資金調達の回数より本質的なスタートアップの3つの「ステージ」

スタートアップ業界では、一般的にスタートアップの成長をシード、シリーズA、シリーズB……、などの段階ごとに考えます。これは発行した株式の種類や、エクイティ・ファイナンスを行った回数などで、企業の成長ステージを定義するやり方です。しかし、ビジネスというのはたいてい、他と根本的に異なるため、この分け方ではそれこそ「リンゴとオレンジを比べる」くらい無意味な比較になってしまうことが多々あります。

企業はそれぞれ違った速さで成長し、資金調達面でも異なるニーズに直面します。例えば、ディープテック系のスタートアップの中には、プロダクト開発を継続するためにより多くのエンジニアの採用が必要となり、シリーズAで大型の資金調達を行わなければならない企業もあります。また、レガシー業界のスタートアップでは、ライセンス認可や、様々な規制上の要件を満たすために通常より多くの資金が必要となるケースもあります。このように各企業の状況はそれぞれ根本的に違っているので、資金調達ラウンド別に比較した場合、その企業に対する誤った認識につながる可能性が高くなります。

ですので、私はスタートアップを以下のステージに分けて考えるようにしています。

プロダクト構築ステージ

プロダクト(もしくはサービス)構築ステージはその名の通りのステージで、なんらかのニーズに応える有望なプロダクトを作るために創業チームが創意工夫を重ねる段階です。このステージでのCEOの主な仕事は、初期チームのメンバーを集めること、最初のプロダクトを開発すること、そして市場の動向や顧客ニーズを調査することです。

「 Minimum Viable Product(MVP)」を作るという話が出てくるのもこのステージです。Minimum Viable Productは「最小限の実用性があるプロダクト」という意味で、顧客に実際に使ってもらう(そしてできれば買ってもらいたい)プロダクトの最初のバージョンのことです。この初期バージョンを通して、具体的に何を作るのか、それが誰に最も必要とされているのかを分析することが重要になります。また、このステージで鍵となるもう1つの用語が、「プロダクト・マーケット・フィット(PMF)」です。PMFに到達するということは、つまり顧客のバーニング・ニーズ(切実なニーズ)に応えるプロダクトにたどり着き、それを確認できたということです。

PMFについてはすでに多くのサイトで解説されているので、ここでの詳しい説明は省きます。とにかく、PMFの定義自体はやや曖昧ではありますが、このステージではそのPMFの達成が一番の目標となるのです。

ビジネス構築ステージ

プロダクトが市場で伸びそうな兆候が見え始めたら、次のステージではそれをベースに成長性のあるビジネスを構築しなければなりません。このステージでもCEOの仕事はまだ人材採用やプロダクト開発などが多くを占めていますが、たいていの場合、売上を生み出すための戦略を展開させる方向へとフォーカスが変わり、プロダクトの価格設定や費用対効果が高い販売方法などに注目するようになります。「ユニット・エコノミクス」に焦点を当てた戦略を取るようになるのもこのステージからです。

サブスクリプション型や広告型、売り切り型など、ビジネスモデルにもいろいろありますが、いずれの場合もプロダクトの価格設定と、その運用や販売にかかった費用との間に最適なバランスを見つけることが鍵となります。

また、このステージでは再現性についても検討を行う必要があります。高い費用対効果でプロダクトを販売する、しかも1回や2回、10回などではなく、100回くらい繰り返して売るためには、どのようなプロセスを構築するべきでしょうか。主な顧客獲得チャネルの確保や、セールスプロセスの確立、カスターマーサポートに必要な運用体制の整備などが優先的に取り組むべき課題となるでしょう。

簡単に言えば、プロダクト構築ステージは有望なプロダクトを作り出すステージ、ビジネス構築ステージは有望なビジネスを作り出すステージなのです。

組織構築ステージ

スタートアップの成長の道のりにおいて、次の大事なステップは大きな組織作りです。優れたプロダクトや適切なビジネスモデルがあったとしても、その最初の成功の種を実際に上手くスケールできるかどうかが、「Good」な企業と、「Great」な企業の分かれ目になるのです。

この時点までは、CEOといえども泥臭い仕事が多く、自らプロダクト開発の方向性を決定したり、顧客との関係を築いたり、業務の直接的な管理を行うことにほとんどの時間的リソースを費やしていたかもしれません。しかし、さらに上のステップに進むためには、各業務に対して自分よりも適任な人材を採用するなどして、それらの仕事を他の人に任せる方向へシフトしなければなりません。

ミッションやバリュー、カルチャーなどが特に重要になるのもこのステージです。社員が増えれば、組織全体の方向性をまとめるのがどんどん難しくなります。全員のモチベーションを高く保ち、ベクトルを揃えて前進するためには、組織のリーダーが自ら自社カルチャーの素晴らしさを主張し、しつこいくらいミッションやバリューを社員たちに伝えて浸透させる必要があります。

このステージではこれまでの姿勢や考え方を根本的に変える必要があるので、多くの創業者にとっておそらく最も難しく感じるステージとなるでしょう。最初は気心の知れた数人の仲間たちと立ち上げた小さなスタートアップでしたが、今となってはその面影もなく、プロダクトの開発に勤しんでいたはずが、もはや組織という巨大な「プロダクト」を育てることのほうがより大きな課題としてのしかかってくるのです。

ビジネス構築ステージから組織構築ステージへと移行する際に苦戦する企業には、共通した特徴があります。特にわかりやすいのが、経営陣の力不足、つまり自分たちの頭で考えながら何十、何百人もの社員を管理する経営力が十分ではない場合です。そのような企業では、CEOが運営上の実務の細かい部分に気を取られすぎていて、より重要かつ影響度の高い戦略的意思決定のために十分にリソースを割いていない様子が伺えます。また、取締役会で何度も同じ議題が上るのもよくある傾向で、これは上層部の考えと第一線で働く社員たちの行動との間に大きなズレが生じてしまっていることを示しています。

このステージを順調に進めることができず、つまずいてしまった場合、もはや大量の資金を注ぎ込んでも解決できない可能性が高いです。そもそもの組織としてのインフラが十分ではないため、その資金を有効活用することができないからです。まだ組み立てが終わっていないクルマにガソリンを入れるようなものです。


現実には、これらのステージは明確に分かれているわけではなく、ステージからステージへ移行する際には重なっている時期もあります。基本的には、プロダクト構築ステージがシードからプレシリーズA、ビジネス構築ステージがプレシリーズAからシリーズA、そして組織構築ステージがシリーズA、シリーズBおよびそれ以降のシリーズに該当すると考えてください。しかし、最初にも述べましたが、企業間の差異の大きさを考慮すると、やはり上にリストアップした3つのステージの枠組みで考えた方が各スタートアップの状況をより正確に把握できるのではないかと個人的には思います。

1つ注意点として、スタートアップがプロダクト構築ステージからビジネス構築ステージへステップアップするからといって、プロダクト開発が止まるわけではない、ということがあります。同様に、組織構築ステージに進むからといってビジネスをもう育てなくてもいいわけではありません。どのステージであっても、ただその責任範囲が広がるだけで、「構築」は絶えず続けていくものなのです。

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Founding Partner & CEO @ Coral Capital

James Riney

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