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スタートアップ100社、VC45社に出資する投資家・千葉功太郎が新たにファンドを立ち上げたワケ

残念ながら、毎週その曜日は地上にいないんですよ――。

インタビューの日程調整をお願いすると、ちょっと普通では意味の分からない返事が返ってきました。個人投資家の千葉功太郎さんといえば、スタートアップの起業家やネット系企業の経営者、ベンチャーキャピタルで知らない人はいないでしょう。小型飛行機の操縦桿を握り、パイロットの国家資格を取得しようとしていることをご存じの方もいるかもしれません。冒頭の言葉は、特定の曜日はパイロットの訓練飛行のために地上にいないという意味です。

千葉さんは2000年代にはKLab取締役、後にコロプラ副社長、その後はエンジェル投資家として日本のネット系ビジネス界で活躍されています。早い時期から個人でドローン操縦にのめり込み、イベント登壇時には小さなドローンを自在に操り、未来を語る姿を見た人も業界には多いかもしれません。

その千葉さんは現在、新しい形の起業家のコミュニティーづくりと、ドローンを軸としたエアモビリティー産業づくりに精力的に取り組んでいます。

前者はエンジェル投資だけで60社近くのスタートアップを支援し、「千葉道場」と名付けた起業家コミュニティーを運営してきたものを進化させた「千葉道場ファンド」として2019年10月にスタートしています。外形的にはベンチャーキャピタルとなっていますが、一般的なVCと様相が異なります。運営チームは全員がイグジット経験のあるスタートアップ起業家。しかも、パートナーは出入りが自由という立て付けにすることで、起業家が、2度目、3度目とより大きな挑戦をして連続起業家として成長していく中で、後続の起業家たちをメンタリングできるような仕組みを取り入れています。

後者のエアモビリティー産業をつくるということでは、2017年にドローン・スタートアップに特化した「DRONE FUND」を立ち上げ、さらに2019年5月に組成したDRONE FUND2号ファンドと併せて約68億円を運用。すでに国内外で40社(非公開含む)のスタートアップに投資しています。10年満期のファンド運営では、一般的に投資の回収が難しいとされる研究開発系ベンチャーも含めて、着々と未来を作り出そうとしています。その未来を生み出す活動の1つとして、自ら空のことを理解するためにパイロット試験にも挑んだ、というわけです。

今回、Coral Capitalでは千葉さんにお時間を頂いて、起業家として歩み始めるにいたった経緯や、新しい起業家コミュニティーのあり方と狙い、産業をつくりだすということの意味と実践的な取り組みについて、お話を聞きました。

進化した起業家コミュニティー「千葉道場ファンド」については前編記事で、DRONE FUNDを軸とするドローン・エアモビリティー産業の立ち上げの取り組みについては後編記事としてお届けします(聞き手はCoral Capitalパートナー兼編集長の西村賢)。

個人投資家・千葉功太郎(ちば・こうたろう) 慶應義塾大学卒業後、リクルート入社。インターネット黎明期よりWebサービスやモバイルサービスの立ち上げに従事し、2000年よりモバイル系ベンチャーのサイバードでエヴァンジェリスト。2001年にケイ・ラボラトリー(現KLab)取締役に就任。2009年にコロプラに参画、同年12月に取締役副社長に就任。採用や人材育成などの人事領域を管掌し、2012年東証マザーズIPO、2014年東証一部上場後、2016年7月退任。同年、慶應義塾大学SFC研究所 ドローン社会共創コンソーシアム 上席所員に就任、2017年にはドローン・スタートアップに特化した「DRONE FUND」を立ち上げて代表パートナーに就任。2019年5月にはDRONE FUND2号ファンドを組成し、総額68億円を運用している。また、エンジェル投資家として、国内外のスタートアップやVCへ60社以上投資している。2019年4月より、慶應義塾大学SFC特別招聘教授に就任している。Honda Jet ELITE国内1号機オーナーで、航空パイロット訓練生。

※情報開示:千葉功太郎氏はCoral Capitalに出資している個人LPです。

エンジェル投資からコミュニティーを醸成し、出資機能を組み込み

西村:昨年(2019年10月)に千葉道場ファンドを立ち上げられました。これは、すでにあった千葉道場という起業家コミュニティーの進化系という理解でいいのでしょうか?

千葉:ええ、千葉道場という起業家コミュニティーのためのファンドです。コンセプトは「起業家の、起業家による、起業家のためのコミュニティーファンド」です。千葉道場に参加していただくためのシード・アーリー投資と、千葉道場を卒業する直前、IPO前でレイター投資をする、入口と出口だけを投資するファンドです。

千葉道場ファンドの投資ステージ(千葉道場ファンドのサイトより)

 

千葉:千葉道場はコミュニティーなので、まずコミュニティーに入ってくる入口のところで投資しましょう、と。それから出るところはお祝いという意味と、最近のレイターステージでは資金調達が50億円とか100億円と大型化しているので、LP投資家や他の投資家とシンジケートを組めるようなスタイルを目指しています。

西村:50億円を超える資金調達ラウンドであれば、追加で都度の出資者を募る?

千葉:はい、LP(ファンドへの出資者)と一緒にシンジケートを組むというのをやりたいと考えてます。千葉道場ファンドの規模は50億円です。そうすると、どうしても1件あたり数億円の前半しか出せません。ただ、起業家としてコミュニティーに入ってから3年とか5年、ずっと一緒にやっていくわけですよね。そうすると、小さい頃からずっと子どもを見るようなもので、この会社は絶対大きく成長しそうだよね、というのは分かるじゃないですか。そういうときに千葉道場ファンドで素早く出資の意思決定して、そこにLPの方たちから同時に資金を集めていくような形を夢見てます。Coral CapitalがSmartHRのシリーズBのときにSPV(Special Purpose Vehicle)を作ったのと似た話です。例えば30億円を集めたいと思ったときに、それぐらいのポーションをサッと集められるといいなと思っています。ただ、それではまだ足りないと思うので、そこに加えて起業家自身で探して来るのも、もちろんいいです。

西村:ちなみに千葉道場ファンドのGP(General Partner)や意思決定は?

千葉:GPは、僕1人です。ただ、それでは個人既存投資先に利益相反の投資も発生するため、専任のパートナーが1人いて、そのパートナーが意思決定をします。僕は起案者という立て付けです。GPは僕1人なんですが、僕に意思決定権はありません。

西村:なるほど、おもしろいですね。

千葉:投資委員会にて僕が起案して、個々の案件について専任パートナーが意思決定するのを横からLP投資家から構成されるオブザーバーがチェックするという立て付けです。

西村:パートナーに就任されたのは、教育系スタートアップのアオイゼミ創業者、石井貴基さんですよね。石井さんはアオイゼミを2012年に創業して2017年にZ会グループにM&Aされています。フェローとしては、2011年に創業したザワットをメルカリにイグジットした原田大作さんもいらっしゃいます。

千葉:そうです。もともと、あの2人が千葉道場をつくったんですね。

西村:そういう意味ではコミュニティーからファンドへの進化という形でしょうか。

千葉:はい、彼らはLP投資もしています。他にも千葉道場に参加する起業家でイグジットしたメンバーもLP投資で入ってきています。ほかの企業もLPで入ってくるんですが、基本的にはコミュニティーにいる人たちがLP投資ができるスキームになっています。つまりイグジットしたCEOやCxOが、千葉道場ファンドにお金を入れられます、と。そこは米国のFounders Fundっぽいですよね。

西村:イグジットしたCEOという意味では、先日(2020年4月)は、宿泊予約サービスのReluxを2011年に創業して、2017年にKDDIグループにM&Aされた経験のある篠塚孝哉さんも千葉道場ファンドのフェローに就任されましたね。

千葉:そうです。千葉道場コミュニティからM&AやIPOも生まれつつあり、起業家たちが次世代の起業家を支えていく、起業家人財のエコシステムを具現化しつつあります。

石井貴基さん(左)と原田大作さん(右)

なぜパートナーの出入りを自由にするのか

西村:イグジット経験のある起業家がLP出資をしつつパートナーとして入ってくるというのはユニークですよね。

千葉:ええ、起業家経験のあるメンバーがファンドの運営をするということなんです。僕は1人でGPをやりますけど、ファンドへの10年コミットメントは僕1人しか持っていません。ほかのパートナーは自由に入って、自由に辞められるんです。

西村:どういうことですか?

千葉:パートナーがどんどん入れ替わる制度です。今後コミュニティーからイグジットするCEOがどんどん出てくるじゃないですか。その人たちは、1、2年ほど休んだ後にまた起業するんですよね。人に会って話を聞いたり、何かを試したり、エンジェル投資をちょっとしたり、そういうことを1、2年やると、またすぐに起業するんです。だいたい1、2年開くんですよ。この間、千葉道場のファンド運営を一緒にやりませんか、ということです。

西村:ああ、なるほど。そういう意味では、VCのEIR的なポジションですね。

※EIR(Entrepreneur in Residence:米国VCなどに見られるポジション。イグジットした起業家などがVCに在籍して投資先を支援しつつ、次の挑戦に備えることがある)

千葉:おっしゃるとおりです。アントレプレナー・イン・レジデンスなんです。もちろん情報管理は徹底して行ってますが、そこを意識しています。アントレプレナーが、より成功するシリアルアントレプレナーに成長するために、エンジェル投資家経験だけでなく、プロ投資家の経験はあった方がいいと思っています。これは仮説なんですが。

同一人物でもエンジェル投資とVC投資でリターンが異なる

西村:起業家もプロ投資家の経験があったほうが成長できる、という仮説の背景は?

千葉:僕自身これまでエンジェル投資を、たくさんやってきました。それで2年前にDRONE FUNDを立ち上げたわけですけど、エンジェル投資家としての自分と、DRONE FUNDのGP投資家としての自分を比べると……、実はDRONE FUNDは1号もパフォーマンスが良くて、すでに出資者に半分の資金を返しているんですね。まだ2年しか経っていないのに。

西村:ファンド満期は10年ですから、それは凄く速いリクープですね。

千葉:ところが、エンジェル投資のほうは相変わらず赤字なんです。ずっと赤字を掘っている。これが何の差かというと、同じ投資家なのに意思決定が全く違うということが分かったんです。

西村:おおぉ。

千葉:エンジェル投資はやっぱり、ニコニコしながら渡しているんですね。「頑張れっ」て言ってね(笑)

西村:人として応援したいという前向きな投資でしょうか。悪く言えば、規律がちょっとゆるいというか。

千葉:スタンスが全く違いますよね。エンジェルは、この人を一生応援したいという思いがあるかどうか。それに対してファンドというのは、やはり10年間という短期間にリターンを返すという目線を持っていますから。

西村:ファンドへ出資するLPに対する責任も当然ありますよね。

千葉:はい。やっぱり人様のお金を預かっていますからね。Coral Capitalもそうですよね。GPとしてリターンを返すというプレッシャーがあります。結局のところ、それがDRONE FUNDで預かった16億円という金額のうち、すでに8億円以上リターンしているという実績になっているんです。LPの皆さまには「ドローン専門ファンドなのに結果が出るのが早くないですか?」と驚いていただいています。

西村:DRONE FUNDの投資先が1社、上場しましたよね。

千葉:はい、自律制御システム研究所(ACSL)という会社です。世界初のドローン専業銘柄IPOを狙って出資していたので、とても嬉しいです。

西村:エンジェル投資では結構お金を失っている人も多くて、データを見るとアメリカでも実はスタートアップへの出資額に占める比率としては退潮してきているという話もあります。やはり個人で投資するのと、ファンドを組成して投資するのは違うんですね。

千葉:はい、それに投資を59件やってきていますが、だんだん自分も成長してくるわけです。

西村:見る目が厳しくなるとかですか?

千葉:厳しいのかどうかは分からないです。変わってきますね。より多角的に見るようになります。それまでは、出会ってすぐに「こいつ、面白い! じゃあ、投資しよう」みたいなノリが少なからずあったわけです。でも、ちゃんと事業も見るようになるし、マーケットサイズや他にどういうプレイヤーがいるかという競合も真面目に見るようになりました。

西村:なるほど、確かに、エンジェル投資はそんな数字や分析じゃないことが多いですもんね。バリュエーションも、あなたの好きな額でいいよ、と。

千葉:いくらでもいいよと。とにかく出すから頑張れっていう感じでした。それが今は、ちゃんとシェアも見るようになりました(笑)

西村:シェアを見ていなかった!

千葉:エンジェル投資家としては今までは別に気にしていなかったですね。1,000万円の出資で5%のときもあるし、1,000万円で0.2%のときもある。でも、あんまり気にしていないわけですよ、ぶっちゃけ。

西村:応援する個人としては、成功してくれたら、それが十分なリターンですもんね。一方、VCは1%のシェアの違いをシビアに論じます。シードで0.2%という投資はないです。

千葉:おっしゃるとおり、DRONE FUNDは最低10%だよという議論をしています。そうしないと手間暇かけてチームで応援してリターンが返ってきたときでも厳しい。例えば100億円でM&Aをされても、10%だと10億円なわけじゃないですか。そうするとファンドサイズからすれば、そんなにインパクトが出ないわけです。そう考えると10%未満のシェアでの出資ってできないよねと。ファンドだと普通に思っちゃうわけですよね。

西村:シードファンドは、そうなりますよね。

千葉道場ファンドはエンジェル投資+コミュニティーの進化系

西村:ところで千葉道場ファンドは、最初から1号、2号とあるんですよね?

千葉:細かい話なのですが、すでに僕が個人投資しているスタートアップ企業を束ねて、そこに僕が100%出資するLPとなって千葉道場ファンド1号にした形です。表に出ている千葉道場ファンドは、外部資金が入った新規設立の2号ファンドという立て付けです。

西村:そういう意味でいうと、「個人のエンジェル投資家+コミュニティー」が進化してできたのが千葉道場ファンドでしょうか。

千葉:おっしゃるとおりです。

西村:これまで個人投資が59社で、DRONE FUNDのほうは何社に投資実績が?

千葉:ドローン・エアモビリティ合わせてで40社で、2つ合わせると100社超えました。ちなみに個人投資家としてはベンチャーキャピタルへLP出資で45ファンド、個人投資しています。

西村:すごいですね。情報源として、すごくないですか? 日本のスタートアップの情報を全部押さえるぞみたいな状態ですね。

千葉:情報量は多いですね、国内外共に。国内は独立系VCはほとんどかもしれません。

お金のない起業家同士がペア投資できる仕組みをつくる

千葉:これはまだ完全に構想中ですが、千葉道場のコミュニティーのメンバー同士が相互に投資ができる仕組みを用意したいと思っています。創業間もなく個人資金もない起業家たちが10万円とか20万円の投資を千葉道場ファンドにできる仕組みを作れないだろうかと。

西村:個人資金がないというのは……?

千葉:まだイグジットしていない、お金のない若手起業家たち。千葉道場に59人のCEOがいるんですが、イグジットしていないと、個人の資産ってあんまりないじゃないですか。しかも彼らは一般的な会社員と比べても給料をほとんど取っていませんから。

西村:なるほど、よほど売上成長がないと、CEOの給料はそこまで高くならないですよね。

千葉:そうそう。社員に給料を渡していて、自分たちの給料ってほとんど取っていないんですよ。だから、貯金がほとんどないんです。

西村:なるほど。

千葉:とはいえ10万、20万はあるわけじゃないですか。そうした少額で投資できる仕組みを用意しようと思っています。昨年カリフォルニアに行ったときに現地の起業家の何人かから聞いたんですけど、10万~50万円ぐらいのお金をお互いに投資する「ペア投資」というのが、今はすごく定着してきているらしいんですね。それによる、お互いの補完関係ができ上がってきている、と。

西村:ファンドにせよスタートアップ企業にせよ、数十万円という金額は、出資を受ける側からすると、よほど理由がないと株主として入ってほしくない金額ですね。でも、そうではなくコミュニティーの助け合いという面での出資関係ということですね。

千葉:そうです。それを起業家同士が1対1でやるのが結構はやっているらしいんですよ。皆さんが良くご存じの大成功したスタートアップ2社の創業者が、それぞれ50万円ずつ出資し合った例もあるんですよ。

西村:いい話ですね。精神的にお互いを支え合う同期としてみたいな感じでしょうか。

千葉:ええ、それがすごく機能しているというんです。同じステージのときにちょっとずつ、数十万円ずつ出す。いわゆる日本でいう株の持ち合いですよね。

西村:確かに、比率や目的は違いますが、かつての日本の大企業の株の持ち合いに似てますね。

千葉:それのシード版です。

西村:実際には何をするんですか? ときどき会って話すとか?

千葉:普通に連絡して、困ったことをお互いに話すみたいなことをやっているみたいですね。千葉道場に1on1の仕組みがあるんですが、そんな感じですよね。こうした相互出資の関係を千葉道場の全体でやったらどうか、という企画をチームの中で考えています。

西村:良質な起業家コミュニティーであれば、リターンの期待値も小さくないですよね。

千葉:もちろん。先ほど出した米国での2社の成功事例では、一方で50万円が1億円になったそうです。もう1社のほうはそこまで大きくないものの、かなりの額だそうで、うれしかった、という話です。精神的に支え合った上に、ちゃんとリターンもあったっていう良い事例なんですね。

西村:なるほどー。もともと日本でも起業家同士は飲み行ってCEO同士でしかできない話をしたり、ときには苦しさを吐露したりしていますもんね。そこに経済的ゴールの共有も加える。

千葉:そう、お金の関係というのを用意したいなと思っています。そういうコンセプトって日本で見たことないのでやってみたいですね。

西村:ないですよね。コミュニティーから出てきた出資スキーム。

千葉:コミュニティーに帰属している機能です。コミュニティーが主語で、そこに機能としてお金の部門があるという感じですね。

千葉功太郎のアイデンティティは、経営者か投資家か?

西村:ところで千葉さんは、ドローン関係ではインタビューをお見かけしますけど、起業家、投資家としての千葉さんのインタビューは少なくないですか?

千葉:そうですね。そんなには出ていないですね。

西村:ちょっと生い立ちや学生時代のこともお聞きしたいのですが、中高は私立名門の麻布ですよね?

千葉:はい。懐かしい(笑)

西村:東京の港区出身。どの辺なんですか?

千葉:六本木ヒルズです。

西村:え?

千葉:六本木ヒルズの出身です。

西村:どういう意味ですか?

千葉:六本木6丁目の地権者の一部がうちの親だったんです。

西村:そこに家があったということですか?

千葉:六本木ヒルズの敷地の中に家があったんです。今で言うグランドハイアットホテルの車寄せのところに家があったんです。

西村:え、すごい場所ですね。生まれたときから差がある感じ……。ご両親は何をされてたのですか?

千葉:フラワーデザイナーをしていまいた。今でいうところのフリーランスでしょうか、有名フリーランスみたいな感じ。

西村:花の世界では有名ということですか?

千葉:有名ですね。華道家の假屋崎省吾さんに近いかもしれないですね。むかし大阪花博という万博があって、それの総合プロデューサーをうちの両親がやっていましたね。

西村:起業家をインタビューしてきて良く聞くのが、親が経営者だったという話です。千葉さんも、親の背中を見ていた感じでしょうか。

千葉:そうですね。2人とも働いていたし、2人ともスモールビジネス。自分をブランドにして、自分にレバレッジかける仕事をやっていたので、そういう意味では、今、それをそのままやっていますよね。僕は、別に組織の人じゃないですし。

西村:あれ? でも、コロプラのときは東証一部上場企業の取締役副社長じゃないですか……?

千葉:あれは、頑張ってやっていたんですよ。自分の人生において、両方の可能性を追っていたんです。投資家としての自分と、起業家としての自分の両方を試していたんです。起業家はできなくはないけど、しんどいなと思ったんです。

西村:起業して組織をつくって本人がやる。そういうのはしんどい?

千葉:はい。馬場さん(コロプラ創業者で現代表取締役社長の馬場功淳氏)と2人しかいなかったところから、最後辞めるときには組織が1,200人になったんですね。

西村:そのときの千葉さんにインタビューした僕には、超経営者タイプに見えました。

千葉:あれは、やってみたんです。

西村:どちらかというと、志向的にも、適性的にも、自分はそっち側じゃないな、という感じなんですか?

千葉:短距離走ではやれたんですけれども、長距離はできないと思ったんです。今のコロプラの馬場さんもそうですけど、長く経営者を続ける彼らがすごいのは、自分の身体が持つ限り、ずっと経営する気でいることです。僕にはその志向がないんですね。馬場さんとは7年半ほど一緒にやったんですけど、KLabの取締役も7年半だったんですね。どうやら7年ぐらいは続けられる。短距離として。

大企業の経営やマネジメントよりもゼロイチが好き

西村:それってスタミナでしょうか、飽きなんでしょうか?

千葉:飽きの要素は強いかもしれません。どうしてもアイディアが湧き出るタイプなので。やっぱりゼロイチが好きすぎて。例えばコロプラだと、当時すでに東証一部、子会社が10社あって、社員が1,200人。売上も数百億円ありました。そうなると、もう10を100にする経営じゃないですか、ノリとしては。

西村:10を100にできるのは本当に凄いことだと思いますが。

千葉:自分はそっちの志向性が低いみたいで。ある程度出来上がったところから、さらにエクセレントにしていく超優秀な経営者って多くいらっしゃるんですけど、僕は得意ではなかったです。たぶん苦手です。やっぱりゼロイチとか、1を2にするとか、そういうところがすごく好きみたいで。マネジメントも、やればできるんですけど、やるのはしんどい。苦手です。

西村:アメリカのスタートアップだとCEOが途中で代わるって良くあるし、100を1,000にするようなプロCEOがいっぱいいる。日本はプロCEOの層がないから結構つらくて、上場して伸び悩んでいるところが多い、というのも良く聞く話ですよね。

千葉:もちろん人によっていろいろですよね。創業社長として、さらに上に行ける人もいれば、行くのに時間がかかる方もいらっしゃるでしょうし、できない方もいらっしゃる。ただ、日本の空気感って途中で辞めるのを許さないじゃないですか? 途中で投げ出すみたいなイメージがついちゃうので、創業CEOの交代って、一般論としてあんまりポジティブにはできないですよね。

西村:何か逃げたような印象も。

千葉:そうそう。

西村:でも10年ぐらい前にはM&Aで会社を売買することも否定的に見られていましたよね。家族とか自分の子どもを「売る」ような感じで。それが急になくなりました。それと同じように、経営者交代に対する見方も変わるかも。

千葉:もっと普通に合理的にやればいいんだと思います。別に愛情がないわけじゃないので。事業を本気で愛するからこそ、事業の成長のための判断だと考えます。

西村:事業にほんとに愛情があったら、バトンタッチすべき人やタイミングはあるのかもしれないですね。みんなが苦しんで業績や株価が低迷するぐらいだったら、得意な人に任せるという話ですよね。

千葉:そう、逆にね。コロプラの規模に比べると小さい話ですけど、DRONE FUNDも10人ぐらいスタッフがいて、小さいながらも組織が出来上がっているわけですね。ただ、僕はあんまりマネジメントのほうに強い興味があるわけではないので、去年の9月に大前創希さんという尊敬するスペシャリストを共同CEOとして迎え入れて任せています。僕は共同CEO兼会長みたいな立ち位置にさせてもらって自分をフリーにしています。自分をフリーにすることで、ほかのプロジェクトも同時並行で走らせることができるので。

西村:千葉さんは、ものすごくたくさん取り組みをやっていらっしゃると思ってましたが、それが可能なのは、組織は得意な人に任せるというスタンスがあるのですね。

千葉:はい。自分が苦手なことをちゃんと認識して、組織をつくっていくことかなと思っています。というとかっこいいですが、苦手から綺麗に逃げてるだけです(笑) でも、結果として自身のパフォーマンスは上がったと感じてます。

サラリーマンになる、という道を知らなかった

西村:子どものころから社長になりたいとか、ビジネスをやりたいという感じでしたか?

千葉:サラリーマンになるというのを知らなかったんです。

西村:ああ、逆に。

千葉:はい。独立するとかそんな意識じゃなくて、会社員というのを知らずに大人になっちゃったんです。だから、自分で自分の仕事をやると思っていました。親しか見ていないので。

西村:麻布の周囲の同級生はどうだったのですか?

千葉:麻布は麻布で、また変わっています。医者の息子だったり、独立系が多いんですよ。独立系で成功する方が多いので、だから世の中そんなものだと思っていました。弁護士や医師のように、腕に力を持っているご職業の方。だから、自分もそれで生きていくと思っていました。

「お金」というモチベーションで学生ビジネスを開始

西村:そういう背景があるからでしょうか、大学生のときには自分たちでビジネスをされてたんですよね。Forbes Japanのインタビューで読んだのは、大学生のときにお金が欲しかったという話です。年収1,000万円ぐらいあったら女の子とデートできて、クルマも買える。慶應SFCでキャンパスが田舎にあるからクルマがほしい、と。それでビジネスを始めたっていう。

千葉:はい、当時、雑誌の付録としてCD-ROMが付いていたんですけど、あれのオーサリングをやっていました。マクロメディアのディレクターというツールを使って。

西村:懐かしいですね(笑) コンテンツをデータで受け取って、それをCD-ROMにするということですか?

千葉:いえ、コンテンツをつくるところからやっていました。学生でチームをつくってやっていましたね。SFCには当時、そういうことができる人がいっぱいいたんです。

西村:5人ぐらいでチームつくって?

千葉:そうそう。

西村:営業して仕事を取ってくるのは千葉さんでしたか?

千葉:僕がやっていました。

西村:仕事を取ってくるって……、親を見ていたからできたんですか?

千葉:うん、そんなに違和感はなかったですけどね。

西村:電話をかけて、「私たちは、こういうことができます」と普通に売り込む?

千葉:ですね。すると、いろいろ相談も受けるようになるのですね。ホームページも普通につくっていたので。

西村:それで月商どれぐらいいったんですか。

千葉:どれぐらいでしょう……、たぶん年間2,000~3,000万円ぐらいの売上だったと思います。

西村:学生にしてみれば、バイトなんかより、はるかに良いですよね。

千葉:はるかにいいですよね。労働時間も長いですけどね。学校の授業以外の時間は全部働いていました。学校の近くにオフィスというか、小さいアパートを借りて、寝ずにやっていましたね。

お金は儲かっても限界を感じた学生ビジネス

西村:そのときの感覚がビジネスの基礎になっているのですか?

千葉:はい。

西村:リクルートに行かれたのは、何か理由があったんですか。

千葉:今DRONE FUNDのアドバイザリーボードになっているロボットエバンジェリストの今井大介さんと学生時代に一緒に仕事していたんですね。彼がCTOで、自分がその他全部やりますという感じでした。その彼と話をしたのが、「こんなバブルは続かないよね」ということです。

西村:バブル?

千葉:当時はバブルすぎました。仕事は取れるし、単価は高いし、競争もなかったのです。ホームページは競争が激しかったんですけど、当時マルチメディアと呼ばれていた方面とかね。QuickTime VRって覚えていますか?

西村:ええ、ありましたね。

千葉:あれが出た瞬間だったので、ちゃんとした機材を買って、360度のウォークスルーのコンテンツをつくれるようにしたんです。QuickTime VRコンテンツも全部やるようにしてたんですよ。そうしたら単価がどんどん上がって行きました。新しいネタを見つければ、どんどん単価を維持できるなという感じでした。

西村:普通に良いビジネスですよね。

千葉:そう。でも、こんなのじゃダメだっていう結論だったんです。やっぱりちゃんと社会を学ばないと、腐っちゃうなと思いました。だってラクといえばラクなんですよ。(スキルギャップの)アービトラージを見つける仕事なので。

西村:常に新しい技術はあって、それを使ったコンテンツ制作の需要はありますからね。かつてはHTMLを書くこと、いまはモバイルアプリの受託案件も似てるかも。ただ、基本的には走り続けないといけないですよね。

千葉:そうそう。走るのは好きだからいいんですけど、何だろうな……、あんまり苦しまないじゃないですか、お金を稼ぐことに関して。

西村:簡単に儲かるけど、それでいいやとならなかったんですね。

お金や個人の欲望で自分にレバレッジをかける

西村:大学生のとき、そうやって稼いだお金で欲しい物を買って、徐々にグレードを上げて行った、それがモチベーションになったということをおっしゃってますよね。

千葉:新しい高性能のMacが欲しいとか、いいクルマが欲しいというのは分かりやすいですよね。当時のMacには100万円近くする機種もあって、あれが欲しかったわけですよ。普及価格のMacをいったん買っておいて、そこで稼いで最上位機種を買うぞということをやっていました。

クルマも最初はジムニーという小さな軽自動車からスタートして、大きいパジェロが欲しいよね、という感じです。分かりやすいバージョンアップをしていたんですね。そうすると、使う金額が見えているので、それを稼がなくちゃってなるんです。

西村:変な言い方かもしれませんが、自分の欲をたきつけて上がって行くというのは、今でもおすすめのやり方ですか?

千葉:欲があれば、あるいは欲を見つけられれば良いと思います。

西村:20代ぐらいまでは?

千葉:30代もいいと思いますよ。例えば、すごくベタな話だと、フェラーリがかっこいいと思う男の子は多いと思うんですけど、それを買いたいと思うか、思わないかで大きな差が出ると思っています。いつか買いたいよねと本気で思えるのであれば、そこから設計ができるようになると思うんです。フェラーリは3,000~4,000万円ぐらいですよね。維持費もそこそこかかる。保険も高いし、ぶつけると怖いなということもある。そうすると3,000~4,000万円の現金があっても買えるものではありません。もっと余裕がないと買えなませんよね。

西村:都内だったら、なおさら。

千葉:そう、駐車場代も高い。そう考えると、これぐらいの資産とか、これぐらいの収入が必要かな、というのが逆算できる。フェラーリじゃなくても3,000~4,000万円の高級スポーツカーを買いたいという目標が1つあるとしたら、少なくともキャッシュで1億円ぐらいあったほうがいいだろうし、収入も数千万円あったほうがいいじゃないですか。あまり無理するとかっこ悪いし。そうすると、そこのレベルに今から何年で行きたいのか、という話になります。今はこの辺に立っていて、ここから1億円のキャッシュを持っていますというところの差を埋めていく作業ですよね。

西村:日本社会だと割と「足るを知る」という価値観もありますよね(笑)

千葉:それはそれで大切。僕も鎌倉に住んでいるので禅の世界は好きで、足るを知るというのはすごく好きな言葉です。でも一方で、自分に対してレバレッジをかけるには、自分個人の欲望に直結する目標があったほうが原動力にしやすいと思っています。あるいは最近多いのは社会性だと思うんですね、社会起業家的なもの。社会の何々の負を解決したいから、自分は起業家として立ち上がるんだと。これは、すごく良い原動力なので長続きする。

西村:原体験があれば強いですよね。

千葉:ただ、やっぱり入口がつらいと思うんです。入口というのは、スタートダッシュのところ。大人になってくると、自分の中に何かが醸成されて、社会の何かを解決するというのが良いモチベーションになってくる。でも、20代の自分には、そういうのは不可能でした。

西村:ビジネスをつくったり、イグジットして数億円とか2桁億円あっても何かモヤモヤと満たされないんだと言って、社会的に大きなことに取り組むという人は多いですよね。

千葉:そう、欲求の段階として、社会的に良いことをすることによる社会承認欲求というのがあると思うんですね。例えば、僕のここ10年の欲求は、10年後など未来の教科書に、「日本でドローン産業をつくったのは、千葉功太郎という人です」と載れたらいいなと思っているんです。すごく粗末な話なんですけど。

西村:粗末だなんて、とんでもないです。ドローンやエアモビリティーの可能性を感じて、日本でいちばん精力的かつ現実的に動いてらっしゃる。インタビュー記事の後編では、そのあたりの話を詳しく聞かせてください。

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Partner @ Coral Capital

Ken Nishimura

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