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スタートアップの1人目人事は「カルチャーの共同創業者」、3人のCEOが語った

スタートアップというのは崖から飛び降りて、落ちながら飛行機を組み立てるるようなもの、というのはLinkedIn創業者のリード・ホフマンの良く知られた比喩ですが、スタートアップで組織をどういう順番で組み立てて行くのかに唯一の正答はありません。ただ、もし売上が燃料で、組織が飛行機の機体なのだとしたら、安定して飛ぶために組織づくりの要となる人事担当者は早い段階で採用したほうがいいのかもしれません。

どのタイミングで、どういった人材を「1人目の人事」としてスタートアップは採用するのが一般的でしょうか?

Coral Capitalでは7月5日に「スタートアップCEOが語る『こんな一人目人事が欲しい!』」と題したオンラインイベントを開催。比較的アーリーステージのスタートアップ4社に語っていただきました。登壇したのは、エピックベースCEOの松田崇義さん、ロジレス代表取締役の西川真央さん、Zehitomo CEOジョーダン・フィッシャーさん、モデレーターは 執行役員CHO 田島一平さんが務めました。

エピックベース:メンバー5名でも人事担当者がほしい

「なぜ、いまのステージで人事担当を採用するのかと驚かれるかもしれません」

最初にそう語ったのは、音声自動文字起こしサービス「Smart書記」を提供するエピックベース代表取締役兼CEOの松田崇義さんです。同社は2020年1月に創業したばかりで現在メンバーは5人。1人目の人事担当を採用するには早いほうかもしれません。

松田さんは以下のように続けます。

「以前に仕事でVCをしていたときに、SmartHRの宮田さんなど、たくさんの経営者と話す機会がありました。多くのスタートアップ経営者が言うのは、もし次に起業することがあったら、できるだけ早く人事を採用するということです。これは真理だと思っています」

「実は弊社の創業メンバーはみんな、過去に組織的にとても苦労をした共通の体験があります。そのことから早い段階で組織風土を作るということが大事な課題だと認識してるんです」

かつて、組織の健康状態が悪化して「エンゲージメートスコアの偏差値に、こんな低い数字というのがあり得るのかというくらい悪い状態だった」(松田さん)ことがあるといい、最初から組織や文化づくりにしっかり取り組みたいと考えていると言います。

ここでモデレーターの田島さんが、では具体的に作りたい組織とはどういうものかと追加で聞くと松田さんは以下のように答えました。

「事業を伸ばすことは前提としてありつつ、この会社で仕事ができて良かったなと、そうメンバーに思ってもらうことが大事だというのが創業の思いです。だから、1人目の人事には早い段階から組織風土のためのビジョン・ミッション・バリューを作る初期メンバーとして入ってほしいと思っています」

「人が必要なら人を採用するし、カルチャーを言語化する必要があるなら言語化してほしい。ただ、それは自分で判断して動いてほしいんです。われわれ経営陣から聞き出して言語化するというよりも、一緒に考えてほしいと思っています。(まだメンバーが5人の)このタイミングで入れば苦楽をともにすることになるで、会社を好きになってくれると思っています。そこで自分なりの言葉で言語化してくれるといいなと」(松田さん)

カルチャーの言語化を同時並行でやれる人事がほしい

メンバー数が15人になり、経営陣だけでは採用に割けるリソースが足りないので1人目の人事担当者が必要。そう感じ始めているというのがEC物流プラットフォームを提供するロジレス代表取締役の西川真央さんです。

「うちは(採用の)実務的なところありきです。今から夏、秋に向けて資金調達に動くので、組織を急拡大していきたい局面。なかなか経営陣がリソースが割けない。例えば何か本業で緊急性のあることが起こると、どうしても採用関連のタスクを横においてしまうことがある。本腰を入れて1人目の人事を採用しないと、という議論をしています」

「採用業務ありきとはいえ、採用のときに『こういう人がロジレスにほしい』『カルチャー的に合っている』というところが言語化できていないので、そこのカルチャーの言語化を同時並行で進めてもらいたいと思っています。順番としては言語化してから採用となるのでしょうけど、とはいえ、採用も急ぎたい。正直そこのジレンマも一緒に悩んでくれるといいなと思っていたりします」

最近社内で話し合った結果、ロジレスのメンバーの間では「男女共学の生徒会役員みたいな感じ。しっかり、やることをやっていく」という共通認識がありつつ、まだカルチャー面はクリアに明文化できてないのだと言います。

先日シリーズBの資金調達を終えたばかりのZehitomoは社員数35人規模と、さらにステージが進んでいます。地域ごとの専門サービスの仲介プラットフォーム「ゼヒトモ」を提供する同社について創業者でCEOのジョーダン・フィッシャーさんは、次のように話します。

「すでに、いい素材はあるんです。ビジネス面でいうと需要側、供給側を集めるところや参入障壁をつくるところはできています。ミッション・バリューについても、ちゃんと定義しきれていないものの、向かってる方向性や価値観は社内のみんなが感じています。うまく料理されていないだけ。だから、マスターシェフがいればおいしい材料を、うまく組織拡大につなげていけるんじゃないかと思います」

「(現在採用しようとしている1人目の人事は)カルチャーの共同創業者と思っています。そこを定義して一緒につくっていける人がほしいですね。今年末に向けて組織が2倍になって行く。半分が新しく入るメンバーという組織で、モチベーションによってアウトプットにすごく大きく変わるので、これは重要な役割です」

採用するのはマネージャーかプレイヤーか

アーリーステージのスタートアップで、1人が複数の役割を担うことはあらゆる職種で共通かもしれません。ひとことで人事といっても、いろいろです。モデレーターを務めた田島さんが指摘するように「最近は人事の役割が広がっています。採用だけをしている人事もいれば、HRBPのように事業部長と対で事業を伸ばす人もいる。あるいはエンプロイーエクスペリエンスを高めることにコミットしている人もいる」と幅広い役割があり得ます。

労務管理や採用の実務が重たくて、そこを任せたいという「プレイヤー」から採用すべきか、上記のような組織や制度設計の経験がある「マネージャー」から採用すべきか、という論点は永遠のテーマのようです。

モデレーターの田島さんは自身の経験から次のように指摘します。

「(スタートアップの成功には)最初の30人はめちゃくちゃ大事。そこを超えるとトップの目が届かなくなってくる。だからカルチャーを自分の言葉で語れるマネージャー層から採用していくのが大事です」

ここまでの4人の発言に共通しているのは、経営陣と議論の上でカルチャーや採用したい人物像を言語化・定義していく役割を1人目の人事に求めているということです。

一方、ここでイベント企画を担当したCoral Capitalタレントマージャーの津田遼は、これまでのVCの立場での観察から、スタートアップにおいてうまくいっている人事担当者の特徴を以下のように指摘しました。

「Coral Capitalの投資先を見ていて、人事や組織がうまく行っているところの共通点として、人事担当に創業者と向き合える胆力があることかなと思います。ある意味では創業者ってサイヤ人だと思うんですね。我が強いし、自分でやりたいことも明確にある。ときには人事から見て、『ちょっとやりすぎでは……』ということもやってします。そういう環境で組織をつくるには、『社長はそう言うけど自分は絶対にこう思う』と言い返しつつ、それでも常に経営陣や代表と同期が取れているような人じゃないないとできないと思うんです」

スケールさせた経験があればベター

モデレーターの田島さんが、「こういう経験は絶対譲れないとかスキルがある人が欲しいとか具体的なペルソナ人物像みたいなもの教えてください」と質問すると、やはり実体験としての組織づくりの経験を高く買うという意見が多く出ました。

「例えば組織が30人から300人になる経験をしていれば、それがベスト。でも、違うステージであっても、これから会社が成長していくステージで、これからこういう課題が出て来るからその課題にぶつかる前に対策する、というように先回りして見える人が強い」(フィッシャーさん)

「採用にしても、文化づくりにしても、それに連動した評価制度をどうするのかというのも、そこに対して解像度が高い人がいいなと思っています。自分たちでも本を読んだり話を聞いたりして人事制度や組織文化づくりについて知ってはいるんですけどね。例えば、今うちの会社ではこういうことが起こっていて、こういう課題がある。私はこういうことを経験してきたからこうしませんかとか、今こういう新しい方法論があるから試しませんかと言うことを提案してほしい。とはいえマネージャー経験が必須という話ではなく、自分自身ではなくても隣で見ていて自分で組織や制度をつくってみたいと思っていた人や、自分だったらこうしたかったのにな、という経験がある人で、これから一緒に取り組みができる人がいいなと思っています」(西川さん)

アンラーニングと失敗への向き合い方

経験や知見がありつつも、アンラーニングの重要性を指摘する声も多くありました。

「いろいろ経験してきた人であることは前提ですが、一方で経験に固執してしまうことがあると困るのでアンラーニングができる人がいいな、と思います。このやり方が絶対に正しいので、このやり方でやりましょうという話になると違いますよね。いや、うちの会社で別の会社のコピーを作るんですかということになりますし」(西川さん)

では、アンラーンできる人と、できない人の見分け方は? エピックベースの松田さんが興味深い指摘をしています。

「これは人事に関係なくなのですが、アンラーンできなくなるのは失敗を認められなくなるときだと思うんですよ。自分がインストールしたものがうまくいかないときに他責にしてしまう瞬間にアンラーンが終わる。だから、過去の自分の失敗を認めている発言が会話の中で自然と出てくるかどうかは見ていますね。過去のことで、『自分のせいで失敗した』とハッキリ言える人かどうかです。失敗の大小ではなく、失敗を認めている時点で学びを得ていると思うので、そういう人とは一緒に仕事をしたいなって思います。僕もいっぱい失敗してきてる人間なので(笑)」(松田さん)

松田さんの意見には、ほかの登壇者も呼応しました。

「そう、成功体験ばかり話されると逆に不安ですよね(笑)。失敗体験とか挫折体験を話してもらえた方が一緒に働けるイメージはわきます」(西川さん)

「スタートアップって会社も失敗するというか、躓くことが多いじゃないですか。それをどう捉えるかも大事ですよね。経営者のせいにするのではなく、会社組織の失敗を分かち合えるかどうか。自分事にできて、自分には何が変えたられただろうかという目線を持つことは大事だなと思います」(田島さん)

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