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日本で不妊治療スタートアップを立ち上げるべき訳

米国では高度不妊治療など女性向けヘルスケアサービスを提供する複数のスタートアップがコロナ禍においても大型調達をするなど、この事業領域に注目が集まっています。日本でも同様のスタートアップにチャンスはあるでしょうか?

Coral Capitalでは海外スタートアップを紹介する動画シリーズをYouTubeで継続していますが、先日、特にヘルステック領域をウォッチしていて、投資もしているシニアアソシエイトの吉澤美弥子が女性向けヘルステック(Femtechとも呼びます)の海外動向、日本でのトレンドや可能性について話しました。動画は以下ですが、この記事では、そのサマリをお伝えします。

コロナ禍で2,000万ドル以上を調達したKindbodyとTia

オンラインとオフラインを統合した新しいユーザー体験で提供する医療系スタートアップがコロナ禍でも大型資金調達をしています。

2018年創業の「Kindbody」は、2020年7月にシリーズBで約33億円(3,200万ドル)を調達。累計では66億円ほど調達しています。Kindbodyは、日本で見かける献血バスのように移動式のバンを使い、その場で不妊治療の簡易テストをやるなどユニークなマーケティングを展開。現在はオンライン診療のアプローチをしながら、必要な検査だけを敷設(来院)で行うというオンラインとオフラインの良いところを組み合わせたアプローチで伸びています。

2016年創業の「Tia」は2020年5月にシリーズAで約25億円(2,430万ドル)を調達。累計では約28億円を調達しています。こちらも女性向けのテレヘルスケア特化のスタートアップとして注目されています。また、在宅検査の領域では2014年創業で累計で約92億円(8,730万ドル)を調達している「Maven」も直近2020年2月に大型調達をして注目されています。

こうしたスタートアップで共通するニューノーマルのトレンドがある、と吉澤は指摘します。

「他の多くの診療科と同様に不妊治療の領域もオンラインだけでは完結しません。最近ではホルモン検査キットの開発も進み、自宅でできることも増えましたが、それでも治療が進むと人工授精や体外受精などの施術が必要となり、オンラインでできることは限られています。欠かせない通院だからこそ、どう診療体験をアップデートできるかに大きなポテンシャルがあると思います。必要な検査や施術を行う店舗型のオフラインと、在宅検査やリモート診療のオンラインの両方を自社で一気通貫でやることで、既存のクリニックにオンラインソリューションを売りにいくよりも早く成長できるというわけです。特にコロナで通院を控えたいという動機が働いている中では、オンラインを活用し通院負担を軽減できるクリニックのニーズが増しており、まさに今と感じています」

オンラインとオフラインの組み合わせは、どう推移していくでしょうか?

「日本においては、これまでオンラインで受診したり、診療する習慣は医師側にも患者側にもありませんでした。コロナで大きく変化しましたが、それでも対面診療と比べると診療そのものは難しさがあります。ただ、自由診療領域は、患者側も十分に情報収集せざるを得ないものも多く、リテラシーも高い。そういう領域だと通常の内科などと比べるとオンラインに比率を置いたとしてもうまく行きやすい部分が相対的にはあるのではと思っています」(Coral Capital吉澤)

日本で不妊治療スタートアップは、まだ早すぎる?

女性特化の医療系スタートアップは、日本では時期尚早という印象を持つ人もいるかもしれません。これに対して、吉澤は次のように指摘しています。

「時代背景としては女性の雇用が増え、バリバリ働いて子どもを産んで職場に戻るというように女性の働き方が変わってきています。働きながら、どうやって不妊治療を受けるかというところで、米国のKindbodyやTiaは法人と一緒に福利厚生パッケージを作っています」

「メンタルヘルス系サービスが雇用主向けとして伸びた理由は、従業員の鬱やパフォーマンス低下、休職といった問題が業績に影響しているという認識が広がったからです。不妊治療のために会社を辞めたり、産休後に退職したりといったように優秀な女性社員が辞めていくということが起こり、企業の危機感が出てくると、高度生殖医療のヘルステックも市場として伸びてくると思います」

「また米国では、まだシードであるものの男性向けの不妊治療スタートアップとしてLegacyというところも出てきて、Y CombinatorやBain Capital Venturesから出資を受けていたりします。男性は女性ほど自律的に不妊治療のサービス利用することはありませんが、日本でもポテンシャルがあると思います」(Coral Capital吉澤)

Coral Capital創業パートナーCEOのJames Rineyも、ちょうど日本にも女性特化の医療スタートアップが出てくるタイミングではないかと話しています。

「医療系スタートアップとして米国では2007年創業のOne Medicalが2020年1月に数千億円でナスダックに上場しています。日本でもこの領域では、Linc’wellCAPSが出てきています。ただ、日本にまだないのは『女性向けのOne Medical』ですね」

日本で立ち上げるとしたら課題や難しさは?

不妊治療や女性向け医療スタートアップを日本で立ち上げるとしたら課題は何でしょうか?

「ネックになりそうなのは人材と不動産の獲得、法人スキームです。その中で私は、人材面だと感じています。婦人科の医師や場合によっては高度生殖医療を行う専門医がスタートアップのようなアプローチを取りたいだろうか、というところです。ただでさえ産婦人科の医師は少なく、その中でも不妊治療の専門医はさらに少ないのが現状。その中から、既存のクリニック経営ではなく、資本を投下して優秀なテックの起業家と一緒にグロースして行こうという、そういう新しい取り組みにチャレンジする人が出てくるか、というところが一番難しいのかもしれません。当然医師だけではなく、テック人材も非常に重要になります」

日本市場で成功させるキーサクセスファクターは何でしょうか?

「診療内容の質が高いことを求めるのは基本となり、どこのクリニックでも良い治療が受けられるようになると、通院から帰るまでのユーザー体験も注目されるようになると思っています。クリニックで長時間待たされるのが働く女性にはボトルネックになっています。そこをテクノロジーで解決して、通院しやすいUIUXを実現することが大事になると思います」

不妊治療・女性向け医療スタートアップは、いろいろなバックグラウンドの方が挑戦するべき事業領域です。Coral Capitalではこの領域で起業しようという方々のご連絡をお待ちしています

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Editorial Team / 編集部

Coral Capital

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