ソフトバンクとヘッジファンド参入が、VC投資の規模拡大を促した

ソフトバンクによる新興テクノロジー企業への投資がメディアで頻繁に取り上げられていた頃のことは、まだ記憶に新しいかと思います。何百億円や、時には何千億円もの出資を行なったと報じられていて、これまでに前例のないスケールやペースで投資を実行していました。ソフトバンク以前は、そのような規模で投資できる資金力と大胆さを併せ持ったプレイヤーが存在しなかったのです。VC業界ではこのような「ディスラプション」をポジティブに捉えることが多いのですが、それはもちろん自分たちに降りかかってこない場合に限ります。新しく作り出されたパラダイムはVC業界に変化を迫り、SequoiaやFounders Fund、Andreessen Horowitzなど、多くのトップVCがそれぞれ自社において過去最大規模のファンドを立ち上げる流れとなりました。ソフトバンクはVC業界のスタンダードを根本から変えてしまったのです。その結果、以前よりも規模が大きく、はるかに野心的な投資が行われるようになりました。

Nikesh Arora氏の退任や、WeWork投資の大失敗向こう見ずな社内風土が横行している疑惑が深まるなどのニュースが続いた後、この通信キャリアから投資会社へ転換した日本企業のことをスタートアップ界隈ではあまり聞かなくなりました。しかし、業界のスタンダードはすでに変わってしまっていたため、ソフトバンクが抜けた穴も、ほどなくして他のプレイヤーによって埋められていきました。そして、誰もがより大きなファンド、より大きな投資額を目指すようになり、まるで資本主義における軍拡競争のように投資スケールが拡大していったのです。このように業界で大きな変化が巻き起こったわけですが、その最中に、より積極的にスタートアップ市場に参入しはじめた新しいプレイヤーがいます。それがヘッジファンドです。

意外かもしれませんが、Crunchbaseによると、今年の第1四半期において世界で最も多くの投資を行なった投資家はAndreessen HorowitzやLightspeedなどのVCファームではなく、Tiger Globalというヘッジファンドだったそうです。Tiger Globalは100人規模のファームですが、今年に入ってから3か月で世界中の60社ものスタートアップに対して投資を行いました。平均して週に4件のペースで投資を実行したことになり、猛烈な勢いで投資し続けていますが、新しくファンドの資金調達を行うことでそのペースを維持しているようです。SECに提出された最新の報告書からも、その活発さがわかります。報告書によると、同社は67億ドル(〜7,350億円)の13号ファンドを最近クローズし、同社のVCファンドとして過去最大規模を更新しました(「13」が多くの国で縁起の悪い数字とされているせいか、名前は「14号」ファンドになっています)。しかも、昨年にも37億ドル(〜4,060億円)の12号ファンドをクローズしたばかりというハイペースです。同社はソフトバンクによって作り出されたVC業界の新しいパラダイムにうまく適応し、実績をあげているようです。

当然、VC業界で活躍しているヘッジファンドはTiger Globalだけではありません。CoatueもCrunchbaseのランキングの上位にランクインしていて、同ランキング外でも、D1やDragoneer、Point72、Altimeterなどをはじめとした多くのヘッジファンドが積極的にVC投資を行なっています。

ヘッジファンドのVC業界への参入により、特に興味い点として浮かび上がってきたのが、従来のVCよりグローバルな視点で投資を行っている点です。シリコンバレーのほとんどのトップファームは、それこそTeslaにひと乗りすれば行けるような近場の企業にしか長いこと投資してきませんでした。そのため、Tiger Globalなどのファームは他の地域で優れた投資機会を獲得し、インドのFlipKartや中国のC-Tripなど、過去数十年で最大級となる成功を収めることができたのです。Coral Capitalにも日本のスタートアップについて海外投資家から問い合わせやメールが来ますが、そのほとんどがVCではなくヘッジファンドからであるというのも、こうした背景からも理解できます。

日本の野心的な起業家にとって、これは以前よりはるかに大きい資金プールへアクセスできる可能性を意味します。つまり、ある程度進んだステージの資金調達ラウンドを、従来と比べてずっと大きなスケールで実現しやすくなるということです。ただし、以前にも記事でも書きましたが、それを実現するためには、海外投資家と効果的にやりとりができるようなバイリンガルでバイカルチュラルな経営チームを作ることが重要になります。私たちの投資先の1つであるSmartHRは実際にそのような経営チームを持っていたため、資金調達の場面で非常に大きなアドバンテージになりました。同じく投資先であるGrafferにもそういった役割に適したCFOを紹介しましたが、やはり将来の海外投資家とのやりとりを考慮した点が大きかったです。

スタートアップの世界は進化の最中にあり、日本も例外ではありません。これまでとは違うスケールやスタンダードで業界は動いています。その中で生まれてくる新たな機会を掴み取るためにも、VCも起業家も同様に、業界とともに進化し続ける必要があるでしょう。

James Riney

Founding Partner & CEO @ Coral Capital

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