい情報を与えられても何の判断もできないので、あとは肌感でやる。それが、いまの飛行機なんですね。

西村:なるほどー。でも、パイロットはみんな風を感じているんですね。

千葉:そうそう。「330の16? いや全然16じゃないよね」というのを、現場で肌で感じながら降りているんです。だから、数字は参考にしかならなくて、実際に吹いている風で対応しているんです。人間がリカバリーしているから、今の単一データでも着陸はできているんです。これが逆にAIであれば、滑走路の間の空気の動きも全部データ化して、1万スポットのデータ全部を突っ込んで、それを頼りに降りればいいのです。

西村:はるかに安定して降りられる可能性がある。なんだかアメッシュみたいな話ですね。

千葉:そうですね。アメッシュの超細かい版ですね。1メートルごとのメッシュで風を見るんですね。

西村:そのドップラー・ライダーを東京のビルの上に取り付ける時代が来る、ということでしょうか?

千葉:おっしゃるとおりです。これをKDDIなど通信インフラ企業の基地局に付けられないかと考えています。既存のドップラー・ライダーは巨大システムとして空港に置いてあります。それで半径10キロぐらいの風の動きを読んでいます。ですが、それではビルに載せるには大きすぎますし、価格も高すぎる。メトロウェザーが取り組んでいるのは、これを遥かに小さい50センチ角のキューブにすることです。劇的に小さくする。そうすると既存の携帯電話の基地局に付けられるようになり、製造単価も安くなる。

メトロウェザーが開発する小型ドップラー・ライダー

西村:ドップラーということは、ビーコンのようなものを飛ばして、返ってきた信号を見て、その差分で空気の流れを推定するということですか?

千葉:そうです。空気中のちりに向かってレーザーを飛ばします。ちりは常に動いているので、反射して返ってきたときにドップラー効果が測定できるんです。

西村:周囲をスキャンするのですね。

千葉:はい、360度ずっとスキャンし続けるんです。そうすると、手前のちりで返ってくるものもあれば、奥のちりで返ってくるものもあるので、ざっくり手前数百メートルぐらいから、奥5キロぐらいまでの空間を全部スキャンできるんですね。ちりに当たった分だけ。都会ほどちりが多いですから、正確に測定ができるのです。空気が良すぎるところはちりがありませんから。

西村:そんなに差があるんですか。東京は最近ちょっと空気がきれいすぎませんか。

千葉:でも、東京も十分測定はできますね。人間の目に見えないちりの話なので。

汐留のビルの間でドローンを飛ばすには

西村:都心で1メートルメッシュで風の動きをデータ化できれば、ドローンの安全性も高くなるということですね。

千葉:ええ、ドローンとかエアモビリティーが東京の空を飛ぶということは、汐留のようなビル街のビルとビルの間も飛ばなくてはいけない、ということです。ビル街は風が複雑じゃないですか。

西村:地上を歩いててもビル風ってありますよね。

千葉:汐留とか新宿のビル街、ああいう高層ビルが何本も立っているところはビル風がすごく複雑なんです。しかも、汐留って東京湾から風が吹いてきて、ビル群にバーンッとぶつかって、そこから風が割れるんですね。

西村:時間帯や天気でも違いそうです。

千葉:そう、乱流を起こすんです。でも、そこにドローンを飛ばさないといけないのです。だから、メトロウェザーのような仕組みが必要なんです。どういう乱流がビルとビルの間にあるか知る必要がある。しかも、ビル1本に1個の乱流ではなくて、ビルのそれぞれのフロアのところに違う乱流が起きている。

西村:東京のビルはまだ素直な形ですけど、上海なんかだと球状の建造物とかいろいろあって、どんな風になるか計測しないと分からないですよね。

千葉:そうそう。ビルに当たった後の風の動きもあるので、そこも全部データで可視化していかないと、自動飛行でドローンやエアモビリティーを安全に飛ばすことはできないのです。やっぱり自分でパイロットの訓練をやって風と戦って、「死ぬ! 死ぬ!」みたいなことをやったから、これがいかに大事であるか良く分かるんです。安全に人間を運ぶためには、風の可視化は本当に重要です。

西村:良く未来予想の絵で、ビルの間をドローンが飛んでいますよね。あれだけ見ると、「まあ飛ばせばいいんじゃん?」と思いますけど、そんなに簡単な話ではないんですね。実際には絵に描かれていない風がくせものだ、と。自分で操縦桿を握って、そのフィードバックを手で受け止めて感じたからこそ、なのでしょうね。

千葉:そう、僕が今やっているのは、自分の飛行機の操縦体験を通して、安全を担保するためには、どういう技術、どういうデータがないといけないのかというのを逆算することです。投資先にも当然そうしたところがあるのです。

ハイブリッドからスタート、都心から成田まで15分

西村:ちなみに、エアモビリティーのエネルギー効率はどうなんですか?

千葉:悪いですよ。

西村:あれ、ダメじゃないですか。

千葉:だから、EV化が難しいんですよ。電動化が難しいんです。だから最初はハイブリッドなんです。エンジンで発電してモーターを回す。途中で余裕があれば蓄電する、というスタイルが、第1世代になります。

西村:トヨタのプリウスみたいな感じですね。

千葉:そう。プリウスからリーフに行く感じなんですけど、最初はプリウスが投入されます。その次にリーフが出ます。プリウスのときはビルの屋上が使えないので、定期便の航路をつくるしかないです。

西村:なるほど。それぐらいの解像度で未来を見て投資されているんですね。

千葉:はい。そのプリウスを投入するのが2023年です。今から3年後です。

西村:技術的、ビジネス的、法制度的には……?

千葉:めどが見えてきました。まず日本政府がコミットしてくれて、2023年に商用のエアモビリティーが始まります。

西村:最初の定期便は、どこを飛ぶんですか?

千葉:まだ決まっていません。いま三重県と福島県が手を挙げているんですけど、東京が手を挙げないことには始まりません。東京だと、例えば新木場にヘリポートがあるので、「新木場=成田便」とかですね。

西村:そうすると、最初の利用ユーザーのイメージって、2万円で新木場から成田まで行けると?

千葉:15分で行ける。

西村:速いですね!

千葉:200キロぐらいですね。

西村:じゃあ、ヘリぐらいですね。

千葉:まさにヘリぐらい。無人のヘリですね。

西村:上にコプターがついているんですか。それとも下につくんですか。

千葉:それは機種によりますね。うちの取引先だとスカイドライブという会社があるのですが、あそこは下ですよね(下記動画参照)。

 

西村:乗り心地的には、ヘリと似たようなものなんですか?

千葉:どうなんでしょうね、僕が乗ってないので、ちょっと分からないですね。取引先にエアロネクストという会社があって、乗り心地を追究するエアモビリティーを発表しています。それは中の構造体が揺れないゴンドラタイプなんですよ。

 

西村:ジャイロみたいなやつですね。シューッと斜めに上がるときにも乗っている人のアングルは変わらない、と。

千葉:そうです。中だけ全く動かない。中はゆったりとした雰囲気で、1人乗りを想定していています。もう、妄想だったものが、かなり具体的な段階に入っているということです。有人ドローンは、単に飛ぶというところから、乗り心地というところまで来ています。

西村:何人乗りがメインになりそうですか?

千葉:ほとんどの機種が、1人か2人ですね。4人というのはまだ日本では見たことないです。

西村:でも、長い目で見たら、効率がいいのは6人ぐらいとか? 小型バスみたいに。

千葉:そうですね。それぐらい乗れたほうがコストが安いですね。最後に狙っているのは、4人から6人乗りで、ライドシェア。100%電動で自動運転。これがたぶん一番安くなると思います。

風切り音低減の研究開発にも投資

西村:ちなみに、音はどうなんですか。ヘリコプターみたいな音?

千葉:エンジンがないので静かです。

西村:でも、ヘリの音って空気を切っている音では?

千葉:いや、あれはエンジンの音ですよ。両方ありますけど、エンジンの音もかなり大きいので。だから、ハイブリッドだとまだうるさいですね。ただ、音はエアモビリティーのほうがヘリコプターよりも一段階低いです。

西村:例えば20年後に東京の空をブンブン飛んでいるとしても、ブーンという程度?

千葉:そうなるはず。いま同時並行で研究開発しているのは、プロペラの形状。いろんなチームがやっています。

西村:風切り音の研究?

千葉:そう、風切り音を減らす。形状の工夫だけで20~30%は音が下がります。ほかにも逆位相の音をぶつける研究をしているチームもあります。

西村:なるほど、ヘッドホンのノイズキャンセルと同じ原理ですね。

千葉:そう。飛んでいる物体にノイズキャンセラーをその場で当てて行くという。これをやると、たぶん半分ぐらいまでノイズは落ちると思います。それにノイズというのは高さで一気に小さくなるので、例えば今このビルの上にエアモビリティーが着陸しても、この部屋では絶対に聞こえないはずなんです。

西村:距離が2倍になると音は4分の1とか、そんな感じでしょうか。

2030年、東京ではタクシーが空を飛ぶ

西村:ところで、理想的な6人乗りエアモビリティーが実現できた未来の東京では、人々は、どういう風に使っているんでしょうか? 地下鉄代わり?

千葉:皆さんのタクシー代わりです。完全にタクシーですね。急ぐ人たちが今現在、東京でタクシーを使っていますよね。そういう人が使うイメージです。2023年から日本のどこか一部で商用サービスを始めるのですが、そこまで行くのは2030年だと僕は思っています。

西村:東京でUberのように気軽にエアモビリティーを使う時代は、2030年にやってくる。ちなみに、DRONE FUNDを立ち上げられたのは2017年ですよね。すると、13年後の世界を見て基礎開発のために投資をしていることになります。一方で、ファンドは10年満期。10年で成果を出して経済的リターンを確定させないといけませんから、研究開発への投資は難しくありませんか?

千葉:厳しいです。

西村:その辺は投資家としては、どういうふうに考えて取り組まれていますか?

千葉:リターンを早く返す必要がありますよね。ですから、リターンが出やすいものと、中長期で取り組むべきものをポートフォリオの中で意識して分けていてます。少なくとも1Xのリターン(ファンドの資金と同額のリターン)を早く返したほうがいいな、と思っているんですね。そうしないと、お金が回らないので、いったん預かった1Xをどれだけ早く返すかですね。

DRONE FUNDの出資先は国内外に現在40社(非公開企業含む)ほどある

西村:13年後とか15年後を見据えてはいるものの、早い段階でのリクープも意識しつつ中長期の投資も組み合わせている、と。次のDRONE FUNDの3号はいかがですか?

千葉:そうですね、実は水面下ではいろいろと動いています。

西村:順調に次のファンド組成ができると、10年後の最終的な6人乗りの空飛ぶタクシーの時代までカバーできそうでしょうか。

千葉:2030年ですからね。

西村:すごいですね、まさに産業をつくりに行く息の長い話。2030年に東京のタクシーが空を飛び、関連企業も活況を呈し、そのときの技術やサービスが海外展開できたら最高ですね。そうなれば20年後の2040年の教科書やWikipediaには間違いなく千葉さんの名前が載りますね。本日は長時間お話ありがとうございました!

ドローンベンチャーエコシステムベンチャー投資
西村 賢

西村 賢

Partner, Chief Editor @ Coral Capital

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