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事業会社からの資金調達が競争環境に与える影響

スタートアップが事業会社/CVCから資金調達するときに考慮するべき最も重要な点の1つが、その提携によってもたらされるかもしれない競争環境の変化です。相手の事業会社との競争だけではなく、スタートアップを取り巻く全体的な競争環境にも影響する可能性があります。

※本記事は事業会社/CVCから資金調達を検討する際に考慮すべきことをまとめた5本の記事のうちの1本です。他の記事については、以下をご覧ください。

連載目次
第1回:事業会社から調達する前に知るべき3つの投資体制の違い
第2回:事業会社から調達して本当にシナジーが生まれるのか?
第3回:「信用力」のために、スタートアップは事業会社から資金調達すべきか?
第4回:事業会社からの資金調達が競争環境に与える影響
第5回:どのタイミングで事業会社から資金調達するべきか?

大半の事業会社/CVCにとっては、「オープン・イノベーション」がスタートアップと関わる唯一の目的です。言いかえれば、新しいアイデアやシナジーなど、自社にとってビジネスチャンスとなるものを外部から取り入れようとしているのです。ほとんどの場合、スタートアップと協業するスタンスで話し合いを始めるのですが、結局のところ、彼らにとっての最優先事項は(スタートアップではなく)自社の成長です。そして、事業会社側のこうしたプレッシャーは、スタートアップとの間に齟齬を生じさせてしまうことがあります。協業よりも競争のほうが自社にとって有利だと事業会社が判断した場合など、特にそうです。

投資が実行される前の段階で、そう判断されてしまうこともあります。実際、私たちの投資先でも1件、そのようなケースがありました。その投資先企業の創業者兼CEOは、相手の事業会社が提携もしくは投資に興味があるという前提で話を進めていました。しかし、その事業会社は結局、投資を実行せず、競合サービスをローンチすることになってしまったのです(詳細はこちら)。

森・濱田松本法律事務所の増島先生がこの記事で説明しているように、このような事態を避ける1つの方法は、重要な情報を開示する前にNDA(秘密保持契約書)を結ぶことです。できれば、3〜5年の期間の契約が望ましいです。ただし、これは事業会社/CVCと提携する際に求められるプラクティスであって、VCの場合は違います。ほとんどのVCはNDAにサインしません。これついては前にも記事で書きましたが、私たちの本業は、競争ではなく投資をすることだからです。

事業会社が投資を実行した後のことについても考える必要があります。出資者である事業会社には通常、スタートアップから情報を求める権利があります。ほとんどの優良な事業会社は、提携相手に対して「チャイニーズウォール」の厳格な規制を守ります。しかし、提供したデータや情報が漏洩し、競合プロダクト(もし存在するなら)に利用されてしまう可能性がないとは言いきれません。相手の担当者をよく知っていて、信用していたとしても、その担当者も結局は会社という大きな組織の一員なのです。戦略的な優先事項が変化する中、その組織、そしてその一部である担当者がいつ「競争」へと方針転換してしまうかわかりません。人事異動で担当者が変わってしまう可能性もあります。または、提携している事業会社が他社に買収されてしまうかもしれません。将来何が起こるかは、誰にもわからないのです。

こうしたリスクを軽減するために、「社内で情報を共有しない」という取り決めを、主契約に付け加える形で事業会社/CVCに要求するスタートアップもあります。もしくは、「競合するプロダクトを開発しない」という取り決めなどです。場合によっては、さらに踏み込んで、「競合他社と提携しない」ことまで明確に要求することもあります。

ここで出てくるのが、事業会社/CVCとの提携を通して、その事業会社との競争を排除するだけではなく、他のスタートアップとの競争も減らせる可能性です。投資する上での暗黙の了解として、または主契約の覚書の中に明確に書き記すことで、相手の事業会社が他社へ投資、もしくは協業することも阻止できるのです。

もちろん、制限はお互いにかけられます。事業会社/CVC側からも、スタートアップに競合他社と協力しないように要求することができます。その場合、もし将来的に他社と組んだほうがそのスタートアップにとって有利になるような展開になったとしても、できなくなります。これは、スタートアップの今後の資金調達に対する決定権や、買収の際に優先的に交渉する先買権などを事業会社が所有している場合、特に問題になります。例えば、あるスタートアップの買収に向けてどんなに頑張ったとしても、事業会社/CVCがいつでも取引を白紙に戻し、自ら買収してしまえると知っていたら、誰がそのスタートアップを買いたいと思うでしょうか。

独立系ベンチャーキャピタルと違って、事業会社/CVCには複数の目的があります。経済的リターンも大事かもしれませんが、最も重要なのは戦略的なリターンです。この特徴がスタートアップにとって有利に働くように工夫し、関係を築くことで、競争を減らすことも可能です。しかし、リスクはありますので、慎重に行動したほうがいいでしょう。

CVCエクイティファイナンスオープンイノベーションベンチャーエコシステム事業会社からの資金調達
James Riney

James Riney

Founding Partner & CEO @ Coral Capital

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